取引の相手によるミスや契約違反などによって、自社ビジネスへ影響や損害が発生するということがあります。
取引相手の債務不履行によって損害を受けてしまった場合、一定の要件を満たせば損害賠償請求が可能となるため、債務不履行による損害賠償籍給について正しく把握しておくことは、自社経営を守るうえでも大切なことです。
この記事では、2020年4月の民法改正を踏まえ、債務不履行にはどのような種類があり、どんな要件が揃えば損害賠償請求が可能なのか、また、損害賠償請求が可能な範囲や時効なども含めて、詳しくご解説いたします。
債務不履行とは
債務不履行とは、取引において契約による約束の義務を果たさないことをいいます。
ここで重要なのは、その取引に関して契約をしているか、がポイントです。契約によって約束を明確にすることで、約束によって発生した「義務」が「債務」となります。
債務不履行の種類
債務不履行には、次の3つの種類があります。
「履行遅滞」
履行遅滞とは、契約によって定められた債務の期限になっても、債務が履行されないことを指します。
債務を履行できるはずの期間があったにも関わらず、履行しないまま履行期を経過してしまい、履行されなかったのが債務者に帰責事由があることが、これに当てはまります。
履行遅滞となる前提には,債務の履行が可能な状況であることが要件として挙げられます。さらに、履行が遅滞となったことについて、債務者に故意・過失があったと判断されるものです。ただし、意図的に履行しない場合について、その理由が法律上正当な理由な場合は、債務不履行には当てはまりません。
「履行不能」
履行不能とは、債務の履行が何らかの事情により不可能となってしまったため、履行しなかったことを指します。
たとえば、譲り渡す予定の骨とう品を債務者の不注意により壊してしまい、譲り渡すことができなくなってしまった、というケースなどがこれに当てはまります。
債務の履行ができなかったことについて債務者に帰責事由があり、履行できない理由には、物理的に不能な場合だけでなく、法律的に不能となってしまった場合も含まれます。
「不完全履行」
不完全履行とは、債務の履行をしたものの、不完全な状態で履行されたことを指します。
債務を履行できるはずの期間があったにも関わらず、債務を契約で取り決めた状態に足りない状態での履行しか行わず、それが債務者に帰責事由があることが、これに当てはまります。
ただし、意図的に不完全の履行とした場合について、その理由が法律上正当な理由な場合は、不完全履行には当てはまりません。
債務不履行によって請求されるもの
債務不履行が発生した場合、債権者は債務者に対し、「契約にて取り交わした債務の履行請求」または「契約解除」または「損害賠償請求」について請求ができます。
履行不能の場合については、履行請求は行えません。
請求内容 | |
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履行遅滞 | 契約にて取り交わした債務の履行請求 契約解除 損害賠償請求 |
履行不能 | 契約解除 損害賠償請求 |
不完全履行 | 契約にて取り交わした債務の履行請求 契約解除 損害賠償請求 |
債務不履行によって損害賠償が請求できるケースは?
取引先の債務不履行が発生した際、債務の履行請求をまずは行うことが多いかと思いますが、相手の債務不履行による損害が大きい場合など、すぐにでも損害賠償請求へと踏み切りたいという場合もあるでしょう。
しかし、債務不履行による損害賠償請求には、いくつか要件があります。
損害賠償請求に値しないケースにも関わらず、取引先に損害賠償を請求してしまうと、貴重な取引先を失ってしまうことにもなりかねないので、損害賠償請求ができるケースについて、しっかり把握しておきましょう。
【債務不履行による損害賠償について】
2020年4月に改正された民法(第415条1項)では以下の通り定められています。
改正後:債務不履行の損害賠償(民法第415条1項) |
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債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。 ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 |
債務不履行の種類には、履行遅滞と履行不能、不完全履行の3つがありますが、これらは「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときまたは債務の履行が不能であるとき」にあてはまり、すべて損害賠償請求は可能となります。
つぎに、改正前の民法と比較してみましょう。
改正前:債務不履行の損害賠償(民法第415条) |
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債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも同様とする。 |
改正後の民法では「ただし~」の部分が追加されています。
これは、例えば天災によって商品が届けられない場合などを想定しています。債務不履行となった原因について債務者に責任がない場合は、損害賠償の請求はできないとされているので注意しましょう。
債務不履行による損害賠償請求に該当する要件
あらためて、相手の債務不履行による損害賠償を請求できるかどうかの要件をチェックしましょう。
- 相手と契約締結があるかどうか
- 損害が発生しているかどうか
- 発生した損害は、相手の帰責事由による債務不履行に起因するものかどうか
損害賠償請求ができる相手は、その相手と直接の契約がされている場合に限ります。
例外的に、取引が慣行している状況における場合は、個別に契約をしていなくても債務不履行に当てはまる場合があります。
債務不履行が発生しても、損害が発生していなければ損害賠償請求はできません。
発生した損害が、債務者の責任による債務不履行によって発生したものでなければ、損害賠償請求はできません。
債務不履行による損害賠償請求の範囲
債務不履行による損害賠償の範囲については、民法第416条で定められています。
債務不履行に基づく損害賠償請求の範囲 |
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1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。 2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。 |
債務不履行による損害賠償の範囲で確認しておきたいのが、「逸失利益」や「履行されていれば発生しなかった出費」などの「履行利益」についてです。
契約通り履行がされていれば得られたはずの利益を「履行利益」と呼び、債務不履行によって得ることができなくなってしまった利益のことを「逸失利益」と言います。
当事者間の事情を踏まえれば発生を予見できた「逸失利益」と「履行されていれば発生しなかった出費」(相手の債務不履行によって余儀なくされた出費)は、どちらも損害賠償請求の範囲となります。
ただし、債務不履行およびそれによって発生した損害について、債権者側にも過失が認められれば、損害賠償の額がその分減額されます。
債務不履行によって損害賠償の時効について
債務不履行による損害賠償請求には時効がありますが、債権の種類によって期間は異なります。
一般的な民事債権の場合は債権の履行請求が可能となった時から10年、商事債権の場合は5年となっています。
損害賠償請求には時効があるため、損害賠償請求の要件に当てはまるものがあれば、早めに相手に請求を行うようにしましょう。