企業の財務状況を読み解く「貸借対照表」には、借入などの負債、そして純資産と呼ばれる資金が記載されています。このうち、純資産は「自己資本」とも呼ばれ、財務の話をする際によく用いられます。
ここでは、自己資本の意味や種類、「他人資本」と呼ばれる資産との違いを解説。自己資本から読み解ける指標、自己資本を適正に保つポイントについてもご紹介します。
自己資本とは「返済の必要がない純資産」のこと
自己資本とは、企業が保有する「返済する必要のない資金、および資金調達源泉」のことです。
企業の経営に必要な資金源は、「総資本」と呼ばれます。
総資本は借入金などの「負債」、そして自己資本と呼ばれる「純資産」の二つで成り立っています。
企業の会計書類である「貸借対照表」では、左側に総資本が、右側に(上から)負債、純資産の順番で金額が記載されています。
自己資産、つまり純資産が多い企業は「返済しなくていい資金をたくさん持っている企業」です。
当然ながら安定した経営にもつながりやすく、対外的な信用を得やすい企業といってよいでしょう。
自己資本の種類は?
自己資本の種類は、大まかに分けると以下の3つです。
- 株主資本
- 評価・換算差額等
- 新株予約権
このうち株主資本は、資本金、利益剰余金、自己株式というふうに細分化されています。
それぞれご説明しますので順に見ていきましょう。
株主資本
株主資本に含まれる項目は以下のとおりです。
資本金
資本金は、株主から集めたお金=会社の元手となるお金です。
設立時には会社が自由に決められるほか、あとから株式の発行などによる資金調達で「増資」をすることもできます。
資本金額は会社の体力や株主からの信頼度をはかる指標になりますが、あくまでも「元手」です。
資本金額が多くとも、のちに紹介する「利益剰余金」が少ないようならば、事業での利益はそこまで高くありません。
資本剰余金
資本剰余金は、増資の際に集めたお金のうち、資本金にしなかった部分の金額を指します。
いわば余ったお金なので「剰余金」と呼んでいるわけです。
資本剰余金は次の2つで構成されています。
- 資本準備金
- その他資本剰余金
資本準備金とは、資本金として集めたものの、現時点で資本金に含めていないお金のことです。
もうひとつのその他資本剰余金とは、資本準備金以外のお金で、増資や減資、自社株式の取得・処分で生じた剰余金を指します。
利益剰余金
利益剰余金は、当期純利益(売上から経費や手数料、税金を差し引いて残った利益のこと)を積み立てたお金です。一般的には「内部留保」とも呼ばれます。
利益剰余金は次の2つで構成されています。
- 利益準備金
- その他利益剰余金(別途積立金、繰越利益剰余金)
利益準備金とは、株主に配当をするために積み立てなければならないと決められているお金です。
具体的には「資本準備金と合算し、資本金の1/4に達するまで」「剰余金の1/10」を積み立てていかねばならない、と会社法で決められています。
またその他利益剰余金とは、利益準備金以外のお金です。
内部留保から利益準備金で積み立てるお金を引いて、残った部分が「その他資本剰余金」として計上されます。
自己株式
自己株式とは、会社が自社で保有している株式を指します。
株式の自己保有割合を多くすると、財務指標の改善、および配当金のカットや、ストックオプションへの利用などができるようになります。
ただし、自己株式を取得する際に資金が減ること、譲渡や売却ができないことに注意が必要です。
評価・換算差額等
評価・換算差額等とは、保有している有価証券、土地などの購入価格に対する「現在の時価との差額」を表したお金です。
- その他有価証券評価差額金
- 年再評価差額金
- 繰越ヘッジ損益
新株予約権
新株予約権は、決められた条件、金額で株式の取得を予約できる権利です。
たとえば社内で株の購入権を予約できる「ストックオプション」は、その代表例といってよいでしょう。
貸借対照表において新株予約権の価値を算定するとき、さまざまな条件(行使価格や期限までの期間など)を考慮しながら決定し、記載します。
自己資本と他人資本の違いは?
自己資本と対になっているのが「他人資本」です。
先述のとおり、自己資本は返済や支払いの必要のない資金のことです。「純資産」とも言い換えられます。
一方、他人資本とは返済や支払いが必要なお金のことです。
銀行からの借入金、買掛金、支払手形や社債などが他人資本に該当します。
- 自己資本……返済の必要のない純資産のこと(資本金や資本剰余金、利益剰余金など)
- 他人資本……返済しなければならないお金のこと(借入金、買掛金、支払手形、社債など)
「他人から一旦お金を借りる形や、後払いを約束した資本」と考えると、区別が付けやすいでしょう。
事実、他人資本は貸借対照表の「負債の部」に記載されています。
仮に自社や他の会社の貸借対照表を見たときに、「他人資本>自己資本」となっている場合は注意が必要です。この場合、「自己資本=会社の体力に比べ、借りているお金のほうが多い」ということになり、経営が不安定になっている可能性があります。
自己資本の割合で経営分析ができる?
自己資本を使うと、会社の経営状態を分析できるようになります。
ここでは自己資本に関連の深い2つの指標をご紹介します。
- 自己資本比率
- 自己資本利益率(ROE)
自己資本比率
会社の総資産に対して、自己資本がどれくらい含まれているか表した割合を「自己資本比率」といいます。
自己資本(純資産)÷ 総資産 × 100 = 自己資本比率(%)
自己資本比率は、一般企業であれば「30%」がひとつの基準となっています。
自己資本比率の割合が高い企業は、倒産や経営破綻のリスクが低く、安定している企業とみなされやすい傾向にあります。これは「借入の割合が少なく、企業としての資金調達力が高い」とみなされるためです。
自己資本利益率(ROE)
自己資本にはさまざまな項目があります。
自己資本のうち「当期純利益」がどのくらいの割合を占めているか、および「自己資本を使ってどれくらいの利益を上げたか」を表すのが自己資本利益率(ROE)です。
当期純利益 ÷ 純資産 × 100 = 自己資本利益率(%)
「当期純利益」はメインの事業で使ったお金、税金をもろもろ差し引いた“純粋な儲け”です。
自己資本利益率が8%以上であれば安定した企業とみなされ、10%以上で「優良」、15%以上になれば「超優良」な企業と判断されます。
自己資本を適正に保つポイントは?
自己資本が少なすぎると、企業としての体力を疑われてしまうことにもなりかねません。
自己資本を適正に保つポイントは、次の3つです。
- 利益を上げて内部留保を増やす
- 節税をしすぎると自己資本が低下するので注意
- 借入を最適化する
それぞれチェックしてみましょう。
利益を上げて内部留保を増やす
会計上の数字だけを調整して自己資本を増やしたとしても、そもそも事業が成功しなければ会社の収益性は低い状態のままです。
つまり真の意味で自己資本を適正に保つには、利益を上げる施策を行い、内部留保(利益剰余金)を増やしていくことが最も重要です。
もっと具体的に言えば、目標利益、および利益を上げるために必要な行動を逆算して設計していく必要があるでしょう。また当期純利益から株主への配当金を多く設定している会社であれば、その配当率についても再考してみていいかもしれません。
内部留保を蓄えつつ、自己資本比率を上げていきましょう。
節税をしすぎると自己資本が低下するので注意
節税をすると結果的に課税額が減るため「節税=良いこと」と思われがちです。
もちろん間違いではないのですが、節税によって利益をどんどん圧縮すると、自己資本比率も低下してしまいます。
自己資本比率、および自己資本利益率が低下すると、「財務の安全性が低い」と判断されることがあります。
これにより取引に影響が出たり、銀行融資を断られてしまったりする可能性もあるのです。
投資家からも「自己資本利益率が低い=投資価値が低い」と判断されやすく、資金調達が難しくなるケースもあります。
節税によって納税額を減らしたい方は、税理士に相談し、どの範囲まで節税すべきか確認してみることをおすすめします。
借入を最適化する
借入を増やすということは、「他人資本を増やす」ということでもあります。
他人資本の割合が多くなると、当然自己資本の割合は少なくなりますよね。
こうした事態を避けたいがために、借入を避けようとする経営者は少なくありません。
しかしながら、必要なタイミングで借入をすることは決して悪いことではないのです。
むしろ、必要なのに借入をしないまま、ビジネスの機会を逃してしまうほうが悪影響な場合もあります。
また、資金繰りが悪化した際、借入をして一旦経営を立て直し、そこから返済をしていくほうが結果的に良い場合もあるでしょう。借入を嫌って経営破綻に陥ってしまえば、ビジネスどころではなくなってしまいます。
このように借入は頼りすぎず、かといって避けすぎないことが重要です。
自己資本とのバランスを取りつつ、最適な金額・タイミングで借入を活用するとよいでしょう。