感染症の拡大やテレワークの浸透、ペーパーレス化の推進などの影響で、「電子契約」を導入する企業が増えています。電子契約には法的効力も発生し、コストの削減などさまざまな利点もあります。
とはいえ、いざ電子契約を導入しようと思うと「どんな仕組み?」「すべての契約に使えるの?」など、気になる点が多いのではないでしょうか。ここでは電子契約について、紙の契約書との違いや導入のメリット、注意点を解説します。電子契約の導入を検討している方は、ぜひご覧ください。
電子契約とは?紙で契約する場合との違い
電子契約とは、これまで紙ベースで行っていた契約要項を「電子データ」として作成し、インターネット等で締結することを指します。
電子契約をする際に「電子署名」を施したデータは本人性も担保され、改ざんも防げます。
電子契約と紙の契約(書面契約)の違いは、紙を使うかどうかです。
紙の契約書は「紙に契約内容を印刷し、署名押印して契約を締結する」というプロセスが生じます。
物理的な「紙」を介してやり取りをする分、紙の準備や印刷、製本、押印、アポイントメントの取得、郵送、収入印紙の購入……といったさまざまな工程が生じます。当然、そのための手間やコストも必要になるでしょう。
一方電子契約の場合は、「電子データのやりとりのみで契約を締結する」というプロセスです。
PCなどのデバイスと電子契約システム、インターネット環境があれば、オンライン上で契約を締結できます。
紙の契約書で使用した「印鑑」は必要なく、電子署名(※)やタイムスタンプを付与することで「電子契約の有効性」を担保することができます。
※電子署名法で規定され、かつ本人による一定の要件を満たした電子署名
電子契約の電子サインと電子署名はどう違う?
電子契約を導入するにあたって知っておきたいのが、電子サインと電子署名の違いです。
電子サイン
電子サインとは、紙の契約書でいうところの「署名・押印」です。本人性を担保するとともに、内容が改ざんされていないことを保証するものとして使われます。簡易的なものでいうと、タブレットにタッチペンで署名をするケースがあります。
電子署名
「電子署名」は公開鍵暗号、公開鍵基盤(PKI)、ハッシュ関数というセキュリティ技術を組み込んだ電子サインです。改ざんされにくく本人であることを強く証明する電子サインとして、重要な電子契約に使われるケースが多いです。紙の契約書でいうところの「実印と印鑑証明を提示する方式」と考えるとわかりやすいでしょう。
電子契約を導入するメリットは?
- ペーパーレス化によるコスト削減
- 契約業務の効率化が叶う
- 契約書の紛失、破損、汚損などを防げる
契約締結日、更新日、解約日を管理しやすく、抜けや漏れを防げる
ペーパーレス化によるコスト削減
電子契約で実感しやすいのが、そのコストの低さです。
紙の契約書で契約を結ぶ場合、さまざまなコストがかかります。
- 契約書を印刷する紙代
- プリントアウトのためのインク代
- 郵送費、直接手渡しの場合はその交通費
- 課税文書の場合は収入印紙代
- 一連の作業(契約書作成~契約締結まで)にかかる人件費
- 契約書の保管等にかかる収納用品代、場所代など
一方、電子契約の場合は「電子契約システムの利用料」「通信費」「電気代」のみです。
そもそも通信費や電気代は既存業務で発生するものですし、新たに発生するのは電子契約システムの利用料のみです。契約する頻度が高いほど、紙の契約書に比べてコストが少なくなります。
契約業務の効率化が叶う
電子契約には「業務効率化が叶う」という大きなメリットもあります。
紙の契約書で契約業務を行おうとすると、以下のような手間が生じます。
- 契約書の作成、印刷
- 製本
- 記入、はんこの押印
- 収入印紙の貼付、足りない場合は購入(※課税文書のみ)
- 封筒へ入れて投函、郵送
これら一連の作業は、意外と手間も時間もかかります。
契約数が多いときは、この作業だけで多くの時間を要するでしょう。
一方、電子契約の場合は、PCなどの端末内で契約書作成から送信までが完了します。
契約内容によっては一歩も外に出ずに作業が完結するため、大幅な作業時間短縮が叶うのです。
浮いた時間を他のコア業務に当てられるようになれば、生産性アップ、業績アップにもつながるでしょう。
契約書の紛失、破損、汚損などを防げる
紙の契約書は、物理的に場所を取るうえ、紛失、破損、汚損などのリスクがあります。
一方電子契約を導入すると、契約書を電子データとして管理できます。データ化することで物理的な保管スペースが不要になるうえ、検索性も高くなり、管理がしやすくなるのです。これにより紛失等のリスクは、紙ベースに比べて大幅に減少します。
もちろんデータ消失のリスクはゼロではありませんが、クラウドタイプであればクラウド上に自動保存されるため消失することはありません。クラウドタイプ以外であっても、バックアップを取っておけば安心です。
契約締結日、更新日、解約日を管理しやすく、抜けや漏れを防げる
契約によっては1年ごとなどの期間を定めて「更新」したり、変更したりする場合があります。
また事業を行う過程で、何らかの契約を解約する場合もあるでしょう。
このとき、直近の契約書が必要になりますが、紙の契約書の場合は管理が煩雑になりやすい性質があります。よって、片付けが苦手だったり契約書の種類・量が膨大であったりすると、必要な契約書が見つからないケースが少なくありません。
電子契約は契約書がすべてデータ化されています。そのため、既存の契約を変更・更新したいとき、解約したいときも瞬時にデータ検索ができるため、大変便利です。
電子契約を導入する場合の注意点
電子契約を導入すると効率よく契約業務が進められますが、導入にあたって気を付けたい点もいくつかあります。
電子帳簿保存法に対応しているシステムを選ぶ
電子契約サービスを導入する際は、「電子帳簿保存法」に対応している製品を選びましょう。
日本では2022年1月以降、電子取引は電子データで保存することが電子帳簿保存法で義務付けられています。現在では同法に対応している電子契約システムがほとんどですが、2023年12月31日以降に電子帳簿保存法へ非対応の電子契約システムを利用していた場合は法に違反してしまう可能性があるのです。
取引先に電子契約へ切り替えてもいいかを確認する
取引先と電子契約を行いたい場合、相手方も電子契約に対応している必要があります。しかし、相手が中小企業など規模の小さい企業である場合、電子契約に対応していないケースも珍しくありません。
このような企業と取引をしている場合は、自社が電子契約に切り替える前、つまり検討の段階で相手方に確認をしておきましょう。電子契約の同意が得られた場合は、導入の手順やマニュアルの配布などの支援を行い、一方的に電子契約へ切り替えることがないようにします。
契約内容によっては電子契約が使えないこともある
電子契約は幅広い契約内容をカバーしていますが、以下の契約については法律で「紙の契約書」を作成しなくてはならないと決められています。(※2022年12月時点)
- 定期借地契約書
- 定期借家契約書
- 宅建業者の媒介契約書
- 不動産売買における重要事項説明書
- 任意後見契約書
- 訪問販売等で交付する書面
不動産取引における契約書(4種)については、トラブルを回避するために権利関係をはっきりさせなくてはならないため、書面で作成し、交付する必要があります。
また、「任意後見契約書」については、公正証書を作成し、公証人の面前での署名が必須のため、書面での契約を行います。訪問販売については、消費者の保護のため(トラブル発生時の責任の所在を追及しやすくするため)に書面での交付義務があります。
なお、これらの書面についても、今後法改正などがあれば電子化が認められる可能性があります。
業務フローの変更、および研修を実施しなくてはならない
紙ベースの契約と電子契約では、業務フローが異なります。
<紙の契約書での契約締結フロー>
契約書の作成→法務部のリーガルチェック→複数の決裁プロセス→承認→契約
<電子契約の契約締結フロー>
契約書作成→法務部チェック&決裁&承認→契約
紙の契約書は物理的な受け渡しが生じる以上、フロー終了までに時間がかかります。
一方電子契約の場合は、デジタルデータのため共有が容易であり、別の部門が同時進行で作業をすることもできます。
これは効率よく契約業務を進められるということでもありますが、これまでの業務フローに慣れている従業員にとっては大きな戸惑いが生まれる原因にもなりかねません。
混乱を招かぬためには、事前に業務フローの変更点を共有し、研修を行うことをおすすめします。
実際に電子契約のフローを体験してもらえば、導入後もスムーズに業務を進められるでしょう。
電子契約でペーパーレス化&効率化を目指そう
電子契約サービスは従来の「紙とはんこ」による契約に比べ、はるかに効率よく契約手続きが進められます。
また、紙代、印刷代、郵送費や印紙代といった諸費用がかからないため、コストダウンにも効果があります。またそれらに付随する作業(購入や発注など)の手間、時間も節約できるため、別の作業に注力しやすくなるでしょう。
ただし、電子契約を導入する際には業務フローの変更や周知が必要です。また電子契約の過渡期となる現在、契約によっては紙ベースでの契約でないと締結できないケースも多く存在します。
このような契約は法改正がない限りそのまま紙ベースでの契約になるため、電子契約と書面契約の両方をカバーできる電子契約システムを導入するとよいでしょう。上手く活用し、業務効率化を目指してみて下さい。