働き方の多様化が進み、副業をはじめたり企業勤めを辞めて「開業」を考えたりする人も増えているようです。
開業について迷われているなら、まずは、開業をすることで得られるメリットやデメリットについて理解しておく必要があります。また、開業と似た言葉で「起業」や「独立」という言葉もありますが、これらの違いについてもしっかり把握しておきたいものです。
この記事では、開業と起業・独立との違い、そして開業をすることで得られるメリットとデメリットについて詳しく解説いたします。
開業の意味と使われ方
開業とは、新たに事業を開始することで、開業届を出して個人事業主になる時に使われる言葉です。
開業届を出すことで、社会的に個人事業主として認められるようになり、税法上の優遇なども得られるようになるので、一般的には、収支がプラスでもマイナスでも開業届を出すのがよいとされています。
開業という言葉には、「会社を立ち上げる」という意味よりも「個人で事業を始める」という意味でつかわれることが多く、販売店や飲食店、クリニックを始める時などによく使われます。
「起業」・「独立」との違いは?
開業も起業も、基本的には「新たに事業を開始する」という意味に違いはありませんが、使われるシーンが異なります。
起業は、おもに「会社を立ち上げる」という意味で使われるのが一般的となっていますが、最近では特にベンチャー企業などを立ち上げる際によく使われており、はじめる事業に「新しいビジネスへの取り組み」というニュアンスが含まれています。
独立とは、おもに「組織を抜け出して自分で事業を立ち上げる(いわゆる脱サラ)」という意味で使われるのが一般的となっており、もともと組織に所属していなかった人が事業を始める際や、組織に属しながら副業を始める際には、独立という言葉は使いません。
また、はじめる事業についても、今まで従事していた分野の仕事をそのまま続けることを意味し、調理師や美容師など手に職を付けた人が師匠の元を離れて自ら生計を立てるというニュアンスが含まれています。
開業をすることで得られるメリット
青色申告特別控除が受けられる
開業をすることで、青色申告特別控除が受けられるようになります。
参照)国税庁(No.2070 青色申告制度)
開業届を出す際の種別が、「事業所得」、「不動産所得」の場合に、青色申告を選択して複式簿記で作成した決算書類を確定申告期限内に提出することで、最高55万円分(電子申告なら65万円分)を所得から控除できるという節税効果があります。
例えば年間400万円の所得がある個人事業主の場合なら、この青色申告特別控除で65万円の控除を受けることで、所得税率20%なら所得税額を13万円カットすることができます。
経費として扱える範囲が広がる
開業届を出すことで、事業のためにかかった費用は「経費」として計上することができるようになります。
事業で必要となった備品の購入費のほか、電気代やインターネット通信費、交通費など、すべて経費として扱うことができます。
また事業所得であれば、事業を身内が手伝ったことによる給与についても、青色申告なら届出をすることで「青色事業専従者給与」として経費に計上することができます。
不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいる青色申告者で、これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則、(一般的には複式簿記)により記帳し、その記帳に基づいて作成した貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付して法定申告期限内に提出している場合には、原則としてこれらの所得を通じて最高55万円(令和元年以前は最高65万円)を控除することとされています。
(注1)令和2年分以後の青色申告特別控除について、この55万円の青色申告特別控除を受けることができる人が、電子帳簿保存(※)またはe-Taxによる電子申告を行っている場合は、65万円の青色申告特別控除が受けられます。
(注2)還付申告書等を提出する方であっても、55万円または65万円の青色申告特別控除の適用を受けるためには、その年の確定申告期限(翌年3月15日)までに当該申告書を提出する必要があります。
白色申告の場合でも、「事業専従者給与」として給与の一部を経費として扱えるので、
開業届をして事業所得を選択することで得られる節税効果は大きいでしょう。
損益通算が可能となる
損益通算とは、事業所得、不動産所得のほか、譲渡所得、山林所得による所得に赤字が生じた場合、総所得金額などから損失分を控除できる制度です。
損益通算が可能となるとことで、総所得金額などが減額されるため、所得税の節税に繋がります。
損失の繰り越しが可能となる
青色申告の場合、損益通算を行っても控除しきれない損失(赤字)があった際に、その損失分を3年間繰越せるようになります。(純損失の繰越控除)
損失を繰越すことで、翌年以降の所得から控除できるため、節税も翌年に繰り越せることになります。
小規模企業共済への加入
小規模企業共済とは、個人事業主や経営者のための積立救済制度で、事業の引退に備えるものです。月々支払う掛け金が所得控除の対象になるため、節税効果になります。
社会的信用に繋がる
開業届を出すことで、社会的信用の獲得につながります。
開業届の控えを提出することでできる手続きも多く、「金融機関からの融資」や「事業者向けクレジットカードの発行」「補助金や助成金の申請」なども、開業届の控えが必要となります。
開業をすることのデメリット
失業給付を受けられなくなる
会社を退職して失業給付を受けられる場合、開業をすることで失業給付を受けられなくなってしまいます。
失業給付は、再就職する意思があることを前提としているので、開業により再就職の意思がないとみなされてしまうからです。
しかし、2022年7月からの特例により、退職後に開業した場合、2カ月以内にハローワークへ申請することで、最大3年間は受給期間として参入しない期間を設けることができました。これにより、開業後に事業がうまくいかずに廃業となった場合でも、3年以内であれば失業給付を受けることができるようになりました。
配偶者の健康保険組合に入れなくなる
配偶者が加入している健康保険組合の扶養として入っている場合、組合によっては個人事業主になると扶養に入れない場合があります。
扶養に入れなくなると国民健康保険に加入することになるので、経済的負担は増えてしまうことになります。
配偶者の扶養に入っている場合は、事前に組合の規則について確認しておくとよいでしょう。
確定申告の義務が発生する
副業をしていても20万円以下であれば確定申告の義務はありませんが、開業届を行うことで、20万円以下であっても必ず確定申告をしなければならなくなります。
確定申告せずに放置すると、税務署からの通告によりペナルティが発生してしまうこともあるので、たとえ所得が低くても確定申告は必ず行いましょう。
開業とは、新たに事業を開始することで、開業届を出すことで個人事業主として開業したことが一般的に認められます。
開業による節税効果は大きいものの、所得が低い場合でも確定申告が毎年必要となります。
開業に適した業種には、弁護士や税理士、公認会計士など比較的高い報酬を得られやすい仕業が人気ですが、事務所の開設が不要で自宅で始められる、プログラマーやライター、動画クリエイター、ハンドメイド作家なども初期コストがほとんどかからず、開業に適しているといえます。
自らのやる気次第で開業により安定した収入へと繋げられる場合もあるので、挑戦されてみてはいかがでしょうか。