開業時には設備投資、運転資金などのさまざまな「お金」が必要になります。しかし、その全てを自己資金で賄うのは難しいもの。開業に必要な資金集めには、どのような方法があるのでしょうか。
ここでは開業に必要な資金集めの方法10選や、自己資金の理想的な割合、開業資金の目安について解説します。資金集めについて知りたい方は、ぜひご覧ください。
開業資金を集める10の方法を紹介
開業に必要な資金集めには、大きく分けると「融資(借りる)」「出資(お金を提供してもらう)」「助成金・補助金」の3通りの手段があります。
- 融資……返済の必要がある、返済は元本+金利分を返す必要あり
- 出資……返済の必要がなく上限もない。出資者がいなければ資金集めはできない
- 助成金、補助金……返済の必要がない、開業前から申請可能だが期間は短め
通常は「自己資金」に加えて、これら3つのいずれか(または全部)を駆使して資金集めを行います。
ここでは、代表的な資金集め方法10選を見ていきましょう。
1.日本政策金融公庫の「創業融資」を受ける
日本政策金融公庫(以下、公庫)は、中小企業や小規模事業者、個人事業主に対する融資などを実施している機関です。
公庫融資は金融機関に比べると低金利、かつ融資の上限額が大きく、返済期間が長いのが特徴です。多くのお金が必要になる創業時には、大きな味方になってくれるでしょう。
【日本政策金融公庫が行う融資の金利】
- 担保ありなら0.3%~
- 無担保なら0.66%~
- 無担保&無利子での融資も可
【小規模企業向けの公庫融資】
①新規開業資金
- 対象:新規に事業を始める人(または事業開始から7年以内の人)
②女性、若者/シニア起業家支援資金
- 対象:女性や35歳未満、55歳以上で事業を始める人(または事業開始から7年以内の人)
※融資限度額や融資期間については、①、②とも同じです。
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金は4,800万円)
- 融資期間:設備資金20年以内/運転資金7年以内(それぞれ2年以内の据え置き期間あり)
【中小企業向け公庫融資】
①新規開業資金
- 対象:新規性や成長性のある事業を始めてからおおむね5年以内の人 など
- 融資限度額:6億円
②女性、若者/シニア起業家支援資金
- 対象:女性や35歳未満、55歳以上で事業を始める人(または事業開始から7年以内の人)
- 融資限度額:7億2,000万円(うち運転資金は2億5,000万円)
※中小企業向けの融資に関しても、融資期間は同じです。
設備資金が20年以内、運転資金が7年以内(それぞれ2年以内の据え置き期間あり)となっています。
中小企業向けの公庫創業融資は、小規模企業に比べて融資額がとても多くなっているのが特徴です。中小規模の会社を設立するのであれば、検討してみるとよいでしょう。
参考リンク:融資制度を探す|日本政策金融公庫
2.地方自治体が実施する「制度融資」を利用する
制度融資とは、地方自治体と金融機関が連携して行う融資です。
信用保証協会の保証により融資を受けるため、中小企業、個人事業主でも借り入れがしやすくなっています。
自治体によっては「利子補給」といって、利息や保証料の一部負担が受けられるケースもあるので、確認してみましょう。
【制度融資の金利、上限額、返済期限の例】
- 金利2.1~2.7%
- 上限3,000~3,500万円程度
- 設備資金の場合は10年以内、運転資金は7年以内が目安となる
3.銀行、信用金庫の融資を利用する
資金集めには銀行や信用金庫から融資を受ける方法もあります。
銀行の融資は審査が厳しい反面、金利1%以下の低い金利で借りられる場合があったり、企業の信用性が高まったりする可能性が高いのが特徴です。
一方、信用金庫は銀行に比べて融資の審査もゆるめです。そのため個人事業主や中小企業でもお金を借りやすいメリットがありますが、銀行に比べてやや金利が高い点や、融資上限額は低めな点に注意が必要です。
4.信用保証協会の「保証付き融資」を利用する
信用保証協会は賃貸マンションを借りるときの「保証会社」のような機関です。
銀行や信用金庫から融資を受ける場合、信用保証協会の保証を付けることで審査に通りやすくなります。返済の延滞や貸し倒れが起こった場合も、企業に代わって信用保証協会が弁済してくれるからです。
なお、信用保証協会の保証を受けるには、審査と保証料の支払いが必要です。
参考リンク:一般社団法人 全国信用保証協会連合会 | 一般社団法人 全国信用保証協会連合会
5.自己資金で準備する
貯金や投資などで資産を増やし、自己資金とする方法です。ビジネスを始める際には、外部からの資金調達だけではなく、自己資金もある程度必要になります。
【自己資金の集め方】
- 貯金する
- 投資
- 不動産の売却
- 生命保険の解約
- 身内からの贈与 など
6.エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの出資をつのる
近年増えている資金集めの手段に、創業資金を支援してくれる「エンジェル投資家」や、ベンチャー企業を応援する「ベンチャーキャピタル(投資会社)」からの出資が挙げられるでしょう。
エンジェル投資家からの出資を受ける際には、スピーディに出資が受けられたり、ビジネスにつながる人脈を紹介してもらえたりするケースがあります。
またベンチャーキャピタルは、上場を目指している会社に対し出資を行うのが特徴。
出資先の企業が上場した際に持ち株を売却し、利益(キャピタルゲイン)を獲得するのが目的だからです。
ベンチャーキャピタルもエンジェル投資家と同様に、コンサルティング等のさまざまな経営支援をしてくれるメリットがあります。
上場を目標にしているのであれば、資金集めの手段として活用してみるのも手です。
7.クラウドファンディングを利用する
「クラウドファンディング」はネット上で事業計画や商品などを公開し、出資者を募る資金集め方法です。
出資金は返済の必要がありませんが、クラウドファンディング開始時に返礼(リターン)を設定する必要がある点に注意しましょう。
仮に融資の審査に通らなかった事業であっても、ユニークな発想や意外なニーズを発掘した商品・サービスを開発できれば出資してもらえる可能性があります。
8.他企業から出資してもらう
出資による資金集めのひとつとして、他の起業に株式を譲渡して出資してもらう方法があります。
株式の5割以上を譲渡すると経営権も奪われてしまうため注意が必要ですが、うまく活用すれば自社と出資企業の両方に利益が生じる可能性があります。
9.創業補助金を申請する
中小企業庁が実施している「創業促進補助金」「第二創業促進補助金」を利用すると、資金集めができます。
それぞれ200万円を上限としていて、返済の必要もありません。募集期間が短く、補助金の支給は創業後になる点に注意が必要です。
参考リンク:中小企業庁公式ホームページ
10.ビジネスコンテストへ応募する
自治体や企業が開催する「ビジネスコンテスト」では、優れたビジネスプランを提案した企業に対し事業資金を提供しています。
ビジネスプランに自信がある方は、資金集めの方法として検討してみても良いでしょう。
開業時の資金集めのうち「自己資金」の理想的な割合は?
開業時には「自己資金」や「融資」などを合わせて資金集めをします。
結論から言うと、自己資金は全体の2割以上が理想的です。
融資など外部から資金集めをする方法だけで開業資金を賄うと、その分返済がかなり大変になります。
また自己資金額が少なすぎると、金融機関へ融資審査を申し込むときに影響が及ぶことも。
融資で資金集めをする場合は「自己資金の割合に関する要件」を必ず確認しておきましょう。
開業資金の目安はいくらぐらい?
2020年、日本政策金融公庫総合研究所が行った調査によると、開業資金の平均額は989万円です。
ただし、全体の43.7%は「500万円未満」で開業しているというデータも。
業種によってはさらに低い資金で起業できる場合もあるため、必ずしも1,000万円近くまで資金集めをしなくとも開業できるといえます。
参考リンク:日本政策金融公庫総合研究所|2020年度新規開業実態調査
クリニックや店舗型ビジネスの開業には多くの資金集めが必要
医師や歯科医がクリニック、歯科医院を開業する場合の平均資金は1億~1億5千万円とかなり高額です。
また美容院の場合は1,200~2,000万円程度、カフェの場合は1,000万円前後と、多くの資金が必要になります。
飲食店や小売店は店舗規模が小さいと200万円程度から開業できる場合もありますが、立地や内装によっても前後します。
個人事務所やオンライン関連の事業は資金集めなしで開業できる場合も
一方、あまり資金集めが必要ないのが、弁護士や税理士などの「士業」、オンラインで仕事ができる業種です。
士業の場合、事務所のオープンに必要な資金は、およそ100万円程度。自宅を事務所として開業する場合は、さらに初期投資を抑えられるでしょう。
また自宅で仕事ができるITエンジニア、WEBデザイナー、WEBライター、WEBマーケティングや、オンラインショップ(ネットショップ)も資金集めがあまり必要ない業種です。
仮にオンラインショップでアパレル商品を販売する場合、店舗を借りると最低でも300万円以上の資金を集める必要があるでしょう。一方オンラインショップなら、「場所代無料・手数料は売上発生時のみ」というふうに、かなりのコストを抑えられるのです。
「資金集めが難しいけれど、何とか自己資金のみで開業したい」という方は、開業資金がかかりにくい業種・業態を選ぶのもひとつの方法です。
開業資金には「初期設備投資」と「3ヶ月分以上の運転資金」が必要
一般的に「開業資金」といわれる資金には、店舗や設備、備品などを揃える「初期投資」だけではなく、毎月事業を行っていくための「運転資金(ランニングコスト)」も必要になります。
運転資金は最低でも3ヶ月分を準備しておく必要があります。開業したてのころは売掛金の回収までに時間がかかり、「手元に入るお金」がゼロ~赤字になることも多いためです。
その間も固定費や仕入れ費、管理費などの支払いは発生しますので、なるべく余裕を持って運転資金を用意しておきましょう。