「医療費控除」は、医療費を支払った人が利用できる所得控除です。「医療費控除をしたら還付金が返ってきた」という話もよく耳にしますが、そもそもどのような制度なのでしょうか?
ここでは医療費控除の仕組みや内容、確定申告のやり方などを解説します。職業に関わらず、知識としてぜひ知っておきましょう。
医療費控除とは?どんなメリットがある?
医療費控除とは「所得に対し1年間に支払った医療費を差し引ける制度」のことです。
そもそも控除とは、収入に対し差し引ける「経費」のようなものです。
医療費控除を利用すると、課税される所得額が減ります。
その結果、本来支払うべきだった所得税が減額され、差額分が「還付金」として返還されることがあるのです。
医療費控除の対象となる費用は?
医療費控除の対象になる「医療費」には、直接的な治療費だけでなく、医療機関へ行くために使った交通費、医療器具等の購入費用、OTC医薬品の購入費なども含まれます。
①病気やケガの診察や治療、療養などにかかった費用
……医師、歯科医師による治療・診療の費用や出産費用、レーシック手術費用など
②通院にかかった交通費
……電車、モノレール、バス、余儀なく使用したタクシーなどの利用運賃
③医療器具や医薬品にかかった購入費用
……治療・療養に必要な義手や義足、義歯、松葉づえ、補聴器、眼鏡、コルセット、おむつなどの費用
④OTC医薬品の費用
……薬局などでスイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した費用
参考リンク:No.1122 医療費控除の対象となる医療費|国税庁
注意! 医療費控除の対象外になってしまう費用とは?
医療費控除は「医療を受けるために支払った費用」を対象としています。そのため、以下のような費用は医療費控除の対象外となりますので、注意しましょう。
- 容姿を美化し、容ぼうを変えるなどの目的で行った整形手術の費用
- 健康診断、人間ドックの費用(ただし、病気が発見されて治療が必要になる場合は対象となる)
- タクシー代(電車やバスなどの公共交通機関が利用できない場合を除く)
- 自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車料金
- 治療を受けるために直接必要としない、近視、遠視のための眼鏡、補聴器等の購入費用
- 親族に支払う療養上の世話の対価
- 疾病の予防又は健康増進のために供されるものの購入費用(予防接種、サプリメント等の費用を含む)
- 親族などから人的役務の提供を受けたことに対し支払う謝礼
- 入院時の自己都合による差額ベッド代
引用元:医療費を支払ったとき|国税庁
要するに「病気やケガ、障害などの治療、治癒、療養を目的としていない費用」は対象外になるということです。
また、予防接種など「病気を予防するための費用」も対象外になります。
医療費控除では公共交通機関を利用した場合控除対象になるのですが、自家用車で医療機関を受診した場合のガソリン代、駐車料金などは対象外です。
さらに、眼鏡や補聴器の購入費用は「医師が治療に必要と判断したか否か」がポイントとなります。
たとえば弱視などの眼鏡購入費用は医療費控除の対象となりますが、近視、遠視の眼鏡は対象外のため注意しましょう。
セルフメディケーション税制とは?
セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)は、医療費控除に設けられた特例です。
以下の条件を満たしている人は、12,000円を超えて支払った費用が所得から控除されます。
- セルフメディケーション税制の対象となる医薬品を年間12,000円以上購入している
- 予防接種、健康診断など健康維持増進や疾病予防のための取り組みをしている
- 所得税・住民税を納付している
- 受診時の領収書、結果通知表を保管している
医療費を計算して10万円に満たない場合でも、セルフメディケーション税制なら適用される場合があります。
医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらかひとつしか利用できないので、状況に応じて判断しましょう。
セルフメディケーション税制の対象となる医薬品は、厚生労働省の公式サイトから確認できます。
参考リンク:セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について
医療費控除の対象者は? 計算のやり方を確認!
医療費控除の対象者は、1年間に10万円の医療費を支払った方です。
生計を一にする家族の医療費を含め、1年間に支払った医療費(生命保険金などを差し引いた額)が10万円を超える場合は医療費控除が受けられます。
年収200万円未満の方は、支払った医療費が総所得金額の5%を超えていると控除が受けられます。
控除対象者である場合は、次のやり方で控除額、還付額を計算してみましょう。
(1年間に支払った医療費の総額 - 保険金などの補てん額)- 10万円(または総所得金額の5%)
=医療費控除額(最高200万円まで)
医療費控除額× 所得税率 = 還付金額
所得税率は、収入合計から各種所得控除を差し引いたあとの「課税所得」によって異なります。
【所得税率の速算表】
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
1,000円 から 194万9,000円まで | 5% |
195万円 から 329万9,000円まで | 10% |
330万円 から 694万9,000円まで | 20% |
695万円 から 899万9,000円まで | 23% |
900万円 から 1799万9,000円まで | 33% |
1800万円 から 3999万9,000円まで | 40% |
4000万円 以上 | 45% |
たとえば、課税所得400万円の場合は所得税率20%となります。
補てん費を差し引いた医療費控除額の合計が50万円だった場合は、
医療費控除額50万円×所得税率20%=還付金額10万円
となり、10万円が還付されます。
医療費控除のやり方は? 手順や必要書類を確認!
実際に医療費控除のやり方を把握しておきましょう。
医療費控除の申請は確定申告で行う
医療費控除の申請には、確定申告をする必要があります。
自営業者はもちろんのこと、会社員やアルバイト、パート、派遣社員などでも同様です。
医療費が年間10万円を超えていたとしても、確定申告をしないと医療費控除が受けられないため、注意してください。
医療費控除の申請に必要な書類は?
医療費控除の申請に必要な書類は「確定申告書B」「医療費控除の明細書」です。
そのほかにも必要な書類がありますが、書類の種類・内容は、自営業(個人事業主)と会社員で異なっています。
必要な書類についてはあらかじめ確認しておき、不足が無いように準備しておきましょう。
※会社員は「確定申告書A」を使用していましたが、2023年1月より確定申告書Bへ統一されます。
医療費通知とは
医療費通知とは、その年に支払った医療費の合計額が記載されている書類です。
窓口で支払った医療費を計算し、合算した金額を証明する書類として、医療費控除に使用します。
毎年確定申告の時期(1~2月ごろ)に送付されてくるケースが多いですが、健康保険組合によっては「専用サイトからダウンロードする」など、発行方法が異なる場合があります。
あらかじめ確認しておきましょう。
ただし、医療費通知は必ずしも必要なものではありません。
確定申告をしたい日までに医療費通知が届かない場合や、退職等で年度の途中までしか医療費の記載がない場合は、医療費の領収書をもとに医療費控除の明細書を作成します。
また、医療費通知を提出する場合でも、通院にかかった電車代、バス代などの交通費や、医療費通知に記載されていない医療費については領収書をもとに明細書を作成することになります。
医療費の領収書は5年間保存が必要
医療費の領収書を使用する場合は、「氏名」「支払い先」ごとに仕分けし、複数ある場合は氏名・支払い先ごとに合算しておくと、書類への記入がラクになります。
医療費の領収書については、税務署への提出が不要です。
そのかわり自宅で5年間保存する必要があります。間違って捨ててしまわないように管理・保管しておきましょう。
「医療費控除の明細書」の書き方とは?
引用元:医療費控除の明細書【内訳書】|国税庁
医療費明細書の書き方は以下のとおりです。
1.住所、氏名を記入
医療費控除の明細書の上に、確定申告をする本人の「住所」「氏名」を記入します。
2.「医療費通知に記載された事項」へ記入する
医療費通知を提出する場合は、以下の3点を右上の枠内に記入します。
(2)(1)のうちその中に実際に支払った医療費の額(ア)
(3)(2)のうち生命保険や社会保険などで補てんされる金額(イ)
※医療費通知をつかわずに提出する場合は、空欄でかまいません。
医療費(医療費通知に記載された事項以外)の明細
医療費通知に書かれている費用以外にかかった医療費を申告する場合は、医療費の明細欄へ記入していきます。
医療費控除では自分自身が払った費用だけでなく、生計を一にする家族全員分の医療費も計算に含められます。
複数の支払い先がある場合は、まず1人分の医療費を支払い先ごとに分けて記入し、終わったら次の家族の支払い先ごとに記入していくとよいでしょう。
①医療を受けた方の氏名(生計を一にする家族全員分)
②病院・薬局などの支払先の名称
③医療費の区分(4種類から1つ選択)
④支払った医療費の額
⑤ ④のうち生命保険や社会保険などで補てんされる金額
①~⑤までを記入したら、
- 支払った医療費の合計額(ウ)
- 生命保険や社会保険などで補てんされる金額(エ)
それぞれの合計額を計算します。
(エ)については生命保険金、社会保険の高額療養費、出産一時金などが当てはまります。
医療費の合計を計算する
ここまで記入した金額を左下の欄に記入していきます。
B:保険金などで補てんされる金額……(イ)+(エ)
C:AからBを引いた金額
D:所得金額の合計額(確定申告書第一表の「所得金額等」の合計欄金額)
E:D×0.05(赤字の場合は0円)
F:Eと10万円のいずれか少ない方の金額
G:医療費控除額(C-E)
Gの医療費控除額は、確定申告書第一表の「所得から差し引かれる金額」、医療費控除欄へ記入しておきましょう。
なお、医療費通知書を使用する場合は「医療費控除の明細書の記載要領」の右側に貼り、明細書とともに提出します。
引用元:医療費控除の明細書【内訳書】|国税庁
確定申告完了~還付金の振り込み
すべての書類を作成し終わったら、確定申告を済ませます。
なお、医療費控除の明細書をはじめとする「確定申告書類」は、国税庁e-Taxの公式サイトや、会計ソフトでも作成できます。
より手軽に確定申告ができるので、活用してみてください。
参考リンク:【確定申告書等作成コーナー】-作成コーナートップ
確定申告を無事終えたら、1~1ヶ月半程度で還付金が振り込まれます。
医療費を支払った人は医療費控除を活用しよう!
医療費控除は、医療費を支払った人ならだれでも利用できる所得控除です。
利用すれば節税できる可能性も高いため、年間の医療費の合計額が10万円を超える場合は、確定申告で医療費控除を受けるようにしましょう。