ビジネス文書で登場機会の多い「御中」。主に宛名書きの際に使いますが、実は請求書や領収書といった伝票類にも使われているのをご存じでしょうか?
ここでは、ビジネス文書で使い方を迷いやすい「御中」について解説。さらに、御中と併用できる敬称の「気付」の使い方例もご紹介します。それぞれを理解し、さらりと使いこなせるようになりましょう!
そもそも「御中」とはいつ使うもの?
相手を敬う際には「○○様」というふうに“敬称”を使います。
相手を尊敬する「御」という漢字を含んでいる御中は、この敬称のひとつ。
会社・グループ・組織・団体などに対し使用する言葉です。
そして御中の「中」には「~~の中のどなたか」という意味が込められており、2つを合わせると
「会社や組織の中のどなた様かへ」
という意味の言葉となります。
なお、御中は口語(会話)でのやり取りには使われず、あくまでも文字でのやり取りに使われる言葉です。話し言葉に織り交ぜると違和感を覚えやすいので、会話の際は「御社(おんしゃ)」という言い換えをします。
迷いがちな「請求書」「領収書」での御中の使い方
御中を使うシーンをイメージした場合、はがきや封書などの手紙のやり取りを思い浮かべる方も多いでしょう。
また、近年はメールやチャットメッセージ等でも御中を用いるケースがあります。
ご存じかもしれませんが、かんたんに御中の使い方をおさらいしてみましょう。
- 会社名や部署名の後に「御中」をつける
- 担当者が差し出し先の場合は「ご担当者様」
- 個人名が分かる場合は「個人名+様」を使い、御中は併用しない
- 返信用封筒など、すでに宛先が書かれている場合は「○○行」を二重線で消して御中を書き加える
(手紙やメールでのやりとりにおける「御中」の使い方に関して、くわしくはこちらのコラムで解説しています)
とはいえ、ビジネスパーソンの中には「手紙のやりとりでの『御中』は使いこなせるが、請求書や領収書を送る場合にはどうすればいいか迷ってしまう……」という方も少なくないようです。
そこで本項では、請求書や領収書内での「御中」の使い方をご紹介します。
請求書における「御中」の使い方
商品やサービス等を取引したあと、金銭を請求する際に「請求書」を発行します。
請求書を送付する際には「宛名」が必要です。
通常の手紙と同じく、請求書内にも正しい宛名を記載しましょう。
たとえば「株式会社レゾナンス」という会社があった場合、「レゾナンス(株)」などの表記はNGです。
前株か後株かも明確に記載し、相手方に失礼が無いようにしましょう。これはもちろん、部署名や個人名宛に請求書を発行する場合も同じです。
「御中」は、正しい会社名を記載したうえで使用します。
- 株式会社レゾナンス 御中
- 株式会社レゾナンス 経理部 御中
なお手紙と同じく、宛先となる個人名が分かっている場合は「個人宛て」に請求書を発行します。
この場合の宛名は「株式会社レゾナンス 経理部 ○○様」となり、御中は使いませんので要注意です。
「株式会社レゾナンス 経理部 御中 ○○様」のように、御中と様を併用してしまうと、かえって失礼にあたりますので気をつけましょう。
領収書における「御中」の使い方
御中の使い方のルールは、領収書を発行する際でも変わりません。
会社や組織、部署の誰か宛て(担当者の個人名が分からない場合)に領収書を発行する場合に「御中」を使います。
- 株式会社レゾナンス 御中
- 株式会社レゾナンス 営業部 御中
領収書も手紙や請求書と同じく、正式名称で記載をしましょう。
個人宛てに領収書を発行する場合は、請求書と同じで「様」を使います。
- 株式会社レゾナンス 営業部 △△様
- ○○屋 △△ △△ 様
企業の部署内の担当者はもちろん、個人事業主が相手の場合も「様」を使うと覚えておきましょう。
余談ですが、領収書では「上様」を極力使用しないようにしましょう。
一見すると「相手を敬っている」と思われがちですが、上様で切った領収書ばかりを発行していると、税務調査で領収書の不正発行を疑われてしまうからです。
原則として正式名称を記入し、交付相手に応じて「御中」「様」を使い分けましょう。
御中と併用されやすい「気付(きづけ、きつけ)」とは?
個人宛に使う「様」は御中との併用ができませんが、御中と併用できる敬称があります。
それが「気付」です。きづけ、きつけとも呼ばれます。御中に比べると、目にする頻度は少ないかもしれません。
気付には「相手の注意を促し、気付いてもらう」「立ち寄り先の住所に送ったので、本人に渡してほしい」という2つの意味が込められています。
よって、宛先下に「気付」と書かれていた場合、「本人がそこへ立ち寄るので注意してほしい」「立ち寄ったら本人へ確実に渡してほしいので、どうぞお願いします」という意味が込められているのです。
実際には、ホテルや病院、出張先の会社などへ文書を送付する際に「気付」を使うケースがほとんどです。
何となく書かれている敬称にも、こうした意味が込められています。あまり使う機会はないかもしれませんが、知識として知っておくと役立つときがくるでしょう。
御中と気付はどう使う? 両方書くときの使い方
「様」と「御中」はそれぞれ「相手に対し使う敬称」であり、両方を併用することはできません。
一方、「気付」と「御中」については、併用ができます。気付は「場所」に対し使う言葉であり、組織やその中の誰かに対し使う「御中」と意味が重複しないためです。
ここでは、聞きなれない「気付」の使い方や、御中と合わせて使う際のポイントを解説します。
気付は「立ち寄り先」に対し使う
先述のとおり、気付は「立ち寄り先」に対し使います。
×:山田太郎気付
個人名のうしろに「気付」をつけることはないので注意しましょう。
気付の後には「様」「御中」のいずれかが入る
気付を使う際には、会社や組織、部署、個人名などを添えて“誰に宛てた文書なのか”を示します。
そのため「○○様」「□□部御中」というふうに、気付の後には必ず様か御中を書き添えるのがルールです。
- XXホテルフロント係気付 山田太郎様
- △△病院 形成外科501号室気付 鈴木一郎様
- ○○オフィスビル気付 ■■株式会社御中
- 結婚式場○○気付 田中三郎・花子様
ちなみに、気付と御中はそれぞれ「場所」「相手」へ分けて使うのがルール。
「XXホテルフロント係御中気付」「△△病院 形成外科501号室 鈴木一郎様気付」というふうには使わないので、間違えないようにしましょう。
気付を使う際の注意点
便利な「気付」ですが、使用時にはいくつかの注意点があります。
本人が誰かの家に居候している場合は「○○様方△△様」を使う
気付はあくまでも「立ち寄り先」や「一時的な居所」に対し使うものです。
ただし、送付相手が誰かの家に居候している場合は、気付ではなく「様方」を使います。
東京都港区浜松町○丁目○-○ 田中様方
吉田健太様
様方をつかうことで「○○様のご自宅にいる□□様」という意味になり、それぞれに配慮した尊敬表現となります。気付を使うと失礼にあたりますので、注意しましょう。
返信用封筒に書かれた気付は消さなくてよい
返信用封筒や返信ハガキを送るルールとして、「~~行の『行』を二重線で消し、様や御中へ書き換える」という決まりがあります。
一方、返信用封筒へ「○○事務局気付 △△太郎行」と書かれていた場合。この場合はわざわざ「気付」を消す必要はなく、そのままにしておくのがルールです。宛名の氏名の後ろにある「行」のみを二重線で消し、「様」を書き添えましょう。会社や団体などの場合は「御中」を使います。
なお、一時的な場所にいる相手に対して自身が返信用封筒を同封する場合は、「○○事務局気付 □□五郎行」と書きます。
気付を書いたあとは改行するのがベスト
気付を使う場合は、個人名や会社名、団体名を書く前にいったん改行しましょう。
○○ホテルフロント係気付
山田 太郎様
改行することで、立ち寄り先と相手の宛名が区別しやすくなります。
受け取った人に伝わりやすい宛名書きを心がけることで、トラブル防止にもつながるでしょう。
英語圏へ送る文書で「気付」に準ずる表現はある?
英語圏へ送る文書で気付を使いたい場合は、「c/o(in care of)」という表現をします。
例えばニューヨークの病院に入院している人へ文書を送る場合、「Mr. Yoichi Tanaka 4 ○○, New York City c/o ○○Hospital」というふうに表記します。日本国内へ送る場合とは名前や住所の順序が異なるため、注意しましょう。
御中や気付の使い方をマスターし、相手に好印象を残そう
ビジネスにおいて「御中」はとても使用頻度の高い尊敬表現であり、さまざまなシーンで活用できます。手紙やはがきなどの文書はもちろん、請求書、領収書においても正しい「御中」の使い方を意識しましょう。
また、相手が立ち寄ったり一時的に滞在したりしている場所へ文書を送る場合は「気付」を使うと便利ですね。
御中、様、気付などの敬称の使い方を理解し、スマートに使いこなせるようになりましょう。