ビジネスシーンやプライベートでは「何か決まり事を約束する」というシーンが多々あります。このような場面で用いられるのが「誓約書」です。
ここでは、誓約書の概要や法的効力、書き方のポイントをご紹介します。注意点や似た書面(契約書など)との違いについても解説しているので、ぜひご覧ください。
誓約書とは?どのようなときに用いられる書類?
誓約書は「誓って、約束する」という文字どおり、“個人・法人に向けて守らなくてはならない約束事”を明記した書類です。
具体的には誓約(約束)する者の「書面に書かれた約束を守ります」という一方的な意思表示を記した書類であり、誓約する者の署名、押印がなされて初めて「誓約した」とみなされます。
誓約書はさまざまなシーンで用いられており、
- 業務に関して情報漏洩を禁止する「秘密保持義務」の誓約書
- 競合他社へ転職、および内部機密の伝達を禁止する「競業避止義務」の誓約書
- 個人間でのお金の貸し借りに対し、期限までに返済するという誓約書(借用書)
- 離婚時の取り決め(慰謝料や養育費の支払い)に対する意思表示を念押しする誓約書
などの事例が多く見られます。
ビジネスシーンでは秘密保持義務、競業避止義務の2つに関する誓約書を、契約時、入社時、退職時に書いてもらう形が多いでしょう。
誓約書の法的効力は?
誓約書には、法的効力が生じます。
これは当事者間で締結した約束が記載されており、「契約と同じレベルの法的効力がある」とみなされるためです。誓約書へ同意した側は、誓約書に明記された内容を守らなくてはなりません。
ただし、誓約書の内容が公序良俗に反するようなものであった場合は、誓約自体が無効となります。
当然ながら、この場合は法的効力も生じません。
また誓約書が無意識な誤り(錯誤)によって作成された場合、差し入れた側の強迫、詐欺による誓約書である場合も無効になります。この場合、受け取った側は合意を取り消すことができます。
労基法違反などがある場合(残業代を請求しない旨を約束させるような誓約書など)、行き過ぎた競業避止義務(職業選択の自由を認めないような内容)の誓約書も無効、または取り消しになります。
誓約書の書き方のポイントは?
誓約書を作る側(差し入れる側)は、どのような点を押さえておけばよいでしょうか。
必要な記載項目を明記する
まず押さえておきたいのが「記載項目」です。
誓約書には以下の5つの項目を必ず記載しましょう。
- 誓約者の氏名、住所、所属先と押印
- 作成日:誓約した年月日
- 事実関係:誓約書作成の理由や目的、トラブルが起こった原因
- 誓約内容:誓約者が背負う責任、守らなくてはならない約束事を条文(または箇条書き)で記載
- 罰則:誓約内容に違反したとき、どのような罰則があるかを記載する
住所や所属先はあらかじめ入力しておき、氏名と押印を誓約者に記入してもらうケースが多いでしょう。
また誓約内容については、条文(第○条、第○条のような形式)や箇条書きで記載します。
内容が少ない場合は箇条書き、1つの場合はそのまま文章として記載してかまいません。
そのほか、仮に誓約内容へ違反した場合にどのような罰則があるのか、といったことも必ず明記しておきましょう。
罰則がない誓約書は意味をなさなくなるので、「違反したら法的責任を負担し、被害を賠償する」「違反した場合は保証が受けられない」のような旨を記します。
テンプレートや経済産業省の様式を活用する
近年では誓約書用のテンプレートを使用し、誓約書を作成するケースが多いです。
インターネットで検索すると無料で利用できる事例ごとの誓約書テンプレートが見つかります。
テンプレートで土台を作ってから、誓約内容に沿った内容へ変更するとよいでしょう。
また、経済産業省では誓約書の参考例を公開しています。
特に秘密保持誓約書の参考例は、
- 従業員の入社時
- プロジェクト参加時
- 退職時
- 他社の従業員に自社の工場を見学させるとき
というふうにシチュエーション別で公開されており、大変参考になります。
誓約書の内容に迷ったら、参考にしつつ自社に合った内容へ作り変えてみてください。
参考リンク:各種契約書等の参考例|経済産業省
法令違反を防ぎたい場合はリーガルチェックを依頼するのも手
「誓約書を作成したものの、法令違反に当たらないか」「詐欺や強迫にあたる強制的な文言ではないか」と心配な場合は、弁護士へリーガルチェックを依頼するとよいでしょう。
法の専門家にチェックしてもらうことで、強行法規への抵触、および誓約の無効化を予防できます。
法令違反や詐欺、強迫といった行為に抵触した場合、誓約そのものが無効になるだけでなく、会社・事業へのイメージダウンにもつながりかねません。
不安な場合は必ずリーガルチェックを通すことをおすすめします。
誓約書を作成するときの注意点は?
先述のとおり、誓約書を作成する際は「公序良俗に反する内容」「詐欺や強迫する内容」を避けなくてはなりません。誓約が無効になるためです。また、労働基準法の法令違反になっていないか、といった点も重要でしょう。
その他の注意点としては、以下が挙げられます。
- 5W1Hを意識し、明確な文言で誓約書を作成する
- 誓約者の記名押印忘れに注意
それぞれ解説します。
5W1Hを意識し、明確な文言で誓約書を作成する
誓約書を作成する際は、誰が読んでも内容が理解できる明確な文言を使いましょう。
解釈次第でどうとでも取れる抽象的な内容の誓約書を作成してしまうと、万が一トラブルが発生した場合に裁判で損害賠償請求ができなくなる可能性があります。
誓約書を作成する場合は、5W1Hを意識して文言を考えることが重要です。
- Who:誰が/誰に対して義務を履行するのか
- When:義務を履行する時期や期間
- Where:義務の履行場所
- what:何の義務を履行するか
- why:なぜ義務が発生するのか、その根拠
- how:義務をどうやって履行するか、その方法
これらを意識すれば、客観的に見て責任の時期や範囲、内容がわかりやすくなります。
たとえば秘密保持情報であれば、会社のデータや内部事情、技術、知識、業務に関することなど、具体的に定義して誓約書に記載しておきましょう。
細かく定義して記載すれば、「誓約書に書いてなかったので他社に漏らしても問題ないと思った」などの言い逃れを防げます。
誓約者の記名押印忘れに注意
誓約書は「約束を守ります」というのを誓うための書類です。
しかし誓約者が書面に記名押印をしていないと、「約束の内容に同意した」とみなされず、法的効力が生まれません。
誓約書を渡す相手には、ただ渡すだけではなく、記名・押印のうえ、提出が必要な旨をはっきりと伝えましょう。
誓約書を提出してもらったらコピーを取っておく
誓約書が誓約者から提出されたら、コピーを取っておきましょう。
コピーを取って保管しておけば、内容の改ざんが行われた場合に「改ざんされた」という証拠を示せます。
逆に、こちらが誓約者になる場合も、記入後にすぐコピーを取っておくと安心です。
誓約書と似ている「契約書」「念書」はどう違う?
誓約書と似た書類に「契約書」「念書」「覚書」などがあります。
これらはどのような違いがあるのでしょうか。
契約書との違い
誓約書は「署名をした者のみが約束を誓う書類」であるのに対し、契約書は「契約内容に双方の合意があること」を示す書類という違いがあります。
誓約書と同じく法的効力が生じ、片方だけでなく、双方が何らかの責任・義務を負うケースも多いです。
- 誓約する側のみが書いてある内容の義務を負う
- 誓約書を発行した側(作成側)は内容に拘束されない
- 誓約する側のみが署名、押印する
- 当事者の双方が合意し、拘束される
- 当事者の双方が署名、押印をする
ただし誓約書であっても双方の署名、押印をした場合は、法律的に「契約書」としての効力が発生します。
また企業によっては、契約書内に誓約に関する文言を盛り込み、「契約書兼誓約書」として発行することもあります。
念書との違い
念書も誓約書と同じく、約束事を記載し、同意を得るための書類です。
誓約書に比べるとプライベートシーンで発行されることが多いですが、法的効力はほぼ同じであり、内容も誓約書とほとんど同じです。
覚書との違い
覚書は、契約前の合意事項、および契約書の内容を変更するときに発行する書面です。
契約書と同じく、当事者の双方が合意をし、双方の署名・押印を加えて作成します。
よって契約書と同等の法的効果があり、誓約書とは異なるものと考えてよいでしょう。
ビジネスを始める際は誓約書の書き方を理解しておこう
誓約書は人材雇用やプロジェクトスタート時などに用いられることが多く、ビジネスの場では作成する機会も多くなります。あらかじめ誓約書の書き方を把握しておくと、作成もスムーズになるでしょう。
また有効な誓約書を作るには、法的効力や無効化の条件などを把握することも重要です。
本記事を参考にしていただき、いま一度「誓約書」の意味、法的効力などを理解しておきましょう。