ベンチャー企業、とりわけスタートアップの多くは「IPO」を目指して経営活動を行っています。IPOによって自社の株式を一般公開し、株式を買ってもらえるようになれば、より多くの資金調達が可能になります。
ここでは、IPOと上場の違いや、IPOを目指すメリットについて解説。さらに、IPOができる株式市場や、上場基準についてもご紹介します。
IPOとは?上場との違いは?
IPOは正式には「Initial Public Offering」といい、日本語では「新規株式公開」とも呼ばれます。
自社の株式を一般に“公開”し、投資家に買ってもらうことがIPOの目的です。
株式会社において未上場である場合、株式はごく限られた株主しか購入できません。
しかしIPOによって株式を新規公開すると、一般かつ不特定多数の投資家が購入できるようになります。
上場との違いは?
IPOも上場も、「未上場企業が新たに証券取引所へ上場し、一般投資家による株式売買ができるようになる」という点は同じです。
ただし、IPOと上場には「新規株を発行するか、しないか」という点が異なります。
IPOは「上場して新規の公開株式を発行すること」ですが、上場はあくまでも「証券取引所で企業の株式が保有(または発行)する株式の取引が認められること」であり、必ずしも新規の株式発行を伴う必要がありません。
とはいえ、実際には新規上場する際に新規株式を発行するケースが多いため、言葉上は「IPO=上場」というニュアンスで使われる場合がほとんどです。
IPOの株式公開はどのように行われる?
IPOで株式公開をする場合、次の2パターンに分かれます。
- 新株(新規の株式)を発行する(公募増資)
- 株主が上場前に保有していた既存の株式を売りに出し、公開する
なお、IPOをするには最短でも3年の準備期間が必要です。
これは監査法人の決定や資本戦略の策定や社内規則・体制の整備、運用テストなど、時間をかけた準備が必須となるためです。
途中で不備などがあれば修正・再実施を繰り返さなければならないので、「思い立ったからすぐに申し込む」というのはできません。
IPOの株式価格はどのように決まる?
IPOの株式価格には「公募価格」「売出価格」があります。
公募価格は、一般の投資家向けに株主を募集する際の価格です。
売出価格は、株主がすでに保有している株式を売却して手放し、それを一般投資家が購入する際の価格のことを指します。
IPOにおいてはこれらを合わせて「公開価格」として設定し、株式の売買が行われる仕組みです。
IPOを目指すメリット・デメリット
企業がIPOで株式を新規公開すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。また、デメリットがあるのならば事前に把握しておきたいものです。
IPOのメリット、デメリットそれぞれについてくわしく見ていきましょう。
IPOをするメリット
企業がIPOをするメリットは以下の5つです。
- 資金調達しやすくなる
- 経営体制が強化される
- 企業のネームバリューが向上する
- 社会的信用性が上がる
- 人材採用で有利になる
資金調達しやすくなる
IPOによって株式を新規公開することで、資金調達の選択肢が広がります。
これまでは特定の株主しか購入できなかった株式も、IPOによって一般投資家が購入できるようになれば、新株発行などによってより多くの出資を募ることができるでしょう。
また、IPOしているということは厳しい基準をクリアしている、ということでもあり、金融機関からの評価も高くなります。よって、金融機関からの融資においても有利になる可能性が高くなるでしょう。
経営体制が強化される
IPOをする前段階には、監査法人の決定や社内規則・体制の整備などを行います。
この工程はコストも時間もかかりますが、結果的に経営体制の健全化、強化が期待できるのです。
企業のネームバリューが向上する
IPO企業は一般投資家からも常に注目されており、IPO直後は一気にネームバリューが高まります。
企業が主軸とする事業についても公開、注目されるため、自社のビジネスを広く知ってもらえる良い機会になるのです。事業に対し将来性があると判断されれば、さらなる出資、商品・サービスの売上アップも期待できるでしょう。
社会的信用性が上がる
IPOをするには厳しい基準をクリアしなくてはなりません。
逆に言えば、IPOをした企業というのは「社会的な信用に足る企業」とみなされるのです。
社会的信用性というのは一朝一夕で築き上げられるものではありません。しかしIPOできれば、一般の消費者にも認知され、信用されやすくなるのです。この社会的信用性は、後述する人材採用でも役立ちます。
人材採用で有利になる
IPOで社会的信用性がアップすると、人材採用活動においても有利になります。
スキルの高い人材は企業の社会的信用性、ネームバリューも重視して求職活動を行う傾向が強いです。
このような人材はIPO企業に対してのアンテナを張っていることが多く、企業側としては優秀な人材を獲得しやすくなる可能性が増します。
また、新卒採用においても、IPO企業というのは母数を増やしやすい傾向にあります。
より多くの優秀な人材を採用できれば、さらなる企業成長が期待できるでしょう。
IPOをするデメリット
IPOのデメリットは以下の3つです。
- IPO準備のためにさまざまなコストを要する
- 上場後は常に成長が求められるため、プレッシャーが強くなる
IPO準備のためにさまざまなコストを要する
IPOを行うには多種多様な公開準備を行う必要があります。その期間は3~5年と長く、さらにコストも手間もかかるのです。準備を終えてIPOするまでには関係各所との連携が必須ですし、IPO達成後も維持管理のための手間やコストは必要です。
上場後は常に成長が求められるため、プレッシャーが強くなる
IPOを行っている市場は主にベンチャー企業向けです。このような市場では投資リスクを考慮し、「継続的な企業成長」が重要視されています。
つまり、IPO企業においては「常に成長すること」が必須ともいえます。経営陣にとっては、「毎年継続した成長を期待されている」という事実を大きな重圧に感じるかもしれません。
IPOできる株式市場には何がある?
IPOできる証券取引所は国内の4カ所。各証券取引所でIPOを行っている市場は、次のとおりです。
東京証券取引所 |
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名古屋証券取引所 |
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福岡証券取引所 |
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札幌証券取引所 |
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各証券取引所の市場には、ベンチャー向けの市場が存在しています。上記の表で太字にしている市場はベンチャー向けであり、IPOがよく行われている市場です。
なお、東京証券取引所ではプライム市場、スタンダード市場でもIPOが行われていますが、グロース市場に比べて上場基準は厳しめです。
企業がIPOする際に求められることは?
企業がIPOするうえで求められる基準は、市場によって異なります。
例えば「東証グロース市場」の場合、「企業成長が高く期待できる」という点を主軸に置いた基準が設けられています。
1.事業計画……次のいずれにも該当していること。
- 事業計画が合理的に策定されていること
- 高い成長可能性を有しているとの判断根拠に関する主幹事証券会社の見解が提出されていること
- 事業計画及び成長可能性に関する事項(※)が適切に開示され、上場後も継続的に進捗状況が開示される見込みがあること
- 時価総額が上場10年経過後、40億円以上になる
※ビジネスモデル、市場規模、競争力の源泉、事業場のリスク等
2.流動性……次のいずれにも該当していること。
- 株主数:新規上場、上場維持ともに150人以上
- 流通株式数:新規上場、上場維持ともに1,000単位以上
- 流通株式時価総額:新規上場、上場維持ともに5億円以上
- 売買高:上場後月平均10単位以上
3.ガバナンス…上場会社として最低限の公開性を求める(海外主要取引所と同程度の基準を採用)
- 流通株式比率が新規上場、上場維持ともに25%以上
引用元:市場区分見直しの概要 | 日本取引所グループ
順を追って見ていくと、「時価総額が10年後40億円以上になる」などかなりハードルが高いことがわかります。
そんな中、スタンダード市場やプライム市場は、グロース市場よりさらに上場基準が厳しく設定されています。
グロース市場 | スタンダード市場 | プライム市場 | |
---|---|---|---|
株主数(新規/維持) | 150人以上 | 400人以上 | 800人以上 |
流通株式数(新規/維持) | 1,000単位以上 | 2,000単位以上 | 20,000単位以上 |
流通株式時価総額(新規/維持) | 5億円以上 | 10億円以上 | 100億円以上 |
一覧で見てみるとグロース市場はもっともIPOのハードルが低く、プライム市場はもっともハードルが高いことがわかります。
そもそも未上場の企業がスタンダード市場やプライム市場の上場基準に適合することはまれです。最終的にはスタンダード市場、プライム市場上場を目指すとしても、まずはグロース企業の基準をクリアすることが最初の目標となるのは必然ともいえるでしょう。
更なる企業成長のためにはIPOを目指すのも手
IPOを行うと資金調達がしやすくなり、さらなる事業展開・設備投資が実現します。
これにより企業が成長すれば、より大規模な市場へと区分変更をすることも可能です。
そうなれば、より大規模な資金調達→企業の成長、という好循環が生まれるでしょう。
とはいえ、上場後は維持基準をクリアする必要があるため、「IPOがゴール」と考えるのは間違いです。
IPOを目指すなら、あくまでも企業成長のためのステップであり、通過点であることを踏まえて準備を進めていきましょう。