わたしたちが手にするお金には、収入と所得があります。この2つは同じ意味合いで使われるケースもありますが、税制上はそれぞれ異なる意味を持つ言葉です。特に、所得税や住民税といった「税の計算」をする際は、この2つを混同すると面倒なことになります。
ここでは、収入と所得の違いについて解説。その他の間違えやすい言葉の意味や、所得税の計算、所得控除についてもご紹介します。
収入と所得の違いとは?間違えやすい2つについて解説
収入と所得はどちらも「入ってくるお金」ですが、意味合いが異なります。
収入と所得の違いについて、それぞれ見ていきましょう。
収入とは
収入とは、端的に言うと「入ってきたお金ぜんぶ」を指します。
たとえば、会社員として働いた対価として受け取る「給与」は、収入のひとつです。
会社員の場合は源泉徴収票に記載されている「支払い金額」が、収入にあたります。
年間の収入は「年収」とも呼ばれ、毎月の給与以外には各種手当、賞与などを含んだ金額を指します。
また副業で「報酬」をもらったとき、こちらも収入としてカウントできます。
競馬などのギャンブルで手にした勝ち金も「収入」と考えられるでしょう。
雇用の有無にかかわらず、手元に入ってきたお金はすべて「収入」なのです。
所得とは
手元に入ってきたお金が「収入」であるのに対し、所得とは「収入から経費や控除を差し引いたお金」を指します。所得の額は後述する「所得税」や、住民税の算出に使われます。
たとえば、会社員であれば給与として受け取った収入から「給与所得控除」を差し引いた金額が所得額です。
収入 - (経費 + 控除) = 所得
さらに、1年間に払った医療費を医療費控除として申告したり、ふるさと納税をしたお金を申告(寄附金控除)したりすると、事実上の所得額(=所得税等の計算に使われる金額)は低くなります。
また、個人事業主などの場合は、1年間に稼いだ「収入」から、仕事の仕入れ等につかった「経費」を差し引き、さらに各種控除を適用した額が「所得」となります。
収入があっても所得が0円になることもある?
わたしたちが納めている所得税や住民税は、収入に応じて発生するものです。
しかしながら、収入がある人でも、場合によっては所得が0円になることがあります。
そもそも所得とは、収入から経費、控除などを差し引いた“税法上のお金”を指します。
仮に収入が100万円あったとしても、かかった経費と控除額の合計が100万円以上であれば、税法上の所得は「0円」になるのです。
実際にどれだけ手元にお金が残っていようとも、税法上の所得が0円であれば、所得税、住民税も発生しません。
このように、「収入」と「所得」には大きな違いがあります。
収入と所得は納税額の算定などにおいて明確に使い分けられているので、はっきりと理解しておき、計算を間違えないようにしましょう。
収入と所得、給料・手取りはどう違う?
収入と所得に加えてよく耳にするのが「給料」「手取り」といった言葉です。
これらの違いについても、合わせて知っておきましょう。
給料とは
給料とは、会社等に雇用されて働いたとき、毎月受け取っている「賃金」のことです。
給与と同じ意味であり、控除などを適用する前の「収入」にあたるお金です。
ない、自営業やフリーランス、個人事業主として獲得したお金は「給料」と呼びませんので注意しましょう。
手取りとは
手取りとは、収入のうち税金、社会保険料を差し引いたあとのお金を指します。
よく「手取り年収○○円」という使い方をしますが、収入が「もらうはずだったお金の総額」であるのに対し、手取りはもろもろ差し引かれた後の金額となるのが特徴です。
所得税はどのお金にかかるもの?
収入や所得と切り離せないのが「所得税」です。
所得税とは、会社からもらった「給与」のほか、自分で商売をして得たお金などに課せられる税金です。
所得税は1年間の収入から経費を差し引いた「所得」、さらに所得から生活・家族構成などを加味して差し引ける「控除」を引いた残りのお金にかかります。
なお、この残りのお金は「課税される所得額(課税所得)」と呼ばれます。
所得税は「累進課税制度」といって、課税所得額が大きくなるほど税率が高くなる仕組みです。
所得税の計算方法は?
所得税は、所得(課税所得)に対し「所得税率」をかけることで算出できます。
【所得税の計算式】
課税される所得金額 × 税率(5~45%) - 控除額 = 所得税額(円)
この所得税率は所得金額によって区分が異なり、5%~45%もの幅があります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
ちなみに、表右側の「控除額」というのは、算出した所得税に対し差し引ける金額です。
控除額を差し引くことで、税負担が大きくなりすぎるのを防げるようになっています。
課税所得金額が400万円の場合
400万円 × 20% - 42万7,500円=所得税は37万2,500円
この場合、年間の所得税額が37万2,500円となります。
所得控除を活用すると所得税を抑えられる
所得税は「課税所得」に対し計算され、金額が決定します。
また住民税についても、その年の課税所得に対し一定の税率が掛けられ、翌年の住民税額が算定される仕組みです。
税額(および税率)は課税所得に応じて増えます。
課税所得が高くなるほど税額も高くなる、ということです。
ただし、日本には「所得控除」という制度があります。
これは個々の生活状況や事情を反映させ、適正な税負担を課すためのシステムであり、所得控除で課税所得を減らすと、所得税額も減るという仕組みです。
給与所得控除について
たとえば会社員の場合は「給与所得控除」という控除があります。
給与所得控除は、年間の収入額(源泉徴収票の支払額)に対し、一定の金額が控除されるというものです。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払い金額) | 給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円~1,800,000円まで | 収入額×40%-100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円まで | 収入額×30%+80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円まで | 収入額×20%+440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円まで | 収入額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円 | 1,950,000円(上限) |
たとえば年収400万円の会社員の場合、400万円×20%+44万円=124万円を、給与としてもらった収入から差し引けます。実質の課税所得(給与所得)は276万円となるわけです。
自営業者など給与をもらわずに事業を営む人は、所得から仕事に使った費用を「経費」として差し引けます。
いっぽう、給与所得者には原則としてこのような経費計上の制度がありません。
そこで生み出されたのが「給与所得控除」です。給与所得控除を利用することで、納税者の税負担が大きくならずにすみます。
特定支出控除について
特定支出控除とは、サラリーマンなどの給与所得者が利用できる控除制度です。
これは、仕事に関する費用として、その年の給与所得控除額の半額以上の費用を使った場合に適用できる控除です。
特定支出にあたる費用 - (その年の給与所得控除額÷2) = 特定支出控除額
たとえば年収150万円、給与所得控除額が55万円の人で、転勤を伴う引っ越しに対し60万円かかったとします。
この場合、かかった60万円-(55万円÷2)=32万5,000円が「特定支出控除額」となります。
特定支出控除を適用すれば、150万円―55万円-32万5,000円=所得額62万5,000円となり、ここからさらに各種控除(基礎控除など)を差し引いた額が「課税所得」として扱われる計算です。
特定支出控除にあたるものは以下の費用です。
- 通勤費……一般的に必要であると認められた通勤のための交通費
- 職務上の旅費……出張などによる職務遂行のために必要になる旅費
- 転居費……転勤に伴う転居のための引っ越し費用など
- 研修費……仕事に必要なスキル、知識の獲得を目的とした研修受講のための支出
- 資格取得費……仕事に直接必要な資格を取るための支出
- 帰宅旅費……単身赴任などで、勤務地または居所から自宅までの移動費用
- 勤務必要経費……仕事に関連する書籍の購入費や必要な制服、スーツなどの購入費、接待交際費など
なお、特定支出控除を受けるには給与の支払者の証明が必要であり、かつ確定申告をしなくてはなりません。
15種類の所得控除について
所得控除には「給与所得控除」のほかにもさまざまなものがあります。
- 基礎控除
- 扶養控除
- 配偶者特別控除
- 勤労学生控除
- ひとり親控除
- 寡婦控除
- 障害者控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 社会保険料控除
- 医療費控除
- 雑損控除
- 寄附金控除
これら所得控除を活用すると、課税計算上の所得が少なくなり、税額負担を抑えられます。
税額計算のために収入と所得の違いを明確に理解しよう
社会人として働いていくうえで収入や所得は切り離せない関係です。それは雇用されて働く場合にも、自分で事業を興して働く場合にも同じことが言えます。
また、事業のリーダーとして人を雇用する場合は、収入と所得の違い、所得税や住民税の算定方法など、知っておくべき知識も増えます。いま一度「収入」「所得」「所得税」について理解を深めつつ、正しい知識を身に付けておきましょう。