フレックスタイム制は、比較的自由な働き方ができる労働時間制度です。働き方改革によってルールの改定がなされたこと、ライフワークバランスを重視したい労働者が増えていることなどの背景から、近年ではフレックスタイム制を導入する企業も増えつつあります。
ここでは、フレックスタイム制の概要や特徴、企業が導入するメリット・デメリットをご紹介します。自社で導入する際の参考としてお読みいただければ幸いです。
フレックスタイム制とは?
フレックスタイム制とは、従業員が仕事の開始時間・終了時間を自由に決められる変形労働時間制度です。日本では1988年から導入がスタートし、さまざまな企業が導入しています。
従業員にはあらかじめ「総労働時間」が決められており、その時間内で始業時間と終業時間を決められます。たとえば総労働時間が月150時間と決められている場合、ある日は10時間、またある日は6時間というふうに変えながら月単位で150時間働けばよい、ということになります。
一般的な「10:00に出勤して19:00に退勤する」という勤務形態に比べると働き方の自由度が高く、ライフワークバランスの充実が重要視される昨今、特に注目される働き方となっています。
コアタイムとフレキシブルタイムとは
フレックスタイム制は従業員自身で自由に始業・終業時間を決められますが、始業から終業の間には「コアタイム」を含める必要があります。
コアタイムとは、企業が定める「出勤していなければならない時間」のことです。たとえばコアタイムが12:00~15:00であれば、従業員は「10:00~17:00」「11:00~18:00」というふうに、コアタイムを含めた時間で勤務をします。
コアタイムの設定は義務ではありませんが、設けることで従業員同士の連携が取りやすくなる、会議やチーム単位での業務の予定を立てやすくなるなどのメリットが得られます。
また、フレックスタイム制でコアタイムを設ける場合、コアタイムの前後に「フレキシブルタイム」を設けることもできます。フレキシブルタイムとは文字通り「出勤・退勤時間の調整ができる時間帯」のことです。
なお、企業によってはコアタイムを設けず、労働時間の配分の全てを従業員の裁量にゆだねる働き方を採用しているケースもあります。このような働き方は「スーパーフレックスタイム制」と呼ばれており、より自由度の高い働き方ができることが特徴です。
ただしスーパーフレックスタイム制の場合であっても、労働時間が8時間を超えると1時間、6時間を超えると45分の休憩が必要というルールがある点を知っておきましょう。
フレックスタイム制の「清算期間」とは
フレックスタイム制で必ず知っておく必要があるのが「清算期間」です。
清算期間とは、「従業員が労働時間を調整できる期間」のことを指します。
2019年4月の法改正より前には1ヶ月単位での清算期間が設けられていましたが、生産期間内の実労働時間が総労働時間を超えていた場合は割増賃金の支払いが発生しました。反対に総労働時間よりも実労働時間が少ない場合は、欠勤扱いになり賃金が控除されてしまうか、働く必要がなくても欠勤扱いにならないよう総労働時間まで働かなければならなかったのが問題となっていたのです。
こうした状況を受け、2019年4月の法改正で「最大3ヶ月まで」と上限が延長されました。「実働が総労働時間を超えた月」「実働が総労働時間に足りない月」があっても3ヶ月間で調整をすればいいことになります。
3ヶ月内で労働時間の超過や不足があった場合は超過分の賃金精算、または不足時間分の賃金控除や不足時間の繰越などをする必要がありますが、3ヶ月と清算期間に幅を持たせたことで、さらに柔軟な働き方を実現できるようになったのです。
画像引用元:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
たとえば、ひと月の総労働時間が160時間のフレックスタイム制を導入している企業で、3ヶ月後に資格取得を目指して勉強をしている従業員がいたとします。
3ヶ月間の総労働時間は480時間となりますが、最初の2ヶ月間は180時間・180時間と長く働き、残りの1ヶ月間は資格勉強のために120時間だけ働く、といったことも可能です。
フレックスタイム制導入には就業規則の規定と従業員の合意が必要
フレックスタイム制の導入には、「就業規則の規定」「労使協定での従業員の同意」の2つの条件を満たす必要があります。
1.就業規則等への規定
就業規則等で「始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる」旨を定める必要あり。
2.労使協定で所定の事項を定めること
労使協定で以下の事項を定めなくてはならない。
①対象となる労働者の範囲
②清算期間
③清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
④標準となる1日の労働時間
⑤コアタイム(※任意)
⑥フレキシブルタイム(※任意)
参照:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
上記の2つを満たしていない場合、フレックスタイム制を導入することはできませんので注意しましょう。
企業がフレックスタイム制を導入するメリット
企業がフレックスタイム制を導入するメリットは次のとおりです。
- 従業員のラークライフバランス実現につながる
- ムダな人件費を抑えられる
- 離職率低下につながる
従業員のラークライフバランス実現につながる
フレックスタイム制では従業員が出勤・退勤時間をある程度自由に決められます。またスーパーフレックスタイム制では、完全に自由な時間での出退勤が可能となります。
一般的な勤務形態に比べて自由度の高い働き方ができるようになることで、従業員のプライベートの事情、体調などを考慮した働き方が実現するのは大きなメリットです。
たとえば「介護の必要な家族をデイサービスに送ってから出勤し、お迎え時間までに退勤する」「子供の保育園のお迎えがあるから早めに退勤する」など、フレキシブルな働き方ができれば、ワークライフバランスの実現にもつながるでしょう。
また誰かのケアだけでなく「プライベートの用事があるので早めに出勤して早めに帰る」「朝病院に行ってから出勤する」など、従業員自身の生活の充実につながる働き方も可能となります。このような働き方ができる企業なら、従業員の企業へのエンゲージメント(愛着、関係性)向上にもつながるでしょう。
ムダな人件費を抑えられる
フレックスタイム制を導入すると、従業員たちの業務効率アップ、ひいてはムダな人件費の抑制につながりやすいメリットもあります。
「何時から何時まで」という一般的な勤務形態の場合、繁忙期になるほど残業や休日出勤などの時間外手当が発生しやすい傾向にあります。こうした人件費の支出が恒常化すると、企業の経営を圧迫することも珍しくありません。
一方フレックスタイム制なら、「ヒマな日には早めに退勤し、忙しい日には労働時間を長く取る」といった働き方ができます。
もちろん、フレックスタイム制だからといって残業をゼロにすることはできないのですが、企業にとっては“必要な時に必要なだけ”労働力を確保しやすくなり、ムダな人件費のカットにつながりやすいのは事実といえるでしょう。
離職率低下につながる
フレックスタイム制で勤務時間のバリエーションが増えると、従業員にとって働きやすい環境となります。特に、結婚や子育てなどでライフステージの変化が起こりやすい20~40代の従業員にとって、自身の裁量で出退勤時間を決められるフレックスタイム制は心強い制度だといえるでしょう。
また40代以上の従業員についても、親の介護や体調不良などで柔軟な働き方を望むケースが少なくありません。
柔軟な働き方ができることで「長く働きたい」と感じてもらえれば、離職率の低下にもつながります。長期的に人材を確保し続けられるのは大きなメリットだといえるでしょう。
企業がフレックスタイム制を導入するデメリット
企業がフレックスタイム制を導入する場合、以下のデメリットも把握しておく必要があります。
- 従業員がコミュニケーション不足に陥りやすい
- 社外関係者との連携が課題に
- 勤怠管理が複雑になる
従業員がコミュニケーション不足に陥りやすい
フレックスタイム制で出退勤時間がバラバラになると、従業員同士のコミュニケーションが不足しやすくなる場合があります。特にスーパーフレックスタイム制を導入する場合、コアタイムがないので出社しても全員が揃うとは限りません。
よってフレックスタイム制を導入する場合は、一般的な勤務形態の企業よりもコミュニケーションをとる機会を増やしたり、コアタイムを設けて従業員同士のコミュニケーション、情報共有の時間を作ったりといった対策が必要になります。
社外関係者との連携が課題に
フレックスタイム制を導入する場合、一般的な勤務形態の企業との連絡・連携が取りにくくなるケースがあります。たとえば取引先から急ぎの連絡があったとしても、担当者となる従業員がフレックスのため出勤していない……となれば、当然連絡の返事は遅くなります。
そのため、社外関係者とのやりとりはチーム単位で担当したり、緊急連絡先を伝えたりといった工夫が必要です。
勤怠管理が複雑になる
企業にとってフレックスタイム制導入の障壁となりやすいのが、勤怠管理が複雑になる点です。
そもそも従業員が出退勤時間を決定するため、一般的な勤怠管理システムで管理しようとしてもフィットしません。一般的な労働形態に比べて「所定労働時間」「残業時間」の区別もつけにくいので、給与計算なども複雑になります。
フレックスタイム制を導入する際は、変形労働時間制対応の勤怠管理システムを導入する、フレックスに対応した人事評価の方法を採用するなどの対策を行いましょう。
フレックスタイム制を導入する際のポイントや注意点は?
フレックスタイム制を導入する際には、以下のポイント・注意点を把握しておきましょう。
- 使用者(企業)も労働時間の管理が必要
- 時間外労働の取り扱いが一般的な働き方と異なる
フレックスタイム制は従業員の裁量で勤務時間を決めますが、全てを従業員任せにしてはいけません。使用者側、つまり雇用する企業も従業員の勤務時間を把握し、管理する必要があります。特にコアタイムを設ける場合は、コアタイムを基準として早退や遅刻、欠勤などをカウントすることになりますので、あらかじめ法規定を把握しておきましょう。
また、残業については「清算期間を終えた時点での総労働時間を超えた分」が残業代となります。一般的な働き方と残業時間の扱いが大きく異なることを理解したうえで導入を検討しましょう。
まとめ
フレックスタイム制は時間・場所を問わない働き方ができる企業と相性が良いとされています。
たとえばエンジニアやデザイナー、プログラマー、WebディレクターなどのIT職やコンサルタント、設計士などの個人ベースで業務を行える職種では、フレックスタイム制を導入することでより働きやすい環境を整えられる可能性があります。
導入には注意点もありますが、従業員のワークライフバランス実現の手段として、フレックスタイム制を検討してみてはいかがでしょうか。