会社の経営陣の要ともいえる「取締役」。そもそも取締役とはどのような人物・役職で、どんな役割を持つポストなのでしょうか。
ここでは取締役の役割や社長との違い、仕事内容を解説。取締役が果たすべき責任範囲や、選任の要件、取締役に必要なスキル等についてもご紹介します。
取締役とはどのような人物?
取締役とは、会社運営の意志決定、および監督を行う役員です。
おもな役割は以下の4つとなっています。
- 決定:企業の方向性を決める
- 執行:決定事項を指示し、実行する
- 監督:業務などの執行がスムーズに行われていることを確認する
- 監査:不祥事を阻止するため監視する
会社法第348条では、以下のように定義しています。
第三百四十八条 取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する。
2 取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。
引用元:会社法 | e-Gov法令検索
任期は原則2年、会社設立時は1名~3名以上の取締役が必要
株式会社の設立においては1名以上(取締役会を設置した場合は3名以上)の取締役を置かなくてはなりません。
また取締役の任期は原則2年間、監査役の場合は4年ですが、非公開会社(株式譲渡制限会社)にすると最長で10年まで延長できます。
取締役の選任・解任には株主総会での決議が必要
取締役を選任するには、株主総会による決議が必要です。また解任を行う場合も、同様に株主総会で決議を行います。選任や解任の決議後は法務局で登記を行わなくてはならないため、忘れないようにしましょう。
取締役は「雇用」ではなく「委任契約」で働く
取締役に選任されると、会社と「委任契約」を結びます。
要は「弁護士を依頼し、報酬を支払って役務提供してもらう」というスタイルと同じ働き方になる、ということです。取締役が受け取るお金は「役員報酬」として、企業から支払われる仕組みになっています。
取締役と代表取締役、社長、執行役員との違いは?
取締役と似た役職に「代表取締役」「社長」「代表役員」などがあります。
代表取締役とは
代表取締役は、文字どおり「取締役の代表者」といえる存在です。代表取締役は企業の代表として最高責任を負います。1名の場合もあれば、複数名で代表取締役を務める場合もあります。
社長とは
社長は「会社の長」であり、社内プロジェクトの責任者となる立場です。社長が代表取締役を兼任しているケースも多く見られます。
ただし社長とはあくまでも“会社内での立場”につけられた役職名であり、必ずしも対外的な責任を負う人物ではありません。たとえば会長が代表取締役を務めていて社長は代表取締役ではない場合、社内の決定事項の責任は社長が、融資などの社外に対する実行責任は代表取締役が持つことになります。
執行役員とは
取締役と執行役員は似たような意味に捉えがちですが、実際には「登記が必要で、かつ会社法で認められた役員」と「一般従業員」という大きな違いがあります。
そもそも執行役員とは社内での役職名(呼び名)であり、会社法でいうところの「役員」には含まれません。雇用されているので毎月「給与」が払われますし、執行役員になったからといって登記が必要なわけでもないのです。
取締役の違反行為とは?責任範囲についても解説
委任契約となる取締役には、2つの禁止行為が定められています。また取締役には、大きく分けて2つの責任が生じます。
取締役が禁じられている「違反行為」とは
取締役には次の2つの行為が禁じられています。
- 善管注意義務違反
- 利益相反行為
善管注意義務違反
善管注意義務とは、取引の際に一般的、かつ客観的に求められる“注意”をしなければならない、という注意義務です。法的には「善良なる管理者の注意義務」といいます。
取締役においては「会社から経営を任される以上、会社や従業員、株主などに対し、注意を持って業務を遂行しなくてはならない」という意味になります。
仮に違反した場合は、会社、株主に賠償責任をしなくてはなりません。
利益相反行為
利益相反行為とは、「会社の利益を犠牲にし、第三者や自分の利益をはかる行為」を指します。
具体的には会社の機密情報を漏洩して株のインサイダー取引を行ったり、競合他社へ転職し、内部事情を流出させたりといった行為が該当します。
会社の経営に携わる「取締役」である以上、会社に対し損害を与える可能性のある行為は避けなくてはならないと心得ましょう。
取締役の責任範囲
取締役の責任範囲は以下の2つです。
- 会社への損害賠償責任(任務懈怠責任/会社法423条)
- ステークホルダーへの損害賠償責任
会社への損害賠償責任(任務懈怠責任/会社法第423条)
取締役は任務を怠ったり、注意の欠如で善管注意義務違反をしてしまったりしたとき、損害賠償をしなくてはなりません。これは会社法第423条にも「任務懈怠責任」として明記されています。
ステークホルダーへの損害賠償責任
取締役は株主などのステークホルダーに損害を発生させたとき、その損害賠償を背負う責任があります。
理由が意図的にせよ過失にせよ、ステークホルダーは取締役個人に対し、会社への損害賠償を請求できるのです。
損害の規模によっては、億単位の損害賠償請求になる可能性もあることを知っておきましょう。
取締役の仕事内容は?
取締役の主な仕事内容は以下の4つです。
- 取締役会に参加する(取締役会のある会社の場合)
- 代表取締役の補佐、助言
- 株主総会での対応、説明
- 顧客との関係性構築
基本的には経営陣として取締役会に参加したり、代表取締役へ助言をしたりといった経営周りの仕事がメインです。またステークホルダーへの説明責任、および顧客との関係性構築なども重要な責務となります。
取締役の選任要件は?
取締役の選任要件は、以下の欠格事由に当てはまらない人です。
- 法人
- 成年被後見人、または成年被保佐人
- 会社法などの法律違反を犯して出所していない、または刑の執行を受けることがなくなった日(※)から2年経過していない
- 上記以外の罪を犯し、禁固刑以上の計に処せられた
取締役は株主総会の普通決議で選任され、過半数の株主が出席しており、かつ過半数の決議で決まります。
また一般的な企業の場合、次の5パターンの選任方法が考えられるでしょう。
- 親族、知人を取締役にする
- 合併先、買収先企業の幹部を取締役として選任する
- 経営者と方針の近い人材を取締役に選定する
- 部門ごとのトッププレイヤーを取締役として選任する
親族、知人を取締役にする
親族経営の企業では、子供などの親族や知人を取締役に任命するケースが多く見られます。
経営者の意向をよく理解した間柄の人材であれば、同じ方向性での経営ができ、運営をサポートしやすいからです。
合併先、買収先企業の幹部を取締役として選任する
合併や買収をして企業を統合した場合、合併先や買収先の幹部を取締役として選任するケースが多いでしょう。
経営陣を合併や買収をする側で固めるよりも、規模が小さいほうの企業の人材を適宜取締役として選任したほうが、合併手続き、事業の移管などが円滑に行えるからです。
また合併・買収された側の従業員からしても、「大きな規模の企業の人間だけで経営陣が固められている」と感じるとモチベーションが低下してしまいます。こうなると優秀な人材まで流出してしまう可能性もあるので、大きい方の規模の企業だけで経営陣を固めないようにしましょう。
経営者と方針の近い人材を取締役に選定する
取締役には、経営者と方針が近い人材を登用するケースも多いです。
ともすれば「イエスマンのみで周りを固めた」と思われがちですが、経営者と向いている方向が同じということは「スピーディーな判断ができる」というのは大きなメリットだといえます。
不祥事などを阻止する責任感や倫理観のある人材で、かつ経営方針が同じ人材であればなおベストでしょう。
部門ごとのトッププレイヤーを取締役として選任する
取締役には、財務や法務、営業など、各部門で活躍する人材が登用されるケースも少なくありません。
精鋭たちが集まることで、より効果的、かつ効率的な戦略を実行できます。
取締役に求められるスキルは?
企業の運営チームとして指揮をとる取締役には、以下のようなスキルが求められます。
- 経営者としての責任感、能力
- マネジメント経験
- 情報収集力
- コンプライアンス意識
- ESGに対する知見
経営に携わる能力や責任感は大前提として、一般社員をまとめあげるマネジメント力、情報収集力なども必要になるでしょう。また目には見えないスキルとして、不祥事を回避するためのコンプライアンス意識や、ESG(環境、社会、ガバナンス)への知見も重要だといえます。
また、実務のうえでは以下のスキルも役立つでしょう。
- 人事、労務経験や事業戦略の経験
- 営業、会計、法務などの専門知識
- グローバル経営の経験
こうした過去の経験がある方は、取締役にも向いているといえます。
知見や経験、技術を活かし、企業の経営に寄与できるよう心がけましょう。