すでに起業した方やこれから起業される方の中には「経営理念といわれてもよくわからない」「何となくで決めて、そのまま形骸化している」という方もいらっしゃるかもしれませんね。事実、企業においてはこれらのようなケースは少なくありません。
しかし、経営理念は経営の根幹、土台となる考え方です。経営理念をしっかりと定めることで、会社全体が一体感を持って企業の目標へと進めるようになるでしょう。
ここでは「経営理念の基本とは何か」について改めて確認するとともに、経営理念と企業理念の違い、経営理念の構成要素や決め方のポイントを解説します。
さらに、実際の企業の経営理念やそこに込められた想いについてもご紹介します。いま一度、経営理念について考えてみましょう。

経営理念とは経営者の“根幹となる信念”
経営理念とは、経営者の持つ“価値観”や“信念”を端的にあらわしたものです。
「経営哲学」「経営信条」とも呼ばれます。
経営理念は企業の創設者が作成するものであり、経営者個人の考え方や価値観、信念、倫理観が色濃く反映されています。それはつまり、
「会社を経営することで企業がどのような役割を果たすのか」
「社会にどんな影響を与えるのか」
といった考え方を社会に端的に発信するための言葉でもあります。
社会に暮らす人から見れば、会社というのはあくまでも会社であり、経営者の想いがあってもなかなか伝わりません。しかし、実際には経営者は何らかの信念や目的を持って会社を設立しているはずです。
経営理念で経営者の「強い信念や想い、価値観、未来への考え方」などを伝えることで、「会社が何のために存在し、何を目指しているのか」がより伝わりやすくなります。
経営理念を浸透させることで社員にも経営者の信念が伝わる
経営理念は、社員に対して経営者の“強い想い”を伝えるための重要なツールでもあります。
同じ会社で働いていても、経営者の想いや信念、価値観、倫理観というのは案外伝わりにくいものです。
しかし経営理念を掲げ、社内へ経営者の信念、価値観、倫理観を染み込ませることができれば、社員それぞれが同じ方向を向いて仕事ができるようになります。
当然会社としての方針に“ブレ”が生じることも少なくなりますし、同じ価値観を共有しながら働く楽しさ、喜び、充実感を持ってもらえるようにもなるでしょう。
経営理念と企業理念の違いとは?
経営理念とよく比較されたり、混同されたりする言葉に「企業理念」があります。
この2つの違いをまとめると、以下のようになります。
- 経営理念……経営の土台となる経営者の信念や価値観のこと。経営哲学。
- 企業理念……経営者が代わっても変化しない、企業の存在理由やイメージのこと
経営者が代わると経営理念は変わる可能性がありますが、企業理念は変わりません。
企業理念には以下の要素が含まれており、企業で働く全員の意思決定や行動基準としても使われます。
- 企業としてのあり方
- 目指す未来像
- 価値観
- 社会との関係性
- 従業員が意識すべき考え方
- 従業員の行動指針
- スローガン など
これら企業理念の実現には、経営理念が重要な役割を果たします。
経営者の価値観が土台となって企業理念が育ち、企業全体を支える考え方として浸透していくからです。
経営理念の構成要素はおもに3つ
経営理念は3つの要素で構成されています。
- 使命(Mission)
- 価値観(Value)
- 未来像(Vision)
経営理念を読み解いたり、自社で作成したりする場合は、この3つの要素を軸に考えるとよいでしょう。
1.使命(Mission)
使命(ミッション)とは、かんたんに言うと「どうやって人や世のために貢献し、役立ちたいのか」ということです。
【使命の例】
- 革新的な技術力を結集し、人々のくらしを支える
- ネットの売り買いを通じて、社会を便利に変えていく
そもそも使命とは「人を行動に駆り立てるもの」であり、会社そのものの存在理由です。
ここがしっかりと定まっていないと、誰に対し、何のために経営をしているのかが伝わりません。
2.価値観(Value)
価値観(バリュー)とは、企業で大切にしていて、かつ社員の行動基準となる価値観を指します。
経営理念で定める価値観は、具体的かつ明快な内容である必要があります。
【価値観の例】
- 利益よりも正しいこと(道徳、倫理観)を優先する
- 相手に対し誠実な行動を心がける
- 感謝の気持ちを持ち続ける
- 謙虚さを持ち、学び続ける
- 物事の原理原則、本質から考える
3.未来像(Vision)
経営理念の3つめ「未来像(ビジョン)」とは、端的に言うと「将来の理想の姿」です。
一般的には“将来、自社はどうなりたい、どうありたいのか”を中長期的な目線で具体的に示したものを指します。ただし、大企業においては「事業を通じてどのように社会貢献したいか」といった、企業そのものの存在意義も含みます。
【未来像の例】
- 東京でNo.1の店を目指す
- 事業を永続的に発展させる
- 日本の○○サービスの先駆者として、社会の発展へ貢献する
経営理念を作成する際のポイント
経営理念を作成する際は、先述した
- 使命
- 価値観
- 未来像
を意識することが重要です。
ただ、それ以外にも押さえておきたいポイントがあります。
以下の4点を押さえつつ、経営理念を作成してみましょう。
経営者が作成する
経営理念は経営者の価値観や信念をあらわすものです。そのため、他の役員や部下に作らせると、自身の価値観とのズレが生じやすくなります。
必ず自身で作成し、自分の思いを込めましょう。
さまざまな企業の経営理念を読む
経営理念を決めろ、と言われてもどうすればいいかわからない……という場合は、さまざまな企業の経営理念を参考にしてみるとよいでしょう。
たとえば「経営理念ドットコム」というサイトでは、上場企業を含む多種多様な企業の経営理念を見ることができます。特に、自社と同業他社の企業の経営理念は、かなり参考になるでしょう。
他の企業がどういったことを経営理念に掲げているのかじっくりと読み、おおよそのイメージを膨らませていきましょう。
参考リンク:経営理念ドットコム
実際に紙に書いてみる
経営理念が頭の中で思い浮かんだら、紙に書き出してみましょう。
このとき「正解」を考える必要はありません。経営理念は「経営者の考えや感性、価値観」であるため、正解がないからです。
思いつくまま書いていき、追加や修正をしながら完成させていくとよいでしょう。
やりたくないこと(やらないこと)をはっきりさせ、自分の価値観を認識する
経営理念がうまくまとまらないときは、逆に「自分がやりたくない、またはやらないと決めていること」を書き出すのも効果的です。
自分の経営に対する考えに合わない考え方や行動をはっきりさせることで、心の底にある価値観が浮き彫りになり、経営理念を定めやすくなります。
実際の企業の経営理念は? 具体例を紹介
自社の経営理念を考える際には、どのような経営理念がいいのか? と悩んでしまう場合も多いかもしれません。
ここでは、実際の有名企業が掲げている経営理念をご紹介します。経営理念に込められた想いや信念を参考にしつつ、自社の経営理念とは何かを突き詰めて考えてみましょう。
ANA
ANAグループでは以下のような経営理念を掲げています。
“安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で
夢にあふれる未来に貢献します“
引用元:経営理念・ビジョン・行動指針 | ANAグループについて | ANAグループ企業情報
ANAグループでは顧客への責務として「安心と信頼」を約束するとともに、顧客に寄り添う“心の翼”をもって、永続的な社会貢献に寄与すること。ひいては、“夢のあふれる未来づくりを目指すこと”を経営理念として掲げています。
住友林業(株)
資源環境事業や木材建材事業、住宅・建築事業などを手掛ける「住友林業グループ」では、以下のような経営理念を掲げています。
“住友林業グループは、公正、信用を重視し社会を利するという「住友の事業精神」に基づき、人と地球環境にやさしい「木」を活かし、人々の生活に関するあらゆるサービスを通じて、持続可能で豊かな社会の実現に貢献します。”
引用元:経営理念 | 住友林業
住友林業グループでは、上記の経営理念と「行動指針」を社員のよりどころとして定め、公正・信用を重視し社会へ利益を生み出しています。
Amazon
最大手ECサービスや動画配信サービス等を手掛けるAmazon。
Amazonでは、以下のような大胆な経営理念を掲げて創業しました。
“Amazonは、地球上で最もお客様を大切にする企業、そして地球上で最高の雇用主となり、地球上で最も安全な職場を提供することを目指しています。”
引用元:Amazon.co.jp: 会社概要|地球上で最も豊富な品揃え
創業者のジェフ・ベゾス氏が掲げた経営理念は現在もAmazonの経営へと活かされており、常に最新・最良のカスタマー体験を提供し続けています。また、従業員の雇用先として安全な環境を提供するというのもAmazonのモットーです。現状に満足せず、常に現在より上を目指す姿勢は、見習うべきところが多いといえるでしょう。
経営理念で企業のあり方を示そう
経営者の信念や価値観を社会、および自社の従業員へ伝えるというのは、思っている以上に時間がかかるものです。しかし経営理念を掲げつつ、説明していけば、次第に浸透していきます。
経営者の価値観や会社のあるべき姿について理解が深まれば、短中期的には売上アップなどの利益増、中長期的には会社の認知向上、成長などが期待できるでしょう。
「自社の経営理念がいまいち」という方は再度見直し、経営者自身の信念が明確に反映されているか、いま一度考えてみてはいかがでしょうか。