法人形態のうち、合同会社は設立費用が安く、手続きが簡単な点が魅力。しかし起業を検討中の方には「合同会社という形態が自分・事業内容に合っているのかわからない」という方もおられるのではないでしょうか。
ここでは合同会社が向いている事業・業種や、合同会社を選んでいる有名企業例をご紹介します。合同会社の設立方法についても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
合同会社とはどんな会社形態?
合同会社は、もともとアメリカで生まれたLLC(Limited Liability Company)という企業組織形態をモデルに作られた会社形態です。
合同会社は株式会社とよく比較されることがあります。
株式会社は「出資者である株主(所有者)」と「経営者」が分離しているのが特徴です。経営者は株主総会により選出されるほか、経営に対する決定権も株主にあります。
それに対し、合同会社は出資者と経営者が同じです。言うなれば、「社員が出資をしてそのまま経営も行う会社形態」という会社形態なのです。
実際に2020年時点において日本国内で設立された合同会社の数は、33,000社以上にものぼります(参照:東京商工リサーチ「全国新設法人動向」調査より)。
合同会社はどのような事業・業種に向いている?
合同会社の特徴・メリットは以下のとおりです。
- 出資者=経営者である
- 出資額にかかわらず、全員に「経営の意志決定権」がある
- 出資者は全員「有限責任社員(※)」である
- 法人格が与えられ、法人税が適用される
- 余剰利益の配分は自由に決められる
- 決算公表義務がない
- 株主総会を開かなくてよい
- 設立費用は6万円~10万円と株式会社に比べると安い
※負債や倒産時に、出資範囲のみ責任を負うシステム。
このような特徴から、合同会社は以下のような事業・業種に向いているといえるでしょう。
- 初期費用、ランニングコストを抑えたい事業者
- 小規模なBtoC事業(小売業、サービス業など)
- 節税効果を求める個人事業主
- 知人や友人と起業して会社を興す場合
初期費用、ランニングコストを抑えたい事業者
会社設立にあたって初期費用を抑えたい事業者や、会社経営にかかるランニングコストを抑えたい事業者は、合同会社に向いています。
- 設立費用が株式会社の約1/3
- 官報への決算公告掲載義務がない
- 役員の改選を行わなくてよい
株式会社に比べると知名度・信用度は低いものの、ローコストで会社設立・経営ができる点は大きな魅力です。知名度よりもコスト重視で会社を興したい場合は、合同会社を選ぶとよいでしょう。
小規模なBtoC事業(小売業、サービス業、IT関連業など)
合同会社は小売やサービス業、IT関連業など、一般消費者向けのBtoC事業に向いています。
合同会社は株式会社に比べ、どうしても知名度・信用性が低くなりがちです。そのため“会社の信用性”を重視する「BtoB事業」ではやや不利になることも。
一方、飲食店や美容サロン、食品や日用品メーカー、ITサービスなど「一般の消費者向けのビジネス(BtoC)」の場合は、会社形態よりも「商品」「サービス」「ネームバリュー」などが重要視されます。
商品サービスさえ充実していれば、合同会社でも問題なく事業が行えるでしょう。
節税効果を求める個人事業主
もともと小規模の企業向けに設けられた会社形態である合同会社は、個人事業主の法人化にも向いています。
個人事業主の中には、1人や少人数でスモールビジネスとして起業をするケースもよく見られます。
融資を必要とせず、かつ将来的に大規模な展開を考えていないのであれば、合同会社で設立することで法人化の手間・コストが少なくなります。さらには法人税の適用も受けられるので、節税効果も期待できるでしょう。
特に無形商材など、経費が少なく利益率の高い事業は合同会社に向いています。所得から経費を引いた「課税所得額」が高くなりがちなことがその理由です。
もともと個人事業主は所得額に応じた「所得税」を納める必要があります。さらに、課税所得に対し10%の「住民税」がかかります。
たとえば課税所得が695万円の場合、所得税は23%、住民税が10%かかるため、合計の税率は課税所得の33%となります。
しかし、合同会社等で「法人化」していた場合は、法人税・住民税・事業税を合算しても税率は約25%と低くなります。(課税所得400~800万円の場合)。
同じ収入であれば、税金として納める額が少ない方が、当然多くのお金が手元に残るでしょう。
収益の見込みが高く、かつ利益率の高い個人事業を始める場合は、合同会社化を検討することをおすすめします。
知人や友人と起業して会社を興す場合
合同会社は、知人と合同で起業したい場合にも向いています。
合同会社には「経営の自由度が高い」「利益の分配を自由に決められる」などのメリットがあります。そのため、少人数で経営を行う場合に都合がよいのです。
また、合同会社は出資者が等しく経営権を持ちます。株式会社のように「株の保有数が多いほど経営への干渉力、決定権が強い」ということもなく、お互いが対等な立場で経営に携われます。
有名企業も多い!合同会社の企業例は?
日本では合同会社というと「株式会社に比べると知名度が低い」という認識が強いもの。しかし、合同会社の中には世界的に有名な企業も多数存在しています。
合同会社の中でも、有名な企業の一例をご紹介します。
- Amazon Japan
- Apple Japan
- デトロイトトーマツ コンサルティング
- ワーナーブラザースジャパン
- ユニバーサルミュージック
- 西友
- DMM.com
このうち外資系の企業には、株式会社として設立したのちに合同会社化するケースも多く見られます。
たとえば「Apple Japan」「Amazon Japan」は、もともと株式会社として日本で法人を設立していました。しかし事業の成長後に合同会社へと変更しています。また「Google」については、日本法人だけではなく、アメリカの本社も合同会社化しています。
このように世界的な大企業が合同会社化する背景には、「既に知名度が高いこと」「株主総会、取締役会を必要とせず、自由かつスピーディな経営判断ができる」などの理由が考えられるでしょう。
合同会社設立にあたって注意点はある?
合同会社はコストを抑えて会社設立ができ、出資した社員での自由な経営ができる点が魅力。しかし、設立にあたって知っておきたい注意点もあります。
- 会社の知名度、信用度は株式会社より低い
- 株式発行による資金調達はできない
- 上場できないので知名度を上げにくい
- 事業承継などに社員全員の同意が必要になるため、複雑化することがある
- 利益配分で社員同士がもめる場合がある
合同会社は比較的かんたんに設立できる反面、会社知名度が上がりにくい、設立後に大規模な資金調達がしにくいなどのデメリットもあります。また出資した社員全員が業務執行権を持つ以上、意見の食い違いによってトラブルが起こる可能性もあるでしょう。
「将来的に会社を発展させ、大成長させたい」という場合や、事業承継のしやすさを優先したい場合などは、株式会社で会社を設立したほうがよいでしょう。
合同会社の設立費用は?
合同会社の設立には以下の費用が掛かります。
- 登録免許税:60,000円~(または資本金×0.7%、いずれか高いほう)
- 定款を紙で作成する場合の収入印紙代:40,000円
- 法人実印の作成費用:5,000円程度
- その他、印鑑証明取得費(300円×必要枚数分)、登記簿謄本の発行費(500円×必要枚数分)
- 資本金:1円~
合計約11万円ですが、定款は電子データで作成すると収入印紙代が無料となります。(電子定款)
設立コストを抑えたい場合は、電子定款で作成しましょう。
ちなみに合同会社は資本金1円から設立可能ですが、会社の信用度を高めるためにも「運転資金の半年分」を目安に準備するのがベストです。
合同会社の設立方法は?
合同会社を設立するには、次のステップで進めていきましょう。
①法人設立項目の決定
②定款の作成
③登記書類の作成
④登記申請
⑤合同会社設立後の手続き
①法人設立項目の決定
合同会社を設立するにあたって、以下を中心とした項目を決めていきます。
・会社名(商号)
・事業内容
・本社所在地
・事業年度
・資本金額
・社員構成 など
「社員構成」では代表社員(株式会社でいうところの代表取締役)、業務執行権のある社員を決定します。
②定款の作成
合同会社も株式会社と同様に、定款を作成します。ただし合同会社の場合は「認証」を受ける必要がなく、認証費用も不要です。登記申請の際に提出できるよう、書面または電子データで作成しましょう。
③登記書類の作成
合同会社の登記にあたり、以下の登記書類を準備します。
・代表者印の印鑑証明書(複数いる場合は全員分)
・資本金の払い込み証明書
・法人実印の印鑑届出書
・合同会社設立の登記申請書
・登録免許税の収入印紙(A4の紙などに貼付する)
・定款(書面、もしくは電子データ)
④登記申請
法務局へ③の登記書類を提出し手続きを行います。受理されれば、合同会社の設立完了です。
⑤合同会社設立後の手続き
合同会社設立後は、会社の「登記簿謄本」および「印鑑証明書」を取得しておきましょう。
その後、税務署へ法人税の手続きを、都道府県税務署や市町村役場へ法人住民税、法人事業税の手続きを行います。
また、健康保険と年金の加入手続きや労災保険、雇用保険などの手続きも行う必要があります。
必要な手続きをあらかじめリスト化しておき、漏れが無いようにしておきましょう。
合同会社を設立する前に、自社に向いているか検討しよう!
Googleなどの大企業が合同会社化している事情もあり、近年はあえて合同会社で起業する会社も増えています。
また少数精鋭でのスタートアップ企業には、あえて合同会社を選択し、事業戦略に活かしているケースも。
これから法人化を検討する際には、「自社に合同会社が向いているのか、それとも他の形態が良いのか」を比較したうえで決定するとよいですね。