クリエイティブ業界や金融・投資などの世界では「ポートフォリオ」という言葉をよく耳にします。また企業活動においては「事業ポートフォリオ」を作成するケースも多いです。
実は、ポートフォリオの意味は業界によって大きく異なっているのをご存じでしょうか?
ここでは、今さら聞けない「ポートフォリオ」の意味について解説。業界によって変わる“4つの意味”や重要性、作成のポイントについてもご紹介します。
そもそもポートフォリオとは?
ポートフォリオとは、もともと「書類入れ」という意味です。
転じて日本では、「さまざまな内容の情報をまとめたもの」「スキルや実力、経歴を示す資料」というニュアンスで使われています。
4つの業界での「ポートフォリオ」の意味と違い
ポートフォリオの意味は業界によっても異なります。また、業界ごとに作成の目的も変わってくるため、正しい意味を把握しておきましょう。
- 事業ポートフォリオ
- クリエイティブ職の就活・転職ポートフォリオ
- 金融ポートフォリオ
- 教育ポートフォリオ
事業ポートフォリオ
事業ポートフォリオは、企業においてどの事業が利益につながっているのかを一覧化したものを指します。
それぞれの事業について
- 成長率
- 収益率
- 安全性
などを把握できるようになっています。ポートフォリオ化することで不採算事業が把握しやすくなり、撤退やM&Aなどスピーディな経営判断ができるメリットがあります。さらに、俯瞰的な視点で自社の事業について一覧化する過程で、自社の強みも分かります。
クリエイティブ職の就活・転職ポートフォリオ
デザイナー(グラフィック領域、Web領域)やイラストレーターなどのクリエイティブ職では、ポートフォリオを「作品集」という位置づけで扱っています。
クリエイティブ職のポートフォリオは就活や転職、フリーの場合は営業をかけるときに使用するほか、会社単位で案内資料として作成する場合も多いです。
クリエイティブ職のスキルは文章で表すよりも、実際の作品を見てもらうほうが伝わりやすくなります。そこで役立つのがポートフォリオです。自身のスキルや実績、経歴を示す“サンプル”として先方に提示し、評価してもらうことで、適正なマッチングが実現するのです。
金融ポートフォリオ
金融・投資業界で「ポートフォリオ」というと、投資家が保有する金融商品(現金、預金、株式、投資信託、債券、不動産、金など)の一覧と組み合わせの内容を指します。
金融・投資においては分散投資が理想とされています。これは1つの金融商品のみに偏った投資をしてしまうと、市場変動が起こったときに資産が大きく減ってしまうリスクがあるからです。
投資の有名なたとえ話に「卵を1つのかごだけに入れていると、かごが落ちたとき全てが割れてしまう。しかし1つずつ別のかごに入れれば、1つが割れても他の卵は安全である」という話があります。これはまさに「いろいろな金融商品に分散して投資する」という分散投資の考え方、リスクヘッジの方法を表しているのです。
教育ポートフォリオ
教育業界でのポートフォリオとは、「個人評価ツール(パーソナルポートフォリオ)」を指します。
具体的には生徒が提出したレポート、テストの答案、活動記録などをファイリングしたもので、個人の総合的な学習評価に使われます。
事業ポートフォリオ作成のポイントは?
事業ポートフォリオはどのような手順で、どんな点に気を付けて作成すればよいのでしょうか。
ここでは事業ポートフォリオの作成ポイントをご紹介します。
- PPMで自社の現状を客観的に把握する
- メインとなる事業の決定
- 自社独自の強みを明らかにする
- 企業理念にそった事業ポートフォリオになっているか確認
1.PPM分析で自社の現状を客観的に把握する
PPM分析とは「プロダクトポートフォリオマネジメント」のことです。1970年代に開発されたフレームワークで、事業を4つの項目に分類したうえで客観的な評価をするために用います。
- 花形(Star)
- 問題児(Problem Child)
- 金のなる木(Cash Cow)
- 負け犬(Dog)
……マーケットシェアと成長率が高く利益を出しやすい事業。競争が激しく積極的投資の継続が望ましい事業。
……市場成長率と競争が激しい事業だが、マーケットシェアが低く利益が出しにくい事業。ただしマーケットシェアを高められれば花形、金のなる木として化ける可能性がある。SaaS、ネット証券、AIなどの事業が該当。
……マーケットシェアが高く、積極的な投資をしなくても安定して利益を出せる事業。得られた利益は金のなる木に該当する事業へ再投資するほか、「花形」「問題児」などの事業に投資するとよい。
……投資は必要ないものの市場成長率、マーケットシェアが低い事業のこと。自社事業において負け犬に該当する事業がある場合は、撤退や縮小も視野にいれることが望ましいとされる。
2.メインとなる事業の決定
PPM分析で事業を振り分けたあとは、自社のメイン事業を定義します。個々で役立つのが「CFT分析」というフレームワークです。
CFT分析では「顧客」「機能」「技術」の3つの評価軸を使います。
- 顧客(Customer)
- 機能(Function)
- 技術(Technology)
……年齢、性別、居住地など、商品・サービスのターゲットを絞り込む。
……自社の商品・サービスが解決できる課題、または提供できる価値を明確にする。
……どんな技術で顧客ニーズを満たす価値・機能を提供できるかを明確にする。
新規事業の開発、イノベーションの創出も技術軸に含まれる。
3.自社独自の強みを明らかにする
次に、「長期間需要がある商品・サービスを提供している」「代替え商品・サービスがない」「独自の技術を使っている」など、他社とは明確に違う点を明確にしていきます。希少価値の高い技術があれば、強みとしてピックアップしてみましょう。
4.企業理念にそった事業ポートフォリオになっているか確認
こうして自社の現状、メイン事業の定義、自社の強みが明確になったら、事業ポートフォリオを作成していきます。また事業ポートフォリオは「企業理念」に沿って作成することも重要です。理想とする企業のあり方と事業内容にブレがないかも改めてチェックしておきましょう。
就活・転職のポートフォリオ作成のポイントは?
就活や転職のためにポートフォリオを作成する際には、「自分のスキル、経歴を誰にでもわかるように伝える工夫」が重要です。
クリエイティブ系のポートフォリオでは実際の作例・作品などを掲載することになりますが、ただそれだけでは経歴が伝わりにくいです。かといって経歴のみを羅列しても「どのくらいのスキルがあるのかがわからない」と思われてしまうので、以下を心がけましょう。
- 経歴を時系列順に掲載する
- 使用しているツールと使えるツール、資格をまとめて記載する
- 実際の作例、作品を掲載する
- 読みやすく見やすいデザインで構成する
- 詰め込みすぎない(営業先によって複数のテイストを準備しておく)
また、媒体は紙かWebに分かれますが、デザイン、イラスト、漫画などのクリエイティブ職では「紙」「Web」どちらも用意しておくと便利です。Webで営業をかける場合は共有しやすいWebポートフォリオが役立ちますが、オフラインでは場所次第でインターネットの接続が不安定になることがあるからです。Webも準備しつつ、紙のポートフォリオも合わせて持参しておきましょう。
Web関連の仕事や3Dモデリングなどの場合はソースコードや3Dといったデジタルデータを見られることが多いため「Web」のポートフォリオがよいでしょう。
Web系やデザイン系、イラスト・アートなどの分野ではポートフォリオの内容が仕事の獲得に大きな影響を及ぼします。就活や転職だけでなく、フリーランスが仕事を獲得する際にも重要なツールとなりますので、妥協せず作成しましょう。
金融ポートフォリオの考え方は?
金融ポートフォリオでは、「投資先を分散させること」が重要と考えられています。仮に特定の投資先にばかり資産を配分してしまうと、その投資先での大きな市場変動(値崩れなど)が起こったときに大きなマイナスを生んでしまう可能性が高いからです。
一方、「個別株」「投資信託」「金」「不動産」というふうに、さまざまな投資先へ均等に資産を分散している場合はどうでしょうか。この場合、仮にどれか1つの金融資産の価値が大きく下がったとしても、他の資産がプラスであれば全体の収支としてはプラマイゼロ、もしくはプラスに転じる可能性さえあります。たとえマイナスが出たとしても他の金融資産でカバーできるので、リスクは最小限に抑えられます。
こうした「リスクを最小限に抑えながら分散投資する」というのが金融ポートフォリオの考え方であり、実際に最適な分配投資の組み合わせを探るため「ポートフォリオ理論」が日々研究されています。
業界ごとのポートフォリオの意味を理解しておこう
ポートフォリオの意味は業界ごとに大きく異なります。意味を間違えるとコミュニケーションに齟齬が生じる場合もあるため、どのような文脈で「ポートフォリオ」という言葉が使われているのかを正しく把握しておきましょう。
また、起業されている方が事業ポートフォリオを作成する際には、自社の現状把握やメイン事業の決定、強みの可視化などのプロセスで作成していくと効率的です。
事業ポートフォリオは今後の事業戦略に役立つうえ、各事業の売上高を確認することで財務体質の改善にもつながります。今後の事業成長のためにも、ぜひ作成してみることをおすすめします。