従業員を雇用する事業者は「雇用保険料」を計算し、納める必要があります。雇用保険料は労使両方が負担するものですが、その割合は使用者(雇用側)のほうが多くなるのをご存じでしょうか?
ここでは、雇用保険の加入対象となる賃金の種類や、計算方法を解説。事業主・労働者の負担割合、雇用保険料を支払う意味についてもお伝えします。
そもそも雇用保険の加入対象になるのは?
雇用保険は、公的労働保険制度のひとつ。
雇用保険の目的は、以下のような“労働者に対する支援”を行うためです。
- 労働者が失業したとき、生活を守る「失業給付」
- 育児休業中の収入を保障する「育児休業給付」
- 介護のため休まざるを得ないときの収入保障「介護休業給付金」
- 再就職を促進する「職業訓練」や「職業教育」制度
- 失業(離職)の予防や雇用機会の増大を目指す活動
また、これらの活動を行うために徴収されるのが「雇用保険料」です。
雇用保険の加入対象者
雇用保険の加入対象者は次の条件を満たした従業員です。
② 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
従業員の雇用形態は問わないため、正社員はもちろん契約社員、派遣社員、パート、アルバイトも条件さえ満たせば雇用保険へ加入することになります。
なお、使用者となる役員(社長、取締役)やフリーランスなどの個人事業主については、「雇用されて働く労働者」ではないため雇用保険の対象外となります。
雇用保険料の対象になる賃金とは?
雇用保険料は労働者と使用者(雇用している側の事業主)がそれぞれ負担します。
雇用保険料を計算する際は、労働者の賃金に「雇用保険料率」をかけて算出します。
ただし、賃金といっても「毎月の給与」だけではなく、賞与などさまざまな賃金が雇用保険料算定の対象となります。
- 通勤手当(非課税分を含む)
- 定期券、回数券(通勤のための現物支給分)
- 超過勤務手当、深夜手当(いわゆる残業手当など)
- 在宅勤務手当
- 調整手当
- 宿直手当、日直手当
- 家族手当、子供手当、扶養手当
- 技能手当、教育手当、特殊作業手当
- 住宅手当、地域手当
- 皆勤手当、精勤手当などの奨励手当
- 昇給差額
- 前払い退職金
- 役員報酬
- 結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、年功慰労金、勤続褒賞金、退職金
- 出張旅費、宿泊費、赴任手当
- 工具手当、寝具手当
- 休業補償費
- 傷病手当金
- 解雇予告手当
- 財産形成貯蓄等のため事業主が負担する奨励金等
- 会社が全額負担する生命保険の掛け金
- 持家奨励金
- 住宅の貸与を受ける利益(福利厚生施設として認められるもの)
参考リンク:厚生労働省|雇用保険料の対象となる賃金
保険料の算定期間は4月1日~翌年3月31日です。ただし、期間中に支払いが確定した賃金(雇用保険料の対象)がある場合は、期間中に支払いがなくとも雇用保険料の計算対象として算入されます。
雇用保険料の計算方法は事業主と労働者で異なる
雇用保険料は「賃金×負担保険料率」によって算出できます。
この負担保険料率は、事業主と労働者で異なります。
事業主の雇用保険料率は?
事業主の雇用保険料率は事業の種類によっても異なります。
たとえば、令和4年10月1日~令和5年3月31日における事業主の雇用保険料率は、以下の通りです。
- 一般の事業……8.5/1,000
- 農林水産、清酒製造の事業……9.5/1,000
- 建設事業……10.5/1,000
これら雇用保険料率には「失業等給付・育児休業給付の保険料率」「雇用保険二事業の保険料率」が含まれています。
たとえば一般事業を行う企業に勤務する労働者の賃金が月40万円だった場合、40万円×(8.5/1,000)=3,400円。事業主の雇用保険料負担は3,400円となります。
なお、雇用保険料率は定期的に変更が行われている点に注意が必要です。
令和5年(2023年)4月1日~令和6年3月31日までについては、令和5年3月31日までに比べ保険料率が引き上げられます。
【令和5年(2023年)4月1日~令和6年(2024年)3月31日までの雇用保険料率】
- 一般の事業……9.5/1,000
- 農林水産、清酒製造の事業……10.5/1,000
- 建設事業……11.5/1,000
参考リンク:厚生労働省|「令和5年度雇用保険料率のご案内」(PDF)
農林水産業や清酒製造事業の雇用保険料率が高い理由
農林水産業や清酒製造事業は、一般事業に比べて保険料率が高く設定されています。
その理由は、事業規模が季節・天候の変化に影響されやすく、失業の可能性が高いからです。
ただし、「園芸サービス事業」など以下の事業に関しては、季節・天候の変化による影響が少ないため、一般事業の雇用保険料率が適用されます。
【一般事業として区分される事業の例】
- 園芸サービス
- 牛馬の育成
- 酪農
- 養鶏
- 養豚
- 内水面養殖
- 特定の船員を雇用する事業
労働者の雇用保険料率は?
労働者の雇用保険料率は企業負担に比べると少ないのが特徴です。
ただし、こちらも事業の種類によって保険料率が異なります。
- 一般の事業……5/1,000
- 農林水産、清酒製造の事業……6/1,000
- 建設事業……6/1,000
一般企業で雇用されて働く月収40万円の人の場合、40万円×(5/1,000)=2,000円
労働者の雇用保険料負担は2,000円です。
なお、事業主側と同じく、労働者側の雇用保険料率も定期的に変更が行われています。
令和5年(2023年)4月1日から令和6年3月31日までについては、それまでに比べて雇用保険料率が引き上げとなります。
【令和5年(2023年)4月1日~令和6年(2024年)3月31日までの雇用保険料率】
- 一般の事業……6/1,000
- 農林水産、清酒製造の事業……7/1,000
- 建設事業……7/1,000
参考リンク:厚生労働省|「令和5年度雇用保険料率のご案内」(PDF)
雇用保険料を支払う意味・目的とは?
冒頭でもお話したとおり、雇用保険料は「従業員の雇用支援のための保険」です。
従業員が失業したり、ケガや病気、妊娠・出産・介護などで休業したりする際には、給与が支給されなくなります。そうなると当然生活も困窮してしまうでしょう。
そこで、全国のハローワークでは、雇用保険料を事業者・労働者からあらかじめ徴収し、“もしものときのサポート”を行うためにプールしています。
また、雇用保険では雇用されて働く人が失業したときの再就職支援や、転職などのサポートも行っています。
その原資はもちろん「雇用保険料」です。
失業給付について
失業給付(基本手当)は、失業していて求職活動を行っている労働者(再就職の意思がある人)に対し、生活安定を目的に支給される手当金です。
支給日数は認定後約3ヶ月~1年間を基本とし、失業理由(会社都合か自己都合か)や年齢(雇用保険の加入期間)によって個人差が生じます。
求職中は無収入になってしまうため、失業給付で生活を保障することで安心して職探しができるようになります。
育児休業給付について
労働者が原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合、育児休業給付金を受け取ることができます。また保育園に入れなかった場合は、その子が1歳6ヶ月に達する日前まで(※)、育児休業給付期間が延長されます。
給付開始~6ヶ月までは休業開始賃金日額の67%(3分の2)、6ヶ月以降は50%(半分)が支給されます。
※1歳6ヶ月に達した時点で保育園に入れず育休延長をした場合は2歳まで給付期間を延長可能です。
介護休業給付について
雇用保険に加入していた人の家族が要介護認定を受け、かつ加入者が家族に対し一定の介護を行うために休業した場合は「介護休業給付」が受けられます。
支給額は休業開始賃金日額の67%です。介護対象の家族一人あたり通算93日まで、かつ3回までの休業が対象となります。
教育訓練給付について
雇用保険の被保険者が厚生労働省の定める一定の教育訓練を受けた場合、受講料の一部が補助される制度があります。教育訓練給付制度は、労働者の中長期的なキャリア形成、および雇用の安定、再就職促進などを目的に実施されています。
高年齢雇用継続基本給付について
高年齢雇用継続基本給付は60歳~65歳未満の雇用保険加入者を対象とした制度です。
60歳時点で受け取っていた賃金額と比べ、現在の賃金が75%未満に減少してしまった場合、給付が受けられます。
雇用保険料計算時に気を付けることは?
雇用保険料の計算時には「労働に関する報酬」をすべて含める必要があります。このとき、「現物支給されたもの」も賃金として算入しなくてはなりません。
現物支給をしたものの算入を忘れたり、保険料を低くしようとして故意に賃金へ含めなかったりすると、罰則処分を受ける場合もあるので注意しましょう。
計算方法など不明点がある場合は、管轄のハローワークへ確認しておくことをおすすめします。
また、65歳以上の従業員についても、雇用保険の加入条件に適合するならば「高年齢被保険者」として加入が必要です。シニア従業員を雇用する場合は、手続き等についても必ず確認し、抜け漏れがないようにしましょう。
雇用保険料について理解し、正しく納めよう
雇用保険は労働者の生活を守るために運用されている保障制度です。
労働者を雇用する側は、雇用保険料の計算・対象範囲について正しく理解をするとともに、計算間違いや納付漏れ等がないようにしましょう。