ビジネス・プライベートを問わず、「念書」を書く/書いてもらうシーンは意外に多いものです。とりわけ「退職するとき」「お金の貸し借り」などには念書を用いて何らかの約束を取り交わすケースがよくあります。
そもそも念書とはどのような書類なのでしょうか? ここでは「念書」の概要や必要となるケース、書き方のポイントをご紹介します。よく似た書類である「契約書」「誓約書」との違いについても解説しますので、ぜひご覧ください。
念書とは「特定の事項を約束させる書類」のこと
念書とは「当事者間で交わす“何らかの約束”を文書化し、債権者が債務者に対して差し入れる文書」のことです。
義務を負担するのは債務者(渡された側)のみであり、債権者(渡す側)は義務を負担しません。
【念書で発生する義務】
・債権者(念書を発行して差し入れる側)……約束内容を守る義務は発生しない
・債務者(念書を受け取り署名する側)……約束内容を守る義務が発生する
たとえばA(債権者)が返済に関する念書を発行し、B(債務者)にお金を貸す場合、約束(返済)を守らねばならないのはBだけとなります。
つまりお互いが対等な立場となる「契約書」とは異なり、『一方的な義務が発生する書類』とも言い換えられるでしょう。
①ビジネス
……退職者に対する念書、賃貸契約の念書、始末書代わりに取り交わす念書
②プライベート
……賃貸契約の念書、金銭の貸し借りの念書
念書の法的効力や効果とは?
念書は一方的に発行・送付できるという特徴を持ってはいますが、一方的に送付した念書については法的効力が認められません。
そもそも念書はあくまで「約束の内容・詳細を明らかにする書類」であり、念書そのものの法的な効力はそこまで強くないのです。
ただし、法的な効力がまったくないかといえばそうでもありません。
約束を証明する“証拠”になる
正当な手段でお互い合意の上で交わした念書については、“約束の内容を証明する証拠”として、裁判等でも有効な判断材料になることがあります。
- 法的な義務を内容としている
- 作成者の“真思”によって作成された念書である
上記条件を満たした念書については、裁判などでの証拠として利用できます。
約束を履行するプレッシャーを与えられる
また、念書には「約束を守ることに対する心理的プレッシャーを与える」という意味合いもあります。
たとえば「退社時に秘密情報を漏洩しない」という約束をしたい場合、念書で約束を取り交わしているのと、口頭のみで通達するのでは、相手方の義務意識に大きな差が生じるでしょう。
万が一違反をした場合も、念書が“約束を守る義務”の存在を証明してくれるので、債権者(発行側)が有利になります。
公正証書化すれば強制執行もスムーズに進む
念書は公正証書化することもできます。公正証書とは公証役場で公証人が作成する文書のこと。
念書の中に「強制執行認諾文言」、つまり“このような行為をしたら強制執行をします”という内容の文言を記載しておけば、公正証書化して強制執行することができます。
そもそも強制執行とは、裁判を飛ばして、希望する措置(お金の貸し借りの場合は「給与から差し押さえて返済」など)を強制的に命じられるというものです。
義務を負う側が約束違反を犯すリスクがあると判断した場合、こういった方法があることも頭に置いておくとよいでしょう。
念書の書き方のポイントは?
ここからは、念書の作成例(テンプレート)をご紹介します。
たとえば「鈴木さん(A)が田中さん(B)から100万円を借り、返済が終わっていない残り40万円を分割で返済する」という状況で念書を発行するとします。この場合は、次のような形式で作成します。
①表題
②日付と提出先(お金を科した側、債権者)の氏名
③提出者(お金を借りた債務者)の氏名、押印
④約束の内容
⑤公正証書化する場合に必要な文言(強制執行認諾文言/公正証書化しない場合は不要)
⑥振込先情報
④の「約束の内容」については
- 借入日
- 残債額
- 残債の返済方法と返済期日について
上記3点を必ず明記しておきましょう。
また公正証書化する場合は、⑤のように強制執行承諾文言を明記します。
念書を作成するときの注意点は?
念書を作成する際には注意点もあります。
- 約束内容が公序良俗に反しないかを重点的に確認
- 抜け、漏れなく約束内容が明確になっているか確認
- “履行される約束計画”を踏まえた内容にする
約束内容が公序良俗に反しないかを重点的に確認
念書の内容が公序良俗に反する内容であった場合、約束そのものが無効になります。
これは民法90条で明確に決められた法律であり、
「義務を履行しない場合は結婚する」
「義務に反した場合は反社会的行為に参加しなくてはならない」
などわかりやすいものから、
「義務を履行しない場合は当社店舗で○ヶ月無料奉仕をすること」
など、強行法規に違反するものであっても無効になります。
また、強迫や詐欺、錯誤(当事者間で認識の誤りがあったこと)で交わした念書についても取消となるため、注意が必要です。
抜け、漏れなく約束内容が明確になっているか確認
念書の内容が不明確な場合についても、念書および約束の内容が無効になってしまうため注意しましょう。(これを『明確性の原則』といいます)
つまり、念書を発行する場合は、5W1Hを意識した明確な文言でないといけない、ということです。
who(誰が誰に対し、義務を履行するのか)
when(義務をいつ履行するのか)
where(義務の履行場所はどこか)
what(義務の内容)
why(義務がなぜ発生するか、その根拠)
how(義務を履行する方法)
また上記に加えて「複数の意味に捉えることができない文章で作成する」というのも重要です。
“履行される約束計画”を踏まえた内容にする
「500万円を貸したので明日までに全額返済する」など、義務履行の実現性が低い内容の念書を発行すると、かえって義務を果たしてもらえなくなります。
このような事態を防ぐには、そもそも念書を発行する前に「義務を履行するうえで無理なスケジュールではないか」「債務者が無理なく義務を果たせるか」を話し合うことが重要です。
金銭の貸し借りの念書でも収入印紙が必要な場合がある
念書は金銭の貸し借りでもよくつかわれますが、場合によっては「課税文書」にあたり、収入印紙の貼付が必要になることがあります。
もともと金銭消費貸借に関する契約書というのは、印紙税法において課税文書に含まれます。
よって「金銭消費貸借契約書」を作成しておらず、念書で金銭の貸し借りの約束を取り交わす場合は、念書が契約書に当たると判断され、収入印紙が必要になるのです。
一方、先に「金銭消費貸借契約書」を作成していて、別途で念書を作成する場合。この場合は念書への収入印紙貼付は必要ありません(契約金額を変更する場合などは収入印紙が必要になる場合があります)。
印紙税は書面内で扱う金額によって変わります。
【金銭消費貸借契約書(およびそれに該当する念書)の印紙税額】
1万円以下 | 非課税 |
---|---|
1万円~10万円以下 | 200円 |
10万円~50万円以下 | 400円 |
50万円~100万円以下 | 1,000円 |
100万円~500万円以下 | 2,000円 |
500万円~1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円~5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円~1億円以下 | 6万円 |
1億円~5億円以下 | 10万円 |
5億円~10億円以下 | 20万円 |
10億円~50億円以下 | 40万円 |
50億円以上 | 60万円 |
金額の記載のない場合 | 200円 |
引用元:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
念書とよく似ている「契約書」「誓約書」の違いは?
念書とよく混同されがちなのが「契約書」「誓約書」などの書類です。
シーンごとに適切な書面を使うためにも、それぞれの違いについて把握しておきましょう。
契約書とは
契約書とは、契約をする当事者双方に合意がある旨を示す書類のことです。
念書はA、Bのうち片方(債務者)が義務を負う内容で作成しますが、契約書はA、Bの両方が義務を負います。またその性質上、双方が署名、押印をして契約締結に至るといった違いもあるのです。
誓約書とは
誓約書は念書とほぼ同じ機能を持つ書類です。作成者(署名する側)が提出先に対し、何らかの約束を守ることを証明するのが目的となっています。
法的効力も念書と同じですが、わずかな違いとしては「使用されるシーン」が挙げられるでしょう。
誓約書はビジネスにおいて用いられるケースが多く、念書はプライベートで使われる場合が多く見られます。
誓約書についてくわしく知りたい方は、こちらもチェックしてみてください。
念書の性質、特徴を理解したうえで活用しよう
念書を取り交わす際には、片方の側のみに履行義務が生じます。
また適切に作成された念書は法的効力が生じますが、明らかに法律や公序良俗に反する内容であったり、錯誤や詐欺・脅迫などによって作成されたりした念書については法的な効力も無効になります。
もちろん、念書の性質や正しい作成方法を理解したうえで、正しい運用を心がければ問題ありません。
念書を用いる場面はどちらかというとプライベートなシーンが多くなりますが、他の書面と合わせて適切に使い分けましょう。