システムやアプリなど、何らかの商品開発を行う際には「プロトタイプ」を作成するケースが多く見られます。そもそも、プロトタイプを作成する目的は何なのでしょうか? また、作成することでどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここではプロトタイプの意味や目的、開発に取り入れるメリット・デメリットを解説。プロトタイプを活用できるシーンについてもご紹介します。商品開発の効率化を目指すためにも、ぜひ知識として知っておきましょう。
プロトタイプとは「試作モデル」のこと!作成の目的や種類は?
プロトタイプとは商品やサービスの「試作モデル」を指します。
依頼者や開発者がイメージしている「アイデア」は、他人と共有するのがなかなか難しいものです。
そのような場合に、プロトタイプとして具体的な“形”へと変換・共有すれば、イメージや仕様を固めやすくなります。
たとえば、複数人がいる中で「おいしそうな果物でデザートを作って」と言われると、思い浮かべるデザートはバラバラになるでしょう。
しかし「目の前のリンゴでアップルパイを作って」とリンゴを差し出されると、でき上がるデザートは同じもので統一されますよね。
プロトタイプはこのリンゴと同じ役割を果たすモノであり、作成する目的は「頭の中のアイデアを具現化し、伝えやすくすること」です。
アイデアの段階では抽象的だったイメージを、完成品に近い「プロトタイプ」として具現化することで、さらなる改善を目指します。
またプロトタイプをユーザーに試用してもらうことで、開発者目線では気付きにくい問題点、改善点を洗い出しやすくなります。
プロトタイプの種類
プロトタイプには複数の種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
・ファンクショナルプロトタイプ(動作のシミュレーションをする試作品)
……商品の動作や実用性をシミュレーションするためのプロトタイプ。主にアプリ開発で利用されています。
ユーザーの操作で正しい動作をするか、何か問題がないかを確認するために作成します。
・デザインプロトタイプ(完成品のデザインや形を検証する試作品)
……完成品に近い試作品を作成し、色やデザイン、マークの位置などを検証するプロトタイプ。
紙やデジタルツールで作成することが多いです。
・コンテクスチュアルプロトタイプ(ユーザーに疑似体験を与える試作品)
……「文脈的な試作品」という意味で、商品・サービスの使用シーンを動画・静止画で表現したプロトタイプ。ユーザーへ「商品を使う疑似体験」をしてもらうことで、問題や改善点、反応などを確認できます。
クラウドファンディングでの商品開発に多い手法です。
プロトタイプと似ている開発手法
プロトタイプによく似た開発手法として、以下の4つが挙げられます。
- アジャイル
- ワイヤーフレーム
- ウォーターフォール
- モックアップ
アジャイル
アジャイルとは「本番のシステム」を用いて短期間で開発サイクルを回していく開発手法です。
試作品をつかって開発を進めるプロトタイプとは異なり、実際にリリースする本製品を確認しながらステークホルダー(出資者)からフィードバックを受けるのが特徴です。短いフェーズの開発を繰り返すため、修正・変更があっても迅速な対応がしやすい利点があります。
ワイヤーフレーム
ワイヤーフレームとは、主にWebページの開発で用いられる開発手法です。
Webページのコンテンツ、各レイアウトなどの「大まかな配置」を決めていくのが特徴で、デザインや装飾などはあとから実装します。
ウォーターフォール
ウォーターフォールは、作業工程を1つずつ確認して開発を進めていく手法です。「滝」という意味のとおり、開発工程が進んだら原則として前の工程には戻らず、どんどん先へ進んでいきます。
工程が行ったり来たりしないので方向性もぶれにくく、仕様さえきちんと定義されていれば仕様通りの成果物が作りやすい利点があります。
その一方で、仕様変更が生じた場合には前工程に戻りにくいデメリットもあります。
この特徴からウォーターフォールは、プロトタイプで要件・仕様を確定したあとに用いられることが多いです。
モックアップ
モックアップとは「模型」のことを指します。とりわけ工業分野では、内部システムを除いた“外面の模型”を意味しており、3Dプリンタなどで制作するケースが多いです。
またWebサイト、モバイルアプリ等の制作においては、色・レイアウトのサンプルとしてモックアップ(デザインカンプとも呼ばれます)を作成するケースが多々あります。「完成サンプル」とも言い換えられるでしょう。
プロトタイプを作成するメリット・デメリット
プロトタイプを作成するとイメージ共有がしやすく、開発がスムーズになるなどのメリットがあります。その一方で、開発期間が伸びやすいなどのデメリットがあるのも事実です。
メリット、デメリットのそれぞれを知っておきましょう。
プロトタイプ作成のメリット
プロトタイプを作成するとさまざまなメリットがあります。
- 製品のイメージが共有しやすい
- 具体的なフィードバックがしやすくなる
- 製品やサービスの質向上につながる
- 開発工程が明確化し、効率化が叶う
プロトタイプを制作すると、製品の完成イメージがわかりやすいメリットがあります。各々の頭の中で生まれたアイデアを具現化することで、お互いがそれを理解し、共通イメージとして共有できるのです。顧客に試してもらう場合でも同じことが言えるでしょう。
またこれにより、現実的かつ具体的なフィードバックができるようにもなります。細かな改善点が見つかれば、製品をより良いものへとブラッシュアップすることができるでしょう。
さらに、製品のイメージをプロトタイプで具体化することで、開発工程の目途をつけやすくなります。各工程の内容が明確化すれば、開発効率も飛躍的にアップするのです。
プロトタイプ作成のデメリット
プロトタイプを使った開発にはデメリットもあります。
- 開発期間が延びやすい
- 手間がかかる
- 仕様変更が多くなるほどコストが増える
- チーム間での意見が対立しやすくなる場合がある
プロトタイプの作成には時間や手間がかかるうえ、フィードバック・修正・確認といった工程が必要になります。結果的に開発期間が延びてしまうほか、途中で仕様変更があればそのぶん開発コストはかさんでいくでしょう。
また、プロトタイプで具体的な改善点、要望が浮かびやすくなるのは事実ですが、そのおかげでユーザー(依頼者)が細かな要望を出してくるケースもあります。仮にその要望が無理難題であった場合、開発側との間で対立が生まれる可能性が高まるでしょう。
プロトタイプはどんな場面で活用されている?
プロトタイプはさまざまなシーンで活用されています。
- 小中規模のプロジェクトをスタートするとき
- 新規プロジェクトを立ち上げるとき
- クライアント側の経験が浅く、完成物のイメージが漠然としているとき
- アイデアを説明したいとき
- チームの学習時
- ユーザーアンケート等で意見を収集したいとき
くわしく見ていきましょう。
小中規模のプロジェクトをスタートするとき
プロトタイプは小~中規模のプロジェクトで用いられるケースが特に多く見られます。
大規模プロジェクトの場合は関わる人数も多くなり、プロトタイプ制作をしたとしても試用~チェックにかなり長い時間がかかるものです。こうなると開発期間が延び、コストも手間も増大してしまいます。
一方、小中規模のプロジェクトであれば、「プロトタイプの試作→完成品をテスト→コミュニケーションをとって改善」というサイクルが回りやすく、その効果を最大化しやすいのです。
新規プロジェクトを立ち上げるとき
商品・サービスの完成イメージが想像しにくい新規プロジェクトにおいても、プロトタイプが役立ちます。
まずプロトタイプを作って形にし、そこからイメージや機能などのすり合わせを行うことで、効率的にプロジェクトを進められます。実物があることで双方がイメージを持ちやすく、仮説も検証しやすいので、クライアントとの認識違いなどのトラブル回避にもつながるでしょう。
クライアント側の経験が浅く、完成物のイメージが漠然としているとき
クライアント側の開発経験が浅い場合、「どんな商品・サービスがほしいのか」が具体的に浮かんでいないケースが多々あります。このような時はプロトタイプを作成してアイデアを具体化すれば、細かい要件まで突き詰めやすくなります。現物があるゆえ「ここをこうしてほしい」というふうに要望も伝えやすくなるでしょう。
開発側もコミュニケーションコストを減らせるため、開発に注力しやすくなります。
つまり双方にとってそれぞれ良い影響があるのです。
アイデアを説明したいとき
プロトタイプは商品開発についてのアイデアを説明したいときにも活用されています。
頭の中のアイデアを共有する際、口頭や文章のみでは相手に伝わりにくいものです。しかし、プロトタイプを提示すれば、アイデアがより具体的に伝わりやすくなります。
開発の初期段階でプロトタイプを作っておけば、見落としがちな問題点にも気付きやすく、改善を重ねてよりよい製品を世に出せる可能性が高まるでしょう。
プロトタイプを制作し商品開発に役立てよう!
プロトタイプには「手に取ったり利用したりすることで、新プロダクトに対する実際の反応が得られる」という大きなメリットがあります。ユーザーの生きた意見を収集することで、よりニーズに合った商品開発が実現可能です。
またプロトタイプを上手く活用すれば、開発コミュニケーションがスムーズになったり、学習機会の創出、チームの結束アップにもつながったりする効果も期待できるでしょう。
プロトタイプを制作・商品開発に活かそうとするとスケジュールに余裕がないと難しい実情がありますが、うまく活かせばヒット商品・サービスを生み出せる可能性もあります。
スケジュールにある程度余裕がある場合で、かつ小中規模のプロジェクトをスタートする際には、ぜひプロトタイプを活用してみてください。