皆さんは「社会人基礎力」という言葉を聞いたことはありませんか?
社会人基礎力とは、ビジネスパーソンが働くうえで“土台になる力”のこと。過去に政府が提唱した概念であり、複数の能力で構成されていますが、その全ては仕事を円滑に行ううえでとても重要なものとなっています。
ここでは社会人基礎力の定義や重要性、主な構成要素について解説。2018年にアップデートされ加わった「3つの視点」や、社会人基礎力を鍛えるポイントについてもご紹介します。
社会人基礎力の定義と重要性
経済産業省が2006年に提唱した「社会人基礎力」は、社会人として働くために必要な基礎的な力のことです。
経済産業省では「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」と定義しています。
社会人基礎力が提唱された背景には、失業率の上昇や少子高齢化による労働人口の低下、および労働年齢の長寿化などが挙げられます。
また「企業」にフォーカスして考えれば、会社では考え方や能力などの違う人たちと協力して仕事を行います。
こうした環境では、社会人として「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」といった基礎的な力が土台となります。そのうえで「リーダーシップ」「問題解決力」「育成能力」などのさまざまなスキルを身に着ける必要があるのです。
また社会人基礎力を身につけている人は、自ら目標達成への計画を立て、主体的に物事へ取り組むことができます。このような人材は成長速度も早く、即戦力として活躍してくれます。
こうしたメリットを踏まえ、経済産業省では大学教育を通し、社会人基礎力を育成・評価する体系的な教育カリキュラムの展開、企業・人事向けのセミナーの実施といった取り組みを続けています。
社会人基礎力の3つの能力&12の能力要素とは
社会人基礎力には「3つの能力」「12の能力要素」が必要とされています。ここでは、それぞれの能力について解説します。
前に踏み出す力(アクション)
「指示を待たず物事へ能動的に行動をする能力」を“前に踏み出す力”といいます。前に踏み出す力には主体性、働きかけ力、実行力の3つの能力要素が含まれます。
主体性
物事の変化へ前向きに対処し、範囲を定めず主体的に動く力
働きかけ力
他人との対話で信頼を勝ち取る力
実行力
高い志で物事へチャレンジし、やり切る力
考え抜く力(シンキング)
物事の課題や本質について考えたり、未来への予測を立てて準備をしたり、新たなアイデアを創造する力が「考え抜く力」です。考え抜く力には次の3つの能力要素が含まれます。
課題発見力
システムとして物事を考え抜き、あらかじめ課題を発見する力
計画力
未来に起こり得る結果や問題を予想し、適切な準備をする力
創造力
既成概念にとらわれず新しい価値を生み出す力
チームで働く力(チームワーク)
ビジネスではチームでの協働が必須となります。自分以外のさまざまな立場の人と協力し、目標を達成するためには、以下の6つの能力要素が不可欠となります。
発信力
相手を思いやりながら自分の意見を分かりやすく伝える力
傾聴力
相手の言いたいことを引き出し、丁寧に聞く力
柔軟性
複数の人の中で意見・立場の違いを理解し、変化に適応する力
情況把握力
自分や周りの人、物事などの関係性・立場を把握する力
規律性
社会的ルールや習慣、人との約束を守る力
ストレスコントロール力
ストレスの原因へ適切に対処し、軽減する力
2018年に追加された“3つの視点”とは?
社会人基礎力は2006年に提唱された概念ですが、2018年には「3つの能力」「12の能力要素」に加え、3つの視点が追加として提唱されました。
- 何を学ぶか
- どのように学ぶか
- どう活躍するか
これらは3つの能力/12の能力要素に内包されるものであり、キャリアを切り開いていくうえで重要なものと位置づけられています。
また、この3つの視点は大学生、若年~高齢者まで、すべての層に対して重要なものであるとされています。
何を学ぶか
何を学ぶかというのは、自分自身の価値を高め続けるために“学び続ける力”を学ぶことを指します。
そもそも従来の「勉強」というと、子供~大学生時代のイメージが強いでしょう。
しかし昨今では少子高齢化による労働人口の減少で、「高齢になっても働くこと」が求められるようになり、社会で活躍できる人材となるには「学びによるアップデート」が必要となっているのが現状です。
よってこの視点では、「自分の強みを発揮するには何を学べばいいか?」また「自分の不足部分を補うために学ぶべきことは何か?」といった目的を持つことが重要であると考えてよいでしょう。
どのように学ぶか
「何を学ぶか」を明確化したあとは「学びの手段」を考える必要があります。
ただやみくもに新たな知識を学ぶだけではなく、たとえば「これまでの業務経験からケーススタディで学ぶ」「より発展的なスキルについて学ぶ」というふうに、学びを体系化していくことが重要です。インプットだけでなくアウトプットも含めて実践していくのも効果的でしょう。
こうした体系的な学習を続けていけば、より効率的かつ短時間で学びを得ることができます。
どう活躍するか
学びについて考える大前提として、「どう活躍したいのか」「どんな自分になりたいのか」といった目的を考えることも重要です。目的を設定することで学ぶべき内容と手段が明確になります。
また、学んだあとに目的の実現を目指すには、「前に踏み出す力(主体性・働きかけ力・実行力)」が必要です。自ら主体的に行動を起こし、周囲を巻き込みながら協力して目的の達成を目指すことで、新たな価値を生み出せるようになります。
社会人基礎力の鍛え方は?
社会人基礎力は新入社員だけでなく、すべてのビジネスパーソンに必要な力です。社会人基礎力を鍛えるには、次の4つの方法が有効です。
客観的視点で自己分析を行う
社会人基礎力を鍛えるには、まず客観的な視点で自己分析を行います。
「社会人基礎力の要素」を参考に、足りている力と不足している力をそれぞれ洗い出し、「どの力を鍛えるか」を明確にしましょう。
また、社会人基礎力を可視化するには「チェックシート」を活用するのもおすすめです。
たとえば厚生労働省では「エンプロイアビリティチェックシート 総合版」として、社会人基礎力、就職基礎能力、職業人意識などを洗い出すチェックシートを提供しています。
参考:エンプロイアビリティチェックシート 総合版|厚生労働省
また、京都府の就職情報を発信している「京都ジョブナビ」では、チェックボックス方式で社会人基礎力をセルフチェックするサービスを提供しています。
こうしたサービスをうまく活用し、自身の社会人基礎力の強み・弱みを洗い出してみましょう。
分析結果をもとに常に改善を目指す
社会人基礎力の弱み・不足部分がわかったら、改善策を考えます。
たとえば「発信力」が不足している場合は、自分の意見を他人に分かりやすく伝え、理解してもらうためのスキル(コミュニケーションスキルやロジカルシンキングなど)を鍛えればよいでしょう。
不足している力を重点的にカバーすることで、社会人として円滑に仕事を進めやすくなります。
得意な部分はさらに伸ばす
前項では「不足している力を補うこと」について触れましたが、得意な部分についてはさらに伸ばしていくことをおすすめします。
得意な部分を強化すれば、それは自身の大きな強みになるからです。強みを武器にビジネスを行うことで、さらなる活躍が期待できます。
企業も環境整備に注力する
社会人基礎力を鍛えるには、企業の尽力も欠かせません。
というのも、個人で学び、意識して社会人基礎力を伸ばしたとしても、社内のビジネス環境(人事施策や労働環境、人間関係など)が悪いと活躍ができない可能性があるからです。
企業側は環境整備を行い、従業員1人ひとりが活躍できる職場づくりを行いましょう。
また個人では学びにくい内容については、企業側が教育制度を整え、研修・教育などを行っていくことも大切です。
ビジネスパーソンは社会人基礎力を鍛えよう
社会人として必要不可欠な力である「社会人基礎力」は、ビジネスパーソンに必須となるものです。
ビジネスのすべてを1人で完遂することは、まずできません。たとえ1人の会社であっても、そこには外部も含めた多くの会社・人間が関わっているからです。つまり会社勤めの人や経営者だけではなく、フリーランスや個人事業主などにも必須の力であると考えてよいでしょう。
社会人基礎力は「学び」「実践」によって鍛えることができます。
「社会人として長く働きたい」という方は、いま一度社会人基礎力についての見直しをしてみてはいかがでしょうか。