会社員や報酬を得て活動している個人事業主、フリーランスの中には、年末調整や確定申告のあとに「還付金」が戻ってくる場合があります。そもそもなぜ還付金が戻ってくるのでしょうか?
ここでは、還付金が戻ってくる仕組みや、お金が戻ってくる可能性のある「控除」について解説します。
還付金とはどんなお金?お金が戻ってくるケースは?
還付金とは、払いすぎていた所得税があるとき、納税者に変換される税金のことを指します。
会社員は年末調整や確定申告で還付金が戻ってくる
会社員など雇用されて働く人は、毎月の給与から「源泉徴収」として概算の所得税額が天引きされています。
そして毎年年末になると勤務先の会社で「年末調整」を受けるのですが、年末調整をした結果、「源泉徴収で本当に納めるべき所得税額より多く税金を払いすぎていた」と判断されることがあります。
この場合、天引きされすぎていた税金があとから還付されるのです。
また、医療費をたくさん払ったり、「ふるさと納税」「住宅ローン」を利用したりした場合、確定申告をすることで払いすぎていた税金が還付されるケースも多いです。
個人事業主の一部には確定申告で還付金が戻ってくる人もいる
個人事業主やフリーランスには「年末調整」がないため、年間所得が48万円を超える場合は確定申告が必要です。
また個人事業主は会社員のように源泉徴収がないため、確定申告で初めて納めるべき所得税額が決定され、還付金などもありません。
ただし例外として、個人事業主でも還付金が戻ってくることがあります。
ライターとして「原稿料」をもらった人や弁護士の「報酬」、フリーランスのモデルとしてもらった「報酬」については、クライアント企業があらかじめ源泉徴収を行うからです。
参考リンク:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは – 国税庁
報酬額から源泉徴収されていた個人事業主、フリーランスは、確定申告で「所得税を徴収されすぎている」と判断されれば、当然還付金が戻ってきます。
なお、国税庁が定める“源泉徴収が必要な報酬”であっても、支払元が個人(法人でない者)であれば源泉徴収されません。個人クライアントのみから報酬をもらっていた場合、還付金は戻ってこないので注意しましょう。
年末調整や確定申告で還付金が戻ってくるのはなぜ?
ここまでは「源泉徴収されていた人で還付金が返ってくること」を解説してきました。
しかし、そもそもなぜ源泉徴収されていたものが「払いすぎ」と判断されるのでしょうか。
所得税額は『控除』を差し引いたあとの課税所得で決まる
そもそも所得税額は、年間の収入から『控除』を差し引いたあとの金額です。
控除とは家族構成や病気の有無、寄付や住宅購入などの「個人の事情」を反映させるための制度で、年間の収入から控除額を差し引くことで「状況に応じた税負担の適性化」をはかるものです。
また、所得税には「所得税率」という割合が、所得額区分ごとに定められています。所得税率は高所得者になるほど高くなりますが、控除額が多くなれば差し引けるお金が多くなり、課税所得が低くなります。
課税対象となる所得額が「控除」によって減れば、当初想定していた所得税額よりも実際の納税額が低くなる、というわけです。
【課税所得に対する所得税率の表】
①課税される所得金額 | ②税率 | ③控除額(①×②から差し引く税額控除) |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
源泉徴収よりも後に控除できるお金が増えた場合、年末調整や確定申告をすると所得税額の“差額”が発生することになります。その差額がプラス(余剰)であれば、還付金が戻ってくるのです。
控除にはさまざまな種類がある
最終的な課税所得額を左右する『控除』には、さまざまな種類があります。
とりわけ以下の控除は、申告することで課税所得額、ひいては最終的な所得税額にも影響が及ぶ場合が多いです。
- 医療費控除
- 寄附金控除
- 雑損控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 住宅ローン控除(住宅借入金特別控除等)
- 特定支出控除(※会社員のみ)
それぞれの控除について見ていきましょう。
医療費控除、セルフメディケーション税制
自分や家族のために払った医療費を控除できる制度として、医療費控除やセルフメディケーション税制があります。
この2つはいずれか1つのみを適用でき、それぞれ以下の条件で利用可能です。
- 確定申告をする
- 医療費控除の場合は「医療費控除の明細書」を作成、確定申告書に添付
- 医療費控除は「①その年度に払った医療費総額-②保険金等の補てん金額-③10万円」で算出した額が控除される(所得合計額200万円以下の人は、③を「所得合計額×5%」に置き換えて計算する)
- 医療費の領収書は5年間の保管が必要
- 確定申告が必要
- 対象医薬品(スイッチOTC薬)の年間購入額が12,000円を超える場合に申告可能
- 「健康の保持増進及び疾病の予防に関する一定の取組」を行っている(人間ドックを受けている、予防接種を受けているなど)
- 以下を税務署へ提出する
- セルフメディケーション税制を適用し計算した確定申告書
- セルフメディケーション税制の明細書(健康の保持増進及び疾病の予防に関する一定の取組の証明書類、医薬品購入時の領収書は自宅で5年間保管)
医療費控除は年末調整では受けられませんので、利用したい場合は会社員でも確定申告が必要です。
寄附金控除
寄附金控除は、自治体やNPO法人などに「特定寄附金」を支払った人が受けられる控除です。
以下に当てはまる人は、「特定寄附金額の合計-2,000円」、または「その年度の総所得金額等の40%相当額-2,000円」の寄附金控除が受けられます。
- 国や自治体への寄付(ふるさと納税含む)
- 地方公共団体への寄付
- 認定NPO法人への寄付
- 公益社団法人への寄付
- 復興指定会社の株式取得
なお、会社員がふるさと納税をする場合は「ワンストップ特例制度」を利用できます。
利用したい控除が寄附金控除の場合は、ワンストップ特例制度を利用すると確定申告なしで控除が受けられるので覚えておきましょう。
※個人事業主はワンストップ特例制度が使用できないので要注意。
またふるさと納税を利用する場合、控除額の上限を超えるとかえって損をすることがあります。自分はどのくらいまでふるさと納税をすればトクになるのか知りたい人は、寄付上限額シミュレーターで計算してみましょう。
参考リンク:ふるさと納税バイブル ふるさと納税ポータルを横断検索
雑損控除
雑損控除とは、災害、盗難、横領などで資産に損害を受けた人が利用できる控除です。
「災害」には震災や風水害、火災や火薬類の爆発による災害などが含まれます。
雑損控除を利用する場合は、次の2つのうち金額が多くなるほうが適用されます。
- (差引損失額-総所得金額等)×10%
- (差し引き損失額のうち、災害関連の支出金額)-5万円
または
小規模企業共済等掛金控除
企業型DCでマッチング拠出(掛金の自主的な上乗せ)をしている人、iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用している人は、自身で拠出した掛金が全額控除されます。
小規模企業共済等掛金控除は年末調整、または確定申告で適用されます。
支払った掛金の証明書を提出する必要があるので、自宅に届いたら忘れずに保管しておきましょう。
住宅ローン控除(住宅借入金特別控除等)
個人が住宅ローンの借入を行い、マイホームの新築・購入・増改築などを行った場合、住宅ローン控除が受けられるケースがあります。住宅ローン控除を認められるには一定の要件や所得制限がありますが、適用されれば居住開始の次の年から控除が始まります。
住宅ローン控除は、最初の1年に限り確定申告が必要です。2年目から最終年にかけては、会社の年末調整で控除が受けられますので覚えておきましょう。
なお、住宅ローン控除は1回きりではなく、条件次第では10年以上にわたって適用されます。
これから住宅ローンを利用する方は、上手く活用してみましょう。
特定支出控除(※会社員のみ)
特定支出控除は会社員のみが利用できる控除制度です。
これは、業務に必要な資格取得費用や通勤費などを「勤務の必要経費」として考えたとき、必要経費が多くかかっている納税者の負担を軽減するためのもの。
勤務の必要経費が「年間給与所得控除額×50%(最高125万円)」を超えた人は、はみでた分の金額を控除できます。
なお、特定支出控除を受けるには、給与支払者の証明書を添えて確定申告をしなければなりません。
参考リンク:~給与所得者の特定支出控除について~
還付金はいつ戻ってくる?
「所得」から「控除」を差し引いた結果、還付金が戻ってくることになったとします。
その際に「いつ還付金が振り込まれるのか」と気になる方も多いでしょう。
還付金の振り込みタイミングは年末調整をしたのか、確定申告をしたのかによっても異なります。
- 会社員……年末調整終了後の給与と一緒に振り込まれる(12~1月)
- 確定申告をした人……3週間~1ヶ月半程度(e-Taxがもっとも早く還付される)
個人事業主やフリーランス等の場合は、例年2月16日~3月15日に確定申告をし、そこから上記の日数がかかります。
なお、会社員が確定申告で「還付申告」をする場合は、翌年の1月1日から5年間の申告可能期間があります。たとえば2022年の所得税に対し還付申告をしたい場合、2023年の1月1日~5年後までならいつでも申告ができるのです。
参考リンク:No.2030 還付申告 – 国税庁
還付金とは反対に追徴課税されるケースもある?
年末調整では、還付金とは反対に所得税の「追徴課税」が求められるケースもあります。
追徴課税とは、追加で税金を納付することです。
- 年度途中に扶養が外れた
- 月給に比べ賞与額が著しく多かった
- 年度途中に転職し、収入額が大きく変動した など
このような場合は、年末調整の結果、不足している所得税額を調整するために追徴措置が取られることがあるのです。
ただし、追徴といってもペナルティではなく、あくまでも「正しい税額を計算した結果、足りなかったので追加で納めてください」というものなので、損をしているわけではないことを知っておきましょう。
また、追徴課税は確定申告でも起こる場合があります。たとえば年間売上に申告漏れがあったり、まったく申告していなかったりすると、差額または本来納めるべき税金のすべてを納税しなくてはなりません。
納税が遅れてしまった場合、延滞税や利子税、加算税、過少申告加算税などの“ペナルティ”がさらに追加で課せられることがあります。
売上の申告は期限内に、抜け漏れがないよう行いましょう。