個人事業を営んでいた人が、事業を廃止する決断をした際に行う手続きには、どのようなものがあるでしょうか。
まずは、事業を始める際に所轄の税務署や自治体などに届け出た「開業届」に対して、その事業を廃止することを申し出るため、「廃業届」の提出が必要となります。
また、青色申告をしている場合や、消費税の納付をしている場合、また、従業員がいる場合など、状況に応じて必要となる手続きもあります。
この記事では、「廃業届」など廃業の際に提出が必要となる書類について、詳しくご紹介していきたいと思います。
廃業する際の手続き
法人とは異なり、個人事業主が営んでいた事業を廃業するのは、難しい手続きはなく、基本的には、所轄税務署(国)および管轄の都道府県税事務所へ、「廃業届」の提出を行います。
法人が事業を廃止する場合は、「会社法」という規則に則り、商業登記で「解散」・「清算」の手続きを踏まなければなりませんが、個人の場合は「会社法」は適用されないため、「解散」・「精算」という概念がなく、事業を廃業したという事実の届出を行うだけとなります。
しかし、廃業に伴い個人事業主がそれまで納めていた「所得税」や「消費税」、地方税である「個人事業税」などや、従業員を雇用していた場合に従業員へ支払った給与にかかる「源泉所得税」の支払い義務がなくなったことを通知するために、必要に応じて他の書類の提出が求められています。
廃業の際に提出する書類
廃業の際に、届出が必要となる書類には、次のものがあります。
提出書類 | 対象者 | 提出時期 |
---|---|---|
1.個人事業の開業・廃業等届出書 | 全員 | 廃業後1ヵ月以内 |
2.青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告をしている事業者 | 廃業後すみやかに |
3.消費税の事業廃止届出書 | 消費税を支払っている事業者 | 廃業後すみやかに |
4. 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書 | 従業員への給与支払いをおこなっていた事業者 | 廃業後1か月以内 |
5. 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書 | 予定納税をしている事業者 | 7月1日~15日 または 11月1~15日 |
6. 事業開始(廃止)等申告書(個人事業税) | 個人事業税を納めている事業者 | 廃業後10日以内 |
1.「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出
個人事業を廃業した際は、税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を廃業した日から1か月以内に提出します。
廃業届を出した後に、その事業に関する経費が必要となった際は、経費として認められない場合もあるので、廃業届の提出日については十分に検討してから行いましょう。
2.「青色申告の取りやめ届出書」の提出
青色申告している事業者の場合は、1の廃業届と一緒に「所得税の青色申告の取りやめ届出書」の提出が必要です。
提出期限は事業を廃止しようとする年の翌年3月15日までになってはいますが、廃業届の提出時に税務署へ提出するのが通常です。
3.消費税の「事業廃止届出書」の提出
消費税の課税業者となっている場合は、「事業廃止届出書」の提出も行います。廃業後すみやかな提出が求められていますが、必要経費の処理についての特例があるので注意しましょう。
また、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出を行う場合は、事業廃止届出書の提出は不要となります。詳しくは税務署へ問い合わせましょう。
4.「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書」の提出
従業員への給与の支払いを行っている場合(専従者も含む)は、所轄税務署へ「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書」の提出も必要となります。
事業を廃業した際に給与から預かった源泉所得税については、廃業した日の翌月10日までの納付となります。もし、半年分まとめての納期の特例を受けていた場合でも翌月の10日までとなるので注意しましょう。
5.「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」を提出
予定納税をしている事業者で予定納税額が多すぎる場合は、「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」を所轄税務署へ提出することで、予定納税額の減額を申請することができます。
「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」の提出期間は以下のように定められています。
第1期分及び第2期分の減額申請:その年の7月1日から7月15日までに提出
第2期分のみの減額申請:その年の11月1日から11月15日までに提出
参考)所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続|国税庁
6.「事業開始(廃止)等申告書(個人事業税)」
個人事業税の支払いをおこなっていた個人事業者が事業廃業の際、「事業開始(廃止)等申告書(個人事業税)」を管轄の都道府県税事務所へ、事業の廃止の日から10日以内に提出しなければいけません。
廃業年分の個人事業税については、事業税の納付が翌年になることから、課税見込額を廃業年分の必要経費とすることが特例として認めらえています。
廃業届の注意点は? 提出するタイミングについて
廃業届とは、個人事業主が事業をやめる際に、国や都道府県に対して事業の廃止を通知するための書類です。
「個人事業の開業・廃業等届出書」は、廃業した日から1か月以内の提出が求められていますが、個人事業を廃業した後でも、仕事場のかたづけなどを含め本来なら経費に計上できる支出が往々にして発生します。
しかし、廃業後の支出については経費に認められないものもあるため、事業に関係する支出については、できるだけ廃業前に行うようにしましょう。
また、事業を廃業した際でも、廃業した年の事業所得について確定申告を行う必要があるので注意しましょう。
廃業の際の青色申告への手続き
青色申告者が廃業の際に「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を税務所へ提出しないと、青色申告の承認適用がその後も継続されてしまいますので、忘れずに提出しましょう。
提出時期は、廃業する年の「翌年3月15日」までの提出となるので、廃業した年の確定申告書と一緒に提出してもよいでしょう。
廃業後の廃業届を出さない場合はどうなる?
個人事業を廃業した際に、廃業届を出さないとどうなるでしょうか。
廃業届を出さないことによる罰則はありませんが、税法上のトラブルが起こる可能性があります。
1.納税を求められる
開業時に開業届を出しながら廃業時に廃業の届出をしない場合、税務署においては事業が継続されているとみなされて、税務署から納税を求められてしまう恐れがあります。
税務署から確定申告の案内が送付され、廃業したからと対応を行わなければ、税務署からの調査や無申告加算税や重加算税、延滞税などの追徴課税の対象にもなり得ます。
2.今後の青色申告受理に悪影響が起こる
正しく廃業届を出していないと、手続きにおける不備の履歴が残り、将来、再び個人事業主として青色申告を行おうとする際に不利になる可能性もあるので注意しましょう。
休業をしたい場合の手続き
経済状況の悪化や病気や怪我などによって事業の継続が一時的に難しくなり、休業を決めることがあります。個人事業者が「廃業」ではなく「休業」をする場合の手続きには、どのようなものがあるのでしょうか。
個人事業主には、所得税において休業という概念はありません。そのため、事業を休業し収入が途切れても、自動的に廃業扱いになったり、青色申告の承認取り消しを受けたりすることはありません。
もし、休業の際に「廃業届」や「青色申告の取りやめ届出書」を出してしまうと、休業を終えて事業再開となった時の手続きが大変なので、「廃業届」の提出はしないようにしましょう。
いっぽうで個人事業税については、自治体により「事業休止届」の提出が求められる場合があるので、自治体への確認が必要です。
確定申告についても、休業によって所得がなくなれば原則として確定申告を行う必要はありませんが、「純損失の繰越控除」がある場合は注意が必要です。繰越の要件として「毎年連続して確定申告書を提出しなければならない」というものがあるので、休業中を理由に確定申告を行わないと純損失は消えてしまうからです。