有名な大企業による「粉飾決算」が、ニュースに取り上げられ話題になった記憶のある方も多いでしょうか、粉飾決算は企業の大小にかかわらず行われているといいます。
赤字経営を隠して黒字にみせかける「粉飾決算」は、厳しい罰則のある不正行為にあたるにも関わらず、なぜ横行してしまうのでしょうか?
粉飾決算が行われる目的や手法について詳しくみていきたいと思います。
また、粉飾決算によって被害を受けるのは、投資家だけではありません。事業者にとっても、これから取引先しようとしている企業に粉飾決算がないかどうかを見抜く必要があります。
そこで、取引会社の粉飾決算の見抜き方についても合わせてご紹介していきたいと思います。
粉飾決算とは
粉飾決算とは、不正に利益を水増ししたり、赤字決算を黒字決算であるかのよう見せかけたりする行為です。
会社が利益を出すとその分税金を納めなければならないため、実際よりも税金を納めている点で悪い行為に感じない方もいるかもしれません。
しかし、粉飾決算によって企業が投資家向けに報告する「有価証券報告書(決算書)」において、赤字を隠蔽したりすることにより、業績好調を信じて投資した投資家が損害を受けるという事態も起きています。
そのため、「金融商品取引法第24条第1項」では、粉飾決算による虚偽の報告は、開示義務違反にあたり、関与した役員・監査法人は不法行為に基づく責任が問われる、と定められています。
特に上場している大企業に関しては、その企業と取引を行う利害関係者も多くなるため、粉飾決算が行われることで多大な影響が出ることも少なくありません。
粉飾決算はよく行われている?
近年、話題となった粉飾決算としては、日産や東芝、オリンパスなどが挙げられます。長年にわたって利益を水増ししていたことが発覚しました。
大きな話題には上がらないものの、中小企業においても粉飾決算を続けている企業は決して少なくなく、コロナ禍による経済状況悪化がそれをさらに増長させていると言われています。
また、コロナによる働き方の変化は、企業の内部監査などの不正チェック体制への影響が懸念されており、粉飾決算の引き金になる可能性が叫ばれています。
企業の利害関係者が、その企業に対して資金提供をおこなったリ取引を行うのは、経営状態への信用があるからです。しかしそれが粉飾決算によるものでは、利害関係者の信用への裏切りに値します。
粉飾決算で企業が倒産した場合、株主には出資金が戻らず、銀行には融資金が回収不能、取引先には掛代金が回収不能となってしまい、利害関係者へ大きな実害を与える結果となるのです。
粉飾決算が行われる目的
粉飾決算が行われる目的は、やはり業績が悪化した際に、利害関係者からの信用を繋ぎ止めるためです。
業績が悪化して赤字決算を出してしまうと、会社の信用が失われて利害関係者が手を引いてしまう可能性があり、そうなると経営が立ち行かなくなってしまうからです。
実際には業績が悪化しても、業績を良くみせかけることで、それまでの関係性を保ちたいために、粉飾決算に手を染めてしまうのです。
また、企業の業績を実際よりも悪くみせる「逆粉飾決算」というものもあります。
逆粉飾決算の目的は「脱税」です。
企業のみせかけの業績を悪くすることで、納める税金を減らすのです。
粉飾決算の手法
「粉飾決算」および「逆粉飾決算」のそれぞれおの手法について、見てきましょう。
粉飾決算の手法
売上の過大計上
実際には存在しない架空の売上を計上する手法です。
本来存在していない在庫を増やし、簿記会計上の利益を増やします。
また、グループ企業である子会社からの架空の受注を計上して、親会社の利益を増やします。さらに親会社から子会社へも架空の受注を計上し、グループ全体の利益を水増しすることもあります。
費用の過少計上
発生している費用を実際のものよりも少なく計上する手法です。
費用を減らすことで、全体の利益が上がっているように見せます。
逆粉飾決算の手法
在庫隠し
手元にある在庫を隠すことで、簿記上の利益を減らす手法です。
売上の翌期計上(期ズレ)
当期に発生した計上の一部を翌期の計上にズラすことで、当期の利益を減らす手法です。
子会社からの架空仕入の計上
グルーブ企業である子会社から架空の仕入を計上する手法です。
実際には仕入れていない分の費用が水増しされ、利益が減ったように見せかけます。
粉飾決算の見抜き方
粉飾決算をしている可能性がある取引先は、利益が上がっているように見せていても突然倒産してしまう可能性もあるので、取引のリスクが高くできれば関係性を持ちたくないものです。
粉飾決算をしているかどうかは、どうやって見極めたらよいのでしょうか。
大企業の場合は、海外の小会社等を利用した粉飾決算も存在し、素人が見破るのは容易ではありませんが、粉飾決算の責任の一端は、見逃しや見ないふりを続ける監査法人にあると言われています。
そのため、企業の監査法人の評判が良くなかったり、監査法人が頻繁に変わったりする場合は、粉飾決算の可能性があるかもしれません。
また、監査法人が入っていない企業の場合、売上げの過大計上でよくあるパターンとして、翌期計上分を今期の売上げに計上してしまうやり方です。この場合、その業種の一般的な売掛金の期間よりも長い期間となっていたり、以前よりも長いサイクルに変わっていたりすることで見抜くことができます。
グループ会社への売上が急に増えていたり、粗利率が不自然に上がっている場合も粉飾決済の可能性があります。売上だけ増やして売上原価が増えないため、粗利率が上がってしまうからです。
費用の過小計上でよくあるパターンは、売上原価の在庫への付け替えです。費用として計上しなければならないものを、費用ではなく在庫として資産計上するやり方です。
また、本来なら減損処理するべき不良在庫を減損しないケースもあり、これらは在庫回転期間の変化を見ます。
業界の他社との比較や過去からの変化を見て、不自然な部分がないかを確認することで、粉飾決算の有無をある程度予測できるかもしれません。
粉飾決算の罰則
赤字決算を意図的に隠す粉飾決算は、利害関係者保護の観点から、法律で厳しい罰則規定を設けられています。
上場企業への罰則
上場企業で粉飾決算が発覚した場合については、「有価証券報告書」についての虚偽記載にあたり、次のような罰則が科されます。
金融商品取引法により、まず「刑事罰」として、「重要な事項につき虚偽の記載のあるもの」を提出した者に対し「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金」に処され、懲役と罰金の両方を併科されることもあります。法人の代表者、代理人、使用人、その他従業者が有価証券虚偽記載をした場合は、その行為者を罰するとともに法人に対しても7億円以下の罰金刑が科されます。
「行政罰」としては、「600万円、または、発行する株券等の市場価額の総額×10万分の6のうち大きい金額の課徴金を、国庫に納付しなくてはならない」とされています。
さらに「民事責任」として、「虚偽記載のある有価証券報告書等が公衆縦覧されている間に、発行有価証券を募集・売出しによらずに取得した者に対して損害賠償責任を負う」と定められています。
ほかにも、会社法による「違法配当の禁止」や「特別背任罪」などに抵触するため、それに関しても「行政罰」「民事責任」を問われます。
非上場企業への罰則
非上場企業に対する罰則としては、刑法の「粉飾決算による詐欺罪」にあたり、「利害関係者に損害を与えたことによる損害賠償請求」などを適用される可能性があるでしょう。