ビジネスでは、フリーランスや個人事業主、法人企業に対し「報酬」や「料金」を支払う場合もあるでしょう。外注(アウトソーシング)を活用して業務を委託することが多い場合、その金額や内容によっては「支払調書」を発行し、税務署へ提出しなくてはなりません。
ここでは、支払調書の基礎知識や提出が必要になる条件を解説。支払調書に記載すべき項目や、提出方法についてもご紹介します。
支払調書とは?誰に対し何の目的で発行する?
支払調書は、個人や法人へ業務を依頼し、報酬を支払った場合に発行する書類です。
支払調書には「1年の間に同じ人物へ一定額以上支払った」報酬額、および源泉徴収額などを記載します。
税務署では支払調書を「法定調書」と定めており、発行企業へ提出を義務付けています。
その目的は、正確な支払い状況を把握するためです。
- 企業が支払った報酬額が把握しやすい
- 税務署が報酬をもらった側の確定申告内容をチェックしやすくなり、脱税等の防止につながる
- 企業が支払った報酬額はわからない
- 税務署が参照する証拠(支払調書)が無く、報酬をもらった側が正しく確定申告をしているか分かりにくい
なお、支払調書を税務署へ提出すること自体は企業の義務ですが、報酬の支払い先(個人や法人)への交付については任意となっています。
支払調書と源泉徴収票の違いとは?
支払調書と源泉徴収票は同じ「法定調書」であり、条件を満たした場合は税務署へ提出が必要です。
この2つはよく似ていて混同されやすいのですが、それぞれ違います。
【支払調書】
- 税務署へ必ず提出が必要(提出要件を満たした場合のみ)
- 提出要件を満たしていなければ発行の義務はない
- 報酬の支払い先に対する発行義務はない(任意)
- ⇒発行した場合、税務署には提出義務があるが、支払い先への提出は任意
【源泉徴収票】
- 税務署へ必ず提出が必要
- 給与の支払い先(従業員)に対し交付義務がある
- ⇒従業員と税務署にそれぞれ交付・提出の義務がある
それぞれの違いを明確に理解しておきましょう。
支払調書は主に4種類ある
支払調書には大きく分けて4種類があります。
①報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
②不動産の使用料等の支払調書
③不動産等の譲受けの対価の支払調書
④不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書
このうち発行数が多いのは、①②のふたつです。
①報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
一般に「支払調書」というと、この「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を指します。
つぎの報酬のうち、年間で既定の支払金額を超えた場合は、支払調書を提出しなくてはなりません。
- 原稿料
- デザイン料
- 印税
- 翻訳料、通訳料
- 脚本料、作曲料
- 講演料、教授料
- 著作権使用料
- 放送謝金
- 弁護士、税理士、社労士報酬、外交員報酬
- ホステス、コンパニオンへの報酬
- 契約金
- 広告宣伝のための賞金
- 競馬の賞金
- 診療報酬
「規定の金額」は、報酬の種類によって異なります。
報酬の種類に応じた以下の提出条件を満たしていなければ、支払調書を税務署へ提出する必要はありません。
引用元:給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引|国税庁
例えば「広告宣伝のための賞金10万円を1回だけ、個人に支払った」という場合。この場合は支払調書の提出範囲を超えていないので、支払調書を発行・提出する義務はありません。
②不動産の使用料等の支払調書
同一人物に対し1年間に支払った「不動産使用料」の合計額が15万円(※)を超える場合、不動産の使用料等の支払調書を提出しなくてはなりません。
※消費税、地方消費税の額を含めた金額
不動産利用料とは、不動産の貸主(法人、個人)に支払う賃借料や不動産の権利金、更新料、礼金などを指します。「不動産」には建物や土地だけでなく、船舶、航空機などの借り受けの対価も含まれます。
ただし、不動産業者を営む個人のうち、主として建物の賃貸借の代理、仲介を目的に経営をしている方は提出義務がありません。
③不動産等の譲受けの対価の支払調書
不動産、不動産の上にある権利を譲り受けたとき、法人や不動産業者を営む個人へ規定以上の対価を払った場合は、支払調書が必要です。
こちらは同一人物に対し1年間に支払った金額の合計が100万円(※)を超えたときに支払調書を発行します。
※消費税、地方消費税の額を含めた金額
④不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書
不動産、および不動産の上にある権利について、売買の代金、あっせん手数料を支払ったときには「不動産等の譲受けの対価の支払調書」を提出します。
こちらも「不動産の使用料等の支払調書」と同じく、同一人物に対し1年間に支払った「不動産使用料」の合計額が15万円を超える場合に支払調書を提出する必要があります。
支払調書の記載項目は?
支払調書(ここでは「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」)には以下の記載項目を含めたうえで作成する必要があります。
引用元:給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引|国税庁
支払いを受ける者
……支払先の情報を記入します。
①住所または所在地
②氏名または名称
③マイナンバー または 法人番号
区分
……報酬の名称(原稿料、印税、契約料、弁護士報酬など)を記入します。
細目
……区分に応じて記載する項目です。
①印税……書籍名を記入
②原稿料、さし絵料……支払い回数を記入
③放送謝金、映画・演劇の俳優等の出演料……出演した作品の題名
④弁護士等の報酬、料金……関与した事件名、案件名
⑤広告宣伝のための賞金……賞金の名称
⑥教授・指導料……講義名
支払金額
……確定した支払いの金額を記載します。
源泉徴収されなかった報酬や未払いの報酬・料金についても漏れなく明記しましょう。
支払調書作成日の時点で未払金がある場合は、上段部分に未払額を内書きします。
源泉徴収税額
……年度中に源泉徴収すべき「所得税、復興特別所得税の合計額」を記入しましょう。
(摘要)
……診療報酬や災害による被害で源泉徴収の猶予を受けた税額がある場合、広告宣伝の賞金が金銭以外の場合などに記載する項目です。くわしくは「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引|国税庁」で確認してみましょう。
支払者
……報酬や料金を支払った者の情報を記載する欄です。
①住所(居所、または所在地)
②氏名または名称
③電話番号
④マイナンバー または法人番号
なお、支払先である個人事業主やフリーランスに対して「支払調書の写し」を交付する際は、マイナンバーを記載しないで交付します。
マイナンバーは「支払先」「支払者」の最大2ヵ所に記載していますので、写しを渡す場合は注意しましょう。
支払調書を発行したら税務署へ提出義務がある!提出の期限・方法
支払調書を発行した場合、税務署へ提出をしなくてはなりません。
提出期限
支払調書の提出期限は、報酬を支払った年の翌年、1月31日までと決められています。
提出遅れにより罰則はないですが、なるべく早めに発行、提出するよう心がけましょう。
また、提出内容に誤りがあった場合は、提出した支払調書の写し、および給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表(OCR帳票)を添えて正しい支払調書を再提出する必要があります。
なお、虚偽の内容で提出した場合、所得税法で定められた罰則(1年以下の懲役、または50万円以下の罰金)が科せられることもあるので注意しましょう。
提出方法
支払調書の提出方法には紙の書面、CD-ROMによる電子データ、e-Taxなどがあります。
CD-ROMでの提出やe-Taxで提出する場合は事前申請が必須になります。
申請から登録完了まで一定の期間がかかるため、CD-ROMやe-Taxによる申請を考えている場合は早めに申請しておきましょう。
参考リンク
[手続名]支払調書等の光ディスク等による提出申請及び本店等一括提出に係る申請手続|国税庁
法定調書の作成・提出について | 【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)
支払調書が同一の種類、かつ1,000枚以上になる場合は、CD-ROMやe-Taxでの提出のみとなります。
提出時は
- 支払調書
- 源泉徴収票等の法定調書合計表
この2点を揃え、管轄の税務署へ提出しましょう。
支払調書の提出要件を満たしている場合は必ず税務署へ提出しよう
報酬や料金の支払いがあり、かつ条件を満たしている企業は、支払調書を税務署へ提出する義務があります。
支払う相手への発行、交付は任意ですが、税務署には必ず提出しなくてはならないので、混同しないようにしましょう。
また、支払調書は支払先ごとに作成が必要です。よって外注などをした相手が多くなるほど、支払調書の作成作業が増えることになるでしょう。支払調書の作成機会が多いようなら、専用のツール(法定調書を簡単に作成できるソフト)を導入するのも一つの方法です。