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契約書の甲乙はどっちが上?優劣や使用のメリット、注意点をチェック

契約書では「甲が乙に対し提供する製品は……」など、「甲乙」を使った表記をよく見かけます。甲乙というと「甲乙つけがたい」という使い方をされるケースも多いですが、契約書においてはどのような意味を持つ言葉で、それぞれの優劣はどっちが上なのでしょうか。

ここでは、契約書に置いての「甲乙」表記の意味、優劣の関係をご紹介します。甲乙表記を使うメリット・デメリットや、使用時の注意点、甲乙以外に使える略称についても解説しているので、ぜひご覧ください。

契約書で見かける「甲乙」表記とは?由来について

契約書では「甲」「乙」という表記をよく見かけます。
もともと甲乙とは「干支の十干」に由来する言葉です。
甲が1番、乙が2番めにくることから、契約書で用いられるようになりました。

ちなみに甲乙は2者間での契約で使われますが、3者間では「甲・乙・丙」、4者間では「甲・乙・丙・丁」となります。

契約書の甲乙はどちらが優先?

甲はお客さまや貸主、委託者など「立場が上になるほう」、乙は事業者や借主、受託者など「立場が下になるほう」に使われる場合が多いです。

また契約書によっては、契約書を作成する側を「甲」、契約相手を「乙」とするケースもあります。
このケースは、契約書作成側の規模や力関係が大きい場合によく見られます。

契約書に甲乙を使うメリットは?デメリットも解説

契約書で甲乙の表記を使うと、さまざまなメリットが得られます。その一方で、優劣関係が分かりにくくなるなどのデメリットもあります。
メリット、デメリットそれぞれを把握しておきましょう。

契約書に甲乙を使うメリット

契約書に甲乙を使うメリットは次のとおりです。

  • 契約書作成を簡略化できる
  • 記号化により文章が簡潔になる

契約書作成を簡略化できる

甲乙の表記を使うと、契約書のひな形化・簡略化がしやすくなるメリットがあります。

同じ内容の契約であれば、甲乙表記に入る前の定義文(「○○株式会社、以下『甲』、個人名、以下『乙』」のような表記のこと)の名称を入れ替えるだけで済むため、契約書本文の社名、個人名などを書き換える手間が省けます。

特に一般消費者との契約手続きにおいては、甲乙を使う方が事務作業を効率化しやすいです。
契約手続きを効率化することは、担当者の負担減にもつながります。

記号化により文章が簡潔になる

契約書の内容が長くなるほど文章を簡略化する必要性が生じます。

しかし、いちいち会社名、個人名を記載していくと、文章がどんどん長くなっていってしまうでしょう。

会社名や個人名などの名称を甲乙で記号化すると、文章をより簡潔にまとめられるようになります。
文章を簡潔化することで、契約書で重要な「内容」を理解しやすくなる効果も得られるでしょう。

契約書に甲乙を使うデメリット

契約書に甲乙を使用するケースは多いですが、法の専門家の中には「甲乙は使わないほうが良い」と考えている人もいるようです。
その理由としては、次のようなデメリットがあるからだと考えられます。

  • 甲乙の取り違えでトラブルが起こる場合がある
  • 甲乙形式に慣れていないと読みにくく感じる

甲乙の取り違えでトラブルが起こる場合がある

甲乙表記を使ったときによくあるのが、甲乙の順序関係や解釈を間違えるトラブルです。

たとえば「売主が甲、買主が乙」という前提で契約書を作成したにもかかわらず、実際には「買主が甲、売主が乙」で間違えて契約書を作ってしまった、という場合。
この場合は契約内容に矛盾や真逆の効果が生じてしまいます。

また、契約書を渡した相手が甲乙を読み違えてトラブルになったり、自身が「乙」とされている=立場が下であると解釈してしまったりするトラブルも多いです。

甲乙形式に慣れていないと読みにくく感じる

甲乙形式に慣れている人であれば、契約書に登場する双方を記号化し、正しく内容を読み解くことができます。

しかし甲乙形式に慣れていなかったり、契約書が長く何ページにもわたるものであったりする場合、途端に読みにくくなってしまいます。

誤読を避けるには、「甲がどちらで乙がどちらだったろうか」と感じさせない工夫が必要になるでしょう。

契約書に甲乙を使うときの注意点

契約書では、必ずしも甲乙を使う必要はありません。登場する当事者の関係性を表すことがはっきりとわかる言葉であれば、「A・B」でもなんでもよいのです。

むしろ、弁護士など法律の専門家の中には、「なるべく甲乙表記を使わないほうがよい」という意見まであります。

慣例などで甲乙を使わなければいけない場合、また甲乙を使うか迷った場合は、以下の注意点を参考にしてみてください。

甲乙表記を使うなら2者間までに留める

甲乙表記を使う場合は、なるべく2者間での契約のみに留めましょう。

たとえばA社、B社、C社の3者で契約を交わす場合、前から「甲・乙・丙」と3つ記号化することになります。
こうなると「甲は乙・丙に対し○○等の商品原料、技術及びツールを提供し……」というふうに、文章がかえって複雑化してしまいます。
これが4者間、5者間になるとさらに理解しにくくなるでしょう。

わかりにくい契約書は読み解き、理解するのに時間がかかる上、当事者にストレスを与えます。
また作成時の間違い、読み違えを誘発しやすいので、当事者が3者間以上になる場合は略称で契約書を作成することをおすすめします。

なお、2者間であっても複雑な内容の契約書、および要項が多く長い契約書になりそうなときは、甲乙表記を避けた方が無難です。

甲乙でわかりにくいようなら、代わりに略称で表記する

2者間の契約でも、甲乙表記で分かりにくいと感じる場合は略称を使うことをおすすめします。

たとえば商品を提供する側と購入する側であれば、「売主」「買主」という表記をします。
このような略称を使うと、甲乙に比べてそれぞれの立場が分かりやすくなるでしょう。

略称については後ほど具体例をご紹介しますので、参考にしてみてください。

英文の契約書では甲乙が通じないので使わない

英文の契約書では、甲乙表記を使いません。

そもそも英語には甲乙表記にあたる「A、B」の概念がないため、当事者をそのまま記載するか、契約上の立場(SellerとBuyer(売主と買主)など)で表記をするからです。

日本の感覚で甲乙表記、および甲乙にあたる表記をしないようにしましょう。

甲乙表現の言い換えは?事例別の略称を紹介

「甲乙表記ではわかりにくい」と感じたとき、どのような略称、表記をすればいいのか迷う場合もあるでしょう。

ここでは、契約書の種類別に甲乙表現の言い換えをご紹介します。

契約書の種類・目的「甲」となる当事者「乙」となる当事者
秘密保持契約書開示当事者受領当事者
売買(譲渡)契約書売主買主
供給(購買)契約書売主

発注者

買主
取引基本契約書売主

委託者・発注者

買主

受託者

金銭消費貸借契約書貸主借主
ライセンス契約書ライセンサー

(特許権者・著作権者)

ライセンシー
業務委託契約書委託者

ベンダー

受託者

ユーザー

賃貸借・リース契約書貸主

オーナー

借主

テナント

請負契約書発注者受注者
代理店契約書メーカー

売主

サプライヤー

代理店

販売店

買主

システム開発委託契約書委託者

ベンダー

受託者

ユーザー

工事請負契約書発注者受注者

請負人

工事業者

このような略称を使用すると文章に具体性が増し、より契約内容が伝わりやすくなります。

また甲乙の時と同じように、どちらがどの略称で表されているのかを説明することも忘れないようにしましょう。

<例>
「株式会社○○(以下「売主」)は△△株式会社(以下「買主」)に対し、売買契約を締結する」

自社で契約書を作成する場合は、ご紹介したような略称も適宜活用し、理解しやすく伝わりやすい契約書にすることを心がけましょう。

契約書類の甲乙を正しく読み取れるようになろう

契約書類の甲乙は、契約書を流用しやすいようにしたり、文章が簡潔になって内容を理解しやすくなったりする効果があります。ただし上下・優劣関係の混乱、取り違えを誘発しやすい側面もあるため注意が必要です。

甲乙表記を使用する場合はわかりやすい文章作りを心がけ、甲と乙それぞれの立場を間違えないようにしましょう。またトラブル防止には、自身が甲乙の関係を理解し、正しく読み取れる力を身につけておくことも大切です。

甲乙表記はともすれば古めかしく、堅苦しい印象を与える場合もあります。
よって一般消費者向けの契約書では、甲乙表記をなるべく使わない、という企業も多いです。

このような場合は「貸主と借主」「売主と買主」といった略称を使うとよいでしょう。
ケースごとに適切な表記を使用し、伝わりやすい契約書づくりを心がけることで、万が一のトラブル防止にもつながりますよ。

この記事の執筆者

ゼニス編集部

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