ペーパーレス化が進み電子文書の活用が目まぐるしいなかで、電子文書の改ざんしやすさに関して不安の声がよく聞かれます。
従来の紙の書類の場合は、文書の信頼性を高めるための方法として、公証役場で確定日付印を取得することで、確定日付の時点におけるその文書の存在を証明することができました。
昨今の電子データにおいて確定日付印に変わるものとして用いられるようになったのが、「タイムスタンプ」です。
タイムスタンプは、どのような仕組みで用いられているのでしょうか?
この記事では、タイムスタンプの役割と使い方の仕組みについて、そして活用方法などについて詳しくご紹介いたします。
タイムスタンプとは
タイムスタンプとは、電子文書がある時点で存在していること、そして内容の改ざんが行われていないことの2つを証明する技術です。
改ざんしやすく改ざん履歴が残りにくい、といった電子文書のデメリットへの対応策として、米国のSurety社が1990年代初頭に生みだし、日本においても2000年代から徐々に普及し始めました。
2020年3月には「タイムスタンプ認定制度に関する検討会」を開催し、翌2021年に「時刻認証業務の認定に関する規程」を施行。そして指定調査機関として、一般財団法人日本データ通信協会を指定するに至りました。
現在では、日本データ通信協会認定の第三者機関である時刻認証局(TSA)がサービス運用を行っており、電子契約を結ぶ時や電子データを保存する際に電子文書にタイムスタンプを付与することで、電子文書の存在や改ざんされていないことを証明できるようになっています。
タイムスタンプの役割と用途
電子文書による契約にはタイムスタンプによる法的拘束力はなく、たとえタイムスタンプがなくても電子契約は有効となります。たとえば、民事裁判においても、タイムスタンプや電子サインなしで作られた電子文書も証拠として提出できます。
しかしながら、タイムスタンプや電子サインがない電子文書は、本人によって作られたものかどうか、誰かに改ざんされていないか、などの照明が困難なため、証拠としての効力は強くありません。
電子文書にタイムスタンプや電子サインを施すことで、実印や確定日付印が付与された紙の文書と同じように、裁判でも十分効力を発揮できるようになるのです。
タイムスタンプが活用される場面
国税関係書類においてタイムスタンプの付与が必要となるものには、以下のものがあります。
- 契約書
- 領収書
- 請求書
- 納品書
- 領収書控
- 請求書控
また、医療現場では「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」により、電子カルテなどにタイムスタンプを活用してします。
そのほかにも、電子データの信憑性が重要となるシーンは多く、研究データや独自コンテンツなどの知的財産データへの活用、そして不動産の売買をはじめとする各種契約書や注文書等、見積書や建築図面など、タイムスタンプを付与する電子データにはさまざまなものがあります。
電子サインとの違いは?
電子契約の際に、タイムスタンプと同じように信用を高めるものとして取り入れられている「電子サイン」。タイムスタンプと電子サインとでは、どのような違いがあるのでしょうか。
分かりやすく言うと、電子サインは、「誰による文書なのか」という部分を証明するものでるのに対し、タイムスタンプは「いつの文書なのか」という部分を証明することができるものです。
電子契約や電子データへの信ぴょう性を担保するためには、前述した「本人のものであること」「いつ作成されたもので改ざんされていないかどうか」ということを立証できるかどうかが重要です。
そのため民事裁判のルールでは、電子文書にはタイムスタンプと電子サインの両方を付与することで、裁判において証拠として認められる効力が高まるとしています。
タイムスタンプの導入方法と利用の流れ
①タイムスタンプのシステムを導入
タイムスタンプを導入するためには、タイムスタンプのシステムをまず導入する必要があります。
システムの導入と合わせて、一般財団法人日本データ通信協会が認定している時刻認定局と契約を結びます。電子帳簿保存法で求められるタイムスタンプの要件を満たしている事業者は、日本データ通信協会の公式Webサイトで確認しましょう。
タイムスタンプに加えて電子サインのサービスも利用する場合は、あわせて申し込みましょう。
②電子文書作成者がタイムスタンプの付与依頼を行う
電子文書へタイムスタンプを付与するには、まずは電子文書の作成者が、時刻認証局へタイムスタンプの発行を依頼します。
依頼の際には電子文書を送るのではなく、電子文書から作成したハッシュ値(電子データから一定の計算手順によって求められた固定長の値)のみを送ります。
ハッシュ値から元のデータを復元することはできないので、元データの内容について時刻認証局に知られることはありません。
ハッシュ値の特徴として、「データが同じ内容であれば必ず同じ値となる」という性質があります。少しでもデータが改ざんされれば、ハッシュ値は変わってしまうので、改ざんされていることが判明できる仕組みになっています。
③時刻認証局がタイムスタンプを発行する
時刻認証局では、受け取ったハッシュ値を元に、時刻情報を偽造できないように結合して「タイムスタンプ」を発行し文書作成者(利用者)へ送付します。この作業により、この時点において電子文書の存在が証明されたことになります。
④電子文書とタイムスタンプの保管
時刻認証局によって発行されたタイムスタンプを、文書作成者(利用者)が電子文書とともに保管しておきます。
⑤電子文書の非改ざん性の検証
電子文書が改ざんされていないことを証明する際は、電子文書のハッシュ値とタイムスタンプのハッシュ値を照合し、データが一致するかどうかを確認します。
数値が同じであれば、タイムスタンプを付与した時点から、電子文書が改ざんされていないということが証明されます。
タイムスタンプ導入のその他の方法
タイムスタンプを導入したいと考えた時、タイムスタンプ機能が組み込まれた電子契約サービスを利用するという方法もあります。
電子契約サービスは、電子契約を安全に行うために提供されているサービスで、各事業者社からさまざまなものが提供されていますが、タイムスタンプ機能が組み込まれたものも多く存在しています。
タイムスタンプ機能が付いた電子契約サービスを利用することで、タイムスタンプを付与した電子文書を扱えるようになるでしょう。
タイムスタンプに関する法改正
タイムスタンプの制度は、2020年と2022年の法改正によりで緩和され、活用しやすくなってきました。
2020年10月の法改正によって、タイムスタンプの付与が自社によるもののほか、取引相手によるものも認められるようになりました。例えば取引先からの請求書に取引先のタイムスタンプが付与されていれば、自社のタイムスタンプを付与する必要性はなくなり、そのまま保存できるようになりました。
<2022年の法改正>
2022年の改正によって、導入開始3カ月前の日までに申請が必要とされていた税務署長の事前承認について、2023年4月1日以降は廃止されることになりました。
また、一定の要件を満たす電子帳簿は電子データのまま保存することが可能となり、受領する請求書について紙原本による確認が不要となりました。
電子文書は、紙資源が不要で保管場所の必要もない点、また離れた場所からも確認できるなど、メリットはたくさんあるものの、文章の改ざんなどの不安要素もあります。
タイムスタンプは、そういった電子文書のデメリットをカバーするための作られたものです。
紛争トラブルへのリスクのある社外との取引関連文書や知財関連文書をはじめとして、多くの電子文書への付与ができるよう、これからもより活用しやすいような運用も進んでいくことでしょう。
タイムスタンプの付与は、事業者を守ることにも繋がるので、積極的な活用を検討されてみてはいかがでしょうか。