会社から従業員に支給するお金のひとつである「賞与」。賞与は通常の給与と異なる金額・時期に支給する報酬であり、支給するかどうかは企業の裁量で決められます。しかし、支給することで従業員の生活を保障し、大きなモチベーションアップにつなげられる効果が得られるのもまた事実です。
ここでは賞与の基礎知識として、種類や支給額の決め方、支払い時に行う手続き・届出の流れについて解説します。
賞与(ボーナス)とは
賞与(ボーナス)とは、企業が従業員に対し給与以外に支給する報酬を指します。
「臨時の給与」といってもよいでしょう。
賞与は、従業員に対し自社の利益を還元することで生活保障を強めたり、成果達成の見返りとしてモチベーションアップにつなげてもらったりすることを目的に支給されます。
賞与は主に夏季・冬季の2回に分けて支給されるケースがほとんどですが、賞与の有無や回数、金額については企業が自由に決められます。そのため企業によっては年3回以上賞与を支給するケースもあります。
賞与の対象は正社員だけではない
賞与はおもに正社員(正規雇用)の従業員に対し支給されます。アルバイトやパート従業員に対しては、数千~数万円程度の「寸志」として賞与が支給されるケースが多いでしょう。
ただし、契約社員など「正社員と同じ内容・同じ時間の職務についている従業員」に対しては、規定を設けたうえで賞与を支給するケースも増えつつあります。
賞与の支給日は?
一般的な企業の夏季・冬季賞与の支給日は、夏季が6月下旬~7月上旬、冬季が12月中である場合がほとんど。公務員の賞与(期末・勤勉手当)の支給日は夏が6月30日、冬が12月10日ですので、ほぼ同じであることがわかります。
賞与の種類とは?
賞与には「夏季・冬季賞与」のほか、「業績賞与」と「決算賞与」があります。
夏季・冬季賞与
夏季・冬季賞与とは、基本給に応じた金額を夏、冬に分けて支給するタイプの賞与です。一般的に「賞与(ボーナス)」というと夏季・冬季賞与を指すことが多いです。
企業によっては夏季・冬季以外にも、後述する業績賞与、決算賞与などを支給するケースもあります。
業績賞与
業績賞与とは、企業の業績に連動して支給する賞与のことです。
部門や個人の「業績」に対し支払われるのが特徴で、業績がいいほど賞与額も上がる仕組みとなっています。
実施した場合各部門・個人の競争心を適度に刺激し、成果向上を促す効果が期待できます。
ただし、企業全体の業績が落ちている場合は、賞与制度としての運用が難しくなる点がデメリットです。また賞与の金額、係数の基準によっては従業員から不満を持たれるケースもあるため、業績賞与の運用時には「なぜこの金額(係数)なのか」を明確化し、丁寧に説明する必要がある点にも注意が必要です。
決算賞与
決算賞与とは、企業の決算期に支給される賞与です。年間の売上・利益が当初の計画よりも上回っていた場合、利益を従業員に分配することで、従業員の一体感や企業へのエンゲージメント向上、モチベーションアップといった効果が得られます。
業績賞与と同じく「業績に連動している賞与」ともいえますが、決算賞与は「企業全体の業績」が好調なときに支給されるものです。赤字や利益が少ない年に関しては支給そのものが難しい場合もあります。
実施する際には、「決算賞与を支給する基準」を従業員に共有し、理解してもらう必要があると心得ましょう。
賞与の有無や支給額はどうやって決める?
賞与の有無、および支給額は企業で自由に決めることができます。ここでは、企業側として押さえておくべき賞与の有無、支給額の決め方(算定方法)についてチェックしていきましょう。
賞与の有無はどう決める?
賞与の支給額や支給時期については企業の裁量に任せられています。よって、はじめから「賞与の支給なし」と決めている場合は、賞与を支払わなくとも罰則などはありません。
ただし、「就業規則」「労使間で締結した労働契約」「企業と労働組合で締結した労働契約」のいずれかで賞与の支給を規定している場合は、法的な「賞与を支払う義務」が発生します。
賞与額の決め方は?
一般的な「夏季・冬季」の賞与については、従業員の「基本給」をもとに算定するケースがほとんどです。
基本給とは「通勤手当」「役職手当」「インセンティブ」などを含まない、ベースとなる給与のことです。この基本給に「○ヶ月分(または○%)」をかけた金額を賞与とする方法があります。
たとえば手当込みの月収30万円、基本給25万円の企業で賞与を「基本給2ヶ月分」と設定した場合は、25万円×2(ヶ月)=50万円が賞与となります。
また企業によっては、基本給○ヶ月分に「賞与係数」をかけて算定するケースも多いです。賞与係数とは、その個人・部署の評価、スキル、業績に応じて与えられる“倍率”のことで、「前年比120%の好成績を残したため賞与係数1.2で算定する」というふうに使われます。
基本給○ヶ月分 × 賞与係数 = 賞与額
※賞与原資が潤沢な企業の場合は、ここへさらに「調整金額」を上乗せする場合もあります。
なお、不当な理由での賞与減額、賞与なしなどの対応は認められませんが、遅刻や欠勤が多く業務に支障をきたしている場合や、悪意を持った行為で企業に対し何らかの損害を与えた場合などは、従業員へ説明をした上で賞与の減額が認められる場合もあります。
企業規模によってはより細かな方法で決定する
ベンチャーなど企業規模が小さい(数名~10名程度)場合は、従業員1人1人と面談をし、直接賞与額を決定するケースがあります。
一方、数十名規模以上になってくると、細かな人事評価基準を定め、それをもとに賞与金額や賞与係数、調整金額を決定し、賞与計算を行う場合がほとんどです。
賞与支払いの流れ
企業が支払う賞与には、それぞれ社会保険料、所得税がかかります。このうち「社会保険料」については、賞与支払届を賞与支払日から5日以内に日本年金機構、健康保険組合へ提出することが求められます。
1.賞与支払予定月の登録
今年初めて賞与を支給する場合は、管轄の年金事務所へ「新規適用届」または「事業所関係変更(訂正)届」を提出しておきます。この手続きで、賞与の支払予定月が登録されます。
2.「賞与支払届」の受領
ステップ1で支払予定月を登録していた場合は、支払予定月前月に賞与支払届が郵送されてきます。
賞与支払届は管轄の年金事務所で受け取るか、日本年金機構の公式サイトからダウンロードすることもできます。
参考:賞与を支給したとき、賞与支払予定月に賞与が不支給のとき|日本年金機構
また、賞与の支払いを予定したものの、実際に支払わなかった場合は「賞与不支給報告書」を提出する必要があります。こちらも年金事務所の窓口で用紙をもらえるほか、日本年金機構の公式サイトで書式をダウンロード可能です。
3.標準賞与額、社会保険料の算出
実際に支払った賞与額から1,000円未満切捨ての金額を「標準賞与額」といいます。
この標準賞与額に「健康保険料率」「厚生年金保険料率」「雇用保険料率」をかけることで社会保険料が算出できます。
参考:
令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
令和5年度雇用保険料率のご案内|国税庁
なお、健康保険料率は40歳以上と40歳未満で異なります。これは介護保険料が含まれているかどうかの違いです。
4.賞与支払い、および書類の作成
賞与を支払ったあとは、賞与支払届や賞与不支給報告書を作成します。
賞与支払い月を登録していた場合は、すでに被保険者の必要事項がある程度記載されている状態の賞与支払届が送られてきています。「提出日」「提出者記入欄」「賞与支払年月日」など、不足している項目を埋めていきましょう。
予定していた賞与の支払ができなかった場合は、賞与不支給報告書を作成します。
5.賞与支払届を提出
賞与支払届、および賞与不支給報告書の作成後は、管轄の年金事務所と健康保険組合へ提出します。
窓口で提出できるほか、郵送や電子申請での提出も可能です。
電子申請をする場合は「電子媒体届出仕様書」に適合する仕様のシステムを使うか、日本年金機構が提供している「届出作成プログラム」の利用、または「e-Gov」による電子申請で行う必要があります。
6.標準賞与額の通知、保険料の納付
賞与支払届の提出後に「健康保険・厚生年金保険 標準賞与額決定通知書」と「保険料納入告知額・領収済額通知書」が郵送されてきたら、標準賞与額決定通知書を保管し、従業員へ標準賞与額の通知を行います。
さらに、書類が送付された月の末日までに、標準報酬月額にかかる社会保険料と合わせて「賞与にかかる保険料」の納付を行いましょう。
賞与で従業員のモチベーション向上!
賞与には従業員のモチベーションアップにつながる効果があり、賞与制度を上手く運用できれば従業員の生産性向上、愛着強化などにつなげられます。ただしそのためには、人事評価制度の適正化、および賞与への反映制度の整備などが必要です。
従業員の定着や企業全体の強化を目指すならば、賞与をうまく活用し、従業員との良好な関係性を築くことを心がけましょう。