法人のうち、社会貢献のために非営利活動を行うのが「NPO法人」です。NPO法人を設立すると、任意団体だった場合に比べてさまざまなメリットが得られます。
しかしその設立方法や手順は、一般的な会社と大きく異なります。
ここではNPO法人を設立するメリット・デメリットや、設立手続きの流れを解説。すでにNPOとして活動をされている団体、および代表者は、参考にしてみてください。
NPO法人とは
NPO法人(Non Profit Organization)とは、法人格を持った非営利組織(団体)を指します。
非営利とは、「会社」のような営利(利益)を目的としないという意味です。
ただし、非営利だからといって「利益を出してはダメ」ということではありません。
NPO法人はあくまでも「社会貢献」を目的としているだけで、「その他の事業」として“利益が生じる事業”を行うこと自体は可能です。その代わり、以下のようなルールがあります。
- 事業で生まれた利益、寄付金などは非営利活動へ使用する
- 利益を社員へ分配することは禁じられている
営利事業自体はできても、NPO法人ならではの独特ルールがあることは知っておくべきでしょう。
NPO関連の団体には4種類がある
もともとNPOには4種類の団体があります。
- NPO(非法人の任意団体)……任意で発足したNPO団体
- 認定なしのNPO法人……法人化したNPO法人のうち、政府から認定をうけていないNPO法人
- 仮認定(特例認定)NPO法人……設立後5年以内で、かつ特例認定を受けたNPO法人
- 認定NPO法人……パブリック・サポート・テストの適合など、条件を満たし政府に認定されたNPO法人
このうち「NPO」はあくまでも特定分野の非営利活動を行う任意の組織であり、法人格を持っていません。
日本ではNPO(任意団体)として活動している団体・組織も多いですが、法人に比べるどうしても資金調達や信用性の面ではやや劣ります。
そのため、NPOでは「より大規模な事業として活動を行いたい」など、スケールアップする場合に法人化を検討するケースが多く見られます。
NPO法人の資金源
一般的な会社などの法人と異なり、NPO法人では以下のような方法で資金調達を行います。
- 会費
- 寄付金
- 助成金、補助金
- 収益活動
- 受託事業の収入
- 融資
NPO法人では活動に賛同してくれる人(会員)から「会費」をもらい、活動資金とするところが多いです。さらに個人・企業から受け取った寄付金や、支援団体からの助成金、国・自治体の補助金などを利用するケースも多く見られます。
メインの活動資金として、物品の販売などによる収益活動を行うNPO法人も少なくありません。
またNPO法人では、国や自治体から委託された事業を、NPO法人が代わりに行う「受託事業」により収入を得るケースや、金融機関からの融資で資金調達をする場合もあります。
NPO法人を設立するメリット・デメリット
NPO法人を設立するメリット・デメリットについて見ていきましょう。
NPO法人を設立するメリット
NPO法人を設立すると、以下のようなメリットが得られます。
少額の費用で法人設立できる
一般的な株式会社では、数十万円の登記費用+資本金がかかります。
一方、NPO法人の設立は登記の際に費用がかからず、資産額の要件もありません。
かかる費用と言えば、印鑑を作成する費用や手数料、提出書類のプリントアウト代くらいです。
- 登記にかかる法人印鑑 10,000円前後
- 住民票の発行手数料 300円
- 書類のプリントアウト代 500~1,000円程度
少額で法人格を得られるのは、大きなメリットといえるでしょう。
社会的な信用性がアップする
NPOが「法人格」を獲得することで、社会的な信用もアップします。
任意団体はあくまでも「個人が集まってつくる団体」ですが、法人は法的な手続きを経て設立した団体です。
取引や賃貸契約はもちろん、行政との委託事業契約や補助金申請、融資などにおいても有利になるでしょう。
事業展開がしやすい
先述のとおり、NPO法人になると法人格が与えられ、さまざまな面で有利になります。
法人化することで任意団体より資金集めの手段が広がるため、活動の拡大、事業展開などもしやすくなるでしょう。
任意団体に比べて税制優遇がある
NPO法人になると、さまざまな“税制の優遇措置”があります。
- 非営利活動に関する所得に対し、法人税が免除される
- 多くの自治体で「非営利活動のみのNPO法人向け・法人住民税の減免制度」を実施
- 設立から2年間は消費税の納付が免除
- 5万円以上の領収書に添付する「印紙税」が非課税
これらは、任意団体のままでは受けられない優遇措置です。
(※収益事業をおこなった場合は、その所得に対し税金がかかります)
公的機関との連携がしやすい
法人化すると、国や地方自治体などの公的機関と事業連携がしやすいメリットもあります。
NPO法人が事業を委託することで職員を雇いながら組織的な運営ができ、大規模な事業にも対応できます。
受け取った寄付金が非課税となり、活動にフル活用できる
NPO法人になると、受け取った寄付金が原則として非課税になります。
寄付金を受け取ったあと収益事業の資金として使用する場合は課税されますが、非営利の活動に充てる場合は法人税などが発生しません。
寄付金をメインとなる社会貢献活動へフル活用できるのは、法人ならではのメリットです。
NPO法人を設立するデメリット
NPO法人を設立するデメリットは以下の5つです。
設立するのに3ヶ月ほどかかる
NPO法人の設立には、トータルで3ヶ月ほどかかります。
- 所轄庁(都道府県や市区町村)への認証手続き~「縦覧」……2週間
- 所轄庁による認証審査……2ヶ月
- 所轄庁の認定後、法務局への法人登記申請……1~2週間程度
画像引用元:認証制度について | NPOホームページ
縦覧とは、一般の方が認証書類の一部を自由に閲覧できるようにすることです。
以前は1ヶ月の縦覧期間が必要でしたが、令和3年6月からは2週間に短縮されました。
とはいえ、NPO法人設立には時間がかかることには変わりません。
設立の際には逆算して手続きを進めていきましょう。
設立時に10人以上の社員が必要
NPO法人として認証を受けるためには、最低10名の社員を集めなくてはなりません。
ここでいう社員とは「議決権を持っている会員」を指します。
社員を集める際には、以下の前提条件をベースに人員を確保します。
- 活動趣旨に賛同する者なら誰でも社員になれる
- いつでも好きな時に退会できる、開かれた組織である
また登記の際には、3名以上の理事、および1名以上の監事を置く必要もあります。
株式会社のようにひとりで登記をすることはできませんので、注意しましょう。
活動分野が20種類に限定されている
NPO法人になれるのは、以下の決められた20種類の活動分野に当てはまる団体のみです。
- 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
- 社会教育の推進を図る活動
- まちづくりの推進を図る活動
- 観光の振興を図る活動
- 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
- 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
- 環境の保全を図る活動
- 災害救援活動
- 地域安全活動
- 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
- 国際協力の活動
- 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
- 子どもの健全育成を図る活動
- 情報化社会の発展を図る活動
- 科学技術の振興を図る活動
- 経済活動の活性化を図る活動
- 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
- 消費者の保護を図る活動
- 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
- 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動
引用元:特定非営利活動法人(NPO法人)制度の概要 | NPOホームページ
活動分野は定款に記載する必要があるほか、定款で決めた活動分野内で運営をする必要があります。
活動分野を変更する場合は「再認証の手続き」が必要になり、手間がかかるので注意しましょう。
一般企業と違う独特な会計、税務処理が増える
NPO法人は「非営利の活動、事業」と「収益事業」でそれぞれ異なる会計を行います。そのため、一般的な会社の会計に比べると、複雑化しやすいデメリットがあるのです。
特に収益事業を行う場合は、収益に対し法人税や法人住民税などが発生するため、事務作業や各種手続きも複雑化します。
情報公開が義務となっている
NPO法人になると、毎年所轄庁へ「活動計算書」「事業報告書」などの書類を提出する必要があります。
さらに、以下の書類を事務所に置き、必要に応じて情報公開することが義務となっています。
- 事業報告書
- 活動計算書
- 貸借対照表
- 財産目録
- 年間役員名簿
- 社員名簿
(毎事業年度が終了したあと3ヶ月後以内に作成、3年間備え置き)
このようにNPO法人は、任意団体に比べて“事業の透明性”や“正当性”、“社会貢献性”が求められることになる点を知っておきましょう。
NPO法人の設立条件や手順は?
NPO法人を設立する流れは、以下の3ステップです。
- 所轄庁(都道府県や市区町村)で認証手続きをする
- 縦覧(2週間)~審査(2ヶ月程度)、認証完了
- NPO法人の設立登記手続き
- 所轄庁へ書類を提出
1.所轄庁(都道府県や市区町村)で認証手続きをする
NPO法人を設立するためには、以下の書類を揃え、所轄庁で認証を受ける必要があります。
- 定款
- 役員名簿(各人の報酬有無を記載したもの)
- 役員の就任承諾書および誓約書の謄本
- 役員の住民票等(※)
- 社員のうち10人以上の住民票等(※)
- 認証要件に適合することを確認したことを示す書面
- 設立趣旨書
- 設立についての意思の決定を証する議事録の謄本
- 設立当初の事業年度及び翌事業年度の事業計画書
- 設立当初の事業年度及び翌事業年度の活動予算書
参考・引用元:認証制度について | NPOホームページ
※……住所または居所を証明する書類
書類に軽微な不備があった場合は、修正を行い再提出しましょう。
2.縦覧(2週間)~審査(2ヶ月程度)、認証完了
所轄庁へ書類を提出したあとは、情報の一部を一般公開する「縦覧」期間が2週間設けられます。
縦覧期間が終わったあとは審査に2ヶ月ほどかかり、認証されれば申請者へ通知が送られます。
申請者側は待機となるので、この間に法人印鑑を作成しておくと登記がスムーズです。
3.NPO法人の設立登記手続き
認証通知をもらったあとは、晴れて法人登記ができるようになります。
法人登記は管轄の法務局で、通知された日から2週間以内に行う必要があります。
通知から登記せず6ヶ月以上経過すると、一旦認証が取り消しになるため注意しましょう。
- 設立登記申請書
- 所轄庁発行の設立認証書
- 定款
- 代表権を有する者の資格を証する書面(理事就任承諾書、および誓約書)
- 資産の総額を証する書面(財産目録)
- 印鑑届書
【持参すべきもの】
- 法人印鑑
- 理事長の実印
- 理事長の印鑑証明書
設立登記申請書や印鑑届書の用紙は法務局の公式サイトでダウンロードできます。
参考リンク:商業・法人登記の申請書様式:法務局
書類に不備がなければ1週間ほどで登記が完了します。
4.所轄庁へ書類を提出
登記が完了したら、以下の3点を所轄庁へ提出します。
- 登記事項証明書(原本/コピー)
- 設立登記完了届出書
- 財産目録(設立当初のもの)
ここまで終えれば、NPO法人の登記手続きは完了です。
「個人でできないこと」を叶えるために!NPO法人を検討してみよう
一般的にはボランティア団体というイメージの強いNPO法人ですが、実際には収益を伴う事業を展開することもできます。収益を得た場合、本来掲げている活動資金として利用できたり、事業規模を拡大できたりといったメリットも得られるでしょう。
個人や任意団体ではできない規模の活動を行いたい場合は、NPO法人の設立を検討してみてはいかがでしょうか。