個人事業主が開業届を提出する際に決められる「屋号」。そもそも屋号とはどのようなものなのでしょうか。
今回の記事では屋号とは何か、付けるとどのようなメリットがあるのかを解説します。
屋号の付け方のポイントや注意点についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
屋号とはなに?
屋号とは、個人事業主が使う「ビジネス上の名前」のことです。
お店の名前や事務所名、ペンネームなどを想像してもらうと分かりやすいでしょう。
屋号は「開業届の提出時」、または「確定申告時」に屋号名を記入すると登録ができます。
その際の登録費用は無料です。
屋号は絶対につける必要がある?
結論から言えば、屋号の登録は任意となっています。屋号をつけないからといって罰則があるわけではなく、未登録のままでも問題はありません。
事実、個人事業主やフリーランスの中には、屋号を持たず個人名で仕事をしている方も多く見られます。「便宜上屋号があったほうが便利なのであればつける」という認識でかまいません。
屋号にはどのような種類がある?
屋号は事業モデルに応じて好きなものを付けられます。
屋号の例としては、以下のような屋号が挙げられるでしょう。
- お店の名前
- 事務所、オフィス、医院の名前
- YouTubeの運営チャンネル名
- フリーランスのペンネーム
「○○屋」「○○ショップ」「サロン○○」「○○工房」など
「○○事務所」「オフィス○○」「○○ラボ」「○○医院」など
「○○チャンネル」など
個人名を屋号として登録
なお近年では、YouTubeで動画投稿をしている方が、チャンネル名を屋号として登録・開業するケースも増えています。
また、フリーランスで特定の店・事務所に所属していない場合は、個人名を屋号として登録しているケースもあります。
屋号と商号、雅号との違いは?
屋号とよく似たものに「商号」「雅号」があります。
商号とは?
商号とは、法人登記をして会社を設立する場合に付ける「会社名」です。
会社を設立した場合、代表者と別の「法人格」が与えられます。法人格は人間(代表者)と区別して扱う必要があるため、「株式会社○○」などの会社名を決めなければなりません。
これが商号と呼ばれるものです。
一方、屋号とはあくまでも「事業そのものにつける名前」であり、付けるかどうかは任意です。個人事業主の場合は「会社」を持つわけではないので、屋号に「会社」「銀行」などの法人格を含んだ名前は使えません。
雅号とは?
屋号が事業に対し付けられる名前である一方、雅号(がごう)とは、芸能関係者や画家、書家、著述家などがつける「別名」です。芸名、ペンネームとも言い替えられます。
個人事業主の屋号登録手続きにおいては、屋号と雅号がひとまとめにして扱われています。
法人名とは?
法人名とは、企業・団体などが法人として活動するために登録する名称を指します。会社だけではなく「学校法人」「医療法人」「宗教法人」「NPO法人」などの団体も含まれます。
法人格には国や自治体が属する「公法人」、それ以外が属する「私法人」があり、会社は私法人に含まれます。
また私法人は「営利法人」「非営利法人」に分かれています。会社は営利法人のうちのひとつですので、会社の場合は商号=法人名と解釈してよいでしょう。
会社名とは?
会社名とは、その名の通り「会社につける名称」のこと。一般的な会社名には「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」「有限会社」があります。屋号と異なり、法人登記をした会社のみが付けられます。
法人名に含まれる名称であり、意味合いは「商号」と同じです。法人名と異なり、会社以外には使用されない呼び方である点が特徴といってよいでしょう。会社の定款にも記載される重要事項であり、会社設立時には一定のルールに従って会社名(商号)をつけることが求められます。
屋号の特徴とは?
屋号は個人事業独特の制度です。これから屋号をつけるのであれば、屋号の特徴について把握しておきましょう。ここからは、屋号の特徴・性質についてご紹介します。
“個人事業限定の事業名称”が屋号
屋号は会社などの法人ではなく「個人事業に限定した事業名」を指します。
個人で開業して事業を営む場合、契約をしたときの責任・地位は「契約者本人」が持ちます。しかし屋号を決めていれば、屋号でのやりとりが可能となるのです。
また屋号は銀行口座を開設する際に個人名と合わせて登録することも可能です。入出金のやりとりにおいて事業用の名前=屋号が記されるようになれば、個人名でのやり取りに比べ信用を得やすくなります。
任意のため屋号無しでも仕事はできる
屋号の登録は任意であり、登録をする・しないは個人の判断に委ねられています。とりわけ個人で活動するクリエイター、エンジニア等の職種では、屋号を設けず個人名で活動される方も少なくありません。複数の事業を行っている場合は、一方では個人名で、もう一方では屋号で活動することも可能です。
ただし、業態によっては屋号をつけておく方がスムーズに取引ができる場合もあります。
たとえば何らかの店舗を開業したい場合、個人名をお店の名前として使用するケースはほぼないといってよいでしょうはお店の名前を屋号として登録したほうが便宜的にも有利です。
屋号を使用する際のルールは?
屋号をつけるとき・使うときのルールはそこまで複雑ではなく、比較的自由度が高いといえます。ここでは屋号を使う際のルールについて解説します。あらかじめ把握しておき、ご自身のビジネスに役立てましょう。
文字の制約はない
屋号には、ひらがな・カタカナ・漢字・外国の文字などどんな文字でも使用可能です。英字だけではなくフランス語やタイ語、アラビア語などの文字でも使用できます。単語だけでも文章でも認められます。
とはいえ、客観的に見てパッと読めない屋号をつけるのはあまり良いことではありません。屋号を覚えてもらえなければ、後の損失につながる可能性があります。せっかく屋号をつけるのならば、わかりやすい文字をつかって屋号をつけた方がいいでしょう。
屋号と店舗名は統一しなくてもいい
屋号と店舗名は必ずしも統一する必要はありません。よって1つの屋号で別々の業態のお店をオープンした場合も、お店ごとに名前を決められるということになります。
逆に言えば、ごく限定的な意味の屋号に決めてしまうと不都合が生じる可能性があります。たとえば「○○低温殺菌牛乳専門店」という屋号をつけた場合、低温殺菌牛乳以外の商品を専門に扱うショップをオープンしたくても、屋号のイメージのせいで異なる事業展開がしにくくなる可能性があります。多角的に事業展開をしたい場合は抽象的な屋号にしたほうが何かと都合がいいかもしれません。
商号に関するルールは?
会社を設立するために商号を考える場合には、表記方法などにおいて屋号よりもやや厳しいルールがあります。ゆくゆくは法人化したいと考えている方は、以下の3点を把握しておき、将来に役立ててみてください。
会社の種類をどこかに含める必要あり
商号を決める際には、自社の会社の種類名を必ずどこかに入れる必要があります。
たとえば株式会社なら「株式会社○○」「○○株式会社」というふうに、名前の前か後ろに株式会社をつけなければなりません。合同会社、合資会社、合名会社も同様です。
また、株式会社であるにもかかわらず合同会社を使う、といったことはできません。
会社の種類ごとに代表者の責任範囲が異なっているためです。このことは会社法第6条第3項で定められています。
他社との誤認を招く商号はつけられない
商号を決める際には、全国的に知名度の高い会社や同業他社との誤認を招く商号はつけられません。
そもそも他社であるかのようなイメージを利用してビジネスを行うのは不公正であり、仮に似たような名前を付けて事業を始められても、不正などが起これば既存の会社のイメージを著しく損ねてしまいます。
まったく同じ名称はもちろん、「株式会社任夫堂」のように誤認を招くような商号もつけられません。つけたい商号がある程度固まってきたら、同じ商号や酷似している商号がないかを必ず確認しましょう。
同じ住所で同じ商号の登録はできない
商業登記法第27条では、番地まで一致する同じ所在地において、同じ商号を複数登録できないというルールが定められています。
これは、すでに登記されている商号と同じ名前の別会社が不正をはたらいたり、新しい業態を始めたりした場合、無実の同名会社にまで不利益が生じる可能性があるからです。
よって商号を決める際には、まず登記住所内に同じ商号の会社がいないかをあらかじめチェックしておきましょう。これにより重複を防げます。
屋号をつけるメリット・デメリットとは?
個人事業主が屋号を付けるかどうかは自由ですが、もし屋号を付けた場合にはどのようなメリットが得られるのでしょうか。また、デメリットがあるのかも気になるところです。
屋号を付けるメリットとデメリットの両方を見ていきましょう。
屋号を付けるメリットとは?
個人事業主が屋号を付けると、さまざまなメリットが得られます。
- 屋号の銀行口座が作成できる
- 請求書や領収書、名刺やHPなどに使えて、公私の区別をつけやすくなる
- 事業内容を端的にアピールできる
- 過去の実績が分かりやすくなり、法人化の際に便利
屋号を付けた場合、屋号で銀行口座が作成できるようになります。また屋号は請求書や領収書、名刺などにも利用可能です。仕事関係の名義を屋号で統一すれば、公私の区別が付けやすくなるでしょう。
また、屋号の付け方次第では事業内容を端的にアピールしやすくなります。
たとえばWEBデザインを手掛けている場合、「○○デザイン」という屋号にすることで「WEBデザインをやっている事業主」と一目で理解してもらえるでしょう。事業をイメージしやすい屋号にすれば社会的な信用もアップし、商談や取引において有利にはたらくケースもあるのです。
その他の屋号には、「法人化する際に便利」というメリットも。
個人事業主の屋号は、法人化する際にそのまま使用することができます。同じ屋号で過去の実績を積み重ねた状態での法人化となるため、過去の実績を説明しやすくなるのです。
屋号を付けるデメリットとは?
屋号を付けるデメリットは以下のとおりです。
- 屋号を決める手間がかかる
- 途中から屋号を付けると各種変更が必要
- 仕事の依頼が屋号のイメージに引っ張られることも
屋号を付ける際には「オリジナリティがある」「事業を的確に表している」などを考慮して考える必要があります。また既存の会社や商品サービスと被っていないか、調べる手間もかかります。
さらに開業途中から屋号を決めた場合は、名刺や事業サイト、銀行口座などの変更手続きが必要になります。
屋号の有無があまり影響しないフリーランス等の形態では、手間のほうが勝ってしまう可能性もあるでしょう。
そのほかには、仕事の依頼が屋号に影響されることも。
たとえばWEBライターとWEBデザインを手掛けている個人事業主がライティング関連の名前を付けた場合。この場合、「ライティングをする人」というイメージは強くなる代わりに、WEBデザインも行っているという印象が薄くなってしまいます。
屋号を付ける際には、自身の事業範囲を狭めることがない屋号を考えましょう。
屋号を決める際のポイントは?
屋号を決める際には以下の3点を押さえておきましょう。
流行りすたりのない屋号にする
屋号を決める際には、流行りすたりのない名前を考えましょう。
その時の流行を反映した屋号は注目されやすいですが、流行が終わると途端に陳腐な印象を与えてしまいます。
事業内容を思い浮かべやすい屋号にする
屋号には事業内容を思い浮かべやすい名称を付けるべきです。IT系サービスの事業なのに「○○の店」などちぐはぐな屋号を付けてしまうと、事業内容が分かりにくく、マイナスな印象を持たれてしまう可能性があります。
ネット検索しやすく、かつ覚えやすいシンプルな屋号にする
ネットで検索しやすく記憶に残りやすい屋号とは、ずばり「シンプルな屋号」です。
取引先や顧客は、インターネット検索であなたの事業について検索を行います。その際に外国語などの覚えにくい屋号を付けていると、検索ができず、機会損失を生む可能性があるのです。
奇をてらった屋号より、覚えやすさを重視しましょう。
屋号を付ける際の注意点は?
屋号を付ける際には気を付けたい注意点もあります。以下の3つの注意点を頭に入れておきましょう。
法人化の可能性がある人は文字・記号の種類に注意
「将来的に屋号と同じ名前で法人化したい」という場合は、文字や記号の使い方に注意が必要です。
- ひらがな
- カタカナ
- 漢字
- ローマ字(大文字、小文字)
- 数字
- 限られた記号
- 「&」「‘(アポストロフィー)」「,(カンマ)」「-(ハイフン)」「.(ピリオド)」「・(中点)」
なお、記号の使用には細かなルールがあります。
法人商号の記号使用ルールについても確認しておくことをおすすめします。
「株式会社」「銀行」などを付けてはいけない
個人事業主の屋号では、法人のような名称を使うことはできません。法人との混同を避けるためにも、以下のような名称を避けましょう。
- 株式会社
- Co.Ltd
- 合同会社
- 法人
- 会社
- 銀行
- 信用金庫
- 生命保険
- 損害保険 など
登録済み商標、既存の法人と同じ屋号を避ける
これから屋号を付ける場合は、すでに登録されている「商標」「法人」「屋号」と同じ名称を避けましょう。
仮に商標登録されている名前と同じ名称の屋号を付けた場合、権利侵害で訴えられる可能性があります。
また同じ名前の会社・事業主が万が一不祥事を起こした場合、こちらが無関係にも関わらず、風評被害が降りかかるリスクも考えられます。
リスクヘッジの観点からも、既存の商標や法人、屋号と違う名称を考えましょう。
商標登録されている名称、法人名は以下のサイトからも検索できますので、活用してみてください。
商標検索|J-PlatPat [JPP]
国税庁法人番号公表サイト
屋号を活用してビジネスをスムーズに!
本記事では、「個人事業主の屋号とは何か」をお伝えしました。
個人事業主の屋号登録は任意ですが、登録しておくことでビジネスがスムーズになります。屋号の銀行口座も作れますし、名刺やチラシ、WEBサイトに屋号を載せることでアピール力がアップするからです。
特に店舗や医院、事務所などの運営、ネットショップなどの「一般消費者向け事業」を営む場合は、屋号を決めておくメリットが大きいでしょう。
なお個人事業主の中には、自宅代わりに「バーチャルオフィス」を利用して事業を行う方も多く見られます。バーチャルオフィスを選ぶときは、「屋号宛ての郵便物が受け取れるか」もチェックしておくとよいでしょう。
当レゾナンスのバーチャルオフィスは、屋号宛ての郵便物の受け取りにも対応しております。またオプションをご利用頂きますと、2つめの屋号を追加することも可能です。
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