人事やマーケティングの領域では、しばしば「エンゲージメント」という言葉を耳にします。エンゲージメントの意味や範囲は領域によって異なりますが、ビジネスにはどんな影響を及ぼすのでしょうか?
ここでは業界ごとのエンゲージメントの意味やメリット・重要性、エンゲージメントを高める方法について解説します。エンゲージメント向上を目指し、最終的にはビジネスの成果向上につなげましょう。
ビジネス上のエンゲージメントの意味とは?
エンゲージメントとは「契約」「約束」という意味や、「結婚」という意味で用いられる言葉です。
転じてビジネスにおいては「企業と従業員(または顧客)との結びつき」という意味で使われるケースが大半です。
またSNSでは「投稿への反応」のように、限定的な意味合いで使われる言葉でもあります。
エンゲージメントの意味・定義は領域によって大きく異なります。まずは、それぞれの領域における意味を知っておきましょう。
従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントとは「企業と従業員との結びつき、愛着心、愛社精神」という意味の言葉です。
従業員が企業に対し愛着・帰属意識を持つことで「会社のために貢献しよう」という気持ちが芽生えます。
従業員エンゲージメントが高まることで、企業全体の成果アップにつながります。また従業員も企業のために成長し、生産性が上がるなどの好循環が生まれるのです。
たとえば「ヤマト運輸」では、従業員エンゲージメント向上のために『満足ポイント制度』という制度を導入しています。「周囲の評価」「企業からの評価」「自己評価」の3つをポイント化して1年間で蓄積していき、そのポイント数によって4種類のバッジが手に入れられるシステムです。
バッジという目に見える評価が手に入るため、従業員はモチベーションアップにつながります。また従業員は互いに良い面を引き出しながら評価ポイントを蓄積していくため、信頼関係の強化にもつながる効果があるでしょう。
このようにプラスの連鎖がはたらくため、近年の人事領域では従業員エンゲージメントの向上の重要性が注目されています。
マーケティングにおけるエンゲージメント
マーケティング領域におけるエンゲージメントは「顧客」が対象となります。
またマーケティング領域内でも、顧客そのものに対するエンゲージメントと、SNSやアナリティクス・ツールなどで用いるエンゲージメントではそれぞれ意味が異なるため、違いを知っておきましょう。
顧客エンゲージメント
顧客エンゲージメントとは、顧客と企業との結びつき、信頼関係を指します。
「従業員エンゲージメント」とほぼ同じ意味ですが、マーケティング領域では顧客が対象となる点が大きな違いです。
顧客エンゲージメントは「顧客が購入を検討している段階」だけでなく、商品やサービスを購入したあとこそ重要なものとなります。その理由は「人口減少や競争の激化」。顧客となる労働人口が減り続ける中、企業が利益を獲得するには新規顧客の増加に加えて「顧客の維持」が重要だからです。
顧客との活発なやりとりを行ったり、ニーズに応えた商品・サービスを提供したりしつつ顧客エンゲージメントを高めることで、顧客の維持・リピート買いにつながります。またエンゲージメントの高い顧客は、SNSや口コミサイト、ブログなどで口コミ評判を拡散してくれるケースも多いです。
このような特徴から、顧客エンゲージメントは企業が生き残るための重要な要素として注目されています。
SNSのエンゲージメント
SNSにおけるエンゲージメントとは、「投稿に対する反応」を指します。
プラットフォームにもよって変わるものの、主なSNSエンゲージメントについては以下のような項目があります。
- リンクのクリック数
- ハッシュタグのクリック数
- コメント
- 画像の閲覧
- 動画の再生
- いいねの数
- ブックマークの数
- シェア、リツイートの数
- プロフィールを参照した数 など
エンゲージメント数の多い投稿ほど「反応があった」という解釈ができます。よってWEBマーケティングでは、消費者の反応をはかる指標として用いたり、新規顧客との接点増加、既存顧客との関係性構築のためにSNSエンゲージメントを活用したりするケースが多いです。
GA4(Googleアナリティクス4)のエンゲージメント
WEBマーケティングでは「GA4(Googleアナリティクス4)」を活用し、自社サイト、アプリなどの利用者データを分析することが基本となっています。
GA4では「サイト・アプリに対するユーザーの操作」をエンゲージメントと定義しています。
- WEBサイト……ページのスクロール
- eコマース……商品詳細ページの閲覧、特定ページに一定時間留まった数
- オンラインバンキングアプリ……口座の残高確認
- 大学サイト……情報動画の視聴 など
参照リンク:エンゲージメント: 定義 – アナリティクス ヘルプ
GA4のエンゲージメントについてはセッション、エンゲージメント率、ユーザーあたりのセッション率、平均エンゲージメント時間をもとにユーザー分析を行うことができます。
この分析をもとに「もっと滞在してくれるコンテンツを作る」「関連商品を見てくれるようリンクを設置する」「UIの改善」などの施策へ活かすことができます。
エンゲージメントと「従業員満足度」「ロイヤルティ」の違いは?
エンゲージメントの定義についてご説明したところで、ここからは「人事領域におけるエンゲージメント」について解説していきます。
エンゲージメントと従業員満足度との違い
エンゲージメントによく似た言葉に「従業員満足度」があります。
従業員満足度は「従業員が給与や福利厚生などの待遇に満足しているか」を示す指標です。一方従業員エンゲージメントは、企業と従業員の関係性、双方向での結びつきを示すものという違いがあります。
エンゲージメントとロイヤルティの違い
従業員エンゲージメントに似た言葉には「ロイヤルティ」もあります。
ロイヤルティは「忠誠心」という意味の言葉で、「従業員から企業に対する一方的な信頼心」というニュアンスが強くなります。ロイヤルティは上下関係が前提となっていますが、従業員エンゲージメントは双方向での対等な関係性という違いがある点に注意しましょう。
従業員エンゲージメントを高めるメリットは?
従業員エンゲージメントを高めるメリットは実に多く、次のようなメリットが得られます。
- 従業員のモチベーションアップ
- 生産性や売上の向上につながる
- 従業員が定着し、離職率低下につながる
- 優秀な人材を確保しやすい
- 組織全体が活性化する
従業員が企業に愛着を持ってくれることで、「より良い仕事をしよう」「企業に貢献しよう」という意識が働き、モチベーションが高まります。モチベーションアップによって生産性向上、売上アップといった成果が生まれますし、従業員の離職率低下にもつながるでしょう。
また、従業員エンゲージメントの高い企業は優秀な人材も集まりやすくなります。ときには従業員が友人や知人などの人材を紹介(リファラル採用)してくれる場合もあるでしょう。
前向きな社風が形成されていくことで、組織全体が活性化し、新たなビジネスが生まれる機会も多くなります。
従業員エンゲージメントを高めるには?
従業員エンゲージメントを高めるにはさまざまな取り組みが必要です。
- 従業員にアンケート(サーベイ)、ヒアリングを行う
- 給与アップなど待遇の改善
- 社内コミュニケーションの活発化へ取り組む
- 企業理念、ビジョンを共有する
- 1人ひとりが働きやすい環境を作る
- 教育や研修などで成長を実感してもらう
それぞれ詳しく見ていきましょう。
従業員にアンケート(サーベイ)、ヒアリングを行う
従業員エンゲージメントを高める第一歩として、従業員のエンゲージメントの現状把握をすることが重要です。「エンゲージメントサーベイ」と呼ばれるアンケートを行い、エンゲージメントを数値化したり、ヒアリングを行ったりして「どこに課題があるのか」を探りましょう。
給与アップなど待遇の改善
従業員ゲージメントを高めるには、給与や手当、賞与などお金関連の待遇面についても改善点を探してみましょう。
もちろん、給与を上げればそれで解決するわけではありません。ただ「労働の対価としていくらぐらいもらえるのか」というのは、従業員のモチベーション、およびエンゲージメントを大きく左右します。
競合の給与形態などを参考にしつつ改善することで、エンゲージメント向上の土台が出来上がります。
社内コミュニケーションの活性化へ取り組む
従業員同士のコミュニケーションが少ないと、業務がうまく回らないだけではなく心身の健康にも影響が及ぶことがあります。1on1ミーティングや接点のない社員同士で行うシャッフルランチ、リゾート地などで行うオフサイトミーティングなどを活用し、社内コミュニケーションを活性化させましょう。
リモートワークの場合はあえて「雑談タイム」を設けるなど、各従業員が孤立しない取り組みを継続して行うことが大切です。
企業理念、ビジョンを共有する
企業への愛着を持ってもらうためには、企業としての理念、ビジョンを共有し、理解してもらうことも大切です。従業員に企業理念やビジョン、方向性を浸透させて理解してもらうことで、企業と従業員との一体感が高まります。
1人ひとりが働きやすい環境を作る
ライフワークバランスが重視される今、「心身ともに健康で働ける職場づくり」はエンゲージメント向上にも重要となります。適材適所の人材配置や長時間労働の是正など、労働環境を整備して働きやすい職場をつくりましょう。また子育て中の従業員への支援、テレワーク手当の支給など、従業員の属性・勤務形態に応じた仕組みを作ることも検討してみましょう。
教育や研修などで成長を実感してもらう
企業が行う教育、研修などで従業員自身が成長を実感できるようになれば、業務の生産性も向上します。
そうなれば企業に対するエンゲージメントも向上するでしょう。
よって企業としては、適切な教育、社員研修などを実施することが重要です。そのためには上司やベテラン社員の指導についても見直し・改善や、研修プログラムの改善や刷新なども検討してみましょう。
エンゲージメント向上で企業成長につなげよう
本記事ではビジネスにおける「エンゲージメント」の意味や、従業員エンゲージメントを高める方法などをご紹介しました。
従業員エンゲージメントは組織力を高めるうえで重要な要素となります。
極端な話、いくら優秀な人材を集めたとしても、エンゲージメントが低い状態では人材が定着せず、成果に結びつきにくくなってしまうでしょう。顧客に対するエンゲージメントも同様で、中小企的に売上を伸ばしていくには「いかに顧客と良好な関係を築けるか」が重要になります。
優秀な人材を集めるだけではなく、人材に対し適切な施策・教育を行いながらエンゲージメントを高めていくことで、企業全体の力を底上げすることができます。
企業としてビジネスをするなら、エンゲージメントの向上にも注力していきましょう。