個人にせよ法人にせよ、事業を営むうえでは「支出」が発生します。税法では、仕事の売上を生み出すために生じた費用は「経費」として計上できます。
ここではこれから起業される方へ向け、経費の定義や計上範囲、具体例などを解説。経費にできない支出や、不正申告した場合のペナルティなどもまとめてご紹介します。これを読めば、経費の基本がわかりますよ。
そもそも経費とは何?計上できる判断基準は?
「経費」とは、仕事を行う上で支払った費用を指します。
よりくわしく言えば、「事業の売上げにつながる費用」はすべて経費に計上できる、とも言い換えられるでしょう。
また製造業で言えば「製造原価から材料費、労務費を抜いた費用」と定義されます。
経費の具体例を挙げると、
- 仕事で使う文房具を購入した
- 仕事のためにインターネット回線を契約した
- 従業員を雇い、給与を支払った
- 取引先との打ち合わせのためにカフェへ入り、飲み物を頼んだ
- 会議のために貸し会議室を利用した
- 仕事場としてレンタルオフィスを借りた
- 賃貸住宅の自宅をオフィスとして使用し、家賃を払っている
こうしたケースで生じた支出は「経費」になります。
経費の限度額は特に決められていない
「経費はいくらまで認められる?」と疑問に思っている方も多いかもしれませんが、実際には「売上につながっている支出」とさえ認められれば、どんな支出でも経費として認められます。
ただし、経費であることを証明するためには、売上に結び付いたことの根拠が明確に説明できなくてはなりません。
自宅をオフィスにする場合は「家事按分」が必要
最近ではフリーランスや個人事業主、オフィスを持たない法人など、自宅で働いているケースも多いかと思います。
この場合、自宅の家賃や光熱費、水道料金なども「経費」として認められます。
また自家用車を仕事のために使用している場合も、ガソリン代や車両の購入代金を経費にすることができるでしょう。
ただし、プライベートと共用しているモノ・場所・サービスは、全額を経費にできません。
この場合は「家事按分」といって、事業に使っている分の割合のみを経費として計上できる仕組みです。
例えば家賃12万円の賃貸マンションで事業を営み、部屋面積の1/3を仕事に使っている場合。
この場合は「12万円×1/3=4万円」を、「地代家賃」という勘定科目で毎月経費計上できます。
面積で割れない光熱費や水道費、ネット利用料金やガソリン代などは、使用時間の割合で按分するとよいでしょう。
事業者が「経費で落とす」理由とは?
ビジネスの場では、支払った代金を「経費で落とす」という場面がよく見られます。
これはもちろん「経費計上する」という意味ですが、経費で落とすことで以下のようなメリットが得られるのです。
- 税申告上の課税所得が減り、所得税、住民税などの額が低くなる
- 国民年金保険料、国民年金保険料などを抑えられる
たとえばフリーランスの場合、もらった報酬から仕事関連費や国保、年金などの保険料、生活費などを支出することになります。ただ、仮に年間800万円の所得をもらっていたとしても、仕事で年間600万円を使用していれば、実質の年間所得は200万円となります。
実質の所得が200万円であるにもかかわらず、所得800万円のときの税金額・保険料額を支払うのは難しいですよね。
そこで、実質の収入に対する正しい税額、保険料額を算出するために重要なのが「経費」です。
仕事で使ったお金を経費として計上することで、個人の所得を正しく判断するのです。
(さらに、個々の事情を反映させるための「所得控除」を利用すれば、より正しい課税所得額がわかります)
経費に含まれる費用には何がある?
経費には以下のようなものが含まれます。
- 地代家賃
- 人件費
- 消耗品費
- 交際費
- 旅費交通費
- 新聞図書費
- 通信費
- 水道光熱費
- 研究開発費
- 租税公課
- 修繕費
- 支払手数料
- 法定福利費
- 外注工賃
これらは経理上の「勘定科目」ですが、それぞれ詳しい内容をチェックしてみましょう。
地代家賃
事業のためにオフィスを借りたときの賃料、利用料や、自宅マンションを仕事場として使っているときの家賃(按分が必要)は、地代家賃として経費計上できます。
人件費
従業員に支払った給与、賞与、退職金等は人件費として経費にできます。
消耗品費
10万円未満(または使用期間が1年未満)の事務用品やPC/タブレット端末、家具などを購入したときの費用は、消耗品費として経費にできます。
10万円を超える場合は「固定資産」として計上する必要があります。
交際費
取引先や顧客との打ち合わせ、接待などで生じた費用は「交際費」として経費計上します。
また仕事関係者の冠婚葬祭イベントに参加したときの祝儀、香典なども交際費です。
旅費交通費
仕事の移動に必要な電車代やバス代、タクシー代などは「旅費交通費」として経費計上できます。
自身の移動はもちろん、従業員が仕事で使用した交通費も経費に含まれます。
新聞図書費
仕事のスキルアップや資料として購入した新聞、書籍は新聞図書費として経費計上します。
通信費
仕事に使っているインターネット回線の利用料金、スマホの通信料、電話代などは通信費として計上します。
プライベートと共用している場合は家事按分をし、事業に使っている額を経費としましょう。
水道光熱費
オフィス、および自宅兼オフィスの水道代・光熱費は「水道光熱費」として経費計上します。
こちらも家事按分が必要です。
研究開発費
製品やサービスの新たな創出、既製品の著しい改善・改良のためにセミナーを受講したり、イベントに参加したりといった場合にかかる費用は「研究開発費」として経費にできます。
租税公課
収入印紙や印紙代、個人事業税、固定資産税、不動産取得税、自動車税など、仕事に使っているモノ・場所にかかる税金は「租税公課」で経費計上できます。
個人や法人そのものの義務となっている税金(所得税など)は対象外です。
修繕費
建物、機械の修繕やメンテナンスにかかるお金は修繕費として経費計上が可能です。
具体的には「20万円未満、または3年以内の周期で定期的に生じる費用」「60万円未満、または前期末取得価額の約10%以下で資本的ではない支出」が修繕費として認められます。
支払手数料
販売手数料や振込手数料など、事業で発生する手数料は「支払手数料」として経費にできます。
また弁護士など一部の業者に専門業務を依頼した場合も「支払い手数料」で仕訳をします。
法定福利費
従業員を雇用し、社会保険料を負担した場合は「法定福利費」として経費計上できます。
健康保険料、厚生年金保険料、労災保険料、介護保険料、雇用保険料などが該当します。
外注工賃
アウトソーシング(業務委託)で仕事を依頼した場合、外注工賃として経費計上ができます。
経費にできない費用って?
私的な目的・用途で支払ったお金(事業に関係ないお金)に関しては、経費となりません。
また未使用の事務用品や、仕入れてまだ売れていない「余剰在庫」も経費には含まれないので注意しましょう。
未使用の消耗品や余剰在庫が生じた場合は、棚卸で未使用分の額を差し引き、経費を計上します。
- 事業の売上げにつながらない出費(趣味のサーフィンのためにサーフボードを買った/友達との食事代など)
- 未使用の消耗品(事務用品など)を購入したお金
- 余剰在庫
- 税金(所得税、住民税、法人税、法人住民税など)
なお、所得税や住民税、法人税等の「税金」についても、経費ではありません。
そもそもこれら税金は個人や法人の義務として収めるものであり、仕事関連の支出ではないからです。
経費の範囲を越えたら罰則はある?
本来経費になる費用を経費計上しなくても、罰則はありません。
一方、経費としてカウントできる範囲を超えて経費を計上した場合(私物の購入費を経費計上するなど)、および税額の過少申告や無申告などは、「不正計上」としてペナルティがあります。
- 過少申告加算税
- 無申告加算税
- 不納付加算税
- 重加算税
それぞれを見てみましょう。
過少申告加算税
差し引く経費を多く過剰申告し、本来納めるべき税金を少なく申告してしまった場合は、過少申告加算税というペナルティが課せられます。過少申告加算税の納付を言い渡された場合、未納分に10~15%加算された税額を納付しなくてはなりません。
ただし、事前に税額を過少申告してしまったことに気付いた場合、税務調査より早く自己申告すれば、加算税を免れることもあります。税額を過少申告してしまっていたことに気付いたら、早めに申し出ましょう。
無申告加算税
無申告加算税は、申告期限までに税額の申告をしなかった場合に課せられます。
「所得税が発生するのに確定申告しなかった」というときがこれに当てはまるでしょう。
無申告加算税が課せられた場合、正しい税額+15%の税金を納付する必要があります。
不納付加算税
不納付加算税とは、期限までに税が納められなかったときにかかる加算税です。本来の税額に10%が上乗せされます。
なお、災害など正当な理由で納付が間に合わなかったときは、あらかじめ申告しておくと不納付加算税が免除されるケースもあります。
重加算税
過少申告や無申告、不納付に加えて、二重帳簿、書類やレシートなどの改ざんといった「悪質な行為」があったとき、重加算税が課せられます。
- 税額を過少申告したとき、国税を納付しなかったとき……本来の納税額+35%の税金
- 税額を期限までに申告しなかったとき……本来の納税額+40%の税金
他の加算税に比べとても重い加算税がかかりますので、不正は絶対にやめましょう。
経費にできるか不安な場合は税の専門家に相談しよう
個人事業や会社を営むにあたって、使用した費用を正しく経費として計上することはとても重要です。
ただ、何でもかんでも経費に……というのは禁物。あくまでも仕事に関連する出費のみを経費として計上しましょう。また、経費の支出の根拠となる書類(領収書やレシートなど)の保管も忘れないようにしましょう。
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