健全な経営が強く求められる昨今、企業には「コンプライアンスの遵守」が強く求められています。コンプライアンスに違反した場合、その企業の社会的信用性は著しくダウンしてしまい、大きな痛手となります。
企業がコンプライアンスを遵守するためには、企業側の対策や従業員のコンプライアンス遵守意識の醸成が重要です。
ここでは、コンプライアンスとは何かを解説。その意味や重要性、コンプライアンス違反が生じる原因などをご紹介します。コンプライアンス違反を防ぐ対策と合わせて把握し、リスク管理に役立てましょう。
コンプライアンスの意味や重要性
コンプライアンスは「法令遵守」を意味します。
また、近年では法令遵守だけにとどまらず、「企業倫理・公序良俗」を守りながら社会の規範となる経営をすることも重要です。
つまり、法令、企業倫理、公序良俗を守ることが「コンプライアンスを守ること」とも言い換えられます。
また、コンプライアンスは経営側だけに求められるものではありません。その企業で働く従業員についても、コンプライアンスを遵守した働き方が求められます。
つまり、企業と従業員の両方がコンプライアンスを遵守することで、公平・公正な業務が遂行できるのです。
コンプライアンスに違反するとどうなる?
コンプライアンスに違反した場合、企業にとっても従業員にとっても大きなリスクが生じます。
【企業側】
- 社会的評判や信用性が失墜する(レピュテーションリスク)
- 取引中止や採用率ダウンなどの将来的な損失が生じる
- 損害賠償や行政処分、刑事罰などのリスクがある
【従業員側】
- 謹慎処分や減給、懲戒解雇などのリスクが生じる
- 人事評価がダウンする
- 企業や従業員間で損害賠償請求等のリスクが生じる
このうち特に大きいのが「企業の評判・信用性の失墜」でしょう。
コンプライアンス違反が発生した場合、それが重大なものであるほど企業イメージは著しくダウンします。特にセクハラ・パワハラや強制サービス残業などのトラブルについては、世間一般に大きなマイナスイメージを植え付けます。
これまでコツコツ積み上げてきた信用が、従業員の犯したコンプライアンス違反によって一気に崩れてしまう可能性があるのです。
また、社外秘の情報を外へ漏らされ、商品・サービスのリリースに影響が出てしまうケースもあります。こうなると、将来的に得られるはずだった利益が得られなくなる可能性もあるでしょう。
さらに、上場済みの会社の場合、コンプライアンス違反の内容次第では株価への影響も懸念されます。
コンプライアンス違反の例は?
コンプライアンス違反のおもな例としては以下が挙げられます。
①情報漏洩
……第三者がいる場で社内の機密情報を話した。発表前の商品・サービスのプロジェクトについてオープンスペースで話し合った。仕事用PCに入っていた社外秘のデータを自宅PCへダウンロードした。など
②各種ハラスメント
……セクシャルハラスメント(性的嫌がらせ)、パワーハラスメント(立場・権力利用の嫌がらせ)、マタニティ&パタニティハラスメント(妊婦や妊娠中の妻を持つ男性への嫌がらせ)など。
③SNS利用に関するトラブルや違反
……個人アカウントで社名を名乗った従業員がSNSを利用し、特定の人物の誹謗中傷をした。社外秘の情報を不特定多数が見えるSNS上に投稿した。など
④常態化したサービス残業
……36協定で決められた時間外労働(月45時間/年間360時間)を超えて残業する、いわゆるサービス残業が常態化している。
⑤業務上支給された金銭・物品の私的流用
……通勤用に貸与している社用車でプライベートの旅行に出かけた。会社の備品である文房具を大量に持ち帰った。業務のためという理由で私用の消耗品を発注した。
こうした行為は、人によっては悪気なく行っていたり、そもそもそれが違反であることさえ知らなかったりするケースがあります。
またサービス残業については、「悪いとはわかっていても違反せざるを得ない(じゃないと業務が回らない)」というケースもあるようです。しかしながら、サービス残業の常態化は法令違反であることに変わりありませんので、早急かつ抜本的な対策が必要になります。
コンプライアンス違反が起こる原因とは?
コンプライアンス違反が起こる原因には、大きく分けて3つが考えられます。
②一般的なモラルが欠如している
③不正が起こりやすい条件がそろっている(不正のトライアングル)
法知識の浅さについては、労務関連やハラスメントでのコンプライアンス違反でよく見られます。
特に情報漏洩関係やハラスメント関係については「違反にあたる行為だとは知らなかった」というケースがよく見られます。
また、一般的なモラル、社会規範を持っている従業員は、コンプラ違反になりそうな場面で「これは法令的に良くないのではないか」と心理的ストップをかけられます。
しかし、モラルや社会規範の意識に欠けている従業員は、慣習や自分の気持ち(主観)を優先しやすいのです。結果として社外秘の情報を簡単に流出させてしまったり、他の従業員が嫌がってしてもハラスメント行為を繰り返したりといった行動に走るのです。
なお、企業内で「動機」「正当化」「機会」の3条件が揃う環境があると、コンプライアンス違反の発生数が大幅に上がります。
これらは「不正のトライアングル」とも呼ばれていますが、
「業績を上げたい(動機)」
「他の従業員がいつもやっているから(正当化)」
「見られていないから(機会)」
といった3条件が揃うことで不正や違反しやすい環境がつくられてしまうというものです。
企業としては不正のトライアングルにおける“3条件”が揃わないように対策を行い、また不正が起きた場合には厳格な処分を下すなど、毅然とした対応が求められます。
コンプライアンス違反を防ぐ3つの対策とは?
企業が「コンプライアンス違反をしてはいけない」と再三にわたって通達していても、コンプライアンス違反がゼロになるわけではありません。従業員や役員のモラル、コンプライアンス遵守意識にはかなり個人差があり、何も対策をしないままでは違反が起こってしまう可能性が高いからです。
また、従業員がコンプライアンス違反となる行為そのものを理解していないと、知らないうちに違反をしてしまうこともあるでしょう。
コンプライアンス違反を防ぐには、次の3つの対策を徹底しましょう。
コンプライアンス研修の実施
コンプライアンス研修とは、コンプライアンスに関する情報や考え方、モデルケースなどを教育する研修を指します。
そもそも「どんな言動がコンプライアンス違反になるのか」を把握していないと、コンプライアンスを守ることはできません。
座学やグループワークなどで「コンプライアンス違反になる発言や行動」をしっかりと理解してもらい、コンプライアンス遵守の重要性を浸透させましょう。
コンプライアンス管理体制の強化
従業員へコンプライアンスに関する知識を身に着けてもらうのと同時に、企業側はコンプライアンスにおける社内管理体制の構築・強化を行いましょう。
- コンプライアンス違反が起こったときの対応部門の設立、および責任所在の明確化
- コンプライアンス相談室など、従業員が報告・相談しやすい環境を作る
- コンプライアンスについての社内規定の作成、改正
さらに、管理側もコンプライアンス管理に関する研修や勉強会などで知識を増強し、幅広いケースに対応できるように準備しておくのが理想です。
法律関係の知識・対応については弁護士、社労士など外部の力を借りるのもおすすめです。
情報管理や労務管理のルールを明文化し、周知する
よくあるコンプライアンス違反として「情報漏洩」「過剰なサービス残業」「セクハラ・パワハラ」などがあります。これらを防ぐ対策としては、情報管理や労務管理のルールを明確化し、周知する方法があります。
【情報管理】
- コンプライアンス違反になる情報漏洩行為を明文化する
- SNSへの投稿可能範囲、ルールを明文化
- 違反となる行為の例を詳しく紹介し、どのような処分になるのか明示
- 機密情報へのアクセス方法制限(社内LANからのみ、特定の権限を持っている者のみなど)
スキャンダルの拡散性が著しく高い昨今は、情報漏洩やSNS投稿によるトラブルが企業の経営にとって“命取り”になることも。従業員それぞれに判断を任せるのではなく、細かくルールを決めておくことをおすすめします。
また、ルールを決定したら従業員に繰り返し周知することも重要です。
【労務管理】
企業では、所定の労務管理ルールを定めていても、実際にはルールそのものが形骸化されていたり、従業員が把握していなかったりする場合もあります。
そのため、サービス残業が常態化やハラスメント被害の発生等がみられる場合は、以下の対策を講じる必要があるでしょう。
- 現行の労務管理ルールと勤務実態の“ギャップ”の把握
- 労働基準法をベースに、各従業員の勤務状況、業務量を把握する
- 残業が常態化している場合は業務量、人員配置の見直し
- ハラスメントが発生している場合は聞き取り、人員配置の変更
- 管理職への聞き取り、改善案の提示
- 業務効率化のためのシステム(クラウド型管理ツールなど)の導入
なお、マンパワーが不足している企業・部署においては、業務量の見直しがそもそも困難であることが多いでしょう。その場合は、人材採用による人員補充、ITツール活用等による業務効率化など、抜本的な対策が急務となります。
企業全体でコンプライアンス違反を防ごう!
コンプライアンスは従業員全員が快適、かつ安全に働くために必要なものです。
またコンプライアンス違反が発生した場合、企業イメージは著しく低下してしまいます。さらには法的措置にも発展してしまう可能性が高いため、企業全体でコンプライアンス遵守の意識を醸成すべきです。
また、意識の醸成と合わせて「コンプライアンスを遵守しやすい環境づくり」も重要になります。
従業員任せにするのではなく、企業側がルールの制定や改善、ハード面からの対策を行い、コンプライアンス違反のリスクを最小限に抑えましょう。