会社員として働く楽しみのひとつである「賞与」。しかし、賞与は額面そのまま全額がもらえるわけではなく、実際には所得税を源泉徴収として差し引かれたうえで支給されます。
そのため「次のボーナスからどれくらい所得税や社会保険料が差し引かれるんだろう……」と気になる方も多いのではないでしょうか?
賞与から差し引かれる所得税額は、所定の計算式を使うとあらかじめ算出できます。
ここでは、賞与から差し引かれる所得税の税率(源泉徴収税率)の計算式や、税率の算定に用いられる保険料について解説します。
賞与から引かれる所得税はどう計算する?
給与を支給されるとき、所得税や社会保険料を天引きされた金額が「手取り」となり、実際に振り込まれます。
実は賞与も同じで、所得税、社会保険料が差し引かれた額が「賞与」として支給される仕組みです。
ただし、賞与にかかる所得税は、賞与そのものが算定基準となるわけではありません。
賞与にかかる所得税は「賞与前月の“給与”」が算定基準になる!
そもそも賞与の所得税率は「賞与が支給される月の前月の給与」をベースとしています。
具体的には「社会保険料等の額を差し引いた給与」をもとに、扶養親族の人数に応じて決定される仕組みです。
(賞与支給月の前月の給与額 ― 社会保険料等※) × 賞与の源泉徴収税率 = 賞与の所得税額
※社会保険料等は、「社会保険料控除」に該当する社会保険料、および「小規模企業共済等掛金控除」に該当する小規模企業共済等掛金があてはまります。
なお、賞与に対する所得税額を計算する場合は、国税庁公式サイトの「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」をもとに計算します。
参考リンク:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和4年分)
※賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表では、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人は「甲」欄から、それ以外の人は「乙」欄を参照します。
算定のベースとなる前月給与に対し、扶養親族の人数が多くなればなるほど税率が低くなります。
次項では、実際に賞与にかかる所得税額、および手元に残る賞与額を計算してみましょう。
賞与にかかる所得税の具体的な計算方法
たとえば以下のような条件の場合はどうなるでしょうか。
- 12月の賞与100万円(社会保険料等を差し引いた金額)
- 11月の給与40万円(社会保険料等を差し引いた金額)
- 扶養家族 2人、給与所得者の扶養控除等申告書を提出済み
この場合は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」から「扶養親族2人」、「前月給与額393,000円~420,000円未満」の欄を見ます。
すると賞与にかかる源泉徴収税率(所得税率)が「10.210%」であることがわかるので、額面賞与100万円にかけます。
結果、102,100円が所得税として差し引かれるので、
社会保険料、所得税を引いて実際に振り込まれる賞与額は、897,900円となります。
賞与の前月の給与がゼロだった場合は?
賞与が支給される前月の給与がゼロだった場合は、以下のように賞与所得税額を計算します。
- 賞与から社会保険料等を差し引く
- (1)を6で割った額を、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に当てはめる
- (2)で算出した源泉徴収税額×6で算出した金額が「賞与から引かれる所得税額」となる
なお、賞与の対象期間が6ヶ月を超える場合(1年に1回など)は、(1)(3)で使った「6」という数字を「12」に変更します。
賞与が前月給与の10倍を超えている場合の計算式は?
「前月は出勤日の大半を休んでいて4万円だったが、賞与は50万円だった」というふうに、前月に支給された給与が何らかの理由で極端に少なく、前月給与の10倍を超える賞与をもらった場合はどうなるのでしょうか?
この場合は以下の手順で計算します。
- 賞与から社会保険料等を差し引く
- (1)を6で割った額に「前月の給与から社会保険料等を引いた金額」をプラスし、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に当てはめて税額を出す
- 「(2)で算出した源泉徴収税額-前月給与の源泉徴収額×6」で算出した金額が「賞与から引かれる所得税額」となる
なお、「賞与の前月の給与がゼロだった場合」と同じく、賞与の対象期間が6ヶ月を超える場合は(1)(3)で使った「6」という数字を「12」に変更します。
賞与にかかる所得税(源泉徴収税率)の計算に必要な保険料とは?
賞与にかかる所得税は、「社会保険料等を差し引いた賞与」に源泉徴収税率(所得税率)をかけて計算します。
このときの賞与から差し引く「社会保険料」には、以下のような種類があります。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 介護保険料(40歳以上)
どのように計算し、賞与から差し引くのか、それぞれ見てみましょう。
賞与から差し引く健康保険料
賞与から差し引く健康保険料額は、次の計算式で求められます。
ここでいう「標準賞与額」は、額面賞与(社会保険料差し引き前)の1,000円未満を切り捨てた額です。
健康保険料率は、都道府県によっても異なります。
たとえば東京都の場合、健康保険料率は9.81%です。
参考リンク:令和4年度都道府県単位保険料率
仮に東京都で働いていて賞与額が502,500円の場合、以下のような計算となります。
この場合、賞与から差し引かれる健康保険料は24,623円です。
賞与から差し引く厚生年金保険料
賞与から差し引く厚生年金保険料は、以下の計算式で算出できます。
一般的な会社員の場合、厚生年金保険料率は一律18.3%で固定されています。
参考リンク:令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和4年度版)
賞与額が502,500円の人の「賞与から差し引く厚生年金保険料」は次のとおりです。
この場合、差し引かれる厚生年金保険料は45,933円となります。
なお、賞与1回につき150万円を超える場合は、標準賞与額を一律150万円としてみなすことも覚えておきましょう。
賞与から差し引く雇用保険料
賞与から差し引く雇用保険料は、以下のように計算します。
雇用保険料率は業種によって異なり、一般的な事業であれば0.3%、農林水産業、建設業は0.4%です。
参考リンク:令和4年度の雇用保険料率について
健康保険料や厚生年金保険料との違いは、1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」ではなく「額面賞与」である点です。
そのため賞与額が502,500円だった場合はそのまま502,500円で計算します。
一般的な会社に勤める人であれば、以下の計算で賞与にかかる雇用保険料が求められます。
この場合の賞与から差し引く雇用保険料は15,075円となります。
賞与から差し引く介護保険料
40歳以上である場合は、健康保険料に「介護保険料」が加算された金額が賞与から差し引かれます。
計算式は以下のとおりです。
参考リンク:令和4年度都道府県単位保険料率
上記「協会けんぽ」の保険料率一覧表によると、介護保険料率は全国一律で1.64%です。
都道府県ごとの健康保険料率+介護保険料率を算出したうえで、賞与から差し引く金額を計算してみましょう。
所得税や社会保険料を差し引き、手元に残る賞与額のまとめ
手元に残る賞与額の計算式をまとめると、以下のとおりです。
(額面の賞与-健康保険料-厚生年金保険料-雇用保険料)×源泉徴収税率=賞与にかかる所得税
(額面の賞与-健康保険料-介護保険料-厚生年金保険料-雇用保険料)×源泉徴収税率=賞与にかかる所得税
先の項目でご説明した「東京都在住、額面賞与額502,500円の人」の場合で計算してみましょう。
- 東京都在住
- 32歳、扶養親族2人
- 「給与所得者の扶養控除等申告書」提出あり(賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表で「甲」に該当)
- 先月の給与(社会保険料を引いた金額): 300,000円
- 賞与の額面金額: 502,500円
(502,500円-24,623円-45,933円-15,075円=416,869円)
つまり、このケースでは額面賞与502,500円の約1/5が差し引かれたのち、振り込まれることになります。
賞与にかかる所得税を計算してみよう
記事でもご紹介したとおり、給与と同じく、賞与にも社会保険料や所得税がかかります。
また社会保険料や所得税は、それぞれ決まった料率で算出されますが、前月の給与額や家族構成、賞与額によっても異なるため、同じ賞与額をもらっていても手元に入ってくる金額はまちまちです。
毎年12月、6月ごろには、多くの企業でボーナスが支給されます。
「賞与からいくらぐらい所得税が引かれ、手元に残るのはいくらなの?」と気になる方は、ご紹介した計算方法をもとに、賞与から差し引かれるお金を計算してみましょう。