商標登録は、企業や商品を他社と区別する上で重要な手続きです。現在多くの企業では、自社のロゴや商品・サービス等について商標登録を行っています。登録を行い法的な権利を得ることで、自社の商品やサービスのオリジナリティを担保し、将来の利益やブランドイメージ向上、トラブル回避などが期待できるからです。
この記事では、商標登録の概要や登録のやり方、商標登録をしなかった場合に起こりうる影響を解説します。加えて商標登録によって得られる4つのメリットについて掘り下げ、ビジネスに与える具体的な恩恵をご紹介します。
商標登録の重要性やメリット、リスク回避の重要性を理解し、自社のブランド保護と競争力強化につなげましょう。
商標登録とは?
引用元:特許庁「知的財産権制度入門テキスト 第4節 商標制度の概要」
商標とは、会社が自社の商品・サービス、ブランドを他社と区別するための文字やマーク等のことです。そして商標登録とは、商標を特許庁へ公式に登録し、商標権を獲得する手続きを指します。
企業は商標登録を行うことで、自社の商品・サービスの独自性、独占する権利を獲得できます。
また消費者に対しては、商標登録が行われている商品・サービス等の誤認を防ぎ、不利益を与えないようにする効果もあります。
例えば「クロネコヤマト」のロゴマーク、「アディダス」の文字ロゴやマークなどは、商標登録によって法的に保護されており、他社が無断で使用することはできません。これによりオリジナル性を確保し、消費者の誤認や不利益を防いでいます。
仮に無断で商標を他者に使用された場合でも、商標登録をして商標権を獲得していれば使用の停止や損害賠償請求などを行えます。加えてすでに登録されている商標については、他者が同じ(または類似の)商標を登録することはできません。
なお、商標登録した商標は他社等に権利(ライセンス)の使用を許諾することができます。この場合商標権は商標登録をした企業が保有しており、ライセンスを利用する側は契約を結んでライセンス料金を支払うことで商標を利用できるようになります。
関連リンク:特許庁「知的財産権制度入門テキスト 第4節 商標制度の概要」
商標の種類
商標は文字だけでなく、図形や記号、立体的形状や音などさまざまなタイプがあります。
【商標の種類】
文字商標 | 文字のみの商標(ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字、数字等) |
---|---|
図形商標 | 図形のみで構成された商標 |
記号商標 | のれん記号や文字を図案化して組み合わせた記号、記号的な紋章による商標 |
立体商標 | キャラクターや動物などの立体的形状からなる商標 |
結合商標 | 異なる意味合いの文字を組み合わせた商標、および文字や図形、記号、立体的形状の2つ以上を組み合わせた商標 |
動き商標 | TVやデジタルデバイス等に表示される文字や図形など、時間経過で文字・図形が変化する商標 |
ホログラム商標 | 輪郭なく使用でき、単色または複数の色彩の組み合わせのみからなる商標 *看板や包装紙などに使用される色彩が代表例 |
音商標 | 音声や音楽、自然音など、聴覚で認識される商標 |
位置商標 | 図形等を商品等に付す位置が特定される商標 *ゲームコントローラーのボタン等が代表例 |
商標登録のやり方
商標登録の手続きは特許庁の窓口で行うほか、郵送、オンライン申請でも手続きができます。
商標を登録したい場合は、以下の流れで手続きを行いましょう。
- 類似商標がないか調査する
- 申請書類を準備する
- 特許庁へ出願する
- 審査を受ける
- 登録料を納付して登録完了
関連リンク:初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~ | 経済産業省 特許庁
類似商標がないか調査する
商標登録する際は、まず既存商標に類似の商標がないかを確認しましょう。
同一または類似する商標が登録されていると、自身がその商標を登録することができません。また、商標の無断使用とみなされ、商標権侵害につながる恐れもあります。
既存の商標については独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供している「特許情報プラットフォーム」から検索可能です。キーワードを入力すれば文字や図形を含むさまざまな商標を探すことができますので、同一または類似商標が存在する場合には別の商標での登録を検討してみましょう。
関連リンク:特許情報プラットフォーム|J-PlatPat [JPP]
申請書類を準備する
次に、申請書類を作成しましょう。商標登録は書類の提出、もしくはインターネットでの電子申請にて出願を行います。
▪︎紙申請の場合
「商標登録願」という用紙に必要事項を記載し、提出します。
商標登録願は以下の関連リンクよりダウンロードできますので、印刷して記入し、提出しましょう。
▪︎電子申請の場合
電子申請の場合は「電子出願ソフトサポートサイト」よりインターネット出願ソフトをダウンロードしてから、出願書類を作成・提出します。
このとき電子証明書が必要になりますが、同サイト内でアナウンスがありますので合わせて確認してみましょう。
関連リンク:
各種申請書類一覧(紙手続の様式) – 独立行政法人工業所有権情報研修館
電子出願ソフトサポートサイト(はじめての方へ STEP-2 証明書の準備)
特許庁へ出願する
紙の書類または電子申請の準備ができたら、特許庁へ商標登録の出願を行いましょう。
出願時には、出願する商品やサービスの「区分数」に応じて出願料の支払いが必要です。また、後に登録を行う際にも手数料がかかります。
仮に1区分で出願する場合、①出願費用で12,000円、②登録料の納付で32,900円が必要になるため、トータルでは合計44,900円がかかる事になります。
紙の書類で申請する場合はさらに電子化手数料がかかるため、費用を節約されたい場合は電子申請を検討されるとよいでしょう。
【商標登録にかかる費用】
①出願費用 | 3,400円+(区分数×8,600円) |
---|---|
②登録料の納付時に発生する費用 | ・10年分一括納付:区分数×32,900円 ・5年分×2回で分割納付:区分数×16,400円 |
③電子化手数料 (紙の書類で出願する場合のみ必要) | 2,400円+(枚数×800円) |
審査を受ける
登録出願した商標は「方式審査」「実体審査」という2つの審査を受けます。
- 方式審査:書類の形式について不足や誤りがないか確認する審査
- 実体審査:その商標に同一または類似した商標がないかを広い観点からチェックする審査
審査に通過した場合は「登録査定」となり、登録手続きを進めることができます。
一方、審査によって登録不可となった場合は「拒絶理由通知」が届きます。
この場合、意見書で反論したり、書類の修正・再提出をしたりといった方法で拒絶理由を解消すれば商標登録できます。ただし意見書での反論等でも拒絶理由が解消されない場合は、商標を登録することができません。
登録料を納付して登録完了
登録査定を受領してから30日以内に所定の登録料を納めると、正式に商標登録が完了します。
登録料は10年分一括納付の場合、区分数×32,900円。
5年分を2回に分けて分割納付する場合は、区分数×16,400円です。
なお、商標権については商標登録が完了した時点で発生します。
商標登録をしない場合にどうなるのか?
自社の商品やサービスについては必ずしも商標登録をする必要はありません。
ただし商標登録をしない場合には、以下のようなリスクが考えられます。
- 商標侵害のリスク
- ブランドの弱体化
- 市場での差別化の欠如
- 知的財産権の保護不足
- 市場進出の障害
商標侵害のリスク
登録されていない商標は、他者が同様の商標を使用する可能性があります。これにより、競合他社との法的紛争が発生する可能性があります。
例えば自社が商標登録しないまま使っていたロゴマークがあり、それに類似したロゴを他社が商標登録をしたとします。
その際他社が「商標権の侵害をしている」と主張してくれば、たとえ先に商標を利用していたのが自社だとしても、商標権を獲得していないため商標の使用中止や損害賠償の支払いなどにつながる恐れがあるのです。
ブランドの弱体化
商標登録がないと、独自のブランドアイデンティティを確立しにくくなります。顧客が混乱し、市場でのブランド価値が低下する可能性があります。
市場での差別化の欠如
商標登録がない場合、他社との差別化が困難になります。例えば商標登録をしないまま、自社で新たな商品を開発・発売したとします。このとき同業他社が似たような内容・名称の商品を販売し始めたとしても、商標登録をしていなければネーミングの使用中止・変更等を請求することができません。
またトラブルにならなかったとしても、顧客が製品やサービスを識別しにくくなり、競争優位性を失うリスクがあります。
知的財産権の保護不足
商標登録がないと、自社の知的財産権を効果的に保護する手段が限られます。
他者が商標を不正に利用するリスクが高まれば、自社の商品やサービスに対する信用の低下につながり、利益減などのネガティブな影響が表れやすくなるでしょう。商標登録を済ませておけば、こうしたリスクを減らせます。
市場進出の障害
商標登録がないと、新しい市場に進出する際に現地での法的問題が生じる可能性があります。商標登録が認められていない場合、進出先での製品やサービスの展開が制限されることがあります。
とりわけ海外市場においては、現地で広く利用されている商標等と類似しない商標であることを確認してから進出しないと、深刻なトラブルにつながる恐れがあります。
商標登録をする4つのメリット
商標登録をすればビジネスを有利に進められ、将来の自社の利益や財産を守ることができます。言い換えれば、“自社ブランドを守ること”につながるのです。
ここでは、商標登録をして得られる4つのメリットをご紹介します。
商標の独占使用ができる
登録した商標は、自社が独占使用できるようになります。
自社の商品やサービスに関する印象的なフレーズやキャラクター、ロゴ等を商標登録しておけば、それらを独占的に使えるようになり、自社のブランドを守ることができます。
また商標によって独自性を出しやすくなることから、競合との差別化がしやすく、ビジネスを有利に進められるようにもなるでしょう。
商標を勝手に使用されるリスクをなくす
商標登録をすることで、自社の商標を無断で使用されるリスクを防ぐ効果が得られます。
先に商標登録をすることで他社が同一・類似の商標を登録できないため、取引上の混同によるトラブルを阻止できるでしょう。
またあらかじめ商標登録をして法的な効力を得ていれば、商標を無断利用された場合に商標権の侵害を主張することができます。その際には使用の差し止め請求や損害賠償請求などの法的手段が取れますし、無断利用によるブランドのイメージダウンリスク軽減にもつながるでしょう。
自社の品質保証を伝えられる
商標登録された商品・サービスについては「一定の品質が保証されている」というイメージがもたれやすく、取引において非常に有利になります。
また消費者からも同様に信頼を獲得しやすくなるため、売り上げアップや販路拡大につながる可能性も期待できるでしょう。
ライセンスすることが可能になる
自社が商標を登録した場合、自社内で利用するだけでなく第三者へ商標利用を許諾(ライセンス)することも可能です。
わかりやすい例として「有名キャラクターを使ったグッズ販売」が挙げられるでしょう。これは、既存の商標(ここではキャラクターの名称や見た目、デザイン、カラーなど)を活用し第三者(他社)がグッズを制作、販売するというものです。
許諾ずみの商標を活用することで事業を拡大したり、ライセンスの使用料として新たな収入を確保したりできれば、自社のさらなる成長へと繋げられるでしょう。
商標登録する際の注意点
商標登録をする際には注意したい点がいくつかあります。
本項では、商標登録をするにあたって知っておきたい注意点を3点ご紹介します。知らずに商標登録をしようとすると将来的なトラブルにつながる恐れもありますので、必ず確認しておきましょう。
商標登録ができるものとできないものがある
商標には登録できるものとできないものがあります。
引用元・関連リンク:特許庁「出願しても登録にならない商標」
先にご説明したとおり、商標登録できるものは事業者が自ら扱っている商品やサービス等であり、かつ他社と区別するためのマーク(識別標識)です。文字や図形など視覚的に識別できるものに加え、音も商標として登録可能です。
一方、他社との区別が難しいものや公共機関のマークとの見分けがつきにくいもの、すでに登録されている商標や周知・著名な商標と酷似している商標については、登録ができません。
例えば「スマートフォン」の商品で「スマホ」という商標を登録したいと考えても、一般的な名称のため他社の商品と明確に区別することは難しく、商標登録が認められません。
商標登録できないものの具体例については特許庁公式サイトでも詳しく公開されていますので、あらかじめ確認しておきましょう。
商標権には存続期間がある
商標権には登録日から10年間の存続期間があり、更新しない場合はそのまま商標権が消滅してしまうため注意が必要です。
仮に2024年6月1日に商標登録をした場合、10年後の2034年6月1日が「商標権存続期間の満了日」となります。更新手続きをしたい場合は、存続期間満了日の6ヶ月〜満了日までの間に行いましょう。
なお、存続期間は何度でも更新できますが、商標権の更新には更新登録の手続きと「更新登録料(商標の区分数×43,600円)」が必要です。詳しくは特許庁の資料、および公式サイトをご確認ください。
関連リンク:特許庁「商標権の更新」
海外でもする場合はそれぞれの国で登録する必要がある
商標登録は登録を行った国の中でのみ有効となります。
例えば日本で商標登録を行った場合、商標権が適用されるのは日本国内のみとなり、アメリカやフランスでは商標権を得られません。
つまり海外でも商標登録をする場合は、国ごとにそれぞれ登録手続きを行う必要がありますので注意しましょう。
なお、海外で商標登録をする手段としては、マドリッド協定議定書という国際条約を使った「複数国への一括出願」、「国ごとの特許庁へ個別で直接出願」の2つの方法があります。
自社の事業戦略や状況に応じた手法で商標登録をされると良いでしょう。
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まとめ
本記事では商標登録の概要とやり方、メリット、注意点などを解説しました。
自社の商品やサービスでビジネスを展開していく場合、商標登録をすることで利益を独占しやすくなります。また商品・サービスのブランド力を高める上でも商標登録は必要です。
また商標登録を行うことで、将来的に発生するさまざまなリスクの予防にもなります。
他社に思わぬ形で自社と類似するものを販売され、イメージを毀損(きそん)されるリスクや、類似によるトラブルや闘争などのリスクを防ぎたい場合は、早めに商標登録を済ませておきましょう。