従業員の健康・生活を度外視する「ブラック企業」は、コンプライアンス意識が低く、法令違反が当たり前……というケースも多く見られます。これから就職や転職をするにあたり、ブラック企業を回避するには「見分け方」を知っておくとよいでしょう。
ここでは就職・転職をしたい方へ向け、ブラック企業の特徴や求人情報での見分け方を解説します。さらに、これから起業される方に向け、自社をブラック企業化しないためのポイントについてもお伝えします。
ブラック企業の特徴とは?
ブラック企業の明確な定義はありませんが、一般的には長時間労働やセクハラ・パワハラによる嫌がらせが横行していたり、社員のライフワークバランスを無視した働き方を強制していたりする企業を指します。
また一般的な相場からかなり低い賃金体系を築いていて、「薄給で長時間の労働を求める過酷な職場」であるケースも多いです。
次の11の特徴に当てはまる企業は、ブラック企業である可能性がかなり高いといえます。
□休日が年間80日以下、有給休暇が取れない
□残業代が出ない(サービス残業)
□セクハラ、パワハラが常態化している
□極端なノルマ、ルールを課している
□コンプライアンス意識が低い
□時給換算した給料が最低賃金を下回っている
□名ばかり管理職、みなし残業制を悪用している
□離職率が高い
□上下関係に厳しい
□精神論でしか指導しない
よくあるイメージとしては「残業が多く過労死が起こってもおかしくない状況で働いている」というケースです。長時間の残業が常態化している企業では、残業代を圧縮するために「○時間までは残業をつけていいが、それ以上はサービス残業で」という独自のルールがまかり通っているケースも多く見られます。
こうした企業では休日返上で労働を強要せざるを得ない状況が当たり前になっている場合も多く、月の休日も6日以下、有給休暇を取るなんてとんでもない……といった空気が蔓延しているケースも多々あるのです。
また、パワハラやセクハラなどの嫌がらせ、言葉の暴力やノルマの過度な要求が当たり前になっている企業も「ブラック企業」といってよいでしょう。このような企業はコンプライアンス意識が低く、内部告発などによって訴訟等に発展するケースが多いです。
そのほか、業務量に対し給与があまりにも低かったり、管理職の仕組みやみなし残業制度を悪用して正当な残業代を支払わなかったりといったケースも多いです。
劣悪な環境ゆえ離職率が高く人が定着しない職場、上下関係に厳しい体育会系の職場も「ブラック企業」といってよいでしょう。
ブラック企業を見分けるコツは?
ブラック企業に入社してしまうと、時間、気力、体力の全てを奪われてしまいます。人によっては心を壊してしまい、長い間体調不良に苦しむ……なんてことも珍しくありません。
就職・転職活動でブラック企業を回避するには「ブラック企業ならではの特徴」を知っておく必要があります。加えて、面接での質問でもブラック度をはかることができますので、ぜひ把握しておき役立てましょう。
ブラック企業は求人情報を見ればある程度判別できる
企業の求人情報をチェックすると、その企業がブラック企業かどうかをある程度判別できます。
よくある特徴は以下の6つです。
- 長期間求人情報を出している
- 他社に比べ賃金が極端に低い(または高い)
- 就職・転職サイトの口コミ評価が低い
- 「やりがい」「アットホームさ」を前面にアピールしている
- 「未経験歓迎」を強くアピールしている
- 飲み会など、強制参加のイベントが多い
長期間求人情報を出している
ブラック企業は過酷な労働条件ゆえ人が定着しません。よって、あまりにも長期間にわたって同じ内容で求人を出している企業は、ブラック企業である可能性が高いでしょう。求人情報を定期的にチェックし、「この企業、1年前も人員を募集していたな」という企業があれば要注意です。
他社に比べ賃金が極端に低い(または高い)
また、同業他社に比べて賃金が極端に低いか、極端に高い場合も注意が必要です。賃金が低い場合はいわずもがな「やりがい搾取」をしている可能性がありますし、高い場合も長時間労働やハードなノルマを課す前提での金額である可能性があります。特に「みなし残業制」の場合、本来の使い方を逸脱した長時間残業を強いられるおそれがあることも頭に入れておきましょう。
就職・転職サイトの口コミ評価が低い
ある程度知名度のある企業であれば、就職・転職サイトの口コミをチェックしてみるのも効果的な方法です。単純な評価の高さ・低さはもちろんですが、働いたことのある人の感想はとても参考になります。
たとえば口コミサイトに「残業は多いがやりがいは十分にある」と書いていた場合、精神的にタフな人であれば残業の多さを乗り越えられるかもしれません。しかし、そうでない人にとっては「長時間拘束されワークライフバランスの実現が難しい職場」と感じるでしょう。
理想の労働環境、許容範囲は人それぞれではありますが、自身が「ブラック企業だ」と感じる基準を明確にした上で、口コミを参考に取捨選択することはとても重要です。
「やりがい」「アットホームさ」を前面にアピールしている
求人情報に曖昧なアピールが頻出する企業は警戒したほうがよいでしょう。
ブラック企業の求人広告では「やりがいのある仕事」「アットホームな職場」といったあいまいな文言がよく出現します。これは、企業としてのアピールポイント(職場環境の良さなど)が少なく、全体の雰囲気でしかアピールができないことがひとつの理由です。
飲み会など、強制参加のイベントが多い
こちらは人によっても評価が分かれるところですが、飲み会やバーベキュー、社内スポーツ大会などの強制参加行事が多い企業はブラック企業である可能性がやや高いです。
社内の結束力を高めるイベントそのものは問題ないのですが、『強制参加』となると話が変わってきます。このような職場ではプライベートの時間を削ってまで飲み会等へ参加しなくてはならず、心身ともに負担に感じる場合が多いので、避けた方がよいでしょう。
ブラック企業に入ってしまったらどう対処すべき?
いいなと思った会社がブラック企業と知らず、入社まで進んでしまった……。
このような場合、どんな対処・対策をすればよいのでしょうか。
- 労働局に相談する
- 違法行為の証拠集めをしておく
- 弁護士に相談する
- できるだけ早く退職する
- 転職を検討する
- 起業する
まず「ブラック企業かもしれない」と思った時点で労働局に相談することをおすすめします。
労働局は各都道府県に設置されており、給与の未払いや違法残業、ハラスメントなどの労働問題について相談ができます。
残業代未払いなどの違法行為が行われている場合には、証拠を集めておくことも重要です。特に金銭的な損失が生じている場合や。セクハラ・パワハラにより心身に重大な支障が生じている場合は、弁護士に相談することも有効な手段となります。
そのうえでおすすめなのが、できるかぎり早く退職・転職を検討することです。
ブラック企業で酷使される従業員の中には「辞めても他で働けない」という強迫観念を抱いている方も多く見られます。また金銭的な問題から、大きな負担を感じているのにブラック企業にしがみついてしまうケースも少なくありません。退職・転職をする以外には「会社を改革する」という方法もありますが、実際はほぼ無理といってよいでしょう。
売り手市場が続く昨今では、新たな転職先を探すことはそう難しくありません。なにより、心身が壊れてしまってからでは働くことさえ難しくなってしまいます。
まずはご自身の心と体の健康を守ることを最優先としつつ、ぜひ今後の身の振りを考えてみて下さい。
ちなみに、転職・退職以外の方法として「起業する」という選択肢もあります。
ある程度の資金は必要になりますが、ご自身のスキルや人脈を生かしてやりたいことがある場合は、起業も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
起業後に自社のブラック企業化を防ぐには?
これをお読みになっている方の中には、「会社を立ち上げたいがブラック企業化してしまわないか不安」という方もいらっしゃるかもしれません。これはもともとブラック企業で働いていて嫌気がさし、理想の会社を立ち上げたい……という方によく見られる不安感情です。
起業して会社を設立する際に、ブラック企業にならないようにするためには、以下のような心がけを行いましょう。
法令と労働基準の遵守
大前提として、労働法や労働基準法などの労働関連法令を遵守することは非常に重要です。法令・労働基準を遵守する取り組みを行うことで、ブラック企業化を防げます。
健全な労働環境の整備
従業員の働きやすい環境を整えることも重要なポイントになります。職場の安全や快適な労働環境を構築するためにも、正しい労働整備を行いましょう。
コミュニケーションと透明性の確保
ブラック企業化を防ぐには、従業員とのコミュニケーションも重要です。
従業員から直接意見や不満を聞き取り、居心地の良い風土を醸成するための対策を考えましょう。また問題が起こった場合には、解決に積極的に取り組む姿勢を示したり、組織内の情報共有、意思決定プロセスの透明性を高めたりすることも大切です。
公正な人事評価と報酬体系の構築
「仕事を頑張っても報われない」という環境は、従業員のモチベーションを奪い、大きな精神的負担となります。公正な人事評価制度や報酬体系を構築し、従業員のモチベーションを引き出す仕組みを整えましょう。場合によってはインセンティブ、ジョブ型雇用など、「頑張れば評価されるシステム」を取り入れることも効果的です。
ワークライフバランスの尊重
拘束時間が長くプライベートが犠牲になる職場は、ブラック企業の最たる特徴といえます。ブラック企業化を防ぐためには、従業員のワークライフバランスを尊重し、柔軟な働き方を推進しましょう。
具体的にはフレックスタイム制度やリモートワークの提供、有給休暇の推奨など、働く人々が仕事とプライベートを両立できる環境を整えることが効果的です。
研修とキャリア開発の支援
成長が望めない職場は人が定着せず、企業成長も鈍化します。人材流出によるブラック企業化を防ぐには、従業員のスキルアップやキャリア開発を支援する研修プログラムを提供する方法が効果的です。
従業員が成長できる機会を提供することで、やりがい、モチベーションの向上にもつながります。また企業にとっても生産性の向上、活性化といった効果が期待できるでしょう。
ブラック企業との関わりはメリットなし!
ワークライフバランスの充実は人生の幸福度にも大きな影響を及ぼします。しかし、ブラック企業ではワークライフバランスの実現など程遠く、やりがいの搾取や精神的・肉体的苦痛といったマイナス要素のほうが大きくなりがちです。
これから就職・転職される方は、ブラック企業を避けて職場探しを行いましょう。また入社してしまった際には自身への被害を最小限に抑えるためにも、迅速に行動することが大切です。
今や転職は当たり前となっており、短期間に何度も転職を繰り返しているといったことがない限りは「早くやめると経歴にキズがつく」と思われることもありません。また、ブラック企業しか就職できない、というのも思い込みであるケースが多いです。
本記事を参考にしたり、就職・転職エージェントなどをうまく活用したりして、ぜひご自身を大切に扱ってくれるホワイト企業を探してみて下さい。
またご自身で起業される方も、自分の会社がブラック企業化しないよう対策を講じていきましょう。