起業したての会社が創業融資を受ける際には「創業計画書」の提出が求められます。創業計画書は創業融資の審査を左右する重要な書類。融資審査に通るには、ポイントを押さえた“書き方”を知っておくことが大切です。
ここでは、創業計画書の概要や、融資審査に通るための書き方をご紹介します。記入例を参考にしつつ、融資に有利になる創業計画書を作成しましょう!
創業計画書とはどのようなもの?
引用元:各種書式ダウンロード|国民生活事業|日本政策金融公庫 より
創業計画書は、ビジネスの概要、指針や資金計画などをまとめた書面です。
日本政策金融公庫が実施する「創業融資」のほか、民間の金融機関が行う「制度融資」の審査を受ける際に、この創業計画書を作成、提出することになります。
創業計画書のテンプレートの入手先は?
創業計画書のテンプレートについては、日本政策金融公庫の公式サイトでダウンロード可能です。
また制度融資の場合は、以下の場所で入手できます。
- 都道府県または市区町村の「商工課」
- 信用保証協会
創業計画書はなぜ重要なのか?
日本政策金融公庫や金融機関から融資を受けるためには、融資先の「信用」を得る必要があります。
創業してすぐで事業の実績もない企業にとっては、創業計画書こそが信用性を示せる重要な「武器」となるのです。
事実、創業計画書は具体性が高ければ高いほどよいとされています。やりたいビジネスを実現させるためにも、融資審査に通りやすい創業計画書の作成を目指しましょう。
創業計画書の書き方は?項目別に記入例やポイントを解説
創業計画書の概要、重要性を理解したら、実際に作成をしてみましょう。
創業計画書による審査では、大きなポイントが3つあります。
- 創業する事業について、過去に経験があるか
- 自己資金額と借入のバランスは適切か
- 借入したお金の返済計画に無理がないか>
これら3点を徹底して意識しながら作成しましょう。
創業計画書の項目は大きく分けて以下の8つです。
- 創業の動機
- 経営者の略歴等
- 取扱商品・サービス
- 取引先・取引関係等
- 従業員
- お借入の状況
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し
それぞれの書き方や記入例を順に解説します。
創業の動機
創業の動機とは、「なぜその事業を始めようと思ったのか」という動機を書く欄です。
ここではおもに、事業にかける熱意、真剣さなどをチェックされます。企業面接を受ける際の「志望動機」と同じだと思ってよいでしょう。
会社勤めを1年したものの、仕事が合わず退職しました。その後、以前から興味があった飲食店を立ち上げたいと決意しました。
高校、大学と飲食店で5年間アルバイトをした経験から、将来は自分の飲食店を開きたいと考えておりました。
就職先は飲食とは関係ないIT関連の企業でシステム開発をしておりましたが、顧客のニーズに対し深く考え、問題を解決する能力を養ってきた経験を店舗経営にも生かせると考えています。
食材の仕入れ先についても専門業者と話をつけており、開店予定の店舗も契約段階にあります。事業の見通しが立ったことから、融資を希望いたします。
NG例では「会社をすぐ退職したなら、起業後もすぐに?」「未経験で何も準備なく起業したのか?」というふうに、ネガティブな印象を持たれてしまいます。
一方OKな記入例では、「経験を活かした起業である」「ビジネスに対する準備、見通しが万全である」という印象が強く伝わります。このような創業動機なら、好印象を与えられるはずです。
経営者の略歴等
「経営者の略歴等」には、これまでの学歴、職歴、資格や知的財産(特許など)などを記入します。
「経営者の略歴等」の項目は、創業時の融資審査において重要な項目です。創業間もない企業は事業の売り上げ実績がないため、経営者そのものの経験、資質などが大きな判断ウエイトを占めているからです。
ECサイト作成サービス会社を立ち上げる場合。
H○年△月 ○○大学 ○○部卒業
H○年△月 IT系企業の○○株式会社へ入社、
△△システムのプロジェクトリーダーとして開発、リリースに携わる
以降、企業向け基幹システムの開発も行う
R○年△月 IT系企業での10年の勤務経験・知識を活かし、ECサイト作成サービスの運営をスタート
資格:応用情報技術者、エンベデッドシステムスペシャリスト、システムアーキテクト
事業に関連する経験や資格などがあれば、具体的に記載するのがポイントです。
また法律、経理、税務や労務といった「経営に重要な知識・経験」があれば、記載しておくと良いでしょう。
取扱商品・サービス
事業で扱う商品やサービスについて具体的に記載する項目です。
商品・サービスだけではなく、セールスポイントやターゲット、販売戦略、競合・市場の状況についても記載しましょう。
ネイルサロン運営会社を立ち上げる場合。
【商品・サービス内容】
- ジェルネイル 5,000円~7,000円
・フットネイル 6,000円~8,000円
・ハンドトリートメント 1,100円
【セールスポイント】
- 有名ネイルサロンで10年勤務していた経験・技術を生かし、何度も来たくなるようなネイルサロンを作る
- 内装にこだわり、高級感のあるプライベート空間を提供。非日常を楽しめる演出により、ネイルだけではなく心のリフレッシュも堪能してもらう
【販売ターゲット、販売戦略】
- 20代~30代のOL、主婦層をターゲットに、大手ビューティー情報サイトやInstagramでの集客を実施
- 口コミによる紹介割引を行い、リピーターと新規顧客の獲得につなげる
【競合、市場などを取り巻く状況】
- 出店予定地周辺にネイルサロンは少なく、競合が少ない
- ただしOLや主婦が多く住む地域であることから、ニーズは高い
- 既存の他社がナチュラル路線のため、高級路線で差別化を図りつつ、テイストの違ったネイルメニューを提供することで、成業が十分に見込める
取引先・取引関係等
事業の取引先や取引条件が決まっている場合に記入する項目です。
- 販売先(顧客層)、およびそのシェア率
- 仕入れ先、およびそのシェア率
- 外注先、およびそのシェア率
販売先が一般消費者の場合は、ターゲット層の年齢や属性を記入しましょう。
従業員
創業時に3ヶ月以上の雇用継続を予定している従業員がいる場合は、従業員の項目へ記入します。
融資の中には「雇用の創出」を条件としているものがあり、そのような融資に申し込む場合は必須となります。
お借入の状況
個人の借入状況を記入する項目です。
○○銀行△△支店、住宅ローン、残高2,000万円/年間返済額150万円
融資の審査では借入額が少ないほど印象が良くなります。ただし、ウソをつくのはNGです。
融資審査ではあらかじめ個人信用情報を照会するので、虚偽の内容を書くと信用を著しく損ねてしまいます。
必要な資金と調達方法
「必要な資金と調達方法」は、創業に必要な資金や、その調達方法について説明する重要項目です。
記入例は以下のとおりです。
引用元:各種書式ダウンロード|国民生活事業|日本政策金融公庫、洋風居酒屋の記入例より
この項目では以下の5つのポイントが重点的に問われます。
- 必要な資金がすべて把握できているか
- 創業に必要な自己資金があるか(基準は10%からだが、一般的には33%が目安)
- 自己資金について通帳原本で説明できるか
- 資金回収までに必要な「運転資金」は十分にあるか
- 返済計画に無理はないか
自己資金が多いことをアピールすれば「創業に対する本気度」が言わずとも伝わります。かといって自己資金を水増しして記入するのはご法度です。自己資金が少なく、赤字発生時の補てんすらできない場合は、創業そのものを一度見直した方がいいかもしれません。
事業の見通し
「事業の見通し」では、創業してからの収支の見込みについて記入します。
創業当初 | 1年後 又は軌道に乗ったあと (○○年△△月ごろ) | 売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算した根拠 | |
---|---|---|---|
売上高① | 274万円 | 356万円 | <創業当初> ①売上高(水曜定休) 昼(月・火、木~日)1,000円×25席×0.8回転×26日=52万円 夜(月・火・木)4,500円×25席×0.6回転×15日=101万円 夜(金~日)4,500円×25席×0.9回転×12日=121万円 ②原価率 35%(過去の飲食店勤務経験から) ③人件費 従業員1人20万円 <軌道に乗ったあと> |
売上原価② (仕入高) | 96万円 | 124万円 | |
経費(人件費) | 56万円 | 76万円 | |
経費(家賃) | 20万円 | 20万円 | |
経費(支払利息) | 2万円 | 2万円 | |
経費(その他) | 40万円 | 50万円 | |
経費合計③ | 118万円 | 148万円 | |
利益 ①-②-③ | 60万円 | 84万円 |
事業の見通し記入時に重要なポイントは、以下の3つ。
- 各項目の明確な根拠が示せているか
- 売上計画に無理がないか
- 借入の返済、および税や年金・保険の支払い、創業者の生活費が支払えるか
日本政策金融公庫公式サイトに掲載されている「小企業の経営指標調査」の指標データを参考にしつつ、平均値とズレが少ない売上計画を記入しましょう。
参考リンク:中小企業の経営等に関する調査|日本政策金融公庫
また、数字を記入する際は、計算式や過去の経験などの根拠を提示しましょう。
創業計画書で融資審査員を納得させよう!
具体的で事業についての見通しが明確に記入されている創業計画書は、審査担当者に対する説得力も強くなります。結果的に希望通りの融資が受けられる可能性が高まるため、一度作成したら内容をブラッシュアップしつつ、納得いくまで作成してみてください。
また、素晴らしいアイデアを実現させるには、客観的な視点からの施策が必要です。創業計画書の作成過程では、俯瞰的な視点から事業の内容、キャッシュフローを再認識できます。「事業内容に問題はないか」「無理のない資金計画か」といった見直しができれば、ビジネスの成功へとより近づきやすくなるでしょう。
このように創業計画書の作成では、副次的なメリットもあります。ビジネスをより良くしていくためにも、創業計画書の作成へチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
分からない部分は、創業支援を行っている専門家へ相談しながら作成するのもおすすめですよ。