ケガや病気で働けなくなってしまったとき、「収入が途絶えてしまうこと」が気がかりになる方がほとんどではないでしょうか? そんな時に役立つのが、健康保険組合の「傷病手当金」という制度です。
ここでは、ケガや病気で仕事を休む際の「傷病手当金」について、支給条件や期間、計算方法を解説。申請の手順や注意点についてもご紹介しています。
自身が申請する場合の心構えとして、また企業側は従業員から受給希望があったときスムーズな対応ができるよう、それぞれ申請方法を把握しておきましょう。
傷病手当金とは? 支給条件をチェック
傷病手当金とは、会社の健康保険(健保組合などが提供するもの)に加入している人(被保険者)がケガや病気で働けなくなったとき、被保険者及び家族の生活を保障するための手当金です。
傷病手当金の具体的な受給条件
傷病手当金は以下の条件を満たした場合に受給できます。
- 雇用されている会社が加入している健康保険の被保険者である
- 業務外で発生したケガ、事故で仕事に就けなくなった
- 仕事に就けない期間が連続して3日以上あり、4日目以降も働けない
- 休業期間中に会社から給与の支払いがないこと
ポイントは「業務外で発生したケガや病気、体調不良であること」です。業務内(通勤も含む)で発生したケガや病気は労災保険による保障が行われますが、業務外だと労災ではなく傷病手当金の支給が適用されます。
また、重要なポイントとして「連続して3日休み、4日目以降も働ける状態ではないこと」も挙げられます。
この3日間というのは「待機期間」といって、傷病手当金を受け取るうえで必要な期間です。
なお、待機期間には土日祝などの公休日や有給も含めることができます。
たとえば土日祝休みの企業で働く人が3連休前の金曜日に全治1か月のケガ・病気の認定をもらった場合、もともと休みだった土日祝(月)の3日間が「待機期間」として消化されます。その後火曜日から傷病手当金が支給される、といった仕組みです。
また、同じ例で「火曜日は出勤したが水曜日から休む」という場合でも、土日祝(月)で待機期間は完成しているため、水曜日から傷病手当金の受給が可能です。
なお、休養期間中に会社から傷病手当金の額より多い給与(有給休暇含む)が支払われた場合、傷病手当金が支給されなくなります。傷病手当金より少ない額の給与であれば、傷病手当金から給与を引いた差額分が支払われる仕組みです。
会社を辞めていても傷病手当金がもらえるケースがある
会社を退職したあとは健康保険からも抜けることになるので、原則として傷病手当金の受給資格を失います。ただし、次の2つを満たしている場合は、会社を退職してもそのまま受給し続けられます。
- 退職日(被保険者資格の喪失日)の前日までに1年を超える被保険者期間がある
- 資格喪失時に傷病手当金を受給している
傷病手当金がもらえる期間は?
傷病手当金は支給開始から通算して1年6ヶ月分まで支給されます。
これはたとえば全治1年6ヶ月の病気を患った方が、1年経って体調が回復し、仕事復帰したとします。2ヶ月ほど働いたあと、再び病気にかかって働けなくなった場合、残り6ヶ月はまた傷病手当金がもらえる、という仕組みです。
令和3年12月31日以前は「途中で仕事復帰した期間も含めて1年6ヶ月」でしたので、実質的には1年6ヶ月分の傷病手当金がもらえないケースもありましたが、令和2年7月2日以降は上記の「通算1年6ヶ月」で統一されています。
参考リンク:令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます|厚生労働省
傷病手当金の計算方法は?
傷病手当金は以下の計算式で算出できます。
直近12ヶ月の「標準報酬月額」の平均額 ÷ 30日 × 3分の2 =1日あたりの傷病手当金
※休んだ日数単位で支給される
標準報酬月額とは、健康保険組合で健康保険料を算定する際などに用いる「給与区分」のことです。
標準報酬月額は毎月の給与に加え賞与、通勤手当などの手当を含めて算出します。また都道府県によっても区分、金額がことなるため、協会けんぽのHPで確認してみましょう。
参考リンク:都道府県毎の保険料額表 | 協会けんぽ | 全国健康保険協会
仮に標準報酬月額が40万円だったとすると、400,000円÷30日×2/3=1日8,888円となり、30日受給すると266,640円がもらえる計算です。
なお、被保険者期間が1年(12ヶ月)未満の場合は、次の2つのいずれか低い金額が傷病手当金として支給されます。
- 被保険者の被保険者期間(健保加入期間)における標準報酬月額の平均額
- 被保険者の属する保険者(健保など)の全被保険者の標準報酬月額の平均額
傷病手当金がもらえないケースもある?
一般的にはケガや病気で休んだ場合に傷病手当金が適用されますが、以下に当てはまる場合は傷病手当金がもらえない、または調整されるケースがあります。
②障害手当金や障害厚生年金の受給が決定した場合
③労災保険で休業補償給付を受けている場合
④出産手当金を同時に受けられる場合
①②については受給額の360分の1(=1日あたりの額)が傷病手当金の日額よりも低い場合、差額分の傷病手当金がもらえます。また③についても、傷病手当金の日額と比較しての休業補償給付の日額のほうが低い場合は差額が支給されるので覚えておきましょう。
④の出産手当金についても、傷病手当金の額が出産手当金よりも多ければ差額が支給されます。
傷病手当金の申請方法は? 必要書類もチェック
傷病手当金を申請する際は、所定の用紙に記入し提出する必要があります。
【被保険者(従業員)が記入する用紙】
【事業主(会社)が記入する用紙】
【療養担当者(医療機関)が記入する用紙】
引用元:健康保険傷病手当金支給申請書 | 申請書 | 全国健康保険協会
これら4枚の書類に記入したうえで、事業主がまとめて申請を行います。
申請時には添付資料として以下の書類が必要になる場合があります。従業員自身が用意するものも多いので、あらかじめ必要書類を揃えておきましょう。企業側も、どの添付書類が必要なのかを把握したうえで準備を呼びかけることが大切です。
各条件における必要添付書類 | |
---|---|
支給開始日前の12か月以内に転職した場合 | 前の勤務先の名称、所在地および勤務先に使用されていた期間がわかる書類 |
障害厚生年金・障害手当金を受給している場合 | 年金給付額等がわかる書類 ※老齢退職年金の場合は年金証書(またはこれに準ずる書類のコピー)、直近の老齢退職年金額を証明する書類(年金額改定通知書等)のコピーの両方が必要 |
老齢退職年金を受給し、資格喪失後に申請する場合 | |
労災保険から休業補償給付を受給している場合 | 休業補償給付支給決定通知書のコピー |
傷病の原因が第三者行為の場合(ケンカや事故など) | 第三者の行為による傷病届 |
被保険者が死亡し、相続人が傷病手当金を請求する場合 | 被保険者との続柄が分かる戸籍謄本など |
被保険者のマイナンバーを記載した場合 | 本人確認書類(マイナンバーカード) ※オモテ・ウラの両方をコピーし、貼付台紙に貼り付ける ※マイナンバーカードがない場合は、住民票、住民票記載事項証明書に加え、運転免許証、パスポートのコピーなどの本人確認書類が必要 |
参考リンク:健康保険傷病手当金支給申請書 | 申請書 | 全国健康保険協会
なお、傷病手当金の受給(振込)は申請から約1ヶ月後となります。
また協会けんぽでは1ヶ月単位での申請が推奨されている点も把握しておきましょう。これは、給与支払いの有無などを事業主が証明しなければならないことが理由です。
傷病手当金を申請する際の注意点
傷病手当金を申請するにあたって注意したい点がいくつかあります。
- 傷病手当金の申請には医師の証明が必要
- 傷病手当金の申請は2年以内に行う
先述のとおり、傷病手当金を申請するには医師の診断と証明が必要になります。よって、未受診のままでは申請ができないので注意しましょう。「明らかに体調が悪いので、このぐらいの休養が必要だろう」といった“見込み”での申請もできませんので気を付けてください。
また、傷病手当金は仕事を休んだ日(受給対象となりうる日)に対し1日単位で「時効」が生じることも知っておく必要があるでしょう。この時効は、休んだ日の翌日から2年と決められています。
よって傷病手当金を受け取りたい場合は、2年以内に申請しましょう。
傷病手当金は重要な生活の支えになる!安心して休養しよう
ケガや病気で働けなくなる可能性は、誰しもありえます。そのような時の生活を支えてくれるのが傷病手当金です。会社の健康保険に加入していてケガや病気になってしまった方は、自身が適用条件に当てはまるかを確認し、受給できるようならばぜひ活用しましょう。
また企業側は、傷病手当金の支給ルールなどを理解したうえで、すみやかな手続きを心がけるべきです。従業員や医師との連携を取りながら、スムーズな申請手続きを行いましょう。