製品やサービスの生産過程では、製品の加工や組み立て、管理維持といった「製造」に関わる人がいます。そのような人員に対し支払う賃金は「労務費」と呼ばれ、製造原価のひとつとして会計処理をします。
ここでは労務費の概要や人件費との違い、内訳などを解説。また労務費の種類や、種類別の計算方法、労災保険の計算に用いられる「労務費率」についてもご紹介します。
労務費について理解し、ぜひ原価の改善に役立ててみてください。
労務費とはどのような費用?人件費との違いや内訳は?
会計処理における労務費とは、「製品を生産するためにかかる労働力」へ支払う原価のことを指します。
つまり人件費の一種であり、「製造に直接かかわった人件費」とも言い換えられるでしょう。
【会計処理における人件費の種類】
- 労務費:直接「製造」にかかる費用のこと
- 販売費:直接「販売」にかかる費用のこと(広告宣伝費など)
- 一般管理費:会社の管理運営にかかる費用
「販売費」は販売、商品のサービス提供に必要な費用のことです。たとえば販売員の給与、広告宣伝費、発送費・配達費、商品の保管費用などは「販売費」として区分されます。
それに対し「一般管理費」とは、会社全体の管理業務で必要になる経費です。
例えば会社の従業員の人件費、オフィスの家賃、水道光熱費などは販売に関係しない費用ですが、これらは一般管理費に該当します。
一般的な「人件費」との違い
前の項では労務費は人件費に含まれる、とご説明しました。
労務費は製品の製造に携わる製造業、建設業、IT業、サービス業(および製造部門)で使用される費用です。
そのため販売や営業、管理といった「製造以外の部門」では発生しにくい費用といえます。
一般的に人件費というと、製造以外の部門での給与などを指すケースが多いでしょう。
労務費は「製造原価」のひとつなので、人件費ではあるものの、製造以外の部門とは異なる方法で計算・管理される点を覚えておきましょう。
労務費の内訳
以下の5項目の費用は、労務費に含まれます。
- 賃金
- 雑給
- 従業員賞与手当
- 退職給与
- 法定福利費用
賃金
製造部門に携わる月給制の正社員、派遣社員などへの給与は、賃金として計上します。
月給だけではなく、残業、休日出勤などの割増賃金も「賃金」に当てはまります。
雑給
アルバイト、パートタイムなどの時給で働く従業員への給与、割増賃金は「雑給」として区分します。
従業員賞与手当
製造部門に所属する従業員へのボーナス、通勤費、家族手当などの手当は、従業員賞与手当として区分します。
退職給与
製造部門の従業員へ支払う退職金のために積み立てているお金です。「退職給与」として計上します。
法定福利費用
法定福利費用とは、製造部門の従業員が加入している社会保険の会社負担分(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料)を指します。
労務費には2種類がある
前項では、労務費の内訳についてご説明しました。労務費には「直接労務費」「間接労務費」の2種類があり、
“特定の製品を生み出すためにかかった費用か、そうでないか”でそれぞれ分類して計上します。
直接労務費とは
直接労務費とは、製品を直接的に生産する作業を行った人員(直接工)に支払う賃金です。
具体的には「製造の組み立て、加工をした際の人件費」などが直接労務費にあたります。
ただし、直接工であっても、間接作業(機械の修繕、清掃など)に関する賃金は直接労務費にあたりません。
間接労務費とは
間接労務費とは、製品の生産にあたって“間接的に”発生する費用です。
直接労務費に比べると、さまざまな費用が「間接労務費」に該当します。
- 間接作業賃金……直接工が間接作業(機械の修繕など)を行うときに生じる賃金
- 間接工賃金……間接工(機械の修繕、清掃、運搬等を行う人)の賃金
- 手待賃金……停電、工具の手配不良などで作業できない時間(遊休時間)に支払われる賃金
- 休業賃金……従業員が休業しているときに支払う賃金
- 給料……製造工場の監督者(工場長など)や事務職員に対し支払われる給与
- 従業員賞与手当……賞与や通勤手当などの各種手当
- 退職給与……製造に携わる従業員へ支払う退職金の積立金
- 法定福利費用……社会保険料
労務費の計算方法は?
「直接労務費」「間接労務費」は、計算式を使って計算することができます。
直接労務費
直接労務費は「賃率」という割合を使って計算します。
賃率は、“直接工の作業時間あたりの直接労務費”のことです。
直接工の賃金 ÷ 製造の直接作業時間(組み立てや加工にかかった時間) = 賃率
賃率がわかったら、製品の製造にかかる直接作業の所要時間に賃率をかけると、直接労務費がわかります。
製品の製造に直接かかる時間 × 賃率 = 直接労務費
直接労務費を求める際は、間接作業にかかる時間を含めないようにしましょう。
ただし、直接労務費かどうかの判別は複雑になりがちです。理由としては以下の2つがあります。
複数の製品の製造、プロジェクト等の兼任
直接労務費は「ひとつの製品を直接製造したときの賃金」です。一方、複数の製品を同時進行で製造した場合は、製品・プロジェクトごとに「製品の製造に直接かかる時間×賃率」の計算し、それぞれの直接労務費を計算しなくてはなりません。
工数管理、およびプロジェクト管理のツールなどを活用しつつ、労務費の正確な管理を心がけましょう。
また、組み立てや加工をしていても、それが複数の製品に共通する作業であった場合は、直接労務費とみなされないので注意しましょう。この場合は「間接的な作業」とみなされ、間接労務費として計算することになります。
労務費の早期算出
「製造に直接かかった労働時間」は、製品をつくり終えないと計算できません。
しかしながら、こうした算出方法ばかりを取っていると、製品をつくり終えたころには原価(労務費)が膨大になっていることにもなりかねません。
こうした事態を回避するには、あらかじめ原価計算の時点で「製品の製造にかかる一般的な時間」を見積もっておくとよいでしょう。標準的な時間に「賃率」「生産量」をかけると、指標となる「標準原価」が算出できます。
そのうえで、実際の労働時間・賃率・生産量を掛け合わせた「実際原価」を算出します。
この標準原価と実際原価を比べて分析することで、改善点を見つけやすくなるのです。
間接労務費
間接労務費は「間接作業等にかかった賃金=直接作業以外の作業でかかった賃金」に対しかかる費用です。
そのため、次のいずれかの計算式で求めることができます。
①労務費(全体) - 直接労務費 = 間接労務費
または
②間接労務費(間接作業賃金、間接工賃金など)を合算していく⇒間接労務費の総額が分かる
労務費率は「請負に対する賃金総額の割合」のこと
労務費率とは、「請負金額に対する賃金総額の割合」を示すものです。
通常、労災保険料の算定には「賃金総額×労災保険率」という計算式を使います。しかし、複数の請負を行って業務を行う建設業では、賃金総額の算定が複雑になってしまいます。
こうした事情から、請負で業務を遂行する業種の労災保険料算定には、請負金額に労務費率をかけたものを「賃金総額」の代わりに使用すると定められているのです。
労災保険料は以下の計算式で求められます。
請負金額 × 労務費率 × 労災保険率 = 労災保険料
ちなみに、労務費率は「厚生労働省 労務費率調査」で3年に1回定められます。
具体的には建設事業の請負金額と賃金総額の割合、実際の工事の内容などにより決定される仕組みです。
【平成30年4月1日以降の労務費率の一覧】
事業の種類 | 労務費率 |
水力発電施設、ずい道等新設事業 | 19% |
道路新設事業 | 19% |
舗装工事業 | 17% |
鉄道又は軌道新設事業 | 24% |
建築事業(既設建築物設備工事業を除く) | 23% |
既設建築物設備工事業 | 23% |
機械装置の組立て又は据付けの事業 | 組立て又は取付けに関するもの 38% |
その他のもの 21% | |
その他の建設事業 | 24% |
事業者側は、実施している事業内容にマッチした正しい労務費率を適用し、労災保険料を算出しましょう。
労務費についてしっかり理解しておこう
製造業や建設業、IT業、サービス業などの企業が利益を増やすには、原価を抑えることが重要です。そのためには原価管理の適正化、すなわち労務費の適切な管理が必要になります。
労務費を正確に把握していないと、原価が膨れ上がり利益率も低下してしまうでしょう。労務費が多く発生する業種においては、労務費の把握と管理を徹底するようにしましょう。
また、労務費の正確な管理には、工数管理、原価管理がまとめてできるツール・サービスを利用するのもおすすめです。こうしたツール・サービスを活用すれば、労務費の管理にかかる手間やムダを減らしつつ、効率的に管理することができます。