社会全体で「ペーパーレス化」が進みつつある今、実際の印鑑に代わって「電子印」の導入を検討する企業が増えています。電子印を導入した場合どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
ここでは、電子印の特徴や法的効力、メリット・デメリットをご紹介します。電子印の作成方法についても解説しているので、これから導入を検討されている方はぜひご覧ください。
電子印(電子印鑑、デジタルハンコ)とは?
電子印とは、読んで字のごとく「電子データ上で使える印鑑」を指します。
一般的な印鑑は「物理的な印鑑を朱肉につけ、紙に押印する」という仕組みです。しかし、電子データに物理的な印鑑を直接捺印することはできません。
いっぽう電子印ならば、電子データ上に画像を乗せることで“捺印”ができます。
電子印の種類
電子印の種類は、実際の印鑑と変わりません。
認印、実印、銀行印
【会社の印鑑】
- 会社の代表者印(会社実印、法人実印)
- 会社銀行印
- 角印(社印)
- 個人印
- 日付スタンプ
- 承認印
- 領収印
- 訂正印
電子印ではこれらすべてを作成できますので、覚えておきましょう。
実際の印鑑と電子印とではワークフローも変わる?
実際の印鑑に比べると、電子印は手間や時間の節約ができます。
- 書類の印刷やコピー
- 担当者印を捺印し、上司へ回覧・押印
- 承認後、最終決裁者によるチェック、押印
- 担当者へ返却され、保存・送付などの対応へ
【電子印のワークフロー】
- 電子データへ担当者の電子印を押印
- インターネットから上司、決裁者による承認
- インターネット経由で担当者が送信(または保管)
実際の印鑑では「プリントアウト」「書類を渡す作業」「承認待ちの時間」といった手間や時間がかかります。
特に承認については、紙の場合“物理的な書類が手元にないとできない”という性質もあるでしょう。
一方、電子データと電子印を使っていれば、書類への押印、回覧、承認作業がインターネット上で完結します。
承認者が社外にいる場合でもネット経由で確認・送信ができるため、承認までの手間や時間を大幅に削減できるのです。
電子印には法的効力がある?
公的書類に対する印鑑には、法的効力を持つものがあります。
たとえば法人登記の際の代表者印などはその最たる例といえるでしょう。
一方、公的書類において電子印が法的効力を持つには、以下の条件を満たす必要があります。
- 電子証明書を発行したうえで「電子署名」が付与されている
- タイムスタンプにより、文書の存在性、非改ざんが担保されている
電子署名とタイムスタンプが付与された電子印ならば、実際の印鑑(代表者印)と同じ効力を持てると考えてよいでしょう。
なお、公的書類においては法的効力を持つために条件が設けられていますが、それ以外の「会社同士の契約書に押す印鑑」「請求書に押す印鑑」などについては特に規定はありません。
そもそも公的書類以外の印鑑は「確認や承認の証明として押すもの」であり、電子署名やタイムスタンプが必須ではないからです。「法律的に電子印だからダメ」ということはありませんので、安心してください。
電子印導入のメリット・デメリットは?
電子印の特徴や種類、法的効力について学んだところで、次は電子印を導入した場合のメリット・デメリットについて見ていきましょう。
電子印導入のメリット
電子印導入のメリットは以下のとおりです。
- ワークフローが簡略化され、業務効率アップにつながる
- 紙やインクの使用量が減り、コストカット&環境資源の節約になる
- 使い方がかんたんで導入しやすい
それぞれくわしく見ていきましょう。
ワークフローが簡略化され、業務効率アップにつながる
電子印の最大のメリットは、業務効率化につながることです。
実際の印鑑を使用する場合、印刷→書類の受け渡し→承認→捺印→確認→書類の送付、というふうに多くの工程が必要になります。工程が多くなるほど時間も手間もかかりますし、情報漏洩リスクも生じやすくなるでしょう。
また電子データが送られてきて捺印が必要なときに電子印がないと、電子データの印刷→捺印→スキャニングによるデータ化→送信……というふうに、余計な手間も生じます。
電子データによるやりとりが推進されつつある今、電子印を導入することで最短の工数で済むようになります。
業務のムダがなくなれば、これまで書類のやり取りに費やしていた時間を別の業務へと充てられるようにもなるでしょう。
紙やインクの使用量が減り、コストカット&環境資源の節約になる
電子印を導入すると、ペーパーレス化に対応できるようになります。
これにより紙やインクの使用量が減るため、経費削減につながるのです。
また紙やインクの使用量が減れば、環境負荷の削減にもつながります。
「SDGs」の考えが浸透しつつある今、電子印の導入、およびペーパーレス化に取り組むことで、“環境について真摯に取り組む企業”という印象を与えられるのは大きなメリットだといえます。
使い方がかんたんで導入しやすい
電子印は作成も捺印もかんたんなので、専門知識のない人でも使えます。
導入のハードル自体が低く、取り入れようとすればいつでも導入できるため、利用しやすいのは大きなメリットだといえるでしょう。
電子印導入のデメリット
電子印にはデメリットもあります。
- セキュリティの問題がある
- 識別情報ありの電子印の場合、受け取る側のOSによっては表示できない場合もある
- 利用範囲の制限が生じることもある
セキュリティの問題がある
電子印には「誰でもかんたんに作成・捺印ができる」というメリットがありますが、その一方で「セキュリティの問題」もあります。実際の印鑑と違って印影画像データを複製することも容易であり、単純な認印であれば企業以外の第三者が捏造することもできてしまうのです。
こうしたセキュリティ面が不安な場合は、有料の電子印サービスを利用し、識別情報を付与する必要があります。そのためにはコストもかかりますし、後述する「表示の問題」もかかわってくる点に注意しましょう。
識別情報ありの電子印の場合、受け取る側のOSによっては表示できない場合もある
有料サービスを使って識別情報ありの電子印を使用する場合に注意したいのが、電子書類を受け取る側の環境です。
電子書類を受け取る側の環境が識別情報のデータ表示に対応できない場合、電子印が正しく表示されません。
この場合は識別情報なしの画像データを使ったり、紙ベースかつ実際の印鑑でのやり取りが必要になったりします。
電子印を導入する際は、取引先が電子データでの書類のやり取りに対応しているか、また電子印が正しく表示できる環境かをしっかりと確認しておくことが重要でしょう。
利用範囲の制限が生じることもある
電子印に対するイメージは企業によってさまざまです。中には、「電子印=信用性に欠ける」と判断する企業もあるでしょう。仮に自社が電子印を利用したくとも、取引先が紙ベースでのやり取りを所望しているのであれば、電子印の利用ができない可能性もあります。
現在は実際の印鑑から電子印へ移行する“過渡期”です。時には実際の印鑑と使い分けなければいけないという点も知ったうえで導入を検討するとよいでしょう。
電子印を作成するにはどうすればいい?
電子印を作成するには、以下のような方法があります。
- PCで電子印の画像を作成して保存しておく
- 実際の印鑑の印影をスキャンし、画像として保存する
- 有料の電子印作成サービスを利用する
それぞれの方法、メリット等を見ていきましょう。
PCで電子印の画像を作成して保存しておく
電子印の作成方法ひとつめは、WordやExcel、画像編集ソフトなどを使用して「印影の画像」をつくる方法です。
たとえばExcelでは、図形ツールとテキストボックスを利用すると印影を作成できます。
①「挿入」→「図形」→「楕円」を選択
②Shiftキーを押しながら正円を描画
③枠線の色を朱色に変更
④描いた円を右クリック→「塗りつぶし」を塗りつぶしなしに変更
⑤「挿入」→「図形」→「テキスト」→「テキストボックス」を選択
⑥円の中にテキストボックスを作成
⑦テキストボックスを右クリック→「図形の書式設定」を選択
⑧「文字のオプション」→「テキストボックス」→「文字列の方向」を縦書きに変更
⑨テキストボックス内に文字を入力、大きさと色。フォントを変更
⑩図形を選択→右クリック→「図として保存」を選択、PNG形式で画像保存する
文字にすると少し手間がかかるように思えますが、実際にやってみると簡単に作成できます。
またPNG形式で保存すれば背景を透過できるため、実際の印鑑と同じ感覚で使えます。
外枠の図形の形を変えれば、認印だけでなく角印、細長い訂正印なども作れるので、試してみてください。
実際の印鑑の印影をスキャンし、画像として保存する
電子印の作成方法2つめは。実際の印鑑の印影をスキャンする方法です。
①紙に実際の印鑑を捺印する
②捺印済みの紙をスキャンし、画像として取り込む
③電子印として保存する
実際の印影をスキャンすることで、Excelなどを使って作成するよりも独自性の高い電子印に仕上がります。
特殊なデザインの印鑑を電子化したい場合にも有効でしょう。
ただし、スキャンしただけでは識別情報は付与されていない点には要注意です。
有料の電子印作成サービスを利用する
3つめは、有料の電子印作成サービスを活用する方法です。
有料の電子印作成サービスを利用すると、識別情報(シリアル番号)つきの電子印が入手可能です。これにより同じものを複製することは難しく、セキュリティ性の高い電子印が得られます。
公的な文書や正式書類に使用する場合は、識別情報ありの電子印(かつ電子署名が付与されている)のみ有効とされています。将来的に電子データによる公的な申請・提出等をしたいと考えているのなら、有料の電子印作成サービスを利用すると安心です。
また電子印作成サービスには、「いつ、だれが、どの書類に押したのか」を確認・回覧できるものもあります。
セキュリティ面を重視するならば、ベストな選択肢だといえるでしょう。