会社を設立するときは、資本金や本店所在地などとあわせて、役員報酬をいくらにするかも考えておく必要があります。
役員報酬は、会社から代表取締役や取締役などの役員へ支払われる報酬です。会社員の給与と似ていますが、会社が自由なタイミングで金額を変更すると、法人税を計算する際に損金として認められない場合があるなど、通常の従業員給与とは異なるルールがあります。
特に一人会社を設立した場合、
- 役員報酬はいくらにすればいい?
- 会社設立直後から支払ってもいい?
- 売上が少ないうちは0円でもいい?
- 途中で金額を変更できる?
- 役員報酬を高くすると節税になる?
- 社会保険料はどうなる?
など、金額の決め方に迷うことも多いでしょう。
役員報酬を高く設定すると個人側の所得は増えますが、会社に残る資金は少なくなります。一方、低く設定しすぎると、生活費を十分に確保できない可能性があります。
また、法人側の税金だけでなく、役員個人の所得税・住民税や社会保険料なども考慮する必要があるため、単純に「高いほうが得」「低いほうが得」と判断することはできません。
この記事では、会社設立時の役員報酬について、基本的な仕組みから金額の決め方、変更できる時期、税金や社会保険との関係までわかりやすく解説します。
会社設立時の役員報酬に関するよくある質問

1. 役員報酬とは何ですか?
役員報酬とは、会社が取締役や代表取締役などの役員に対して、職務の対価として支払う報酬です。
一人で会社を設立し、自分が代表取締役になった場合も、会社から自分自身へ支払うお金は役員報酬として扱われます。
役員報酬と従業員の給与はルールが異なる
役員報酬も役員個人にとっては給与所得になりますが、会社側の税務上の取り扱いには注意が必要です。
従業員の給与とは異なり、役員に支払う給与を会社の損金として算入するためには、一定の要件を満たす必要があります。
代表的なものが「定期同額給与」です。
定期同額給与は、原則として1か月以下の一定期間ごとに支給され、事業年度の各支給時期における金額が同額である給与などを指します。
役員報酬は自由に変更できるわけではない
「今月は売上が多かったから役員報酬を増やす」「来月は資金繰りが厳しいから減らす」といった変更を自由に行うと、変更した部分などが法人税を計算する際に損金として認められない可能性があります。
定期同額給与については、通常、事業年度開始の日から3か月以内に行われる改定など、一定の要件を満たす変更が認められています。
また、役員の職制上の地位の変更などによる臨時改定事由や、経営状況が著しく悪化したことなどによる業績悪化改定事由に該当する場合には、年度途中の変更が認められることもあります。
会社と個人のお金は分けて考える
一人会社の場合、自分で会社を経営しているため、会社の銀行口座にあるお金を自由に使えるように感じるかもしれません。
しかし、法人のお金と代表者個人のお金は別のものです。
生活費など個人的な支出に使うお金は、役員報酬など適切な形で会社から個人へ支払う必要があります。
そのため会社設立時には、
- 毎月の生活費はいくら必要か
- 会社にどの程度の資金を残したいか
- 事業開始後の売上をどの程度見込めるか
- 税金や社会保険料の負担はどうなるか
などを考えながら役員報酬を決めることが重要です。
役員報酬は単なる「社長の給料」ではなく、会社の利益や資金繰り、役員個人の税金・社会保険料にも関係する重要な項目です。会社設立時には、事業計画と生活費の両方を考えて金額を設定しましょう。
2. 会社設立時の役員報酬はいくらにすればいいですか?
役員報酬には、すべての会社に共通する「適正額」があるわけではありません。
会社の売上や利益、毎月の固定費、役員自身の生活費などによって適切な金額は異なるため、会社と個人の両方の資金計画を考えて決めることが重要です。
まずは会社が毎月支払える金額を考える
役員報酬を決めるときは、希望する手取り額だけで考えるのではなく、会社の資金繰りを確認しましょう。
会社では役員報酬以外にも、
- 商品や材料の仕入れ
- 事務所の賃料
- 広告費
- 外注費
- 通信費
- システム利用料
- 税金
- 社会保険料
などの支払いが発生します。
役員報酬を高く設定しすぎると、売上が想定を下回ったときに会社の資金が不足する可能性があります。
特に設立直後は売上が安定しないケースもあるため、毎月継続して支払える金額かどうかを確認することが大切です。
役員自身の生活費も考える
一方で、会社にお金を残すことだけを考えて役員報酬を低く設定すると、代表者自身の生活費が不足する可能性があります。
一人会社の場合でも、会社のお金をそのまま個人的な生活費として自由に使うことはできません。
そのため、
- 家賃・住宅ローン
- 食費
- 水道光熱費
- 通信費
- 保険料
- その他の生活費
などを整理し、毎月どの程度の収入が必要なのかを確認しておきましょう。
税金や社会保険料も考慮する
役員報酬の金額は、会社と役員個人の税負担にも関係します。
一定の要件を満たす役員報酬は会社の損金となるため、役員報酬を増やすと会社側の所得が小さくなる場合があります。
一方、役員個人にとって役員報酬は給与所得となるため、金額が増えれば所得税や住民税などにも影響します。
また、法人で社会保険の加入対象となる場合は、役員報酬の金額が健康保険料や厚生年金保険料を計算する際の標準報酬月額にも関係します。
そのため、「法人税を減らしたいから役員報酬を高くする」といった一方向の考え方ではなく、会社と個人をあわせて検討することが重要です。
売上予測だけでなく資金繰りから考える
会社に利益が出ることと、銀行口座に十分な現金があることは同じではありません。
売上が発生しても入金が翌月や翌々月になる事業では、その間にも役員報酬や固定費などの支払いが発生します。
役員報酬を決めるときは、
- 毎月の売上見込み
- 毎月の経費
- 売上の入金時期
- 会社に残しておきたい運転資金
- 役員自身に必要な生活費
- 税金・社会保険料
などを整理しましょう。
「いくら受け取りたいか」だけではなく、「会社が毎月無理なく支払い続けられるか」を基準に役員報酬を決めることが大切です。
3. 会社設立直後から役員報酬を支払ってもいいですか?
会社を設立した直後から役員報酬を支払うことは可能です。
ただし、役員報酬を法人税の計算上、適切に損金へ算入するためには一定のルールがあります。特に設立初年度は、役員報酬の金額を決める時期に注意が必要です。
設立後3か月以内を目安に決める
役員報酬を毎月同額で支給する「定期同額給与」として損金算入する場合、設立初年度は、原則として会社設立後3か月以内を目安に役員報酬の金額や支給方法を決めることが重要です。
たとえば、会社を設立してしばらく様子を見てから役員報酬を決めようとすると、決定した時期や支給方法によっては、会社の損金として認められない可能性があります。
会社設立後はさまざまな手続きがありますが、役員報酬についても後回しにしないようにしましょう。
役員報酬を決めた記録を残しておく
役員報酬を決定したときは、会社として正式に決定したことがわかる記録を残しておくことも大切です。
会社の形態などによって手続きは異なりますが、株主総会議事録など、役員報酬の金額を決定したことを確認できる書類を作成・保存しておきましょう。
一人会社であっても、会社と代表者個人は別の存在です。
「自分一人の会社だから口頭で決めればいい」と考えるのではなく、会社として必要な手続きを行うことが重要です。
売上が入る前に無理な金額を設定しない
会社設立直後は、まだ十分な売上が発生していないこともあります。
それでも役員報酬を高く設定すると、
- 会社の預金が急速に減る
- 仕入れや外注費を支払えなくなる
- 税金や社会保険料の支払いが負担になる
- 運転資金が不足する
といった問題につながる可能性があります。
役員報酬は一度決めると、税務上、事業年度の途中で自由に変更できるものではありません。
設立直後の売上だけで判断せず、今後の売上予測や固定費、手元資金などを確認して、継続して支払える金額を設定しましょう。
最初の事業年度は早めに検討する
会社設立後は、法人銀行口座の開設や税務署への届出、社会保険の手続きなど、さまざまな準備が必要になります。
その中でも役員報酬は、決定する時期によって税務上の取り扱いに影響する可能性がある項目です。
会社を設立してから考え始めるのではなく、設立前から、
- 役員報酬をいくらにするか
- いつから支給するか
- 毎月の支給日はいつにするか
- 会社にどの程度の資金を残すか
などを検討しておくとスムーズです。
会社設立直後から役員報酬を支払うことはできますが、金額だけでなく決定時期や支給方法も重要です。設立初年度は特に、早めに役員報酬の方針を決めておきましょう。
4. 役員報酬を0円にすることはできますか?
会社設立直後で売上が少ない場合など、役員報酬を0円に設定すること自体は可能です。
特に、設立したばかりで会社に十分な資金がない場合や、本業から別の収入を得ながら会社を運営する場合などには、役員報酬を支給しない形でスタートするケースもあります。
ただし、役員報酬を0円にすると役員個人の収入だけでなく、社会保険などにも関係するため、慎重に判断する必要があります。
役員報酬を0円にすれば会社の資金を残しやすい
設立直後の会社では、売上が安定するまで時間がかかることがあります。
役員報酬を0円にすれば、その分だけ会社から毎月支出する金額を抑えられるため、手元の運転資金を確保しやすくなるというメリットがあります。
たとえば、
- 副業として会社を設立した
- 別の勤務先から給与を受け取っている
- 設立直後は売上がほとんどない
- まずは会社に資金を残したい
といった場合には、役員報酬を支給しない選択肢も考えられます。
0円から好きなタイミングで増やせるわけではない
注意したいのが、最初は役員報酬を0円にして、売上が増えたら好きなタイミングで報酬を設定するという方法です。
役員報酬を会社の損金として算入するためには、定期同額給与などの要件を満たす必要があります。
そのため、「利益が出てきたから今月から役員報酬を支払おう」と年度途中で自由に変更すると、税務上の取り扱いに影響する可能性があります。
設立初年度から役員報酬を支給する予定がある場合は、設立後の早い段階で金額や支給開始時期を決めておくことが重要です。
生活費を会社から自由に引き出すことはできない
役員報酬を0円にした場合でも、会社の銀行口座にあるお金を代表者の生活費として自由に使えるわけではありません。
会社と代表者個人のお金は分けて管理する必要があります。
そのため、役員報酬を0円にする場合は、役員自身がどのように生活費を確保するのかも考えておきましょう。
社会保険への影響も確認する
法人は、事業所の形態や役員の働き方などに応じて社会保険の適用関係を確認する必要があります。
役員報酬が0円の場合は、役員本人の健康保険・年金をどのように扱うのかについて個別の確認が必要になることがあります。
「役員報酬を0円にすれば社会保険に加入しなくてよい」と一律に判断するのは避けましょう。
役員報酬を0円にする場合は、税務だけでなく、年金事務所などで社会保険の取り扱いについても確認しておくと安心です。
役員報酬0円で会社をスタートすることは可能ですが、その後の報酬変更や生活費、社会保険まで含めて検討することが重要です。
5. 役員報酬は会社設立後に変更できますか?
役員報酬は会社設立後に変更することもできます。
ただし、いつでも自由に金額を変更できるわけではありません。役員報酬を法人税の計算上、損金として算入するためには一定の要件があり、変更する時期や理由によっては損金として認められない部分が生じる可能性があります。
原則として事業年度開始から3か月以内に変更する
毎月同額を支給する定期同額給与の場合、通常の役員報酬の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行います。
たとえば3月決算の会社であれば、4月から新しい事業年度が始まります。
前年度の業績や今後の事業計画などを確認し、次の事業年度の役員報酬を検討することになります。
年度途中の自由な増額・減額には注意する
事業年度の途中で、
- 売上が増えたから役員報酬を増やす
- 利益が予想より多いから報酬を増やす
- 思ったより経費が多いから報酬を減らす
- 一時的に資金繰りが厳しいから報酬を減らす
といった変更を行う場合は注意が必要です。
変更そのものができないという意味ではありませんが、税務上、変更後の役員報酬の全部または一部が損金として認められない可能性があります。
そのため、役員報酬は事業年度の途中で調整することを前提とせず、できるだけ年間の売上や経費を予測して決めておくことが大切です。
年度途中でも変更が認められる場合がある
一定の事情がある場合には、事業年度の途中でも役員報酬の改定が定期同額給与として認められることがあります。
たとえば、
- 役員の職制上の地位が変わった
- 役員の職務内容に重大な変更があった
- 経営状況が著しく悪化した
など、一定の要件に該当する場合です。
ただし、単純に「今期は利益が少なそう」「予想より売上が伸びなかった」というだけで、必ず認められるわけではありません。
年度途中で役員報酬を変更する場合は、その理由が税務上の要件に該当するか確認することが重要です。
変更したときは記録を残しておく
役員報酬を変更する場合は、会社として正式に決定したことがわかる書類も残しておきましょう。
会社の形態や変更内容などに応じて、株主総会議事録など必要な記録を作成・保存します。
一人会社であっても、会社として役員報酬を決定・変更した記録を残しておくことが大切です。
役員報酬は会社設立時に一度決めたら永久に同じ金額というわけではありません。事業年度ごとに会社の業績や資金繰り、役員自身の生活費などを確認し、必要に応じて見直すことができます。
通常の見直しは事業年度開始から3か月以内を基本として考え、年度途中で変更する必要がある場合は、税務上の取り扱いを確認してから手続きを進めましょう。
6. 役員報酬には所得税や住民税がかかりますか?
会社から受け取る役員報酬は、役員個人にとって給与所得となります。
そのため、役員報酬を受け取ると、金額などに応じて所得税や住民税がかかります。
役員報酬を決めるときは、会社から支給される金額がそのまま手取りになるわけではないことを理解しておきましょう。
役員報酬から所得税が源泉徴収される
会社が役員へ報酬を支払う場合、原則として会社側で所得税などを源泉徴収します。
会社は役員報酬から税額を差し引いて支給し、預かった税金を所定の期限までに納付します。
一人会社の場合でも、会社から代表者へ役員報酬を支払うのであれば、会社側で源泉徴収などの対応が必要です。
「自分の会社から自分へ支払っているだけ」と考えず、法人と個人を分けて処理しましょう。
役員報酬は住民税にも影響する
役員報酬による給与所得は、住民税の計算にも関係します。
住民税は前年の所得などをもとに計算されるため、会社設立後に役員報酬を受け取り始めると、翌年度以降の住民税負担に影響する可能性があります。
会社設立初年度の手取りだけを見るのではなく、翌年度に発生する税金についても考えておくことが大切です。
役員報酬の金額と手取り額は異なる
たとえば役員報酬を月額30万円に設定したとしても、原則として30万円がそのまま銀行口座へ振り込まれるわけではありません。
状況に応じて、
- 所得税など
- 住民税
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
などが差し引かれるため、実際の手取り額は役員報酬の額面より少なくなります。
そのため、生活費として毎月必要な金額がある場合は、額面ではなく手取り額を意識して役員報酬を検討することが重要です。
会社側の税金とのバランスも考える
一定の要件を満たす役員報酬は、会社側では損金として算入できます。
役員報酬を増やすと会社の所得が減少する場合がありますが、その一方で、役員個人の給与所得が増えるため、所得税や住民税、社会保険料などの負担にも影響します。
つまり、会社側の法人税だけを見て役員報酬を決めるのではなく、会社と個人の両方を考える必要があります。
役員報酬の適切な金額は、会社の利益や役員の家族構成、他の所得などによっても変わります。
役員報酬を決めるときは、額面だけでなく税金や社会保険料を差し引いた後の手取り額まで確認し、会社の資金繰りと個人の生活費のバランスを考えて設定しましょう。
7. 役員報酬を高くすると節税になりますか?
役員報酬を高く設定すると、一定の要件を満たす範囲で会社の損金が増え、法人の所得を抑えられる場合があります。
ただし、役員報酬を高くすれば必ず会社と個人を合わせた税負担が軽くなるわけではありません。
役員報酬が増えると、役員個人の所得税や住民税、社会保険料などにも影響するため、法人税だけを見て金額を決めないことが重要です。
役員報酬は一定の要件を満たせば損金にできる
毎月同額を支給する定期同額給与など、税務上の要件を満たす役員報酬は、会社の損金として算入できます。
たとえば会社に利益が出ている場合、役員報酬を支給することで会社側の所得が小さくなり、結果として法人税などの負担が変わる場合があります。
ただし、役員報酬であれば無条件ですべて損金になるわけではありません。
支給方法や変更時期など、税務上のルールを守る必要があります。
役員個人の税金は増える可能性がある
会社側では役員報酬を損金にできても、受け取った役員個人にとっては給与所得になります。
役員報酬が増えることで、
- 所得税
- 住民税
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
などの負担が増える可能性があります。
そのため、会社の税負担が減った金額だけを見て「節税できた」と判断することはできません。
会社と役員個人をあわせて、どの程度の負担になるのかを考える必要があります。
役員報酬を高くしすぎると会社にお金が残らない
税金だけでなく、会社の資金繰りにも注意しましょう。
役員報酬を高く設定すると、その分だけ毎月会社から現金が出ていきます。
会社に十分な資金が残っていなければ、
- 仕入れができない
- 広告や設備へ投資できない
- 外注費を支払えない
- 税金の支払いに困る
- 売上が減少したときに対応できない
といった問題が発生する可能性があります。
特に設立直後の会社では、節税よりも事業を継続できる資金を確保することが重要です。
「会社に残すお金」と「個人で受け取るお金」のバランスを考える
役員報酬を決めるときは、法人税をできるだけ少なくすることだけを目的にするのではなく、
- 会社に必要な運転資金
- 今後の設備投資
- 事業拡大に必要な資金
- 役員自身の生活費
- 法人側の税金
- 個人側の税金
- 社会保険料
などを総合的に考えましょう。
役員報酬は節税だけを目的に高く設定するのではなく、会社に残す資金と個人が受け取る金額のバランスを考えて決めることが大切です。
8. 役員報酬には社会保険料がかかりますか?
法人で社会保険の加入対象となる場合、役員報酬を受け取る役員についても、健康保険や厚生年金保険の保険料が発生します。
社会保険料は役員個人だけが負担するものではなく、会社側にも負担が発生します。
そのため、役員報酬を決めるときは、額面の金額だけでなく会社が負担する社会保険料まで含めて資金計画を立てることが重要です。
法人は原則として社会保険の適用事業所になる
株式会社や合同会社などの法人の事業所は、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所となります。
従業員を雇っていない一人会社であっても、代表者が役員報酬を受け取っている場合には、社会保険への加入が必要になるケースがあります。
そのため、「従業員がいないから社会保険は関係ない」と判断しないようにしましょう。
社会保険料は役員報酬をもとに決まる
健康保険料や厚生年金保険料は、毎月の役員報酬そのものに保険料率を掛けて単純計算するのではなく、報酬月額を一定の幅で区分した標準報酬月額などをもとに計算されます。
役員報酬の金額が変われば、標準報酬月額や社会保険料に影響する場合があります。
そのため、役員報酬を高く設定すると、所得税や住民税だけでなく、社会保険料の負担も大きくなる可能性があります。
会社側にも社会保険料の負担がある
健康保険料や厚生年金保険料は、原則として会社と被保険者が負担します。
たとえば役員報酬を月30万円に設定した場合、会社側では30万円の役員報酬だけを用意すればよいわけではありません。
会社が負担する社会保険料も別途必要になるため、その分まで含めて毎月の固定費を考えておく必要があります。
会社設立直後は、
- 役員報酬
- 会社負担分の社会保険料
- 事務所費用
- 通信費
- 外注費
- 仕入れ
- その他の固定費
などを合計し、毎月どの程度の資金が必要になるのか確認しておきましょう。
役員報酬を決める前に社会保険料も試算する
役員報酬を決めるときは、希望する手取り額だけでなく、社会保険料を含めた会社側の負担も確認することが大切です。
役員報酬を高く設定しすぎると、想定していた以上に会社の毎月の支出が増える可能性があります。
反対に、社会保険料だけを抑える目的で役員報酬を極端に低くすると、役員自身の生活費が不足する可能性があります。
役員報酬は、税金・社会保険料・個人の手取り・会社の資金繰りをまとめて考え、継続して支払える金額に設定しましょう。
9. 役員報酬と役員賞与にはどのような違いがありますか?
役員報酬は毎月継続して支払う報酬として設定するのが一般的ですが、会社によっては役員へ賞与を支給したいと考えることもあるでしょう。
役員に賞与を支払うこと自体は可能ですが、従業員の賞与と同じ感覚で自由に支給すると、法人税の計算上、損金として認められない場合があります。
役員賞与も自由に損金にできるわけではない
従業員の場合、会社の業績などに応じて賞与を支給することがあります。
一方、役員に対する給与については税務上のルールが設けられており、役員賞与を支給しただけで自動的に会社の損金になるわけではありません。
役員に毎月の報酬とは別に賞与を支給し、その金額を損金として算入したい場合には、「事前確定届出給与」などの要件を満たす必要があります。
事前確定届出給与とは?
事前確定届出給与とは、役員に対してあらかじめ定めた時期に、あらかじめ定めた金額を支給する給与などを指します。
原則として、所定の期限までに税務署へ届出を行い、届出内容に沿って支給する必要があります。
たとえば、
- 誰に支給するか
- いつ支給するか
- いくら支給するか
などを事前に決めて手続きを行います。
実際の支給日や金額が届出内容と異なる場合には、損金算入が認められない可能性があるため注意が必要です。
利益が出たから急きょ賞与を支給する場合は注意する
決算前になって予想以上の利益が出た場合、「役員へ賞与を支給して会社の利益を減らそう」と考えることもあるかもしれません。
しかし、利益が確定してから役員賞与を支給し、その金額を自由に損金へ算入できるわけではありません。
役員給与には一定のルールがあるため、決算直前の利益調整を目的として役員賞与を支給する方法には注意が必要です。
賞与を予定しているなら事業年度の早い段階で検討する
役員へ毎月の報酬とは別に賞与を支給したい場合は、会社設立時や事業年度の早い段階から計画しておくことが大切です。
特に事前確定届出給与を利用する場合は届出期限があるため、
- 毎月の役員報酬はいくらにするか
- 役員賞与を支給するか
- いつ支給するか
- いくら支給するか
- 必要な届出はいつまでか
などを事前に確認しておきましょう。
役員賞与は支給できますが、会社の損金として扱うためには一定の要件があります。賞与を予定している場合は、支給してから税務処理を考えるのではなく、事前に税理士などへ確認したうえで手続きを進めるとよいでしょう。
10. 会社設立時に役員報酬を決めるときのポイントは何ですか?
会社設立時の役員報酬は、単純に「毎月いくら欲しいか」だけで決めるのではなく、会社の資金繰りと役員個人の生活費、税金、社会保険料などを総合的に考えて決めることが重要です。
特に設立初年度は売上や利益を正確に予測することが難しいため、無理なく継続して支払える金額を設定しましょう。
会社の売上と固定費を整理する
まずは、会社に毎月どの程度のお金が入り、どの程度の支出が発生するのか整理します。
確認しておきたい項目としては、
- 毎月の売上見込み
- 仕入れ
- 外注費
- 事務所費用
- 広告費
- 通信費
- システム利用料
- 税金
- 社会保険料
- その他の固定費
などがあります。
売上が発生しても、実際に入金されるまで時間がかかる事業もあります。
利益だけではなく、実際に会社へお金が入るタイミングまで考えて役員報酬を設定することが大切です。
役員個人に必要な手取り額を考える
一人会社では、代表者自身の生活費も考える必要があります。
役員報酬の額面からは、所得税や住民税、社会保険料などが差し引かれるため、設定した役員報酬と実際の手取り額は異なります。
そのため、
- 毎月の生活費
- 住宅費
- 家族に必要な支出
- 個人的な貯蓄
- 税金や社会保険料
なども確認し、生活に必要な手取り額から逆算する方法もあります。
会社に残す資金も確保する
役員報酬を高く設定しすぎると、会社に残る資金が少なくなります。
会社では今後、
- 新しい設備の購入
- 商品の仕入れ
- 広告への投資
- 人材の採用
- 新サービスの開発
- 突発的な支出
などが発生する可能性があります。
売上が一時的に減少することも考えられるため、役員報酬を支払った後にも一定の運転資金を会社へ残しておくことが重要です。
税金と社会保険料をまとめて考える
一定の要件を満たす役員報酬は会社の損金になりますが、役員個人には所得税や住民税などがかかります。
さらに、社会保険の加入対象となる場合は、役員本人だけでなく会社側にも社会保険料の負担が発生します。
そのため、法人税だけを見て役員報酬を決めるのではなく、会社と個人を合わせた負担を確認することが大切です。
決めた後に簡単に変更できないことも考慮する
役員報酬は、従業員の給与のように会社の状況に合わせて毎月自由に変更することを前提としたものではありません。
税務上、定期同額給与として損金算入するためには一定の要件があるため、会社設立時には、
- 毎月いくら支給するか
- いつから支給するか
- 毎月何日に支給するか
- 賞与を支給する予定があるか
- 会社にどの程度の資金を残すか
まで検討しておくとよいでしょう。
役員報酬は、会社の利益を調整するためだけの数字ではありません。
会社の資金繰り、役員自身の生活費、税金、社会保険料、今後の事業計画まで整理し、1年間無理なく支払い続けられる金額を基本として設定することが大切です。
まとめ
会社設立時の役員報酬は、代表者が毎月受け取る金額を決めるだけではなく、会社の利益や資金繰り、役員個人の税金・社会保険料にも関係する重要な項目です。
役員報酬を決めるときは、
- 会社の売上見込み
- 毎月発生する固定費
- 売上が入金されるタイミング
- 会社に残しておきたい運転資金
- 役員自身に必要な生活費
- 所得税や住民税
- 社会保険料
- 今後の事業計画
などを確認しておきましょう。
役員報酬を高く設定すると、一定の要件を満たす場合には会社の損金が増える一方、役員個人の所得税や住民税、社会保険料などの負担が増える可能性があります。
反対に、役員報酬を低く設定すれば会社に資金を残しやすくなりますが、代表者自身の生活費が不足する可能性があります。
そのため、「高いほうが得」「低いほうが節税になる」と単純に判断することはできません。
また、役員報酬を法人税の計算上、損金として算入するためには、定期同額給与など一定の要件を満たす必要があります。
設立初年度に役員報酬を設定する場合は決定する時期にも注意し、その後も事業年度の途中で自由に増額・減額することを前提とせず、年間を通して支払い続けられる金額を検討することが大切です。
役員報酬を0円にして会社をスタートすることもできますが、後から好きなタイミングで報酬を設定できるとは限りません。また、生活費の確保や社会保険の取り扱いについても確認が必要です。
役員へ毎月の報酬とは別に賞与を支給する場合も注意しましょう。役員賞与を会社の損金として算入するには、事前確定届出給与などの要件を満たす必要があります。
会社を設立するときは、資本金や本店所在地などに意識が向きやすいですが、役員報酬も設立後の会社経営を左右する重要な準備の一つです。
会社設立前から売上・経費・生活費を整理し、税金や社会保険料まで含めてシミュレーションしておくと、設立後の資金計画を立てやすくなります。
役員報酬は「毎月いくら受け取りたいか」だけではなく、「会社が無理なく支払い続けられるか」「必要な生活費を確保できるか」「会社に十分な運転資金を残せるか」という3つの視点から考え、自社に合った金額を設定しましょう。
参考