社会貢献に関する活動を行う「NPO法人」。社会に役立つ活動がしたい、と考える方の中には「手続きが複雑だと聞いた」「何をすればいいのか分からない」など、設立方法に戸惑っている方も多いかもしれません。
実際のところ、NPO法人は自分でも設立できます。ここではNPO法人の設立手順や必要書類、費用、助成金などについて解説。NPO法人設立時の注意点もご紹介しますので、ぜひご覧ください。
NPO法人の設立は自分でもできる
NPO法人の設立にはさまざまな工程が必要です。一見すると複雑そうですが、実際には自分だけでも設立できます。
自分で設立する手順、必要書類
自分でNPO法人を設立する場合の手順は、以下のとおりです。
- 定款の作成
- 都道府県、市区町村(所轄庁)での認証手続き
- 縦覧から審査、認証完了
- 法務局でNPO法人の設立登記手続き
- 所轄庁へ「設立登記完了届出書」等を提出
1.定款の作成
定款は法人にとっての「憲法」のようなもので、設立後は定款に則った運営を行う必要があります。
よってNPO法人を設立する場合、まずは定款を作成しなくてはなりません。
定款には絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項の3つの事項を記載します。
絶対的記載事項には「活動目的」「法人の名称」「特定非営利活動の種類、特定非営利活動にかかる事業の種類」など、必ず記さなければならない事項を記載します。また事務所の所在地や役員、会議、資産、会計、その他の事業などについての事項も記載する必要があります。
相対的記載事項は、定款に記載しなくても罰則等はないものの、記載しないと効力が生じない事項です。任意的記載事項は、文字どおり「任意で記載する事項」を指します。
2.都道府県、市区町村(所轄庁)での認証手続き
定款を作成したあとは、所轄の都道府県、または市区町村で認証申請の手続きを行います。
どこが所轄庁になるかは事務所の設置場所や数によっても変わるため、あらかじめ確認しておきましょう。
参考リンク:所轄庁一覧 | NPOホームページ
また、認証申請手続きの際には以下の必要書類をそろえる必要があります。
- 定款
- 役員名簿(各人の報酬有無を記載したもの)
- 役員の就任承諾書および誓約書の謄本
- 役員の住民票等(※)
- 社員のうち10人以上の住民票等(※)
- 認証要件に適合することを確認したことを示す書面
- 設立趣旨書
- 設立についての意思の決定を証する議事録の謄本
- 設立当初の事業年度及び翌事業年度の事業計画書
- 設立当初の事業年度及び翌事業年度の活動予算書
※……住所または居所を証明する書類
参考・引用元:認証制度について | NPOホームページ
3.縦覧から審査、認証完了
認証申請が受理されたあとは、定款、役員名簿、設立趣意書、事業計画書、活動予算者が公報へ記載され、一般市民に縦覧されます(自由に閲覧できるという意味です)。縦覧は、NPO法人がこれから行おうとしている活動について、市民の目で点検してもらうことが目的です。
この縦覧は2週間程度行われ、その後2ヶ月以内に「審査」が行われます。
審査に通れば認証完了となり、法務局での設立登記手続きができるようになります。
4.法務局でNPO法人の設立登記手続き
認証完了後、2週間以内に法務局でNPO法人設立の手続きを行いましょう。
- 設立登記申請書
- 所轄庁発行の設立認証書
- 定款
- 代表権を有する者の資格を証する書面(理事就任承諾書、および誓約書)
- 資産の総額を証する書面(財産目録)
- 印鑑届書
このほかに「法人印鑑」「理事長個人の実印」「理事長の印鑑証明書」が必要です。
参考リンク:商業・法人登記の申請書様式:法務局
5.所轄庁へ「設立登記完了届出書等を提出
法人登記手続きが滞りなく完了すると、「設立登記完了届出書」が発行されます。
この書面と登記事項証明書(原本、コピー)、設立当初の財産目録を所轄庁へ提出しましょう。
これにて、NPO法人として正式に登録されることになります。
行政書士にお願いする場合の手順、必要書類
行政書士に依頼する場合の必要書類は、自分で設立手続きをする場合と同じです。
そのうえで「認証手続きの委任状」へサインを行い、手続きを一任します。
行政書士に依頼する場合も「法人印鑑」は必要ですので、あらかじめ作成しておきましょう。
NPO法人を設立するための費用は?
NPO法人を設立する際には、どのくらいの費用が必要になるのかが気になる方も多いでしょう。結論から言うと、ほぼ無料で設立が可能です。ただし、行政書士に依頼した場合は依頼料などの料金が発生します。
それぞれの場合でかかる費用について見ていきましょう。
自分でNPO法人設立手続きを行う場合の費用
自身でNPO法人の設立(縦覧の申し込み~設立登記まで)を行う場合は、ほぼお金がかかりません。
たとえば株式会社を立ち上げる場合、定款の認証手数料で52,000円、印紙代40,000円(紙定款の場合)、登録免許税で150,000円がかかります。また法人印鑑の作成料、通信料などもかかるので、総額でいうと250,000円以上かかることになります(電子定款の場合は印紙代が省略できますが、それでも200,000円以上は必要です)。
NPO法人の場合は定款の認証にかかる費用や法人設立登記費用がかかりません。
かかる費用といえば、印鑑の作成費用(1万円~)、登記手続きに必要な交通費、通信費程度です。
営利法人に比べて大幅に設立費用を抑えられるのは、大きな魅力だといえるでしょう。
行政書士に依頼してNPO法人設立する場合の費用
行政書士に依頼してNPO法人を設立する場合の費用は、20万円程度が相場です。
その内訳は「行政書士への依頼報酬」であり、自分でNPO法人を設立する場合に比べればかなりのお金が必要になります。ただし、所轄庁への認証手続きから設立完了届の提出、行政側との折衝なども一存できるぶん、NPO法人設立の手間と負担を大幅に減らせるメリットがあります。
NPO法人の手続きは時間も知識も必要になるため、自分だけでは設立できる自信がない人、登記手続きを外注して本来の活動に注力したい人などは、行政書士にお願いすることをおすすめします。
NPO法人を立ち上げると助成金がもらえる?
NPO法人は非営利活動が本分であり、営利活動に注力して運営資金を大きく稼ぐことができません。そのため「活動資金」の確保が困難になるケースも多いのです。“社会問題を解決したい”と思っていても資金不足で慈善活動や社会的弱者の支援活動などが思うようにできないとなれば、それは大きな問題です。
こうしたNPO法人を支援する取り組みとして、「NPO法人への寄付」「国、自治体、財団などが提供する助成金」などのシステムがあります。
前者の「寄付」は安定性に欠けるため、寄付金を主要の財源とすることは危険です。よって、後者の「助成金」を利用することをおすすめします。
ここではほんの一例ですが、助成金の例をご紹介します。
ドコモ市民活動団体助成事業
「NPO法人モバイル・コミュニケーション・ファンド」が実施する助成事業で、子どもの健全な育成支援、及び経済的困難を抱えた子供を支援する活動を行っているNPO法人が助成対象となります。
活動実績が2年以上必要になるものの、1団体あたり上限70万円(経済的困難を抱えた子供を支援する活動であれば1団体当たり上限100万円まで)、2022年9月1日~2023年8月31日の1年間が助成対象期間です。
応募期間は毎年2月中旬~3月末までとなっていますので、利用を検討している場合はタイミングを逃さないように申し込みましょう。
参考リンク:2022年度 ドコモ市民活動団体助成事業
公益財団法人 京都オムロン地域協力基金
ヘルスケア製品などを展開する「オムロン」のオムロン基金による助成制度で、地域福祉の向上、青少年の健全育成、男女共同参画(子育て支援も含む)、生活環境や地球環境の整備などに関する活動を行っている京都のNPO法人が対象となります。
内容としては上記の活動に関するイベント事業予算の50%にあたる「収支の不足分」を助成してくれるもので、大規模なイベントを開催しやすくなるでしょう。
また、オムロン基金では子ども食堂の開設・運営費用の一部を助成してくれる制度もあります。助成金額は年間利用人数によって異なり、12万円~100万円です。
参考リンク:助成制度について | 公益財団法人 京都オムロン地域協力基金 | 地域貢献 | みんなの社会貢献活動(地域社会とオムロン) | オムロンについて | オムロン
このような「特定の活動限定」「地域限定」といったNPO法人向け助成金にはさまざまな種類がありますので、ぜひチェックしてみて下さい。
NPO法人設立時の注意点は?
NPO法人を設立した場合、以下の4点に注意しましょう。
- 設立に3ヶ月程度の時間がかかる
- 法律で決められた活動分野以外だと法人化できない
- 10名以上の社員、3名以上の理事&1名以上の監事が必要
- 解散時に法人の残余財産(ざんよざいさん)が残らない
設立に3ヶ月程度の時間がかかる
NPO法人の設立手続きには3ヶ月以上もの時間が必要です。
その理由としては、「縦覧」と呼ばれる工程で1ヶ月、「所轄庁による審査」で2ヶ月程度がかかるためです。また所轄庁による審査が終わったあとは法務局に行って登記申請をする必要があり、NPO法人の設立完了までトータルで4ヶ月程度かかる場合も多く見られます。
一般的な営利法人(株式会社など)の場合は1~2週間ほどで設立登記が完了しますが、その感覚で手続きを進めてしまうと予定が大きくずれ込む形になります。NPO法人を設立する際は、スケジュールに余裕を持って手続きを進めていきましょう。
法律で決められた活動分野以外だと法人化できない
NPO法人として認められるためには、法律で定められた活動分野に当てはまる活動(特定営利活動)でないといけません。
一 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
二 社会教育の推進を図る活動
三 まちづくりの推進を図る活動
四 観光の振興を図る活動
五 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
六 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
七 環境の保全を図る活動
八 災害救援活動
九 地域安全活動
十 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
十一 国際協力の活動
十二 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
十三 子どもの健全育成を図る活動
十四 情報化社会の発展を図る活動
十五 科学技術の振興を図る活動
十六 経済活動の活性化を図る活動
十七 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
十八 消費者の保護を図る活動
十九 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
二十 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動
引用元:活動分野 | NPOホームページ
活動分野については定款への記載、さらに定款に則った運営を行う必要があります。
方向転換などで活動分野を変更したい場合は、認証手続きをやり直さなけらばならない場合もあるので注意しましょう。
10名以上の社員、3名以上の理事&1名以上の監事が必要
NPO法人には「活動の趣旨に賛同する10名以上の社員を要すること」という設立要件があります。この要件を満たしていないと、NPO法人の設立が認証されません。認証を受けられない場合は、法人ではなく個別のNPO団体として活動することになります。
また、NPO法人には3名以上の理事、1名以上の監事を設置する必要があります。
ただし一般的には、定款で「代表理事」を決め、代表権を持つ者を限定する場合が多い。
監事……法人内部で理事の職務執行を監督し、財産状況、業務執行状況を監査する役割。
解散時に法人の残余財産(ざんよざいさん)が残らない
設立したNPO法人が何らかの理由で解散する場合、法人が保有していた財産(残余財産)が残るケースも多いです。この残余財産は、構成員で分配することができません。
残余財産が生じる場合、定款で定めた帰属すべき者(特定非営利活動法人や国、地方公共団体、公益財団法人など)へ帰属することとなります。
「残存財産が多く残っているので、NPO法人を解散して構成員で分け合う」といった行為はできませんので注意しましょう。