公益性の高い事業を行う場合、「非営利法人」として事務所を設立するケースが多く見られます。非営利法人のうち、財産の運用・活用をベースに設立する法人を「財団法人」と呼んでいます。
ここでは財団法人の概要や種類、社団法人やNPO法人との違いをご紹介。設立のメリット・デメリットや登記の流れについても解説します。
財団法人とは?
財団法人とは、公益を目的に運営・管理を行う法人のひとつ。
具体的には、「財産」の運用を目的に結成される法人を指します。「財産の集まり」ともいえるでしょう。
通常、法人というと「株式会社」などを思い浮かべる方も多いでしょう。
株式会社は「人の集まり」であり、人が集まる「会社」に対して法人格が与えられます。設立の目的は営利(事業を営んで利益を得ること)です。
しかし財団法人の場合は、財産に法人格が与えられるのが特徴です。
営利を目的としない「非営利法人」で、かつ「財産の運用」を目的としているため、一般的な営利法人とはそもそもの法人設立目的が異なるのです。
財団法人には2種類がある
財産法人には「一般財団法人」「公益財団法人」の2種類があります。
①一般財団法人
一般財団法人は、公益認定を受けていない財団法人を指します。
登記するだけで設立ができるのが特徴ですが、300万円以上の財産を拠出する必要があること、また法人の活動原資を「財産の運用で得た利益」でまかなうことなどの条件があります。
- 理事3名、監事1名、評議員3名以上を集める
- 300万円以上の財産
- 財産の運用で得た利益を活動原資として利用する
なお、一般財団法人はさらに「非営利徹底型法人」「営利型法人」の2種類に分けられます。
非営利徹底型法人
一般財団法人のひとつである「非営利徹底型法人」は、活動で得た利益を分配しないのが特徴。
ただし、収益事業を行ってはいけないというわけではなく、あくまでも「利益を分配しない=非営利を徹底する」法人です。
非営利徹底型法人となるには、「剰余金を分配しないこと」など一定の条項を定款に記載しなくてはならないので、非営利徹底法人を立ち上げたい場合は設立段階で検討しておくのがベストでしょう。
事業で得た利益については、収益事業と非収益事業に区分して会計を行います。
ただし、
- 非営利を徹底している
- 共益的活動を目的としている
上記のどちらかの要件を満たしている場合は、収益事業以外の所得(非収益事業など)に対する法人税が非課税になります。
営利型法人
一般財団法人のうち、上記「非営利徹底型法人」に当てはまらない法人については「営利型法人」にカテゴライズされます。
これは、事業内容や課税について、普通法人(株式会社など)と同じ扱いになります。
非営利事業をしたくない場合は、営利型法人として設立・運営することになるので覚えておきましょう。
②公益財団法人
公益財団法人は、認定を受けた財団法人です。設立からいきなり公益財団法人になれるわけではなく、
一旦「一般財団法人」として設立→認定の申請→承認
というプロセスを経て公益財団法人になります。
公益財団法人になるメリットとしては、税制優遇が手厚い点が挙げられます。
たとえば、公益財団法人が行う「公益目的事業」については、法人税、利子配当の源泉税が非課税に。公益目的の事業だけを行っている財団法人に対しては法人住民税も非課税ですし、法人住民税の免除(※)申請を受け付けているケースがあります。(※住民税については自治体によって異なる)
なお、公益財団法人になるには、内閣府所属の「公益認定等委員会」「各都道府県知事」のそれぞれに“公益性”を認められないといけません。
認定には、法で定められた23種類の公益目的事業を行っていることが条件となります。
参考:公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(別表(第二条関係)) | e-Gov法令検索
財団法人と社団法人、NPO法人の違いは?
財団法人とよく比較される法人形態に、「社団法人」「NPO法人」などがあります。財団法人とはどのような違いがあるのでしょうか?
財団法人と社団法人の違い
財団法人と混同されやすいのが「社団法人」です。
冒頭でも触れたとおり、財団法人は「財産の集まり」であり、財産の運用を目的に設立される法人です。
一方、社団法人は「人の集まり」であり、人がメインとなって何らかの活動を行う法人を指します。
財団法人と社団法人の明確な違いは「会員から法人運営資金を募る」という点です。
財団法人は基金や寄付金などで運営を行うほか、基本財産を「理事」が管理しています。一方、社団法人は会員から資金を募り、法人の運営資金に充てることで法人活動を運営しています。
また、財団法人と社団法人では法人設立の目的が異なるケースも多いです。
財団法人は財産の運用、公益財団法人ならば社会貢献を目的としています。
一方の社団法人は、学術団体や協会、資格団体のほか、自治会や同窓会など、「人が集まって特定の目的を果たすために結成する」という目的がほとんどです。
自治会や同窓会等は法人格のない任意団体として活動することもできます。しかし社団法人化して法人格を得ると、団体名義の銀行口座開設、契約、財産の所持などができるようになるメリットがあります。
- 財団法人は基金や寄付、社団法人は会員から資金を集めることで運用する
- 財団法人は財産の運用・活用のため、社団法人は人が集まって何かを成し遂げるために設立される
改めて、それぞれの違いを理解しておきましょう。
財団法人とNPO法人の違い
財団法人と比較されやすい法人には「NPO法人」もあります。
財団法人、社団法人、NPO法人は全て「公益法人」に分類される法人です。
このうちNPO法人は、法律で定められている20種類の“特定非営利活動”にあたる活動を行うために設立される法人を指します。
以下の20分野の特定非営利活動には、ボランティアや社会的弱者となる立場の人たちへの支援活動など、国際協力活動といった“慈善事業”が多く含まれているのが特徴です。
よって、財団法人や社団法人と同じく、公益性の高い事業を行うという共通点があります。
一 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
二 社会教育の推進を図る活動
三 まちづくりの推進を図る活動
四 観光の振興を図る活動
五 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
六 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
七 環境の保全を図る活動
八 災害救援活動
九 地域安全活動
十 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
十一 国際協力の活動
十二 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
十三 子どもの健全育成を図る活動
十四 情報化社会の発展を図る活動
十五 科学技術の振興を図る活動
十六 経済活動の活性化を図る活動
十七 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
十八 消費者の保護を図る活動
十九 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
二十 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動引用元:活動分野 | NPOホームページ
財団法人との違いは、“法人格が与えられる対象”です。
財団法人は「財産」ありきでの設立となり、法人格も財産へ付与されます。
財団法人の場合、設立時に300万円以上の財産が必要です。
一方NPO法人は、法人格が「人」へ与えられるという違いがあります。
またNPO法人には必要な金額要件がなく、資本金のような「設立要件となる資金」は不要です(設立登記費用は約11万円かかります)。
財団法人を設立するメリットは?
財団法人を設立するメリットには、どのようなものがあるでしょうか。
- 一般財団法人は設立しやすく、事業内容も自由、許可・報告義務もない
- 税制優遇が受けられる(一般、公益両方)
- 社会的信用を得やすく、寄付を募りやすい
一般財団法人の場合、設立がしやすく事業内容の自由度が高い点が特徴です。税制優遇も受けられます。認定こそ必要ですが、公益財団法人となればさらに多くの税制優遇が受けられるようになります。
また、公益財団法人になると社会的信用が高くなるほか、寄付をした側が「寄附金控除」を利用できる利点も生まれます。これにより、寄付を募りやすくなるのは大きなメリットです。寄付が多く集まればより運営が安定しやすくなり、より規模の大きな活動が実現できるようになるでしょう。
財団法人にはデメリットもある?
財団法人にはデメリットもあります。
- 300万円以上の財産が設立の必要条件になる
- 一般財団法人の営利事業に関しては税制優遇が受けられない
- 公益財団法人になるには厳しい要件をクリアしなくてはならず、会計処理が複雑
財団法人の設立には300万円以上の財産が必要であり、設立後も2期にわたって純資産が300万円を下回ってはいけないという決まりがあります。
財産は現金・物を問いませんが、財産の要件を満たせないと設立すらできませんので注意しましょう。
また、公益事業については税制優遇がありますが、営利事業については税制優遇が受けられません。公益財団法人に認定されるためには、厳しい要件をクリアしたり、複雑な会計処理をこなしたりしなければならない点も知っておきましょう。
財団法人を設立する流れは?
財団法人を設立する際には、以下の費用が掛かります。
定款の認証手数料 | 50,000円 |
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定款謄本の取得代金 | 2,000円 |
登録免許税 | 60,000円 |
法人印鑑の作成代金 | 10,000~20,000円 |
登記簿謄本取得代金(2通) | 960~1200円(請求方法により異なる) |
印鑑証明書の取得代金 | 780~900円(請求方法により異なる) |
合計 | 123,740円~134,100円 |
※ここに300万円以上の拠出財産が加わります。
なお、財団法人を設立する際の流れは、以下のとおりです。
1.設立メンバーを集める
財団法人を設立する場合は、「一般財団法人」として法人登記をすることになります。
このとき、設立者を含む“設立メンバー”を最低7名集めなくてはなりません
- 理事3名、評議員3名、監事1名/計7名
- 各肩書は兼任できない
一般的な規模の場合は「理事、理事会、評議員、評議員会、監事」という機関を構成するケースがほとんどです。
2.定款の作成認証
財団法人の設立には「定款」が必要です。
- 事業目的
- 法人の名称
- 主たる事務所の所在地
- 設立者の氏名(または名称)、住所
- 設立時に各設立者が拠出する財産、およびその金額
- 評議員、理事、監事の選任に関する事項
- 評議員の選任、および解任の方法
- 公告方法
- 事業年度
「法人の名称」については、「一般社団法人」という文言を必ず使用しなくてはいけませんので注意しましょう。
さらに、定款には設立者全員の署名(または記名押印)する必要があります。
3.財産の拠出、設立手続きの調査と登記申請
設立者は300万円以上の財産を拠出します。
設立時の理事、監事は、設立手続きに不備がないか調査をします。
不備がなければ、法務局にて事務所登記申請を行います。登記申請は設立時の代表理事が行い、登記手続きが終わったら税務署、都道府県税事務所、市役所への届け出を行いましょう。
これにて、財団法人(一般財団法人)の設立手続きは完了です。
まとめ
財産を活かし公益性の高い事業を行う財団法人。財団法人は遺産を活用するために設立されるケースも多く見られます。一般財団法人か公益財団法人かによって税制優遇の度合いや性質、会計処理の工程等が変化しますが、いずれも「収益を得るための事業」を目的とするには向きません。
営利目的であれば株式会社等の営利法人を、公益性の高い事業を手掛けたい場合は財団法人や社団法人、NPO法人等の非営利法人を選ぶとよいでしょう。