売買や譲渡、賃借、請負など、ビジネスの取引ではさまざまな「契約」が行われています。この契約に際して発行されるのが「契約書」という文書です。
ここでは、今さら人に聞けない「契約書の作成目的」について解説します。契約書の種類や効力、作成時のポイントについてもご紹介しますので、合わせてチェックしてみましょう。
契約書を作成する目的は?
会社間や個人間では、何らかの“約束”を交わして取引を行います。
この取引が「契約」であり、契約書は契約が交わされたことを証明する文書です。
契約書は「約束によるトラブルを回避するため」に発行する
世の中には「口約束」という言葉があります。これはお互いに口頭での約束を取り交わす“契約”ですが、あくまでもその場で、当事者間のみで交わされる約束です。
よって法的な効力はなく、場合によっては片方に反故にされることもありますが、取り立てて罰則などもありません。
一方、「家を買う」という場合はどうでしょうか。
家を買うというのは「不動産の売買契約」にあたります。売買契約は「財産権(モノやサービスなど)を代金と引き換えに引き渡す」という契約のため、売主は「代金を受け取ったら商品、サービスを引き渡すこと」買主は「代金を支払うこと」が義務として発生します。
契約書で契約を結ぶことで、片方が義務を果たさなかったとき、もう片方が「請求」「差し押さえ」「修理の要求」といった義務を実行できるようになります。
もちろん、その内容はあらかじめ契約書にて定めておき、双方が合意する必要がありますが、「契約していない」といった言い逃れはできなくなるでしょう。
このように、契約書には「約束をするけれど、条件を設けます」「どちらかが義務を果たさなければこういう対応をします」といった条項を盛り込み、トラブルを回避する効果があるのです。
契約書が必要なのは「法的に書面作成の義務がある」と定められた契約のみ
先ほど「家を買う」という例をご説明しましたが、「モノ・サービスの売買」の全てに契約書が必要なわけではありません。契約書が必要になるのは、法令で「契約書の作成義務がある」と定められている契約のみです。
たとえば、コンビニで商品を購入する場合。買主(客)は代金を支払い、売主(店)は商品を提供します。このとき、レシートはもらったとしても、いちいち契約書を交わすことはありませんよね。
これは、「コンビニで買い物をする」という行為が「一時的で少額、かつ一方が決定権を持っている」という性質を持っていて、法的な契約書の作成義務がないためです。
一方、不動産の売買については金額が大きいため、トラブル回避のために契約書の締結が必須となります。
また継続的に取引が行われる「継続的売買」についても、契約書の締結が必要と定められています。
- 売買契約書
- 賃貸借契約書
- 請負契約書
- 保証契約書
- 委任契約書
- 雇用契約書
- 派遣契約書
- ライセンス契約書
- 秘密保持契約書(NDA)
契約書の効力(機能)とは?
契約書には3つの効力(機能)があります。
- 確認
- 紛争予防
- 証拠
確認
契約は「何らかの利益を得るため」に締結するものですが、取引においては必ずしもお互いの利益がイーブンになるとは限りません。場合によっては片方には有利で、もう片方には不利な条件での契約になる可能性もあるでしょう。また、双方にとって利益が大きくとも、リスクは必ず存在します。
契約内容を記した契約書があれば、自分が引き受ける利益だけでなく、「契約におけるリスク」も確認できます。結果として「この契約をしていいのかどうか」が判別しやすくなり、不利な契約を回避することにもつながるのです。
紛争予防
契約書は当事者間のトラブル予防にもつながります。
あらかじめ契約内容や条件を明記した契約書があれば、口約束でよくある「言った言わない」のトラブルには発展しにくいでしょう。そもそも契約に関する内容、条件、問題発生時の対応などの事項が、契約書に全て記載されているからです。
契約書でトラブル発生時の対応を決めておくことで、交渉も楽になります。
証拠
契約書は訴訟に発展したときの重要な証拠としての機能も有します。
契約書には当事者の署名・押印をしますが、民法的にも「真正に成立したもの」とみなされます。
よって、訴訟の際には契約書に定められた内容が特に重視されるのです。
契約書は当事者のどちらが作成する?
契約書を作成する際は、当事者のいずれかが「たたき台」と呼ばれる初稿を作成します。
最初のたたき台となる契約書は「ファーストドラフト」とも言われ、内容を双方がチェックし、交渉をしながら最終形へと作り替えていきます。
ここで疑問なのが、ファーストドラフトをどちらが作成すべきか? ということです。
当事者のうちだれがファーストドラフトを作成するのかは、その時の状況や力関係によっても異なりますが、主に次の2パターンから考えるとよいでしょう。
契約書作成の実務経験が多いほうが作成する
当事者の片方が過去に何度も同じ内容の契約を行っているような場合、その“慣れているほう”が契約書を作成するケースが多いです。
このような場合、実務経験に基づいた契約書のひな形(テンプレート)を用意しているケースが多いので、トラブルも少なく済みます。ただし、相手方が作成するからといって内容のチェックを怠るのは避けたいところです。
必ず本契約を交わす前に内容を確認し、こちら側に不利な条件ではないかをチェックしましょう。
自分側が作成する
「相手方が作成したファーストドラフトをチェックしたところ、自社にとって不利な条件・内容だった」というケースは少なくありません。これは相手方が意識していなくとも、自然と相手に有利な条件での契約内容になってしまっていることがあるためです。
このような場合、ファーストドラフトをもとに修正・変更を交渉するのがセオリーです。しかしながら、交渉が成功するとは限らず、結果的に不利な条件での契約を飲むしかない……という可能性もあるでしょう。
契約においての不利益、リスクを最小限にするには、自身でファーストドラフトを作成することをおすすめします。自分が有利になる条項を盛り込むことで、有利な条件で契約しやすくなるでしょう。
契約に関してあまりにも経験が乏しい場合は相手方に契約書を作成してもらったほうがいい場合もありますが、経験の差が同程度であればこちらからファーストドラフトを作成することも検討してみましょう。
契約書作成時に知っておきたいポイント
契約書を作成する際に押さえておきたいポイントは以下の5つです。
- 取引の目的、経緯を把握してから作成する
- 当事者の権利と義務について明確にしておく
- トラブルを想定し、予防するための文言を盛り込む
- 法律や判例を参考にする
- リーガルチェックを受ける
取引の目的、経緯を把握してから作成する
契約書を作成する際は取引の目的や経緯を十分に理解する必要があります。
ここを理解していないと、「勝ち取らなければいけない条件・事項」「妥協できる/できない事項」が大きく変わります。
ある程度規模の大きい会社の場合、契約書作成部門と依頼する部門が別である場合も多いので、社内での認識のすり合わせを怠らないように注意しましょう。
当事者の権利と義務について明確にしておく
当事者のそれぞれにどのような権利があり、どんな義務があるのかもチェックしておきます。
ここで権利・義務についての認識が曖昧なままだと、契約書を作成したあとに紛争が起こりやすいからです。
不明な点がある場合は相手方に確認し、反対に相手方から権利・義務についての説明を求められた場合は提示するなどして、入念なすり合わせを行いましょう。
トラブルを想定し、予防するための文言を盛り込む
当事者双方の権利・義務を明確にしたら、今度は「起こりうるトラブル」について書き出してみましょう。
- 取引の継続中に起こりそうなトラブル
- 取引終了後に起こりそうなトラブル
- 相手方と起こる可能性のあるトラブル
- 第三者間とで起こりそうなトラブル
- 物損、生命や身体への危険、営業利益の逸失などのトラブル
「どのようなトラブルが起こりそうかわからない」という場合は、法の専門家(弁護士など)、法務部門、契約書を作成する部門(事業部など)に確認してみましょう。
法律や判例を参考にする
契約書に定める事項は、法律や過去の判例を参考にしながら作成します。
契約において紛争等が生じた場合、「強行法規(契約内で変更できないルール)に反しない限り、法律の定めよりも契約書に定めた事項を優先する」という決まりがあります。
一方、契約で定めのない事項に関しては、基本的に「法律の定め」に則って判断されます。
また法律にも定めのない要項に関しては「過去の判例解釈」をもとに判断されるのが一般的です
これを知っておけば、法律で定めのある事項をあえて契約書から省き、法律に定めのない事項のみを記した簡潔な契約書を作成することも可能です。
リーガルチェックを受ける
契約書は作成した時点で、弁護士や法務部門のリーガルチェックを受けましょう。
契約内容が法令に違反していた場合、行政処分や刑事罰の対象になるケースがあります。また法的処分が下されなかったとしても、取引先や一般顧客からのイメージダウンにつながる可能性が極めて高いでしょう。
法令は種類も多く複雑なため、自身でチェックするのには限界があります。
より正確に判断してもらうには法律のプロによるリーガルチェックを受けることをおすすめします。
契約書は作成前の準備・確認を怠らないことが大事
取引において強い効力を発揮する契約書は、作成前の段階からの準備、確認が重要です。また「自社だけが圧倒的に有利な条件」というのも、長い目で見るとあまり良いことではありません。
特に、相手方に対し今後長い付き合いをしていきたいと考えているのであれば、お互いが“うまみ”のある契約を結ぶことが重要ではないでしょうか。そのためには、契約を交わす前段階でのすり合わせが重要といえるでしょう。
当事者のどちらかが不利な条件で契約を交わすことのないよう、ファーストドラフト時点でのチェック、内容等の交渉を徹底することをおすすめします。