日本では長く円安状態が続いています。景気低迷の原因にもなる円安ですが、実際にはデメリットだけでなくメリットも存在するのをご存じでしょうか。
ここでは、円安の概要や円高との違い、円安のメリットを解説。円安が進行する時期にできる個人・企業の対策についてもご紹介します。
そもそも円安とはどんな状態?
円安とは、ドルなどの他の通貨に比べ、円の価値が低く(安く)なっている状態を指します。
たとえば「ドル高・円安」の状態では、1ドルあたりに対し円の相対的な価値が下がるため、より多くの円がないと1ドルに交換できません。
よくある勘違いとして「1ドル90円で円が下がっているから円安」というケースがありますが、これは間違いです。円安はあくまでも「何かの対象通貨と比べて円の価値が低い」という意味であり、価値が低いからこそ円が多く必要になるのです。
円安と円高の違い
ここで合わせて知っておきたいのが「円高」です。
円高は、円安とは反対に「他の通貨に比べて円の価値が高くなっている状態」を指します。
円の価値が高くなると、より少ない円で他の通貨へ交換できるようになります。
たとえばもともと1ドル120円だったのが、1ドル100円へ変わった場合。この場合は「円高になった状態」です。仮に6万円もっていたとすれば、1ドル120円(円安)のときには500ドルへ交換できますが、1ドル100円(円高)の場合には600ドルへ交換可能です。
これはかなり極端な例ですが、同じ6万円でも円安か円高かによって100ドルもの差額が生じることは知っておく必要があります。
個人単位であればその影響は少ないですが、大企業など億単位のお金が動く輸出事業を行っているケースでは、業績に多大な影響が及びます。
円安・円高の覚え方は「天秤」をイメージする
円安と円高は直感的に意味を理解しにくいため、人によっては意味を混同してしまいがちです。
分かりやすい覚え方としては「天秤」に例える方法があります。
- 円安……他の通貨に比べ、円の価値が低く(安く)なっている状態
- 円高……他の通貨に比べ、円の価値が高くなっている状態
=円が軽くなる(円がたくさん必要)
=円が重くなる(円が少しで十分)
天秤は重さでバランスをとる道具です。円安になると円の価値が下がって「軽くなる」ため、外貨と釣り合いを取るにはたくさんの円が必要になります。
一方、円高は円の価値が高くなる、すなわち「重くなる」状態です。価値が重くなれば、外貨と釣り合いを取る際も少ない量で済みます。
円安、円高の意味がわからなくなったら「円が軽くなるのか、重くなるのか」をイメージしてみましょう。
円安のメリット・デメリットは?
日本では「円安=物価が上がりやすい」という考え方が一般的ですが、円安になることで得られるメリットもあります。円安のメリット・デメリットについて把握しておきましょう。
円安のメリット
円安になると得られるメリットは次の4つです。
- 輸出産業の売上げアップにつながる
- 海外での売価を値下げしやすくなり、国際競争力アップにつながる
- 観光客の増加によるインバウンド収入が増加しやすい
- 保有していた外貨資産の価値が上がり、利益を得やすくなる
円安では円の価値が下がるため、ドルでの売上に対しより多くの円が得られます。円の価値が下がることで相対的な日本製品の価格も下げられるようになるので、日本製品が売れやすくなるのです。
これにより輸出産業で得られる儲け(外貨)の増加、ひいては売上アップにつながります。自動車産業など、輸出を頻繁に行う業種においては、大きな追い風となるでしょう。
また海外から見れば、円の価値が低くなると、少ないドルで海外へ旅行できるようにもなります。
仮に日本旅行の費用が30万円であった場合、1ドル100円の円高であれば3000ドルかかりますが、1ドル150円の円安なら2000ドルで日本旅行が楽しめるのです。
これは観光・宿泊産業にとっては有利な状況であり、インバウンド収入の増加にもつながるでしょう。
さらに、個人でいえば「外貨資産の価値が上がりやすい」というメリットもあります。
あらかじめ円をドルなどの外貨預金に替えていれば、売却して差益を得ることも可能です。
たとえば円で持っていた資産を、円高のタイミングで米ドルに替えます。そして円安になったタイミングで円に替えれば、その差額が利益となります(為替差益)。
円安のデメリット
円安のデメリットは主に「個人単位」で感じやすくなります。
- 物価高騰につながり、生活が苦しくなる
- 輸入コストがアップし、輸入業の業績が下がる
- 円の価値が下がるため、現金や預金などの価値が実質的にダウンする
日本ではさまざまな食料から製品原料まで、さまざまな物品を輸入に頼っています。特に石油や小麦などの必需品については、ほぼ海外に頼らざるを得ません。
円安で円の価値が下がってしまうと、これまで以上に多くの円で仕入れを行う必要があります。輸入品そのものの価格が上がれば、それを原料として製造する製品、サービス等の価格も上がります。そうしないと利益が得られないからです。
輸入コストが上がれば、輸入産業の業績にも良くない影響を及ぼします。商品価格を上げざるを得ず、買い控えが起こるからです。
そのほか、円安で円の価値が下がると、円で持っている現金・預金等の「現金資産」の価値も下がります。
仮に1億円の現金資産を持っていても、ドル90円の円高とドル120円の円安のときでは、“相対的な円の価値”が大きく変わるのです。
円安の際には賃金の上昇も起こりにくいため、生活コストだけが増え、円の価値は下がる……といった悪循環になりやすいことを知っておきましょう。
円安になるとどんな影響がある?
輸出業を営む企業・個人事業主にとって、円安は業績アップが期待できます。
しかし、それ以外の企業には注意が必要です。特に、円安の影響による「買い控え」は、事業の今後を大きく左右することにもなりかねません。
【企業においての円安の影響】
原材料費高騰による値上げで生活必需品の値上げが起きる
↓
値上げに対し賃金が変わらないので「買い控え」が起きやすくなる
↓
企業においては買い控えによる「顧客離れ」が懸念される
このように、輸出業・観光業・宿泊業などを除いた企業においては、値上げや買い控えによる業績ダウンに注意が必要です。
円安が進むときの対策は?
【個人の対策】
個人でできる円安対策としては、以下が挙げられます。
- 外貨積立
- つみたてNISAで海外中心の投資信託を購入
- 副業で収入アップ
外貨積立
円安のピークにおいてはあまりおすすめできませんが、円安になりそうなとき、および円安が落ち着いて円高に傾きそうなときには「外貨積立」等を利用し、円を外貨へ替えておく対策が考えられます。
外貨積み立てとは、円で持っていた資産をドルに替えて外貨で積立をしていくというものです。円の価値が暴落したときのリスク回避になるほか、積立額によっては大きな差益を得ることも可能です。
銀行のほか、FX会社でも外貨積立ができるので、検討してみていいかもしれません。
つみたてNISAで海外中心の投資信託を購入
「つみたてNISA」は、投資信託や国債などの金融商品を、一定の金額まで非課税で投資できる制度です。
円安対策としては、投資先が「米国」「先進国」「全世界」など、海外企業に投資する商品を選びましょう。
海外企業へ投資すると、円安が進めば高値になり、円高のときにはより多くの口数が買えるようになります。長期的かつ定額で分散・積立購入していけば、全体の平均購入価格が平均化し、値動きのリスクが少なくなります(ドルコスト平均法)。
短期での資産形成には向きませんが、早めにスタートしておいて数十年単位でコツコツ投資をしていけば、将来的には円だけに依存しない資産を形成できるでしょう。
副業で収入アップ
円安の時期には賃金や収入が上がらないケースが多く見られます。
そこでおすすめなのが、副業で収入アップを目指す方法です。
副業にはネットで気軽に始められるものから、店舗の開業など費用と手間がかかるものまでさまざまな仕事があります。ネット副業なら初期コストを抑えながら始めやすいので、「副業が続くか分からないけれど挑戦してみたい」という人にもおすすめです。
【企業の対策】
企業が行うべき円安対策は以下のとおりです。
- 値上げによる利益確保
- 付加価値やブランディングの追求
- 海外進出の検討
値上げによる利益確保
ビジネスにおいて円安でも利益を確保するもっともポピュラーな方法は「値上げ」です。
値上げには、単純に売価を上げるだけでなく、コストダウンや内容量を下げるなどの「相対的な価格アップ」も含みます。
ただし、値上げは買い控えの原因にもなりやすく、リスクがあることにも注意が必要です。
付加価値やブランディングの追求
円安で値上げが避けられない場合、その商品やサービスの付加価値アップ、およびブランディングを徹底する必要があります。
独自の魅力などの付加価値がないと、「他の安い商品でいい」と判断され、購入・利用してもらえなくなります。
【付加価値の例】
- 独自の性能、特典がある
- 技術の活用などにより低コストで満足度の高い商品・サービスとなっている
- ユーザーの意見を吸い上げ、ユーザー目線で使いやすい機能などが追加されている
「この会社のこの商品・サービスでなければいけない」と思わせるような付加価値があれば、円安や値上げの際にも売上は低下しにくくなります。
また、優れた商品・サービスによるブランディングも行い、認知度を高めていきましょう。
海外進出の検討
円安は輸出業にとって追い風になる状態です。
よって、ECサイトや海外出店などで国外への事業展開を検討してみるのも一つの方法です。
円安時は適切な対応でリスクを回避しよう
円安は輸出業など外国と密接なかかわりのある企業を除き、個人消費者・一般企業に大きな影響を与えます。
円安が進行しているときは、個人では円を外貨などの海外資産へ換えてリスクを分散しておくのが効果的です。また企業においては、商品・サービスの付加価値の追求や海外進出の検討をするなど、円安になる前から少しずつ対策を行っておくとよいでしょう。