東証一部上場企業というと、どのようなイメージが浮かぶでしょうか?
かつて就職先を選ぶ際に東証一部上場企業の中から、という基準を持った方もいらっしゃるかもしれません。
2022年、東京証券取引所の市場区分の見直しがされて、東証一部という言葉が廃止されました。
そこで東証一部について改めて振り返り、東証一部から新たな市場区分がどのような変化を成し遂げたのかについて解説いたします。
東証一部上場とは?
「東証一部」とは2022年に市場区分が改められる以前の東京証券取引所における市場の呼び名で、「東証一部上場」とは東京証券取引所の市場第一部に自社の株を登録して株取引が出来るということを意味します。
東京証券取引所の第一部市場で株式を公開することで、株取引が自由に行えるため、より多くの投資を受ける機会が得られます。
東京証券取引所では、東証一部のほかにも、東証二部、ジャスダック、マザーズと呼ばれるものがあり、東証一部のランクが株式市場のなかでもトップの位置付けです。
多くの企業は、まずは東証二部へ上場申請を行い、証券取引所の審査に通過すると、東証二部に上場します。そしてその後、さらに厳しい基準による審査を満たすことで、東証一部へ上場することが可能になります。
ランクが高いほど、上場するための審査基準は厳しく、企業規模や収益力のほか、内部管理体制なども求められます。東証一部上場企業は、日本でもトップクラスの優良企業が集まる市場だと認識されていました。
日本の証券取引所は、東京のほかにも、名古屋、福岡、札幌にあり、それぞれの取引所が複数の株式市場を運営しています。
東証一部上場の基準
かつての東証一部市場に新規上場するための基準のおもなものは、以下の通りでした。
項目 | 新規上場基準値 |
---|---|
株主数 | 2,200人以上 |
流通株式数 | 2万単位以上 または流通株式数(比率)上場株券等の35%以上 |
時価総額 | 250億円以上 |
単元株式数 | 100株以上となる見込みがある |
財政状態 | 連結純資産10億円以上 |
利益の額(連結) | 最近2年間の利益の額の総額が 5 億円以上であること または、時価総額が 500 億円以上 |
東証一部上場の企業数
東京証券取引所のなかでも、東証一部上場企業は他の市場に比べると多く、2021年4月時点では、東証上場企業数全体の約3800社のうち、一部上場企業は約2200社と、約6割もの銘柄が第一部に上場しています。
東証一部は多くの投資家から注目されているため、1日あたりの株式取引数や売買代金も多い点が多いのも特徴です。
東京証券取引所の市場区分の見直しの理由
2022年4月に東京証券取引所の市場区分の見直しがあり、「東証一部」という呼び名は廃止されました。
それまでの、東証一部、東証二部、ジャスダック(スタンダード、グロース)、マザーズ・という呼び名から、プライム、スタンダード、グロースという3つの呼び名へと変わりました。
東京証券取引所の市場再編が行われた主な理由は、株式の取引量の伸び悩みを改善するためです。
日本の株式市場は世界と比べて伸び悩み、アメリカの「NYSE」や「NASDAQ」と比較して時価総額で3分の1程度に過ぎことが挙げられます。
この背景としては、以前の市場区分が2013年に東証と大阪証券取引所が市場を統合した際、上場会社や投資家への影響を抑えるためにそれぞれの市場構造を維持したため、市場区分のコンセプトがあいまいな状態であり、新興市場を想定した区分に老舗企業が上場するという状況もありました。
これは、多くの投資家にとって利便性が低く問題視されていました。
また、上場後に企業価値を向上するための努力が継続されない傾向も指摘されています。新規で上場するための基準よりも上場を廃止する際の基準が大幅に低くなっていることから、上場後における企業価値向上の継続を促す仕組みができておらず、上場後の業績が停滞する企業や、売買の成立がされずに流動性が下がる企業も見られていました。
東京証券取引所は、これらの課題を解決するために、2022年4月より新たな市場区分への見直しを実施しました。
東証一部再編後の3つの市場区分
4つの市場は再編によって、プライム、スタンダード、グロースの3つに分かれました。
プライム市場、スタンダード市場は、より活発な株式市場となるように売買の流動性をはじめとした基準を定め、グロース市場は、幅広い企業が上場機会を得られるよう基準が緩められています。
それぞれ、具体的に見ていきましょう。
プライム市場
プライム市場については、以下のように定められています。
「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」
参照)日本取引所グループ
プライム市場は、高い流動性とガバナンスを持ち合わせえ、持続的に成長し企業価値を向上できる企業が対象です。
大半の東証一部上場企業がプライムへの移行となりますが、一部プライムの基準を維持できない企業もあり、プライム市場区分から外れることになります。
プライム市場に新規上場するための基準のおもなものは、以下の通りです。
項目 | 新規上場基準値 |
---|---|
株主数 | 800人以上 |
流通株式数 | 2万単位以上 |
流通株式時価総額 | 100億円以上 |
売買代金 | 時価総額250億円以上 |
流通株式比率 | 35%以上 |
財政状態 | 連結純資産50億円以上 かつ単体純資産の額が負でない |
利益の額(連結) | 最近2年間の利益の額の総額が 25 億円以上であること または、最近1年間における売上高が 100 億円以上である場合かつ時価総額が 1,000 億円以上となる見込みのある |
流通株式の時価総額は、従来の10億円以上から100億円以上へと厳しくなります。東証第二部やマザーズからの移行条件も厳しくなり、より投資家にとって魅力的な企業に絞られる形になります。
スタンダード市場
スタンダード市場については、以下のように定められています。
「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」
参照)日本取引所グループ
スタンダード市場は、一般投資家が株式を円滑に売買できる水準の時価総額(流動性)の企業のための市場で、基準は東証第二部とジャスダック(スタンダード)の基準が統一されたものです。
スタンダード市場に新規上場するための基準のおもなものは、以下の通りです。
項目 | 新規上場基準値 |
---|---|
株主数 | 400人以上 |
流通株式数 | 2千単位以上 |
流通株式時価総額 | 10億円以上 |
売買代金 | - |
流通株式比率 | 25%以上 |
財政状態 | 連結純資産額が正(プラス)であること |
利益の額(連結) | 最近1年間における利益の額が1億円以上であること |
グロース市場
スタンダード市場については、以下のように定められています。
「高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場」
参照)日本取引所グループ
グロース市場とは、今後の成長性が期待できるだけの事業計画が開示され、一定の市場評価がある企業に開かれた市場です。これまでのマザーズやジャスダック(グロース)の基準を受けたもので上場基準は他より緩く、ベンチャー企業育成の市場といった位置づけとなります。
スタンダード市場に新規上場するための基準のおもなものは、以下の通りです。
項目 | 新規上場基準値 |
---|---|
株主数 | 150人以上 |
流通株式数 | 1千単位以上 |
流通株式時価総額 | 5億円以上 |
売買代金 | - |
流通株式比率 | 25%以上 |
東証プライム、東証スタンダード、東証グロース上場の企業数
東証プライム、東証スタンダード、東証グロースへのそれぞれの上場企業数は、2023年2月1日時点で、以下のようになっています。
- プライム 1,836
- スタンダード 1,448
- グロース 517
東証一部市場から多くの企業がプライム市場へと移りましたが、今回の再編により東証一部上場企業のなかでも、流通株式の時価総額が10倍となるなど、高い基準が設けられました。これによって、投資化によって投資対象として魅力のある企業への判断がしやすくなっただけでなく、企業によっても更なる信用性がアップしたと言えるでしょう。