従業員を雇用する企業では、厚生年金へ加入する必要があります。また正社員など社会保険の加入要件を満たした従業員は、厚生年金への加入が義務付けられています。
ここでは、企業と従業員それぞれに密接なかかわりのある「厚生年金」について解説。特徴や国民年金との違い、厚生年金保険料の計算などについてご紹介します。
厚生年金とは? 従業員と企業から見た特徴
厚生年金は、法人企業などで雇用されて働く人が加入する年金です。
公的年金のひとつで、正社員や正社員と同じくらい働くパート、アルバイト従業員は厚生年金に加入するよう定められています。
従業員から見た厚生年金
厚生年金保険料は毎月の給与から天引きされる形で徴収されます。この保険料は従業員と企業とで半分ずつ折半する決まりです。徴収された厚生年金保険料は積み立てられていき、原則65歳になると「老齢厚生年金」が受給開始となります。
企業に勤めている人で、かつ条件を満たした人ならば、15歳~70歳までが加入できます。
また厚生年金保険では、被保険者期間に障害を負ったときの「障害厚生年金」や「障害一時金」、被保険者が死亡した場合の遺族に対して支給される「遺族厚生年金」などの制度もあります。
これらは被保険者本人やその家族の生活を保障する重要な制度です。
企業にとっての厚生年金
法人などの企業は、設立後に厚生年金へ加入しなくてはならない決まりです。
加入手続きは管轄の年金事務所で行い、加入後は従業員が納付する厚生年金保険料の半分を折半する必要があります。
厚生年金と国民年金はどう違う? 厚生年金のメリット
厚生年金と比較されやすいのが「国民年金」です。
国民年金は土台となる年金、厚生年金は「2階建て」部分にあたる
もともと日本では「2階建て」の年金制度を運用しています。
土台となる1階部分の年金制度は、国が実施している「国民年金」です。加入対象者は20歳~60歳未満となり、すべての国民に加入義務があります。
そして2階の部分が「厚生年金」です。厚生年金は国民年金に加入したうえで加入するもので、保険料は会社との折半となります。1階(国民年金)+2階(厚生年金)の保険料を同時に納入することになりますが、そのぶん“上乗せ”ができ、より多くの年金を積み立てられることになります。
結果として、国民年金だけに加入している場合より、厚生年金に入っているほうが将来受け取る年金も多くなるのです。
保険料についての違い
国民年金の保険料は、令和4年時点で月額16,590円です。収入額などの事情に応じて免除や減免、猶予などの措置を受けることもできます。
一方厚生年金の保険料は、給与や手当などを合わせて算定した「標準報酬月額」によって算定します。
標準報酬月額が少なければ保険料も少なくなりますし、多くなるほど納めるべき保険料も多くなります。
ただし、保険料は勤め先の会社と折半です。
実際の保険料が32,000円だったとしても、自己負担額は半額の16,000円となるのが国民年金との大きな違いとなります。また収入が高いほど保険料が多くなるということは、将来の年金受給額も増えるということでもあるため、損にはなりません。
厚生年金の加入条件は?
厚生年金は「企業などで雇用されている人」を対象としている年金ですが、企業側と従業員側それぞれに加入条件が設けられています。
- 法人の事業所(1人社長の法人も含む)
- 常時5人以上の従業員を雇用している個人事業所(適用業種に該当する事業所)
- 半数以上の従業員が厚生年金の適用事業所になることを同意していて、かつ厚生労働大臣の認可を受けている(任意適用事業所)
- 常時雇用されている正社員
- 1週間の所定労働時間が正社員、フルタイムの従業員の4分の3以上のパート・アルバイト従業員
- 以下に当てはまる従業員(パート・アルバイト含む)
- 特定適用事業(厚生年金保険の被保険者数が501人以上の企業)で働いている
- 1週間の所定労働時間が20h以上
- 雇用期間が2ヶ月以上見込まれている
- 月額賃金が88,000円以上
- 学生(昼間部)ではない
ちなみに日雇い労働者や臨時労働者は厚生年金保険の加入要件から外れますが、1ヶ月を超えて雇用される場合はその日から加入が必要です。
厚生年金保険料の計算方法は?いくらもらえる?
厚生年金保険料を計算する際は、「標準報酬月額」と「標準賞与額」の2つを使って計算していきます。
標準報酬月額を使った計算方法
標準報酬月額とは、厚生年金保険料の算定に使われる基準です。
引用元:保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)|日本年金機構
標準報酬月額は第1級~第32級までの区分に分けられており、下限は月88,000円、上限は月650,000円となっています。区分ごとに保険料と折半したあとの支払額が分かるようになっているので便利です。
なお、区分を調べる場合は毎月の「給与」に、通勤手当や家族手当などを合算する必要があります。
たとえば月給40万円、通勤費が1万円、家族手当が4万円の人の場合、40万+1万+4万=45万円となり、上記表内の「報酬月額」から当てはまる区分を見つけます。
この人は区分25の「440,000」にあたるため、そのまま右を見ていくと月額の厚生年金保険料は80,520円であることがわかります。
そこから半分を折半するため、従業員・企業はそれぞれ40,260円ずつを保険料として納める……という仕組みです。
標準賞与額を使った計算方法
ボーナス等の一時的に支払う「賞与」を支給した場合も、厚生年金保険料が発生します。
こちらは支給された賞与に対し、厚生年金保険料率18.3%をかけて計算します。※
(※令和5年現在、1,000円未満の端数は切り捨て)
計算した厚生年金保険料は毎月の厚生年金保険料と同じく、会社と従業員とで折半する点も把握しておきましょう。
ちなみに、1ヶ月の賞与額が150万円超の場合は、標準賞与額も150万円が上限になります。
厚生年金はいくらもらえる?
老齢厚生年金の場合、65歳になると生涯年金を受け取れるようになります。
受け取れる厚生年金額には個人差があります。
これは、被保険者として保険料を納めていた時期の給与額が大きく影響するためです。
ちなみに、令和元年時点の厚生労働省のデータでは、厚生年金の平均受給額(ひと月単位)は144,268円とされています。同年度の国民年金の平均受給月額は55,946円ですので、3倍近くの開きがあることがわかります。
企業が知っておくべき厚生年金の注意点とは?
企業が厚生年金へ加入すると、当然ながら厚生年金保険料を折半することになります。
この負担は、従業員数が多くなるほど大きくのしかかってきます。
かといって「条件を満たしたが加入しないままでいる」という方法はありません。
そもそも厚生年金とは公的な社会保障の1つであり、法人企業に対しては義務となるもの。また厚生年金に加入すれば従業員の生活を守ることにもつながります。企業は、義務と役割をしっかり果たす責任があるのです。
そんな厚生年金ですが、加入に際し注意点が3つあります。
社長1人であっても法人であれば加入が義務となる
法人は法人格を与えられた時点で、厚生年金保険への加入が義務となります。
このルールは、企業の規模に関係ありません。大企業や中小企業はもちろん、1人社長のマイクロ法人であっても「法人」である以上義務となるのです。
近年は節税のためにマイクロ法人を立ち上げる事業主も多いですが、「1人だから厚生年金には加入しなくてもよい」と認識するのは間違いです。法人を立ち上げたら、忘れずに加入の手続きをしましょう。
個人事業所でも要件を満たした場合は加入が必要
年金に対し少し知識のある方であれば、「個人事業主=国民年金」というイメージが強い方も多いのではないでしょうか。事実、個人事業主や法人でない個人事業所の場合、厚生年金への加入義務はありません。
ただし、常時雇用している従業員が5名以上いる場合は、個人事業所であっても厚生年金保険へ加入しなくてはなりません。
農林水産業など、一部の業種は除外となりますが、それ以外の業種については5人以上で加入というルールが適用されるので注意しましょう。
加入条件を満たしているのに未加入である場合、罰則が適用される
法人を設立したり、5名以上の常時雇用社員がいる個人事業所を経営していたりする場合、厚生年金保険へ加入する必要があります。しかし、加入条件を満たしているにもかかわらず厚生年金へ加入していない場合、違反として罰せられる場合があります。
年金事務所に違反と判断された場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられる可能性があります。また立ち入り検査が入った時点で強制加入となるので、条件を満たした時点ですみやかに加入することをおすすめします。
厚生年金への加入は企業としての義務
厚生年金への加入は企業としての義務であり、未加入状態では「雇用調整助成金」などの助成金も受給できません。従業員の社会保障を支える存在として、企業の義務(保険料の折半)を果たしましょう。
また、厚生年金へ加入している企業は採用活動においても有利です。
企業の成長を望むという意味でも、かならず厚生年金への加入手続きを済ませておきましょう。