会社を設立する時に作成する「定款」。なんとなく存在は知っていても、具体的には何が記載されているのか知らないという方も多いのではないでしょうか?
定款は「会社の憲法」とも呼ばれる非常に重要な書類です。よってこれから会社の設立を考えているならば、定款の記載事項や作成フォーマット、認証方法などを把握しておく必要があります。
そこで今回は定款とはどのようなものなのか、記載する内容や認証について、そして保存期間や取得する方法などについて解説します。それぞれをしっかりと把握してスムーズな起業を目指すとともに、定款の本質についても理解を深めてみましょう。
定款(ていかん)とは
「定款(ていかん)」とは、会社を設立する際に作成する書類で、発起人全員の同意のもとに定められた企業の根本原則が記載されたものです。
会社の名前(商号)所在地から、会社の指針や事業内容、さまざまな規則等を記載するもので、法律によって作成が義務付けられています。
作成した定款には発起人の署名または記名捺印をして、公証役場で認証を受けることで、定款は効力を発揮します。
定款の形式は自由となっていますが、従来の紙での作成から近年ではPDF化した電子媒体などで提出するのが一般的になってきています。
定款の保存期間
作成した定款の原本は、公証役場と会社とで各1部ずつ保管されています。
公証役場で認証された定款については、定款認証から20年間保存され、会社の定款は会社の存続している間は保管しておきます。
定款の記載内容
会社法によって、定款の記載内容は一定の基準が定められています。
記載される項目については、①絶対的記載事項、②相対的記載事項、③任意的記載事項の3つに分けられています。
絶対的記載事項
「絶対的記載事項」とは、定款へ記載することが義務付けられている項目です。
絶対的記載事項が記載されていない定款は無効とされます。
<定款の絶対的記載事項>
項目 | 内容 |
---|---|
1.事業目的 | 設立する会社において、具合的に何の事業を行うのかについて記載します |
2.商号(会社名) | 会社名に使用できる文字には一定の制限があるので、ルールに合った商号を記載します |
3.本社所在地 | 登記を行う会社の住所を記載します |
4.資本金額(出資財産額) | 会社を設立する際に出資した資金の総額を記載します |
5.発起人の氏名・住所 | 会社の設立をする発起人全員の氏名と住所を記載します。 |
事業の目的は、「取引の安定性」を確保するために必要とされています。
本社所在地には、商用利用が禁止されている賃貸物件の住所の記載は避けましょう。自宅で実務を行う場合は、所在地にバーチャルオフィスを利用する方法もあります。
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相対的記載事項
相対的記載事項とは、記載がなくても定款自体は無効にはならないものの、定款としての効力が認められない項目です。
定款として効力を持たせるために記載が必要な事項なので、絶対的記載事項同様、しっかりと記載するようにしたいものです。
<定款の相対的記載事項>
項目 | 内容 |
---|---|
1.事業目的 | 発起人がお金による出資ではなく土地や債券のような現物出資をする際は、その内容や価額について必ず定款に記載します |
2.商号(会社名) | 発起人が会社の成立にあたり第三者から財産を譲り受けた際は、その財産の内容及び価額について定款に記載します |
3.発起人の報酬に関する事項 | 発起人の報酬についてもあらかじめ定款に定めるのが良いとされています |
4.設立費用に関する事項 | 発起人が会社設立に費やした費用を後に会社へ請求する場合は、設立費用に関する事項を定款に記載します |
5.株式発行の定め | 株券を発行するかどうかの取り決めを記載します |
6.株式の譲渡制限に関する規定 | 安定した会社運営のため、株式譲渡の際は、当該株式会社の承認を要するという規定を記載できます |
7.役員の任期に関する事項 | 役員の任期の伸長について定款に記載することができます |
8. 取締役会の書面決議に関する事項 | 書面や電磁的記録で取締役全員が同意をしたときは、取締役会の決議があったものする旨を定款に記載することで有効となります |
上記の1~4については、「変態設立事項」と呼ばれ、定款への記載とともに裁判所が選任した「検査役」の調査を受けることが義務付けられています。
その他、「会社機関の設置に関する事項」や「単元株式に関する事項」や「基準日に関する事項」などについても、相対的記載事項への記載が可能です。
任意的記載事項
任意的記載事項とは、定款への記載の義務はなく、記載していなくても効力が否定されることもありません。ほかの文書などで明確にしてもよい項目ですが、定款に記載することで、明確に知らしめることができます。
任意的記載事項の内容については、各会社による意向によって決められますが、一般的には以下の項目が挙げられます。
<任意的記載事項>
項目 |
---|
・取締役などの役員の数 ・役員報酬に関する事項 ・株主総会の議長 ・定期株主総会の招集時期などの開催規定 ・配当金に関する事項 |
定款に記載したものは任意的記載事項であっても、内容に変更があった場合は定款を変更する必要が生じ、変更するためには株主総会の特別決議が必要となります。
定款のフォーマット
定款を作成する際は、会社の形式や取締役会の有無などに応じて適したフォーマットを選択する必要があります。本項では定款のフォーマットについて解説します。
定款のフォーマットには3つのパターンがある
株式会社を設立する際の定款のフォーマットについては、大きく分けて3つのパターンが存在します。
- 取締役1名で監査役・会計参与を設置しておらず、株式非公開の場合
- 取締役1名以上で取締役会・監査役を設置しておらず、株式非公開の場合
- 取締役3名以上で取締役会・監査役を設置しており、株式非公開の場合
出展:定款等記載例(Examples of Articles of Incorporation etc) | 日本公証人連合会
1については小規模な会社が該当し、2は中小規模の会社が該当します。3については中小よりもやや規模の大きい中規模相当の会社が該当します。なお、株式を公開している大規模な会社の場合は1~3のパターンに比べて定款の内容も詳しく記載する必要があります。
定款のフォーマットを決める4つの項目
定款のフォーマットは、以下の4つの項目によって変わります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
①公開会社か非公開会社か
株式の譲渡に制限が定められていない会社を「公開会社」といいます。一方、株式の譲渡に対し制限を設けている会社は「非公開会社」です。公開会社とする場合、非公開会社とする場合のいずれも定款への記載が必要になります。
ちなみに、定款で公開会社であることを定めていても、株式市場へ上場したことにはならないため注意が必要です。
また公開会社になった場合、退職者等によって自社に不利益になる形での株式の譲渡(売却)が行われる懸念もあります。上場するまでは非公開会社として譲渡制限をつけたまま運営することをおすすめします。
②取締役の人数
最適なフォーマットが変わる要素として「取締役の人数」も挙げられます。具体的には取締役が1人、1人~3人未満、3人以上という区分があります。
取締役については人数に加え、任期についても明確に記載する必要があるため、忘れずに明記しておきましょう。
③取締役会を設置しているかどうか
会社に取締役会を設置する場合は所定のフォーマットで定款を作成します。
取締役会とは、会社の事業・業務の執行について意思決定を行うための機関です。取締役会を設置しない場合、意思決定をする際に株主総会を開く必要がありますが、取締役会を設置することで株主総会を開催することなくスピーディーな意思決定ができるようになるのです。
取締役会を設置する場合、会社に3人以上の取締役員を置く必要があります。
④監査役を設置しているかどうか
取締役会を設置する際には監査役を設置する必要があります。監査役は独立した機関として取締役員の業務執行状況を監督し、不正が行われていないかを確認・是正する役割を果たすことが主な役割です。監査役を置く場合、定款のフォーマットにおいて「取締役会の設置」とともに「監査役を設置する旨」を盛り込む必要があります。
定款の認証とは?
「株式会社」「一般社団法人」「一般財団法人」の場合は、定款の認証が必要となります。
定款の認証とは、定款の正当性について公証人に証明してもらうことで、認証を行うことで「会社設立時に発起人全員の同意によって作成された原始定款であること」と公的に証明することができます。
定款の認証によって、定款の紛失や改ざんを防いだり、社内紛争のリスクを抑えたりすることができます。
定款の認証の手続き
株式会社を設立する際の定款認証については、本店所在地のある都道府県内の公証役場で手続きを行います。定款認証に必要な書類や費用について詳しく見ていきましょう。
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認証に必要な書類
定款の認証には次の書類が必要です。
- 定款(3通)
- 発効から3カ月以内の印鑑証明書(※発起人全員分、1通ずつ)
- 発起人全員の実印
- 実質的支配者(※)となるべき者の申告書
発起人が複数いる場合は、全員分の印鑑証明書と実印が必要になる点をしっかりと理解しておきましょう。
以下の条件に当てはまる法人の事業運営を行う個人のこと。
①全株式に対し株式を50%超保有する個人
②25%超の株式を保有する個人
③上記①②が存在しない場合において、事業活動に支配的影響力を持つ個人
④①②が存在しない場合における代表取締役
※一般社団法人や一般財団法人の場合は「事業活動に支配的な影響力を持つ個人」または「代表理事」が実質的支配者となります。
代理人が定款の認証を受ける場合には以下の3点が追加で必要になります。
- 委任状
- 代理人の身分証明書or印鑑登録証明書
- 代理人自身の実印or認印
認証にかかる費用
定款の認証にかかる費用は32,000円~92,000円です。
実際の認証費用は、「資本金額の区分」「定款の提出方法」によって変わってきます。
【定款認証にかかる費用】
①認証手数料(公証人へ支払い) | 1件30,000円~50,000円 |
---|---|
①謄本請求手数料(設立登記申請時) | 約2,000円(1ページにつき250円) |
①印紙税(収入印紙代、紙定款の場合) | 40,000円 ※電子定款の場合は不要のため0円 |
①~③合計 | 32,000円~92,000円 |
定款の提出方法には紙媒体での提出と電子媒体(CD-ROMなど)での提出があり、紙媒体の場合は40,000円の印紙税が必要になります。一方、電子定款での提出の場合は印紙税がかかりません。
起業時のイニシャルコストを少しでも抑えたい場合は、電子定款での認証手続きを検討されるとよいでしょう。
また、定款の認証手数料は資本金額によって異なります。資本金が300万円以上の場合は一律50,000円です。
- 資本金100万円未満……30,000円
- 資本金100万円~300万円未満……40,000円
- 資本金300万円以上……50,000円
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公告方法も定款に記載が必要
株式会社を設立する場合、毎年の決算・合併等の情報を官報(国が発行する機関誌)や日刊新聞紙、電子公告(ウェブサイト)のいずれかで開示する義務があります(決算公告)。
このうち日刊新聞紙や電子公告で決算公告を行う場合は、その旨を定款に記載しなければなりません。定款に公告方法を記載しなかった場合は自動的に官報での決算公告を行うものとみなされます。
なお、官報へ決算公告を掲載する場合、記載にあたり1行あたり2,854円の費用がかかります。
定款の変更には特別決議が必要
定款を変更する場合、株主総会での特別決議が必要となります。
定款は“会社の憲法”である以上、最高意思決定機関である株主総会で変更の是非を決定する必要があるのです。ルールを変更する都合上、特別決議は普通決議に比べると要件が厳しくなります。
また定款変更が決議によって決定した場合、法務局で定款変更の手続きを行う必要があります。
定款変更を行うには登録免許税30,000円が必要です。ただし、管轄外への本店移転・支店の設置や移転については追加で費用がかかる可能性もあるため、あらかじめ費用について確認しておくと安心です。
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定款を取得する方法は?
定款はさまざまな場面で提出を求められることがありますが、もし会社で保存している定款が紛失してしまった場合、定款の内容を確認するには以下の2つの方法があります。
会社を設立した際に定款認証を行った公証人役場に対して、謄本の申請ができます。
定款認証を行ってから20年以内の保存期間中であれば、保存期間謄本に申請によって、公証人の認証を受けた定款の謄本を取得することが可能です。保存期間を過ぎてしまっている場合は申請をしても謄本の取得はできません。
会社を設立した際に登記を行った法務局に対して、「会社設立登記申請書」の閲覧申請を行うことで原始定款を確認することができます。
閲覧は誰でもできるわけではなく、利害関係者に限られます。利害関係者が閲覧の目的を明確にして、それが認められれば閲覧が可能となります。
登記申請書およびその附属書類の保存期間は約5年となっているため、期間を過ぎれば破棄され閲覧ができない可能性があります。
まとめ
本記事では定款へ記載する内容やフォーマットの種類、認証時のポイント・注意事項をご 紹介いたしました。
定款は会社を設立する際に作成が義務づけられているもので、定款へ記載することで会社を運営していくなかで起こり得るトラブルを防ぐものでもあります。
絶対的記載事項はもちろんのこと、相対的記載事項や任意的記載事項についても、記載項目や内容についてしっかりと吟味し、定款による効力を有効活用していきたいものです。