会社を経営していると、本店を移転したり、事業内容の大幅な変更をしたりする場合も珍しくありません。こうした重要事項の変更については「定款変更」が必要になります。また、内容によっては登記事項の変更もしなくてはなりません。
ここでは定款変更が必要になるケースや、手続きの流れ、必要書類、費用を解説します。
定款変更とは?必要になるケースは?
定款は“会社のルールブック”ともいえる書面で、会社を設立する際に必要になる重要なものです。特に株式会社では、公証役場で定款の認証を受けることが法人設立登記の条件となっています。(合同会社の場合は認証こそ不要ですが、定款の作成・保管が必要です)。
定款の記載事項についておさらい
定款には大まかに分けて「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つの事項が記載されています。
絶対的記載事項
絶対的記載事項は、定款に必ず記載しなければならない事項です。
- 事業目的
- 商号
- 本店所在地
- 資本金額
- 発起人の氏名または名称、および住所
上記の5つは、記載漏れがあると定款自体が無効とされる項目です。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、「記載しないと効力が生まれない事項」です。
- 単元株式数
- 株式の譲渡制限
- 取締役会や監査役の設置
- 存続期間または解散の事由
- 公告方法 など
任意的記載事項
任意的記載事項は絶対的記載事項、相対的記載事項以外の事項です。
「記載がなくとも法的な問題はないが、記載しておきたいこと」がこれにあたります。
- 株主総会開催規定
- 役員報酬の規定
- 配当金に関する規定 など
定款変更が必要になるケース
事業目的を変更したり、会社の本店を移転したりしたいときには「定款変更」を行わなくてはなりません。
この場合定款変更を行うことで、新たな事業を展開したり、別のオフィスで事業を継続したりできるようになります。
代表的な定款変更については、以下の3ケースがあります。
事業目的の変更
会社を設立する際の定款には、「自社がどのような事業を手掛けるのか」を記載する必要があります。いわゆる「事業目的」です。
設立登記時点での事業目的は何個でも記載できますが、あとから事業目的を追加したい場合、事業範囲を変更したい場合などには、定款変更が必要になります。
また事業目的は定款における「絶対的記載事項」ですので、法務局への変更登記も必要です。
本店所在地の変更
本店オフィスを移転する場合などには、定款においても本店所在地の変更をしなくてはなりません。
本店所在地も「絶対的記載事項」のひとつであり、定款変更と合わせて変更登記を行います。
また本店所在地の変更登記をする場合は、新旧2カ所の法務局で手続きが必要です。
役員の変更
定款に記載している役員数に対して減少や増加をする場合や、役員任期の短縮・延長などを行う場合には、定款変更が必要です。また、事業目的・本店所在地変更と同じく、法務局での変更登記も必須です。
ただし、定款内の記載事項に則って行われる取締役、監査役の変更については、定款変更が不要とされています。
定款変更に加え「変更登記」が必要な場合も
定款変更が必要になる3つのケース内でも触れましたが、定款変更と合わせて「変更登記」が必要になるケースがあります。登記申請先は、「設立登記」と同じく法務局です。
また後述しますが、変更登記をする際には登録免許税がかかります。
ちなみに、決算月の変更については、変更登記は要りません。
決算月を変更したい場合は税務署に「異動届出書」を提出すればOKです。
定款変更の流れは4ステップ!
定款変更は次の4ステップで進めていきます。
- 株主総会を開催、特別決議を行う
- 株主総会の議事録作成
- 変更登記申請
- 定款と株主総会議事録を保管する
1.株主総会を開催、特別決議を行う
株式会社の場合、定款変更をするには株主総会を開催しなくてはなりません。
このとき、通常の決議ではなく『特別決議』が必要になります。
特別決議とは、過半数の株主が出席、かつ出席株主の3分の2以上が賛成する決議のことです。
定款の変更は、いわば“会社の憲法”を変えるのに等しい行為です。よって、厳格な決議をもって手続きを行わねばなりません。社長などが独断で定款変更、およびその手続きをすることはできませんので注意しましょう。
2.株主総会の議事録作成
株主総会で特別決議を行った後は、議事録を作成します。
議事録には以下を記載しましょう。
- 開催日時、場所
- 議事の経過状況と結果
- 株主からの意見
- 出席した取締役、議長、議事録作成者の氏名
3.変更登記申請
変更登記が必要な定款変更においては、法務局で変更登記申請を行います。
株主総会で特別決議を行ってから2週間以内に手続きをしましょう。
4.定款と株主総会議事録を保管する
手続きが終わったら、原始定款(最初の定款)、現行定款(変更後の定款)、株主総会議事録を保管しましょう。
現行定款については、設立登記のような「公証人の認証」が要りません。
株主総会議事録には保管期間が定められています。本店では10年間、支店では5年間保管しなくてはならないので、ファイリングするなどして正しく管理をしましょう。
定款変更の必要書類は?
定款変更の際には以下の必要書類を準備しましょう。
- 目的変更登記申請書
- 株主総会議事録(株主リスト添付)、または取締役会議事録
- 本店移転登記申請書
- 株主総会議事録(または取締役会議事録)
- 役員変更登記申請書
- 株主総会議事録(または取締役会議事録)
株主総会議事録、取締役会議事録については、変更内容についての決議が記録されていなければなりません。
これら必要書類を揃えたら、登録免許税を添えて法務局へ提出し、変更登記を行います。
定款変更にかかる費用は?
定款変更にはさまざまな費用がかかります。中でも金額が大きいのは「登録免許税」と「司法書士報酬」です。
登録免許税
変更登記が必要な定款変更では、登録免許税を法務局へ納めることになります。
中小企業(資本金1億円以下)が役員変更をする場合は10,000円、それ以外の変更登記では1回につき30,000円の登録免許税がかかります。
ここで注意したいのが、管轄外の住所へ本店所在地を変更したい場合です。
移転先の法務局が変わる(管轄外になる)場合、現住所の管轄法務局、新住所の管轄法務局の2つで変更登記が必要になります。よって、登録免許税も30,000円×2ヵ所=60,000円がかかることになるのです。
また、事業目的と本店所在地など、異なる事項をまとめて変更登記する場合も、それぞれ1件ずつに登録免許税がかかります。
司法書士報酬
定款変更を司法書士へ依頼した場合、平均30,000円前後の報酬を支払うことになります。
内容によっては追加報酬が必要になることもあるため、あらかじめ見積もりを作成してもらい、事前確認をしておきましょう。
その他の諸費用
定款変更では以下のような費用も発生します。
- 謄本の取り寄せ(350円~)
- 郵送料
- 打ち合わせの交通費
- その他発生する実費
ひとつひとつの金額は大きくありませんが、かかった費用についてはきっちりと記録しておきましょう。
定款変更の注意点
定款変更の際には、いくつかの注意点があります。
- 原始定款(設立時の定款)を直接変更するのは禁じられている
- 登記申請期限を超えてしまった場合、罰金が課せられる可能性がある
それぞれくわしく見ていきましょう。
原始定款(設立時の定款)を直接変更するのは禁じられている
会社設立時に作成・認証を受けた定款は「原始定款」と呼ばれます。
この原始定款は変更することができないため、定款変更の際には新たな定款を追加する形で手続きを行います。
つまり、原始定款と新たな定款の両方を保管する形式ということです。書き換えるのではなく、古いバージョンと新しいバージョンが履歴として分かるように追加していくイメージですね。
なお、再度定款変更を行う場合も、新たな定款を別紙として追加します。
登記申請期限を超えてしまった場合、罰金が課せられる可能性がある
事業目的の変更や本店所在地の移転など、登記申請が必要な定款変更については、変更が生じてから2週間以内に変更登記を行う必要があります。
実はこの期間を過ぎて変更登記を行わなかった場合、裁判所から100万円以下の罰金命令が下されることがあるのです。定款の変更登記が必要な場合は、なるべく速やかに手続きを行いましょう。
定款変更に必要なステップ・書類・費用を理解しておこう
定款変更には株主総会の特別決議が必要なうえ、内容によっては変更登記が必要な場合もあります。
こうした事情から定款変更の完了までにはある程度の時間がかかるため、早め早めに進めていくことが大切です。
また、変更内容に応じて「必要書類」が変わる点や、変更登記の登録免許税、司法書士に依頼する場合はその報酬などの「費用」もかかります。
定款変更をスムーズに進めたい方は、どのような手順でどんな書類、費用が必要なのかについてもしっかり把握しておきましょう。