会社の経営を続けていくうえで知っておきたいのが「債務超過」です。
債務超過に陥ると、経営が苦しくなるだけでなく、信用性や上場廃止などのさまざまな影響が現れます。
ここでは、債務超過の概要や倒産、赤字との違いを解説。債務超過になっていないかをチェックする方法や、債務超過を解消する方法、予防策についてもお伝えします。
債務超過とは「実質的な純資産」がマイナスになっている状態
債務超過とは、かんたんに言うと「会社のプラスの資産より、マイナスの資産(負債)が大きくなっている状態」を指します。
資産と負債について
「資産」は現預金などのお金をはじめ、これから回収する売掛金、土地や建物、有価証券なども含まれます。
「会社のプラスとなる財産」ともいえるでしょう。
一方「負債」とは、マイナスの財産を指します。
たとえば銀行から融資を受けた場合は「借入金」として計上しますが、これは返済義務のあるお金を借りているため、会社の負債となります。
仕入をおこなった際の「売掛金」も負債のひとつです。
資産の例 | 負債の例 |
……「会社の財産」とも言い換えられる |
……「返さなければいけないマイナス財産」 |
この「資産(プラスの財産)」と「負債(マイナスの財産)」を合わせたものを「純資産」といいます。
資産 + 負債 = 純資産(会社の実質的な財産)
実質的な純資産は「資産から負債を差し引いて残った財産」です。
よって、健全な経営を行っている会社であれば、自然と純資産がプラスになります。
一方、負債のほうが多くなっている会社は、貸借対照表上のバランスが「資産<負債」となっています。
この場合、プラスの資産額よりもマイナス(負債)が多くなるため、純資産の総額は「マイナス」です。
このように、貸借対照表上のバランスが「資産<負債」となっている状態を「債務超過」と呼びます。
- 債務超過は会社の資産より負債が多い状態
- 債務超過になった会社の純資産(総合的な財産)はマイナスになる
債務超過による影響は?
2019年版中小企業白書によれば、中小企業の3割以上は債務超過に陥っているとの調査結果があります。
参考リンク:2019年版中小企業白書
今や債務超過そのものが、決して珍しくないことなのです。
とはいえ、債務超過が珍しくない=債務超過になっても問題ない、というわけではありません。
長期目線で見れば、悪影響が及ぶことは明らかです。
仮に自社が債務超過になった場合、以下のような影響が及ぶ可能性が高いでしょう。
- 融資が受けられなくなることがある
- 取引先から取引を打ち切られる可能性あり
- 上場企業は上場廃止になるおそれがある
債務超過の状態におちいった起業は、客観的に見ても「経営管理が甘い」とみなされる場合が多いです。
そのため、財務上の信用性がダウンし、融資や取引の打ち切りに見舞われる可能性があります。
また、上場している企業の場合は、上場の廃止を言い渡されることも。
たとえば日本取引所グループ(JPX)では、債務超過が1年以上継続すると「上場廃止基準」に触れてしまい、上場が取り消されてしまいます。
上場が廃止されるということは、株券発行による資金調達のハードルがグンと上がるということでもあります。
そのため、経営状態を立て直そうとしても、資金が集まらずうまくいかない……といったことにもなりかねません。
債務超過になると倒産する?
「債務超過になるとすぐに倒産してしまうか?」といえば、叶わずしもそうではありません。
たとえば債務超過になったあと、資金調達に成功したり、返済の猶予を受けられたりして「資産>負債」のバランスに改善されれば、倒産も免れます。
ただ、債務超過になっている時点で経営状態はかなり厳しい状態である、というのには変わりありません。
また会計上は赤字でなくても、銀行取引ができなくなって倒産する場合もあります(黒字倒産)。
黒字倒産とは
通常、倒産する企業では「売上も上がらず、負債が膨らんで倒産する」というイメージが強いでしょう。
しかしながら、十分な売上を達成していても、財務上は厳しく倒産してしまうケースがあります。
いわゆる「黒字倒産」です。
黒字倒産は「帳簿上は利益があるが、支払いに必要な資金が回収できず、倒産してしまう」というものです。
たとえば商品を販売した場合、その回収が即日~月内であれば実質の資産は増えます。
しかし、支払いサイト(売上回収までの期間)が数カ月と長い場合、その間に必要な運転資金(仕入代金や人件費、借入金の返済などに使うお金)が不足してしまいます。
「数字としての売上は高いが、手元にあるお金が不足していて支払いができない」とも言い換えられるでしょう。
その状態が続くと、帳簿上は黒字なのに倒産してしまいます。
- 売掛金の回収サイクルより返済や支払いのサイクルのほうが短い
- 手元にある資産の割合の多くが「売掛金」「受取手形」やすぐにキャッシュ化できない資産である
- 資産を保有しているが時価が下落し、現金化しても返済額に満たない
このような財務状況では、黒字倒産のリスクが高まります。
企業の財政状況を把握する際は、帳簿上の黒字だけでなく、実質的な資産額と内訳を見て判断しましょう。
債務超過と合わせて知っておきたい「資金ショート」とは
債務超過と合わせて知っておきたいのが「資金ショート」です。
資金ショートとは、返済や支払いに対し、手元に持っている現金・預金等の運転資金が足りない状態です。
- 赤字経営が続いており、自由に動かせるお金がなかった
- 返済や支払い、税金への認識不足
- 売掛金の回収サイクルが長すぎて回収が追い付いていなかったため、資金不足に陥った
債務超過はすぐさま倒産に直結するものではなく、改善策を打つこともできます。
しかし資金ショートの場合は「取り急ぎ必要な資金が不足している状態」であり、すぐさま倒産に直結してしまいます。
債務超過と赤字とはどう違う?
債務超過と混同されやすいのが、「赤字」です。
たしかに、債務超過は「純利益がマイナス=赤字になっている状態」ともいえます。
ただ、実質的な意味合いは少し異なります。
そもそも赤字とは、入ってくる「収益」より出ていく「費用」が上回っている状態です。
収益は資産のひとつであり、費用は負債の一部にすぎません。
いっぽう債務超過とは、「会社の全体的な負債のほうが総資産よりも多い」という状態なので、赤字とは対象になるものが異なるのです。
また、赤字は「ひと月」「当期」といった、あくまでも「一定の期間」にフォーカスして判断するものです。
仮に当期の利益がマイナス=赤字であったとしても、それまでに黒字経営、かつ債務の方が少なければ「債務超過」にはなりません。
たとえ一時的に赤字になったとしても、キャッシュフロー管理を適切に行い、かつ会社の純資産(積み立てていた利益剰余金など)を着実に増やしてさえいれば大丈夫です。
債務超過を解消するには?判断方法や予防策を合わせて紹介
健全かつ順調に経営を行うには、まず自社が債務超過に陥っているかどうかを把握することが重要です。
その結果債務超過に陥っているようならば、対策を講じる必要があります。
債務超過かどうか判断するには
債務超過かどうかを判断するには、会社の「貸借対照表」を見るとよいでしょう。
資産-負債で債務超過かを知る方法
貸借対照表の「資産」から「負債」を引けば、債務超過かどうかがすぐにわかります。
- 「資産>負債」……債務超過をしていない
- 「負債>資産」……債務超過している
資産のうちキャッシュ(現金、預金など)の割合が多い場合は、この判別方法がわかりやすいでしょう。
なお、負債の支払いに対し、会社の純資産(利益剰余金や資本金など)から多く支払っているようならば、債務超過の可能性が高いといえます。
現在の財務状況を「実態貸借対照表」として作成し直す方法
キャッシュ化できない資産の割合が多い場合は、現在の資産と負債を「実態貸借対照表」として改めて作成します。
現時点でのリアルな資産・負債状況へと「修正」することで、より正確な財務状況が分かるようになります。
- 売掛金や貸付金、未収入金……回収できないものは省略
- 仮払金や繰延資産……資産性のないものを省略
- 棚卸資産……架空在庫、不良在庫はないものとして計算
- 土地、投資有価証券……現在の時価に直して計算
- 建物……減価償却を適用した資産額で計算
【負債の修正】
- 役員未払金や役員借入金……純資産としてみなし、負債に含めない
- 退職給付引当金……積み立てが不足している場合は「負債」として計上
- 保証債務……保証人として債務を負っている場合は、負債の項目として計上
債務超過を解消する方法
債務超過を解消するには、資産を増やすことが先決となります。
以下のような方法により、債務超過の解消を目指しましょう。
- 利益をアップする
- 増資する
- DESを行う
- 債務免除を申し込む
- 会社再生法を適用、経営の立て直しを行う
利益アップや増資によって資産を増やすことができれば、債務超過の状態から抜け出せます。
またDES(デット・エクイティ・スワップ)を活用する手段もあるでしょう。
DESとは債権者(銀行など)が債務者(お金を借りた企業)の株式を取得して、債券を株式へと振り替える行為を指します。債権者が経営への参加権を持つため干渉されやすくなる側面もありますが、債務が免除され経営の立て直しがしやすくなるメリットは大きいでしょう。
そのほかには、債務免除や会社再生法の利用といった手段もあります。
これらを活用すれば、事業を畳まずに経営の立て直しができるでしょう。
ただし債務免除は債権者に必ずしも受け入れてもらえるものではない点や、会社再生法によるイメージ低下リスクは避けられない点など、注意点もあります。
あくまでも最後の手段として捉えつつ、できれば債務超過にならないこと、また財務状況の早期回復を目指すことを意識することが重要です。
債務超過の予防策
債務超過の予防には、以下の方法が有効です。
- 定期的に財務状況をチェックし、不安要素への対策を打つ
- 事業の見直しや撤退により、不要な費用を減らす
- 資金繰りに余裕があるうちに資金調達をしておく
- M&Aで会社の経営権を承継してもらう
自社の財務状況を定期的にチェックしておけば、債務超過の傾向を掴みやすくなり、早めに対策が打てるようになります。
またムダな出費を減らすこと、調達しやすい時期のうちに資金調達や会社経営権の承継を行っておくのも有効な対策です。
常に会社の状況を把握し、債務超過を防ごう
債務超過は比較的ゆっくり、年月をかけて陥る場合が多いものです。
そのため、定期的に会社の財務状況をチェックしておけば、債務超過になる前に対策が打ちやすくなります。
健全な経営を継続するためにも、貸借対照表の確認、および債務超過への対策、予防策を怠らないようにしましょう。