企業の取締役や執行役などの「役員」は、従業員と同様にお金をもらって働いています。いわゆる「役員報酬」と呼ばれるものですが、その決め方や支給方法は雇用されて働く場合と大きく異なります。
ここでは、役員報酬とはどのようなものなのか、相場額や金額の決め方をご紹介します。損金(経費)として計上するためのポイントについても解説しているので、ぜひご覧ください。
そもそも役員報酬とは?給与との違いとは
役員報酬は、読んで字のごとく「会社が役員に払う報酬」のことを指します。
役員報酬の額は株主総会で決定されたのち、毎月一定額を支給する仕組みになっています。
役員報酬の相場は会社の規模により異なる
役員報酬の相場は、会社の規模や性別によって異なります。
女性の方が相場は低めですが、これは格差というより、社長の妻が役員報酬をもらっている場合が多いためです。
【役員報酬の相場額】
資本金 | 男性 | 女性 | 合計 |
---|---|---|---|
2,000万未満 | 674万円 | 372万円 | 582万円 |
2,000万円以上 | 921万円 | 571万円 | 832万円 |
5,000万円以上 | 1,158万円 | 490万円 | 1,086万円 |
1億円以上 | 1,326万円 | 760万円 | 1,279万円 |
10億円以上 | 1,799万円 | 521万円 | 1,598万円 |
引用:標本調査結果|国税庁
仮に相場から大きく外れるほど高い役員報酬を設定した場合、税務署から「損金」として認められない可能性もあります。
また、業種によっても役員報酬の相場は変わりますので、業界の相場を確認してみるとよいでしょう。
給与とほぼ同じだが、実際には区別される
役員報酬は従業員に支払う「給与」と似ていますが、役員は会社と雇用契約を結んでいないため「報酬」と区別して呼ばれます。
役員報酬は損金(経費)として扱えるが、規定がある
従業員に支払う給与は、会社の損金(必要経費)として計上することができます。
一方、役員報酬の損金算入には、法律でさまざまな決まりが設けられています。これは、役員報酬を不正に損金として参入し、脱税することを防ぐためです。
役員にはどのようなポストがある?
役員には下記のようなポストがあります。役員は株主総会の「普通決議」によって選任されることが決められています。
- 取締役……業務の意思決定を行う人。取締役のうち最終決定をするのが「代表取締役」。
- 執行役……株主総会、および取締役会で決められた方針に沿って業務を実行する。
- 監査役……取締役、および会計参与が行う経営活動の“健全性”をチェックし、報告をする。
- 会計参与……取締役と一緒に財務諸表を作成する。取締役の違法行為を是正する権限がある。
取締役会を置く会社の場合は3人の取締役、監査役を置くことが法律で決められています。
取締役会を置かない場合(ひとり会社など)は、1人以上の取締役を決めればよいので、必然的に自分が取締役となります。
取締役には法で決められた「義務」や「責任」がある
日本の会社法では“取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない”と定められています(会社法第355条)。
この義務に反した場合、会社へ損害賠償責任が問われることになります。
さらに「競業取引」「利益相反取引」を行う場合、あらかじめ株主総会や取締役会で承認を受ける責任がある点にも注意です。
競業取引とは、同業のライバル企業と行う取引を指します。
また利益相反取引とは、取締役が利益を得られて、かつ会社が損害を受ける取引を指します。
取締役がこれらの“会社に不利益が生じる可能性のある取引”を無断で行った場合、損害賠償責任を背負うことになるため注意が必要です。
役員報酬の決め方は?
役員報酬を決める際には守らねばならないルールがあります。
ルールを守らないと、役員報酬を損金(経費)として参入できなくなるため、経営にも影響が及んでしまう可能性もあるのです。
また、役員報酬額を決める際には考慮すべきポイントもあります。
ここでは決め方のルールやポイントをご紹介しますので、チェックしてみてください。
役員報酬を決める際のルール
役員報酬を決めるときは、以下の3つのルールを守る必要があります。
これら3つを満たしていないと、損金(必要経費)として認められないので注意しましょう。
- 法人設立から3ヶ月以内に決めること
- 定款または株主総会で決議する
- 取締役会で内訳を決め、議事録を作成する
また、いちど決定した役員報酬は、事業年度末まで変えることができません。安易に金額を決めることのないよう、慎重に検討・決定しましょう。
役員報酬を決める際のポイント
役員報酬の額を決める際には、記事のはじめに掲載した「役員報酬の相場額」、および同業種の報酬平均を参考にしていきます。さらにそのうえで、以下の4点を考慮し、役員報酬額を決定しましょう。
- シビアな売上予測をベースに金額を決定する
- 法人税と役員の税金とのバランスを考慮する
- 役員報酬と役員賞与のバランスにも配慮する
- 融資の予定がある場合は社長の役員報酬額に注意が必要
シビアな売上予測をベースに金額を決定する
役員報酬を決める際には、まず会社の1年間の売上予測を立てます。売上がふるわなかったときのことを考慮し、売上予測はシビアに行うとよいでしょう。
その後、売上予測と「原価」「経費」などの“経営にかかるお金”を加味しながら年間の役員報酬を決定します。
後述しますが、役員報酬を「損金」として参入するには、年間の報酬を12等分し均等に支給しなければなりません(定期同額給与)。
このような手順で、毎月もらう役員報酬額を決定しましょう。
法人税と役員の税金とのバランスを考慮する
損金算入ができる役員報酬額が多くなると、企業が支払う「法人税」の額が少なくなります。課税される所得額が、損金の差し引きによって減るためです。
しかしながら、個人の役員報酬を上げるということは、個人の所得税率・所得税額が上がる、ということでもあります。法人税と役員個人の所得税、それぞれのバランスを考慮した金額を設定しましょう。
役員報酬と役員賞与のバランスにも配慮する
役員についても社会保険の加入が義務となっていますが、役員報酬が上がると、会社が負担する「社会保険料額」も増加します。
一方、役員に支払われる「役員賞与(ボーナス)については、健康保険料が年度累計で573万円まで、厚生年金保険料が150万円までという上限があります。仮に計算したあとの社会保険料がこれらの額を超えていても、会社が負担する必要はありません。
そのため「毎月数十万円の役員報酬を支給し、役員賞与はゼロ」というケースよりも「毎月の役員報酬額を抑え、役員賞与のウェイトを重くする」という支給方法のほうが、社会保険料の負担を抑えられる可能性が高いでしょう。
役員報酬額を決めるときには、こうした“節税対策になる知識”も知っておいてください。
融資の予定がある場合は社長の役員報酬額に注意が必要
金融機関から会社が融資を受ける場合、簡易キャッシュフロー(税引後当期純利益と減価償却費を足したもの)にて審査が行われます。
このとき社長の役員報酬も重視されることになるのですが、あまりにも役員報酬が少ない場合、融資審査に通りにくくなってしまう可能性があるのです。
融資の予定がある場合は、社長の役員報酬額にも注意しましょう。
損金(経費)にできる役員報酬もある?
従業員の「給与」は損金(必要経費)として算入できますが、役員報酬についても、条件を満たせば損金としてカウントできます。
- 定期同額給与
- 賞与は「事前確定届出給与」として届け出を行う
- 一部の中小企業で利用できる「業績連動給与」
定期同額給与
定期同額給与とは、毎月定額を報酬として役員に支払う形式を指します。
このような支給方法を取ることで、会計上の費用=損金として算入できます。
定期同額給与は「決算から次の決算まで」同じ金額を均等に受け取るのがルールです。ただし特例として、業績悪化による役員報酬の減額は認められています。
減額する場合、株主総会および取締役会の「議事録」が必要です。
議事録に「いつから、どのくらいの額へ減額するのか」を記載していれば、減額が認められます。
賞与は「事前確定届出給与」として届け出を行う
役員報酬に関しては「定期同額給与」で支払う必要がありますが、役員賞与や非常勤役員への報酬(年数回)の場合は、そのままでは損金として認められません。
役員賞与や年数回の役員報酬は、税務署へ「事前確定届出給与の届け出」を行うと損金として算入できます。
事前準備としては、株主総会で決議後、議事録を作成する必要があります。
さらに、決まった期限までに税務署へ届け出を提出します。
事前確定届出給与として申告した役員賞与・報酬は、届出書に記入した支給時期、金額と完全一致する形で支給しなくてはなりません。
事前確定届出給与の届け出は、利用する年度ごとに提出が必要になる点にも注意しましょう。
一部の中小企業で利用できる「業績連動給与」
会社の業績に連動する形で役員報酬を支払う制度を「業績連動給与」といいます。
算定の基礎になるのは会社の業績、株式の市場価格などです。おもに成果主義の起業や一部の中小企業で血用されている制度で、ほかの2つの制度と同じく損金算入ができます。
役員報酬額の決定時は、損金として算入できるようにしよう
役員報酬は年間でみると大きな金額となります。
そのため、損金算入できるか、できないかで企業全体の利益率や税額にも大きな違いが生じるでしょう。
役員報酬を支給する際は、損金として算入できる形式で支給するのがベストです。どのような形式であれば損金になるのかを知り、節税につなげましょう。