スタートアップやベンチャービジネスの話題では、「イグジット」という言葉をよく耳にします。そもそもイグジットとはどのような意味で、何を目的に行うものなのでしょうか?
ここではイグジットの意味や目的、イグジットの方法について解説。イグジット戦略の考え方や、日本とアメリカのイグジット手法の違いなどもご紹介しています。
「起業してビジネスを成功させ、イグジットを目指してみたい」という方は、ぜひチェックしてみてくださいね。
イグジットとは?
イグジットは「出口戦略」とも呼ばれ、ベンチャービジネスや企業の再生において株式の売却、またはIPO(株式公開)をして利益を得ることを指します。
近年よく耳にする「スタートアップ」は、このイグジットによる利益の獲得をゴールとして起業、成長する会社のことです。
イグジットの目的とは
イグジットの目的は、高めた企業価値をもとに莫大な資金を獲得することです。
企業が成長をすると企業そのものの「価値」が上がります。また株式を公開すれば、投資家からの注目を集め、株価が上昇していきます。
つまり企業が十分に成長した時点で、創業者が保有する株を売却したり、会社を売却したりすることで、売却益により大きな利益を得られるのです。
イグジットの種類とは?
イグジットの方法は、大きく分けて2つあります。「IPO(株式公開)」と「M&A(事業承継)」です。
さらに、そのほかにはMBO、EBO、LBOというイグジットもありますが、日本ではIPOかM&Aが選ばれるケースがほとんどです。
それぞれの特徴やメリット、デメリットをご紹介します。
IPO(株式公開)
IPO(Initial Public Offering/イニシャル パブリック オファリング)は、非上場企業が証券取引所へ上場し、株式を一般公開することを指します。
上場前は、経営者や出資者など、一部の人間しか会社の株式を購入できません。
しかしIPOで株式を公開すると、一般の投資家も自由に株式を購入できます。
これにより資金調達がしやすくなったり、企業の知名度、信用度アップにつながったりといった効果も期待できるでしょう。
M&Aのように経営者が代わることもないので、現在の経営者はそのまま経営に携わることができます。
また、IPOをするにあたって経営者は株式を売却することになりますが、その際にキャピタルゲイン(売却差益)を得られるのも魅力です。保有株式数によっては莫大な売却差益を得られる可能性もあります。
ただし、上場するには株主数や流通株式数、流通株式時価総額などの基準をクリアする必要があります。
上場の審査自体にも数年かかるほか、上場後は株主への責任なども生じるため、よりシビアな経営が求められるでしょう。
M&A(事業承継)
M&A(Mergers and Acquisitions/マージャーズ アンド アクイジションズ)は、経営者や出資者が自身の会社や事業を第三者へ「売却」し、事業承継をするイグジットです。
第三者とは具体的に言うと他の企業や、投資会社などが挙げられます。
株式や事業を譲渡することで「事業承継」をし、経営権を明け渡すことになりますが、IPOに比べ短期間でイグジットを達成できるケースも多いでしょう。
また、赤字企業はIPOができませんが、M&Aであれば赤字であっても売却できるケースがあります。
「今は赤字ながらも、会社や事業に将来性があり、黒字転換が可能」と判断されれば、買い手が現れることも多いのです。
ただし、買い手あってのM&Aですので、買い手が現れない場合には当然イグジットも達成できません。
また想定しているより低い金額で売却せざるを得ない、といったケースもあるため、必ずしも高額で事業承継できるとは限らない点にも注意が必要でしょう。
MBO
MBO(Management Buyout/マネジメント バイアウト)とは、今の経営陣が創業者、出資者の保有している株式を買い取る行為を指します。創業者・出資者は株式を手放すのと引き換えに、資金を手にすることでイグジットを達成します。
株式を買い取った者が会社の「経営者・兼所有者」となるため、スピード感をもった施策が講じやすくなります。一方、株価によっては買い取りに膨大な資金が必要になる点がデメリットといえるでしょう。
EBO
EBO(Employee Buyout/エンプロイー バイアウト)とは、従業員が創業者、出資者の持つ株式を買い取る方法です。
従業員が買い取った株式の保有割合によっては経営も任せられるようになるので、後継者がいない企業であっても事業承継が可能なことが魅力です。
ただし、買い取り資金の調達については資金不足になりやすい、融資が必要になるなどの課題もあります。
LBO
LBO(Leveraged Buyout/レバレッジド バイアウト)とは、融資を受けて資金を調達し、会社・事業を買い取ってしまうことです。こちらも売却をした側(経営者、出資者)がイグジットを達成します。
「レバレッジ」の字のごとく、融資金を使って買い取りをするため、自己資金が乏しくても事業承継ができるのがメリットです。ただし、融資である以上は返済が必要になるため、会社の利益が出ない状態が続いてしまうと返済が難しくなるデメリットもあります。
イグジット戦略(イグジットプラン)とは
イグジットを目指すうえで策定すべきなのが「イグジット戦略(イグジットプラン)」です。
ここでは日本でよく用いられるIPO、M&Aの場合でご説明します。
IPOによるイグジット戦略
IPOによるイグジットでは、株式が高騰したタイミングで売却をすることで大きな利益を得られる可能性があります。特に成長が著しい企業の場合、売却差益は相当な金額になるでしょう。
また上場による企業イメージの向上も、IPOのメリットだといえます。
営業活動はもちろん、イメージアップにより採用活動にも良い影響が表れる可能性が期待できるので、経営者はそのままに、企業としての力を底上げしたい場合にも向いています。
IPOでは保有株式の全てを売却しなくてもよいため、「経営権が移らない範囲で株式を残しておき、手にした売却差益で事業を拡大する」といったことも可能です。
ただし留意点として以下のようなポイントがあります。
- 収益性などの上場基準をクリアする必要あり
- 財務状況などの管理体制、制度の構築が必要。管理費用も発生する
- 上場後は上場維持基準をキープしないと上場が取り消される
IPOには企業成長が必須であり、数年を費やすのが一般的です。そのため、ごく短期間でイグジットを目指したい場合にはM&Aのほうが適している場合もあります。
メリットだけではなく、上記3点を知ったうえで、IPOによるイグジットを目指すか検討してみましょう。
M&Aによるイグジット戦略
M&Aによるイグジット戦略は、IPOのように上場を必要としません。よって、IPOに比べると短期間でイグジットが達成できる可能性もあります。
「新規事業のために資金が必要なので、成長した企業(事業)を想起売却し、利益を得たい」という場合は、M&Aによるイグジット戦略のほうが向いているでしょう。
ただし、M&Aは事業を売り渡すことになるため、経営権を残したい場合には向いていません。
また買い手の存在や売却価格の問題をクリアしているかどうかも重要です。
M&Aを選ぶ際は、「希望価額で買い取ってくれる買い手探し」から必要になるケースも多い、ということを知ったうえで、イグジット戦略を立てるようにしましょう。
日本のイグジットとアメリカのイグジットの違い
イグジットは国に関係なく行われるものですが、日本と諸外国、特にアメリカでは主流となるイグジットの方法が異なります。
まず日本のイグジットは、株式公開(IPO)によるイグジット達成が大半を占めています。
過去に三菱総合研究所が行った「平成30年度産業経済研究委託事業」に関する報告書では、対象企業のうち、2017年時点でIPOによるイグジットを選んだ企業が65%というデータがあります。
ベンチャー企業=IPO、というイメージが強いのはあながち間違いではないということです。
一方アメリカの場合は、およそ90%がM&Aによるイグジットを行っています。
ただし、日本でもM&Aの件数は増加傾向にあるため、今後はM&Aによるイグジットも増えるとの見方もあります。これは、高齢化による後継者不足問題が多発しているためです。
イグジットの目的を明確にし、手段を選ぼう
イグジットの目的には「ベンチャーの利益獲得」「企業再生」などがあり、イグジットを達成するには「どの手段が最もメリットが大きいか」を考える必要があります。
またその際には「経営権は譲渡するのか?」「従業員への影響は?」というふうに、企業への影響も考慮すべきでしょう。
IPOを行う際には数年かけて準備が必要になりますし、M&Aをする場合は買い手を見つけなくてはなりません。また希望の価格で売却できるかどうかも重要なポイントになるでしょう。
- 経営権を手放したくないが、株式なら手放していい場合は「IPO」
- 経営権を譲渡してでも早期に売却したい場合は「M&A」
このような基準で考えるとともに、利益を手に入れたい目的や用途に応じたイグジットを目指しましょう。